第121回:新利権集団「コロナムラ」発生!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

越後屋、お主もワルよのう…

 「政商」という言葉がある。
 時の政治権力と結びついて商売を行う人や企業のことを指す。こういう連中は、災害や危機を巧みに利用してぼろ儲けを企む。新型コロナウイルスで世界中が混乱している最中でも、いや、そういう時期こそが、彼らにとっては絶好の稼ぎ時なのだ。
 「戦争成金」などと呼ばれた連中は、明治以降、戦争が続いた時代には枚挙にいとまがなかった。そんな企業の一部は現代でも生き延びている。権力に結びついた兵器産業や製鉄、造船、エネルギーなどの重厚長大産業に、その残滓が見てとれる。
 ま、時代劇によくある定番シーンを思い出してもらおうか。
 「越後屋、お主もワルよのう、ぐふぁふぁふぁふぁ」
 「何を申されます、お代官さまこそ、どふふふふ…」
 で、小判がチャリ~ン。
 (注・この場面で出てくるのが、なぜいつも「越後屋」なのかは、ぼくは知りません)

“うまい汁”に群がる連中

 このところの政府のカネの遣い方を見ていると、まさにコロナ混乱の真っ只中に「政商」どもが、さまざまな手口で我々の税金を貪り食っているとしか思えない。そんな例が続々と出てくるのだ。
 災害時や大イベントの際に、予算に群がる連中はいつの時代にもいる。それらが、いわゆる「ムラ」を形成する。現代の「ムラ」は、政・官・産・学・報と、あらゆる分野に手を伸ばし、みんなでうまい汁を啜り合うのだ。例えば「原子力ムラ」はその典型だが、大震災や台風などの災害後の「復興ムラ」、巨大イベントに群がる「東京五輪ムラ」、そして今回登場した「コロナムラ」もその流れだ。問題なのは、その中枢にいるのが根回し役の“コンサルタント”と称する人物や企業であることだ。
 「モリカケ疑惑」や「サクラ疑惑」では、安倍首相の“お友だち優遇”として腐臭が漂ったままだけれど、それに輪をかけて臭うのは「アベノマスク」を巡る数々の疑問だ。
 当初、政府は大手企業3社に依頼したと言っていたが。466億円という法外な予算にみんながビックリ。3社とは、興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーションだったが、どうも金額が合わない。おかしいじゃないかと野党が追及すると、あまり聞いたことのない会社が続々と出てきた。
 ユースビオ、シマトレーディング、ワークス、横井定、RELIEF、ブルマーレ、TSO International…。いったいなんなんだ、これらは。聞いたこともない会社名がズラリ。どう考えたって、権力(内閣官房や官邸)となんらかの結びつきがなければ、こんなことになるはずがない。
 このアベノマスク、当初は4月中には全世帯に配る、と胸を張って言っていた安倍首相だったのだが、遅れに遅れて5月末現在でも配布は40%にも達していない。しかも、汚れや破損が目立ち、回収して検品し直すというお粗末。さらに、その検品費用が8億円で、それが政府負担というぶっ飛びよう。“政府負担”って、結局はぼくらの税金じゃないか! いったいどんな“コンサル”が仕組んだのか?
 あまりの批判の高まりに「いや、検品費用は800万円でした」と言い訳したが後の祭り、え、なんで100分の1になるの? 計算さえデタラメだったのか、と余計に炎上する始末。言い訳にしても下手すぎる。
 「全世帯に配布すれば、国民はパッと安心します」などと言っていたという発案官僚の今井尚哉首相補佐官と佐伯耕三首相秘書官よ、国民の前に出て来て釈明しろ、謝罪しろ、そして責任を取れ!

有名無実の社団法人の怪

 むろんこれだけじゃない。
 コロナの影響で大幅な減収に陥った中小企業への最大200万円の持続化給付金も大問題に直面している。給付金を待ち望んでいる人は多いが、給付はすごく遅れている。実は、実際の給付作業を請け負っているのは、なんと官庁ではなく民間企業なのだ。大手広告代理店・電通や人材派遣会社パソナ、トランスコスモスが共同で設立した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」なる組織だ。ここが国から769億円の委託費で給付作業を行っている。ところがこの「サービスデザイン」は、電通やパソナに業務委託している。
 つまり、電通などは自らが設立した組織から業務委託されて委託費を受け取っている、ということになる。自分が作った組織を隠れ蓑にしてカネを稼いでいる、という図式だ。カネが還流しているのだ。その還流の過程でなぜか20億円が消えている。「政商」は、濡れ手に粟の儲け口を目論む。それに手を貸すのが“コンサルタント”だ。要するに、政商とコンサルは表裏一体、同じ穴の狢というヤツだ。そこには“T氏”という、こういう時にはいつも噂される人物の影も見える。
 しかも、この「サービスデザイン」という法人は、電話番号は非公開、法人登記してある場所は無人だというから恐れ入る。幽霊法人を作って国からカネを引っ張り出しているのが実態なのだろう。
 これが問題化する兆しが出ると突然、サービスデザイン推進協議会の笠原栄一代表理事が、6月8日付けで辞任すると発表した。東京新聞5月31日付に、笠原氏の一問一答が掲載されている。

