第520回:「コロナになってもならなくても死ぬ」〜国へ緊急要望書提出〜(雨宮処凛)

「生活はギリギリ。コロナになってもならなくても死ぬ」

「派遣でデパートで働いていたが、4月は1日しか仕事がなく、5月はすべてキャンセルになった」

「コロナウイルスに感染し入院していた。退院したが雇い止めになった。最後の給与が手取り7万しかなく支払いができない。昨日も食べてなく、栄養失調になる。お金がない」

「自宅の家賃も店舗の家賃も払えない」

「40年近くカラオケスナックを運営してきた。2月下旬から売り上げが急減し、4月は17日までの半月あまりで、月の売り上げが合計6000円。自粛しろと言っても、私たちはもう生活できない」

 相談事例には、そんな悲痛な叫びが綴られていた。4月18日、19日に開催した「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも相談会〜住まい・生活保護・労働・借金etc.〜」に寄せられた声だ。私も相談員をつとめさせて頂いたこのホットラインのことは前回の原稿でも書いたが、寄せられた相談を受け、4月23日、国に対して緊急要望書を提出した。「国は、自営業者・フリーランス・働く人々の”呻き声”を聴け!」という要望書だ。

 全文はこちらで確認してほしいが、ここで求めているのは、とにかく一刻も早く、直接当事者に対して、自宅や店舗を維持確保し、生活を支えるための現金給付を、単発ではなく感染拡大が収束するまで継続的に行うこと。そして当面の生活を圧迫する納税や債務の弁済につき、一時的にその支払いから解放することである。

 2日間で寄せられた電話は、全国で約5000件。が、フリーダイヤルには42万件のアクセスがあったという。ということは、電話をかけたうちの1.6%しか繋がらなかったということだ。共通したのは、「外出自粛・休業要請で仕事と収入が途絶え、今月又は来月の家賃(自宅・店舗)やローンが払えない。生活費も底をつく」という崖っぷちの状況だ。もっとも多かった相談は「生活費問題」で2700件以上。

 自粛だけが要請され、補償がまったくなされないことの当然の帰結だろう。「自粛と給付はセットだろ」と多くの人がずーっと求め続けているのに、一向に事態は好転していない。遅い。とにかく何もかもが遅すぎる。

 要望書では、生活保護を受ける際の要件の緩和や、住まいの確保、ローンなどの支払い猶予制度の創設、各種手続きの簡略化などが求められた。

 それにしても、まとめられた相談事例を読んでいるだけで、リーマン・ショックとは比較にならないほどの規模の経済危機が起きていることがよくわかる。

 例えば歯医者を経営している人からは、「コロナの関係で営業を継続できない。3人のパートには休業してもらい、10割の補償を出しているが、もう限界だ」という声が寄せられ、キャバクラで働く女性からは「5月6日まで休むよう指示された。歩合給で雇用されているが休業手当はもらっていない。転居先物件の入居費用を払ったばかりだが、収入がないと家賃さえ払えない」という悲鳴が寄せられる。経営者や夜の仕事の女性からの相談は、このようなホットラインではあまり受けたことがないはずだ。

 フリーランス、個人事業者からの相談も多く、ピアニスト、理容店、美容院、マッサージ師、バー・スナック経営、居酒屋、音楽教室、喫茶店、個人タクシー、ヨガのインストラクター、通訳、カメラマンなどなどあらゆる業種が並ぶ。

 また、住宅ローンを支払っているがローンが払えないという人からの相談も相当数あったという。

 厚労省に要望書を提出した後、ホットラインのメンバーで記者会見をしたのだが、そこで法政大学の布川日佐史氏は、新型コロナ感染拡大を受けたドイツの対応を話してくれた。

 ドイツでは3月末の時点で、100万世帯以上が困るだろうことを予測し、生活保護を受けやすくすることを決めているという。よって、申請そのものも非常に簡略化されたそうだ。例えばドイツでも、生活保護を受ける時には大きな資産がないかの確認があるのだが、今は「私は大きな資産を持っていません」とチェックをするだけでOK。収入についても、「これから収入は見込めません」と書くくらいの手軽さで、とにかく早く、困っている人が漏れなく使えるような対応がされているという。しかも、大臣がわざわざ動画でドイツの人々に向かって生活保護の利用を訴えているというから驚く。

 その内容は、「手続きを簡単にしました。こういう手続きをしてください。申し訳ないけれど、手続きしてから2、3日かかってしまうので、それは我慢してほしい」等々。「悪いけど2、3日我慢して」って、全然我慢できるよ! だってこっちはもう2ヶ月我慢してるのに、マスク2枚だよ? しかも私はそれも届いてないよ?

