第129回:【緊急新作戦】世界各地の地下文化空間を守れ!! うどん作戦ついに始まる!(松本哉)

 世界各地で社会運動が盛り上がる中、日本だけ謎の無風状態。こんなことはよくある。「どうして日本だけ政治的無関心なのか?」ということはよく話題になっているが、理由は分かりきっている。明らかに、反骨精神豊かな地下文化空間の少なさが原因だ。
 こういうスペースでは、基本的に「世の中クソつまんねえから、くだらないやつらは放っといて、自力で面白いことやってやる」っていうスピリッツが溢れている。で、それはカフェやバーだったり、音楽や芸術のスペースだったり、アトリエや本屋、雑貨屋、謎の溜まり場だったり、ジャンルは問わない。で、一貫してこういう場所で情報交換がされ、仕事や金もうけ以外の仲間ができたりして、いろんなものが生まれてくる。
 ちなみに、何かことが起こるとすぐにデモが発生して、どこからともなく大量の人が出て来る毎度おなじみヨーロッパでは、普段から集まって遊んだりできる、そんな場所が無数にある。それもいろんなところがあり、エコ系のところや、やたらパンクな場所、すごい可愛らしい店、真面目な人たちが集ってるところから、アホっぽい飲んだくれの集う場所まで、雰囲気も多種多様。そんな各スペースが薄くつながっていて、日常の遊びや生活の場所が出撃基地となって、政府がふざけたことをやらかしたりした時などには「おお、じゃあみんなでデモに行こう」みたいな感じで街に繰り出す。なので、大きな社会運動などがない時期でもこういうアンダーグラウンドな文化圏が脈々と続いていくので、しぶとく勢力は衰えない。それを日本から勝手に「ヨーロッパは文化的背景が違う」みたいに判断してはいけない。彼らは常に場所を維持することに頑張っているのだ。
 もちろんヨーロッパだけじゃなく、アメリカでもそうだし、台湾や韓国もそうだし、気骨のある店やスペースがたくさん残っているところは、いざという時の民衆の瞬発力が強い。それもそのはず、いくら巨大な社会運動が巻き起こったとしても、それが成功するにせよ失敗するにせよ、収束した後に、我に返ったように通勤電車で会社に通う生活に戻ったり、就職のための学校に通い始めて、その異常なまでの非政治非社会的なところに身を置いてしまっては、いくら心に反骨やパンクの精神を持っていても、瞬発力が削がれていくことは間違いがない。そしてしょうがないからネットで政治的なものをチェックしつつ、日々の奴隷のような生活を続ける? こんなんじゃ、いつまで経っても世の中が変わるわけがない。やはりここは、どれだけ社会と繋がった日常的な現場を維持することができるかが重要なポイントになってくる。
 今になってよくよく考えてみたら、大昔に日本も社会運動とか盛り上がってた頃は(俺も知らないけど)、自治空間としての大学や、気骨のある店主がやってる喫茶店や飲み屋なんかがその日常的な反骨の場を保っていた。それがあっての大きな盛り上がりでもあったんだろう。ところが、かつての大学は「就職に役立つ場所に再生する」というアホみたいな大学改革によって消滅し、気骨のある店たちは街の再開発などによってどんどん減って来て、そして高度成長の成れの果てとして、無関心日本が誕生した。
 しかし、そんな無関心=クールなんていうのが長続きするわけもなく、2000年代以降は各種のオルタナティブスペース(今までのくだらない価値観にとらわれない反骨精神満載の店や場所)が日本各地に徐々に増えて来た。

 と、そんな時のコロナ騒動。これがまたクセ者中のクセ者で、従来の疫病と違い潜伏期間が微妙に長く、どこからどう感染るかわからなく、小癪にもこちらの行動を封じてくる。人が集まることや、別の街と行き来することが封じられた。「そんなの関係ねーよ!」と、強行突破することも可能だけど、それでもし集団感染や重症者を出したりした時のテンションの下がりようは半端じゃないはずだし、そんなことが脳裏によぎりながら遊んでいるのも楽しくない。いずれにせよ、制約が多くなったことは間違いない。

 そして、従来ならば、病気だけでなく地震や火事など何か困ったことがあった場合は、みんなで集まって危機を乗り越えてきた。例えば、チャリティーイベントを開催して資金を作ってみたり、みんなで現地に行って支援イベントを開催したり。しかし、今回はできない。やってるのはバカな政府のGo Toキャンペーンぐらいなもんだ。
 そして、世界中で体力のない個人店などが危機に瀕している中、各地の地下文化スペースも同様に、それぞれが自力でスペースを維持する努力をしている。このまま潰れるところが増えて、世界的な民衆の抵抗力、瞬発力が削がれていくのか!? さあ、どうする!!!

