第120回:安倍内閣と「青木の法則」(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

激減する安倍内閣支持率

 末期症状だと思う。
 安倍内閣の支持率が、各マスメディアの最新の調査で激減。毎日新聞調査(5月23日)では、支持27%(前回40%)、不支持64%(前回45%)、朝日新聞(5月23~24日)では支持29%(前回33%)不支持52%(前回47%)という結果だった。
 その1週間前の他社調査では、テレビ朝日が支持32.8%、不支持48.5%、NHKが支持37%、不支持45%と、軒並み支持と不支持が逆転しており、1週間後の毎日と朝日では、その支持と不支持の幅が、もっと大きく広がってしまったわけだ。
 「国会が閉じられて、ニュースに審議の様子が取り上げられなくなれば、支持率は元に戻る、今までもそうだったのだから」などと言って平静を装う官邸だが、今回はどうも、そうは問屋が卸しそうもない。
 一度火がついたツイッターデモは、形を変えて吹き荒れており収まる気配がない。最近は、「#安倍首相の辞任を求めます」が、トレンドのトップを占めたりしている。
 なぜこんなことが起きているのか。

国民の生命と暮らしに直結

 確かに「モリカケ疑惑」の際も、安倍支持率が20%台に急落したことはある。だが、いつの間にか支持率回復となった。「モリカケ」は国民の大きな憤激を呼んだとはいえ、国民一人ひとりの命や暮らしとは直結しない問題だった。だから、時間が経てば忘れるということもある。
 だが今回は違う。新型コロナウイルス対策は、人々の生命や財産、生活に直接影響を及ぼす問題なのだ。その対策が失敗すれば、暮らしは崩壊し命をなくすことさえ現実となる。
 その意味で今回の支持率急落は、「モリカケ疑惑」の際の支持率低下とは違うのだ。
 アベノマスクと冷笑された“寸足らずの布マスク”、それさえいまだに全世帯の20%くらいにしか届いていない。
 給付金30万円案は、これも全世帯の30%以下にしか支給されないことが分かり猛批判を浴び、全世帯一律10万円支給と“朝令暮改”せざるを得なかった。それさえ、オンライン申請時のマイナンバーカード使用の不便さで大ブーイング。ぼくのところにだって、10万円支給の申請書はまだ届いていない。あなたのところには届いているだろうか? やることが遅すぎる!
 星野源さんを利用した安倍氏の優雅な動画はすぐさま炎上。その上、星野さん自身に「使用に関しては、私にも事務所にも何の連絡もなかった」と言われる始末。
 フリーランスへの補償金も、請求書類の煩雑さで、受け付けてさえもらえない人たちが続出。ほんとうにどうなっているのだろう?
 とにかく安倍内閣、やることなすことが、庶民感情を逆なですることばかりだ。緊急事態宣言下で営業停止に追い込まれた人たちの悲鳴は、安倍首相の耳には届かない。
 これで支持率が下がらないはずがない。実は、自民党支持者の間でも支持率は急降下し始めているのだ。連立相手の公明党に至っては、安倍支持率は30%台にまで落ち込んでいる。
 自民党内はザワザワし始めた。もう安倍内閣は長くないと、当の自民党議員たちの腰が落ち着かなくなっているのだ。そこへもってきての黒川弘務氏の賭け麻雀騒動。溺れ始めた安倍氏の足を引っ張る黒川氏。まあ、政権末期にはよくある現象である。

