第522回:休業手当を勝ち取るやり方〜コナミスポーツのインストラクターたちが立ち上がる〜の巻(雨宮処凛)

 「今すぐお金がもらえないならここで死んでやる」

 5月13日、千葉県松戸市役所を訪れた男(39歳)はそう言って包丁を自身に向けたという。

 「お金」とは、1人10万円の給付金。男は市の特別定額給付金担当室で「3、4日食べていない」と主張。職員が「順番に支払っている。今すぐお渡しはできない」と言うと、冒頭の言葉を吐いて持参した包丁を自らに向けたというのだ。そうして銃刀法違反容疑で現行犯逮捕。

 彼に何があったのか、詳しいことはわからない。また、生活保護を受けていたとも報じられている。包丁を持って「死ぬ」と脅すやり方は決して許されないものの、「気持ちはわかる」という人は少なくないのではないだろうか。それほどに、「補償なき自粛」の中、多くの人の生活が逼迫している。

 そんなことを思うのは、日々、極限状態でSOSの声を上げる人々の姿を見ているということもあるし、ある報道に触れたことも大きい。

 第520回の原稿で書いた、新型コロナで仕事がなくなり、不動産会社の女性を刺して逮捕された24歳男性のことを覚えているだろうか? その後の報道で、男は3月頃まで大阪で風俗関係の仕事をしていたこと、しかし、仕事がなくなり横浜に戻ってきたことを知った。が、戻ってきた横浜では住む場所がなく、ネットカフェで寝泊まりする生活。お金もなくなり、路上生活をした果てに犯行に及んだことという。

 今まさに、生活困窮者支援団体にSOSを送ってくるような人たちと同じ状況である。彼のしたことは決して許されないが、事件を起こす前にどこかの支援団体につながっていたら、と思うと忸怩たる思いだ。

 また、新型コロナを受けて詐欺事件が増えることも予測され、注意が促されているが、5月14日には詐欺の疑いで中国人留学生の男 (23歳)と無職の男(23歳)が逮捕されている。彼らは京都の女性からキャッシュカード4枚をだまし取ったなどの疑い。2人はスマホアプリを通じて指示役から訪問先などの連絡を受けていたそうだ。留学生の男は「バイトをしていたが、新型コロナで仕事がなくなったのでやりだした」と話しているという。

 新型コロナ感染拡大の中、あらゆる業種のあらゆる立場の人が影響を受け、日々の生活費にも事欠く不安な日々を送っているが、その中でも困窮の度合いが高いのは外国人だ。留学生もいれば、日本で働く人もいるし、わけあってオーバーステイの人もいる。

 外国人であっても日本に3ヶ月以上住んでいて在留資格があれば一律給付金10万円がもらえるが、それ以外の外国人は対象にならない。周りの支援者たちからも、「外国人からの相談がもっとも緊急度が高い」という声を時々耳にする。言葉の壁によって様々な支援があることを知らなかったり、どこに相談していいかわからなかったり、あるいは制度に辿りつけなかったり、はたまた辿り着けたとしても「外国人」という理由で制度利用から排除されてしまったり。

 今回の詐欺事件のように、外国人が逮捕されると厳しい目が向けられるが、彼らに情報と支援が届くような仕組みが作られることこそが「犯罪を未然に防ぐ」ためにも大切だと思うのだ。

 一方で、犯罪に手を染めるほどではないし住む家もあるけれど、「休業手当が出ない」「ずっと休まされているけれど補償はどうなるのか」という不安を働く人の多くが抱えている。

 このような場合、一人で会社と交渉しても納得のいく回答はなかなか得られないだろう。そんな時は、一人でも入れる個人加盟の労働組合に相談してみるというのもひとつの手だ。現在、新型コロナ経済危機を受けて、個人加盟の労組に加入する人は確実に増えている。それは「コロナで休業するから休んで」と言われた非正規の人が休業手当を要求しても「非正規だから出ない」と言われることが多いから。

 返答に納得いかなくても、一人で会社と交渉するのは難しい。が、個人加盟できる労働組合に入り、団体交渉を申し入れれば会社はそれを拒否できない。労働組合の交渉申し入れを拒否したり無視したりすると「違法」になってしまうからである。ということで、会社によっては雇用調整助成金で雇用維持につとめたり、休業手当をなんとか捻出したりと必死の努力を重ねているところもあるだろう。が、休業手当について、「政府要請に基づく休業なので支払い義務はない」と逃げているところもある。そのような場合、個人加盟の労組に入る効果はかなり大きい。黙っていれば補償ゼロだった派遣社員が、組合に入って交渉したことで100%の休業手当を勝ち取ったという例もすでにある。

 最近も、コナミスポーツの例が注目された。

 スポーツジム最大手のコナミスポーツでは、新型コロナによる休業において、非正規のインストラクターに休業手当を出していなかった。が、インストラクターの一部が個人加盟できる「総合サポートユニオン」に加盟。休業手当を求め、5月15日も本社前で「休業補償を全額払え!! 非正規の命を守れ!!」と横断幕を掲げて抗議活動をしたのだ。その日の夕方、「回答」がもたらされたのだ。なんとコナミスポーツはこれまでの態度を一変させ、3月まで遡って休業手当を支払う方針を表明したのだ。

 コナミスポーツは全国に180の施設を持つ。そこで働く非正規インストラクターの数は一体どれほどになるだろう。一部の人がこうして声を上げ、組合に入り、動いたことで、全国のコナミスポーツの非正規インストラクターが救われることになったのだ。

 このケースが大々的に報じられたこともあり、今後、個人加盟の労働組合に入る人はさらに増えると思われる。

 これまで私が受けた電話相談を振り返っても、「休業手当が受けられない」というものは圧倒的に多かった。多くの企業はやはり「政府要請なので支給義務はない」と逃げの姿勢だ。これに対しては政府でしっかり定義して休業手当が全員に支払われるようにすべきなのだが、対策はとられないまま、職種によってはもう2ヶ月も3ヶ月も放置されている。後手後手の政府の対応を待っていても埒が明かないかもしれない。そうであれば、コナミスポーツの例のように、個人加盟できる組合に入って戦うという手もあるのだ。そして実際、結果は出ているのだ。ちなみに、労働組合に入ると、団体交渉申入れ書と一緒に「組合加入通知書」というものを会社に送るのだが、これを送っただけで未払い給料が翌日全額振り込まれた、なんて話もよくある。

 労働組合に関して、「自分には関係ない」「よくわからない」という人も多いだろう。自分の会社の組合は全然助けてくれない、非正規は相手にされない、という人もいるかもしれない。しかし、このように、個人加盟できる組合の中には、今、迅速に動いているところもある。そして結果を出している。そんな私も10年以上、個人加盟できる労働組合に入っている。フリーランスの物書きだけど、何かあった時のため、そして非正規やフリーターとして働く人たちで運営されるその組合を応援したいという気持ちで入っている。

 個人加盟できる組合には、「総合サポートユニオン」のほかにも、「首都圏青年ユニオン」「プレカリアートユニオン」などなど多くの団体がある。会社に守られない非正規だからこそ、組合は必要なのだ。また、外国人が相談できる窓口もある。「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥居一平さんは長らく外国人研修生、実習生問題にも取り組んでいるし、「神奈川シティユニオン」にも多くの外国人が組合員として参加している。と、ここまで名前を出した組合はすべて私が関わったり取材したりしたことのある組合だ。

 関心がある人はぜひ、あなたの地域の組合を探してみるといいだろう。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。