うどん作戦

 今回のコロナ騒動で、我々に課せられたお題は「物と人が移動しない」ということ。なるほど、そう来ましたか。ここひとつ、ゲームだと思って頓知比べだ!
 ま、普通に考えるのはオンライン。ということで、クラウドファンディングやオンラインショップなどはみんなやり始めている。が、クラウドファンディングは最初はいいけど、これはあくまで緊急支援的なものなので、長期に渡ってやり続けていくのは厳しい。オンラインショップは業種や店によっては有効で、活用しているところも多い。でも、それではいいものを作れる店やいいものを仕入れる才覚がある店はいいけど、そうでない場合は役に立たない。商売の上ではこれはごく自然なことなんだけど、面白いスペースを守ると考えたときに、商才あるところだけが残るってのはちょっと寂しい。むしろ、なんで生き延びてるんだかわからないような意味不明のスペースにこそ残って欲しいっていうのが、地下文化圏の人情ってもんだ。それと、オンラインショップの欠点は国境の問題。海外発送は送料がバカ高いし、物や数量によっては関税をとられるので、実質国内限定みたいなものになってしまう。今、世界中で「自分の国さえよければいい」みたいな自分勝手な政治家が多い中、今こそ地下文化圏の国際的なつながりを維持すべき時だ。コロナで疎遠になるのはもったいない。

 そこで! 今回新たに考案されたのが、コロナなのに国境を越える新計画「うどん作戦」!!!! 簡単に言っちゃうと、Tシャツのデザインを交換して現地で刷って販売する計画!!!!! なんだ、ここまで引っ張っといて、ありきたりな話じゃねーか、と思うのはまだ早い。もうちょっと読んでくれ!
 まず、今回この作戦の相棒となるのはドイツ・ケルンにあるうどんカフェの「NOBIKO」。ここは、ケルンの友人で、ミュージシャンでもありいろんな面白い活動をしているドイツ人のノビタ氏と、元々は高円寺界隈にいて今はドイツに移住したイラストレーターでもあるニコさん、その他ケルンの仲間たちと共同で運営されている店。ちなみに、ノビタ氏の本名はルーカスというんだけど、「ドラえもんののび太は毎日ゴロゴロしててヤバい! あれは革命後の世界だ!」などとわけわからないこと言い出して、マネしてケルンの自宅で毎日ゴロゴロしてたので「ノビタ」と名付けられた。そしてニコさんはほのぼのとしたマヌケな絵を描かせたら右に出るものがいない現代を生きる江戸町人(自分の著書『世界マヌケ反乱の手引書』の表紙もニコさんに描いてもらった)。そんな人たちなので、みなさんも機会があったら安心して遊びに行ってもらいたい。

ドイツ・ケルンの「NOBIKO」運営メンバー

うどん! 美味しそう〜、これがドイツで食べられるのか〜

メニューたくさんあります。オリジナルメニューも。ちなみに、すべて動物性のものを使用していないヴィーガン料理。体にも優しそう!

ぐうたらが売りでヒドいあだ名を付けられた「ノビタ」だが、今はせっせと働くハメに。日本にも何度も来たことがあり、2011年には日本に長期旅行に来た瞬間に大地震に見舞われ、驚いて逃げ帰るという強運の持ち主

 で、このNOBIKOたちと連絡を取っていた時、Tシャツのデザインを交換しようという話になった。具体的には、自分も運営メンバーの一人の高円寺「なんとかBAR」のTシャツをドイツで刷り、NOBIKOのTシャツを高円寺で刷って、その売り上げをお互いに渡すというもの。従来はTシャツを大量に送ってもらって売るなんていうこともよくあったけど、デザイン交換の方が楽だし効率がいい。それに、東京の人たちの手でドイツのTシャツを刷って(基本的にシルクスクリーンのハンドメイド)、それが出回るので、この作戦にかかわった人はNOBIKOに行ったことがない人でも若干は愛着が湧いてくるはずだ。で、いつか本当にケルンに行った時には「おお〜! ここか! 本当にあるんだ!!!!」などと、感動は倍増のはず。例えて言うなれば生産者情報入りの野菜などを普段買ってて、偶然その農家に寄った時に顔写真通りのオッサンとおばちゃんがいた時に「うわ〜、いつもあなたの大根買ってますよ!!!」と他人とは思えなくなる、あの感じと同じだ(体験したことないけど)。逆も同じで、ドイツで高円寺「なんとかBAR」Tシャツを買った人が将来東京に来たときには、「あの時、ここのTシャツ買って応援したよ!」「おお、そうなのか! ありがとう! じゃ、1杯おごるよ!」みたいに、友達になる可能性が急増する。今は世界中が鎖国状態で国境が閉じられているけど、いつの日か国境が開かれるまでの間に、関係や連帯感を維持しておくにはかなり有用な作戦だ。

ドイツ版「なんとかBAR」Tシャツ。日本版にはないカラーリング! 欲しい!