安倍、風前の灯「青木の法則」

 実は、自民党幹部たちが頭を抱えているのには訳がある。安倍内閣の支持率だけではなく、内閣を支えているはずの自民党自体の支持率も急降下しているということだ。
 「青木の法則」というのが政界では信じられている。
 内閣支持率+政党支持率=50……を下回れば、その内閣は倒れる、という法則なのだそうだ。最新の世論調査に当てはめれば、毎日新聞の調査では27+25=52、朝日新聞では29+26=55である。つまり「青木の法則」に従えば50目前、もはや安倍内閣は潰れるかどうかの崖っぷちに立たされている、ということになる。
 では「青木の法則」とは何か。
 これは、かつて参議院のドンと呼ばれ、時の内閣の命運までも左右すると言われた陰の実力者・青木幹雄元自民党参院幹事長がとなえた「法則」である。むろん、数理的な学問に裏付けられた理論ではないが、青木幹雄氏という老練な政治家が、自らの経験に基づいて編み出したもので、確かにさまざまな内閣が倒れる時の状況には、ほとんどピタリとあてはまる。よって「青木の法則」「青木方程式」と呼ばれ、政界の定番の法則とされてきた。
 その「青木の法則」が、ここにきてにわかに脚光を浴び始めた。これが云々(“でんでん”ではない!)されるようになると、当該の内閣はほぼ間違いなく倒れていく。森喜朗内閣や麻生太郎内閣などがその典型例だった。一強を誇った安倍内閣も、風前の灯ということだろう。

安倍首相と森法相のパフォーマンス

 黒川弘務氏の辞任に伴う処分が「訓告」という軽いもので、既定の退職金が全額支払われるということが分かって、国民の怒りがさらに燃え上がった。この件が炎上するというのは、少しものを考えられる人間なら誰にだって分かるだろう。せめて「懲戒」のうちの「戒告」か「減給」あたりで、退職金を減額するという手段もあったのだ。
 批判が高まると、森雅子法相が突然「黒川氏の退職金は、訓告処分によって6700万円から5900万円に減額する」と発表した。800万円も減額するのだから、それでいいでしょ!というわけだ。
 おいおい、ちょっと待てよ。それならなぜ、最初から「懲戒処分」での退職金減額としなかったのか。これもまた「賭け麻雀辞職でも退職金はそのままかよ!」という庶民の怒りにオタオタした内閣の後知恵なのだろう。
 官邸詰めの茶坊主官僚たちは、同じ官僚として黒川氏には寛大な処分を、とでも思ったか。さもしい連中である。

 森雅子法相は「安倍総理に“進退伺”を出したけれど強く慰留されたので、法相としての職責を全うすべく頑張ります」として辞任はしない方向。これも、安倍首相と口裏合わせのパフォーマンスにすぎまい。
 「訓告という処分は、法務省と検事総長が決めたもので、内閣はそれを了承しただけ」と、ここでも見苦しい責任回避を繰り広げる安倍首相。訓告処分は自分で決めたのではなく、稲田伸夫検事総長の意見に従ったまでだ、と言う。だが、それが怪しいということは、森法相の言い分にはっきりと表れている。森氏は「最終的に内閣で決定されたものを、私が検事総長に申し上げ……」と言っているからだ。なんだ、決めたのは安倍内閣じゃないか。
 まあ、森雅子サンも口が軽いというか、考えてものを言わないというか……。
 なんでこんなすぐにバレそうなウソをつくのだろう? 安倍晋三氏には「恥の概念」なるものが決定的に欠如している。

「アベノアクム」の幕が下りる

 さらに、安倍内閣には「河井克行前法相」の逮捕間近という件が控えている。2代続けての“法相辞任”ということになれば、いかに安倍首相とて、ほんとうに「責任問題」になるだろう。「責任はアタクシにあります。真摯に反省します」と口では言いながら、「責任があるのならなぜ取らない!?」という批判は馬耳東風で通して来たけれど、さすがにもう言い逃れはできまい。
 「民主党時代の悪夢」とは、安倍首相の常套句だが、しかし、ぼくにとっては「アベノアクム」のほうが何倍も恐ろしかった。そのアクムに、もうじき幕が下りようとしている…。

 最後に、これだけは書いておかなければならない。
 黒川弘務氏の後任には、林真琴名古屋高検検事長が充てられる。だが、それで一件落着とはならないのだ。
 林氏は、あの悪名高い、いわゆる「共謀罪」の成立に力を注いだ人物である。盛り上がった「共謀罪反対」の声を叩き潰した当の本人であることを、ぼくは忘れてはいない。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。