 その上、ドイツの大臣は生活保護について、「恥ずかしさを持たずに権利として受けてください」と語りかけているのだという。ああ、本当にこの国に生まれてよかったな……。私がドイツ人だったら、心からそう思っているだろう。しかもドイツではコロナ対策で窓口が閉められているため、生活保護申請はウェブでもメールでも郵送でもできるというのだから本当に大違いだ。

 翻って日本の場合、いまだに生活保護申請は、役所の狭いブースの中、申請者と職員が向き合い、1時間以上締め切った場所で行われている。私も今月生活保護申請に同行したが、その時はテーブルを挟んでこちら側が申請する本人、私、区議会議員、あちらが職員一人と、4人で狭すぎるブースに1時間以上こもらざるを得なかった。思い切り「3密」が揃った場所である。

 こっちもたまったものではないが、役所の職員だって気の毒だ。ドイツのようにオンライン申請などで簡略化すれば職員も守れるのに、この国からは「人の命を守ろう」という気概がまったくと言っていいほど感じられない。そこがじわじわと辛く、不安がより募るのだ。

 そんな中、この一週間ほどで少しだけ動いたのは、「住居確保給付金」の条件が緩和されたこと。

 これまでは、離職・廃業から2年以内の人のみが対象だったが、4月20日からは収入が減った人も対象になった。これでフリーランスや自営業者も使える可能性が出てきたのである。また、この給付金を受けるには、ハローワークに登録して求職活動をしなければならなかったが、30日からはさらに緩和され、求職申し込みが不要となった。これまでは自営業者やアーティストが行っても、「今の仕事をやめてハロワで仕事を探す」ことが求められたわけだが、やめなくても良くなったのだ。

 まぁ、対象は広がったことはいいことだが、今やこんな重箱の隅レベルの改訂をちょこちょこやったところでどうにかなる状況ではまったくない。とにかく、遅い!! 遅いし全部がチマチマしすぎている!! 今必要なのは、ドイツ並のスピード感と根こそぎ救う感に他ならない。

 そんなことを考えていたところ、コロナで失職した男性が、空腹のためカップ麺などを盗んで逮捕されたというニュースが飛び込んできた。60代の派遣社員の男性は閉店後のスーパーに侵入してカップ麺や米、野菜などを盗んだのだという。

 自粛と給付がセットにされないままにじわじわと経済的に追い詰められれば、当然、このような事件が起きるわけである。

 一方、25日には、横浜市で不動産会社の女性が客の男に刺され、バッグや車を奪った疑いで男が逮捕されている。逮捕された24歳の男は、「新型コロナウイルスの影響で仕事がなくなり、生活に困っていた」「女性を殺害して現金を奪おうと思った」と供述しているという。刺された女性は、重体。

 あまりにも、痛ましい事件だ。が、今のような状況が長く続けばこの手の事件は増えていくだろう。経済的に逼迫した人を放置しておけば、どうしたって治安に反映してくる。今、スーパーは家族総出ではなく代表が一人で行くよう言われているが、「女一人じゃ物騒でスーパーなんか行けない」なんて時代になるのは、このコロナ禍の中でありえない話ではないと思うのだ。そういう意味からも、補償は絶対に必要なのだ。そこをケチれば、結果的に「治安対策」費が必要となり、コストが高くつくから言っているのだ。

 と、なんだか絶望的な気分になってくるが、最後に、少し嬉しい報告。この連載の前々回で書いた、所持金13円だったAさんだが、無事生活保護が決定し、なんと5月頭頃にはアパート生活が始まりそうである。

 緊急事態宣言によるネットカフェ閉鎖の中、生活保護につながることによって生活再建できた彼のような人がいる一方で、神奈川のネットカフェ生活者用の施設では、いまだに相部屋で食事も提供されず、簡易ベッドに毛布3枚という状態だそうだ。

 どうか、必要な人に必要な支援が届きますように。そう祈りつつ、できることをやっていくしかない。

雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)、『自己責任社会の歩き方 生きるに値する世界のために』(七つ森書館)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。