 さて、こう始まったうどん作戦だけど、これだけではまだ普通。継続的に続けるために発展形を考えてみたい。今回はお互いで応援しようということもあり、なんとかなると思うけど、今後、うまくいかない可能性だってある。例えば、片方は50枚売れて、片方は3枚しか売れなかったら、ちょっと具合が悪い。一方的にお金もらうのも気まずいし、大量に不良在庫抱えるのも困り物だ。
 そこで、新うどん作戦。例えば作成費を抜いた利益を半分ずつ分けてみる。2000円で売ったTシャツの材料費が800円だったとして、1200円が残る。それを600円ずつ分ける。するとちゃんとどちらにもお金が渡ることになるので、売れ行きに偏りが出たとしてもそんなに不公平にはならない。そして、買う側からしても、そもそも応援したい海外のスペースにもお金が行き、信頼している身近なスペースにもお金が回るのであれば、なんか安心できる。

進化型うどん作戦!

 さて、考え始めると、いろいろとイメージが湧いてくる。
 上の例では1対1の相互支援だったけど、これ複数のスペースでやったら意外と面白いことになりそう。この作戦に参加する世界各国のいろんな地下文化圏スペースが、自分たちのデザインを1つ2つずつぐらい出し合い、そのデータをオンライン上で共有する。デザインは、元々使っている店のロゴでもいいし、この計画用に新たに作ったものでもなんでもいい。で、各地でスペースを運営している人たちは、その中から応援したい場所のデザインを選び、それを自由に使ってグッズを作る。それは製造側の裁量なので、何をどれだけ作るかはわからないし、どんな色でプリントするかもわからない。これは面白い。今回も東京で作ったNOBIKOのTシャツの写真を送ったら、NOBIKO側は「色とかプリントサイズが違って面白い!」という感想。
 Tシャツやバッグなどはありがちだけど、国や文化圏の違うところでそれぞれが作るから、思いもよらないグッズができる可能性も高い。日本だったら、手拭いとか地下足袋とか扇子とか作るかもしれないし、下駄に焼印を押すかもしれない。海外も侮れない。ビールやワインのラベルになってるかもしれないし、「お前の店のロゴが中国で麻雀牌に刻印されてるよ!」みたいなことだってあるかもしれない。う〜ん、楽しすぎる! 下手したら、そのデザインを作った当人が買うかもしれない。

 才能のある人だけが評価されがちなこの世の中。弱肉強食の社会になったときに、能力やセンスのある人だけが生き残る世の中じゃちょっと寂しい。オルタナティブスペースの中でも同じで、カッコいいデザインができたり、カッコいい表現ができたり、カッコいい作品を作れたりする人を擁するスペースだけが残るんじゃ面白くない。能力は無能の中から突如出てくるし、面白いものは無意味なところから突然現れるものだ。この進化型ネオうどん作戦をうまく使えば、別になんの才能がなくたってスペース維持の足しにはなるはずだ。お気に入りの場所や、好きなデザインを選んで地道に物を作ればいい。結果的に応援したい場所の支援にもつながるし、宣伝にもなるので向こうも喜ぶはず。
 それに、普段は忘れられがちな、日の目を見ない地道な下準備とか作業とかもちゃんと評価されるということにも繋がるし、これはなかなか最高に違いない〜!!

 「人も物も動いたらダメ」という今回のコロナルールをも、まんまとクリア。自分の街から一歩も出ずに世界中のやつらと連携しつつ共同戦線が張れる。よ〜し、ザマアミロ〜! さあ、そうとなったら、このうどん作戦、並びに進化型ネオうどん作戦、早速やってみよう〜!! でも、自分一人では労力的に無理なので、一味の者たちが集まれば決行という感じかな〜。現在も着々と準備中だけどお蔵入りが目前に迫るウラジオストク作戦みたいなのもあるので、先行きはまだ不明だけど、ここはとりあえず、今後の成り行きを見守るしかない!!!! あ、これはオンラインと現場の併用作戦なので、別に日本のどこでも世界のどこでも同志を募って計画を進められるのがいいね。

 ということで、うどん作戦、乞うご期待! まずは手始めにNOBIKOグッズよろしく〜〜〜(こちらで買えます!)

お返しに東京で作る「NOBIKO」Tシャツ。写真は「なんとかBAR」レギュラー店主の遠藤氏

Tシャツ作りは意外と地道な作業。酔った勢いで作り始めて失敗して台無しにすることも多々あり

プリント後の微修正まで入る力の入れっぷり。こちらも「なんとかBAR」レギュラー店主の面々

トートバッグも作成。赤でプリントも結構カッコいい!

高円寺チームの勝手な判断で黒Tシャツも! うどん屋さんのTシャツとは思えないような出来上がり

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。