 笠原氏は三十日の本誌の取材に「(給付業務については)一切知らない」と話し、巨額の国のお金を使う事業の中身をトップが説明できない法人の異様な実態が浮かんだ。
 笠原氏は立教大学大学院の客員教授を務めるマーケティング研究者で、二〇一八年六月から法人の代表理事を務めている。
 三十日午前の時点で、自身の研究所のホームページで法人側に辞意を伝えた時期を「五月十八日」と記載していたが、取材には「以前から決まっていたこと」と語るにとどまった。法人の不透明さを指摘した二十八日付の本紙報道と辞職の因果関係はないという。
 同法人が手掛ける持続化給付金は給付遅れが相次いでいる。しかし、法人の実質的な運営形態も開示されていないほか、実体が乏しいのに委託費と再委託費の差額に当たる二十億円を受け取ることに、野党からも批判が上がっている。笠原氏はこの問題について「他の理事に聞いてほしい」と述べるにとどまる。(以下略)

 疑惑が報道されるとすぐに辞職。しかも「前から決まっていたこと」などと逃げを打つ。安倍政権でしょっちゅう見た光景、デジャブ(既視感)である。この笠原氏の“研究”がマーケティングだという。まさに“コンサルタント”の別名である。何かが臭う。

なんで事務費が3,100億円?

 これで終わりと思うなよ。まだまだ似たようなケースは出てくるのだ。
 このところ、得意満面で記者会見に出てくるのが西村康稔経済再生相。コロナ対策担当相になって出番が増え、一部では「次期首相候補に急浮上」などと報道されたものだから、得意になるのも分かる。その西村大臣が、これまた胸を張って語るのが「GoToキャンペーン」だ。
 このキャンペーンは、コロナ禍の収束後を見据えて、国民の旅行代金などを国が援助しようというもの。「この時期にやることか」という批判はあるにしても、そういう政策があってもいいとは思うが、予算が約1兆7,800億円だというから大盤振る舞いだ。
 しかしここで問題になるのは、またしても「コロナムラ」の住人たちの暗躍が見え隠れすることだ。援助金の配布等に要する事務費が、3,100億円もかかるという。しかもそれを外注するらしい。どこへ? むろん「コロナムラ」の企業が絡んでいるのは間違いない。
 いったい何なんだ、この国はっ!
 3,100億円。もうぼくらは巨額のカネに麻痺させられているけれど、この膨大な3,100億円は、ほんとうに必要なのか。事務費と広報費に使われるとのこと。広報は周知徹底のためだ。広報といえば、テレビCMや新聞広告、最近ではネット広告などに使うということなのだろうが、当然、そこには広告代理店が絡んでくる。といえば、どこかは分かるだろう。
 新利権集団「コロナムラ」が暗躍するという意味がお分かりだろう。

スネ夫首相の恥ずかしさ

 ぼくははっきり言う。
 安倍晋三氏はどうにもならないバカだと思う。よってたかって食い物にされる金持ちのぼんぼん。それでも自分のカネじゃないから、ちっとも痛みは感じない。トランプ氏に「これを買え」「ここへカネを出せ」と言われれば、すぐに側近どもに言いつけていくらでもばら撒く。ぼくらの税金を、だ。
 不要不急な外出は避けろ、と言いながら、トランプ氏に「G7をやるから来い」と言われれば「行きます」と二つ返事。メルケル独首相が不参加を表明したが、そんな気概は持ち合わせない。ポチだもの。
 トランプ氏は、メルケルさんに激怒。
 「そんならG7は9月に延期だ。それもG7じゃなく、インド、ロシア、韓国、オーストラリアを招待するぞ」と、勝手にG7機構そのものを変えてしまう。究極の駄々っ子である。むろん、安倍晋三氏に異存はない。ジャイアンにスネ夫は逆らえないのだ。
 正直、安倍氏はもはや、恥ずかしい存在だと思う。自分の国の首相のこの醜態、スネ夫ぶりを、あなたは恥ずかしいと思わないですか?

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。