第129回:此の頃お国に流行る物(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

二条河原の落書

 此頃(このごろ)都ニハヤル物 夜討(ようち) 強盗 謀(にせ)綸旨
 召人(めしうど) 早馬 虚騒動(からさわぎ)
 生頸(なまくび) 還俗(げんぞく) 自由(まま)出家
 俄(にわか)大名 迷者(まよいもの)
 安堵 恩賞 虚軍(そらいくさ)
 本領ハナルル訴訟人 文書入タル細葛(ほそつづら)
 追従(ついしょう) 讒人(ざんにん) 禅律僧 下剋上スル成出者(なりづもの)

 これは有名な「二条河原の落書」である。14世紀「建武の新政」と呼ばれた時代に、混乱する世相を皮肉った庶民の「落書」として有名である。原文はもっと長く、延々と続くのだが、興味のある方は検索してください。すぐに見つかります。
 適当にひらがなで補足したけれど、まあ、意味は古文にしては案外に判りやすいし、七五調だからリズムもいい。
 要するに、宮中偽文書が横行し、空騒ぎも多い。急に成り上がった大名(今でいえば代議士様か)や口先ばかりのへつらい学者や官僚たち、それらに対しては出世や利権を与えて、時としては戦争を煽ったりする政権。他人をそしり陥れて蹴落とし、出世に邁進するこざかしい連中……。
 かなりこじつけではあるけれど、今のご時世に似ていると言えなくもない。ことに、偽の文書などは、最近では枚挙にいとまがない。

東京住まいの落とし文

 面白がって、ぼくもよせばいいのにヘタな真似をしてみる。
 なにしろ、この国や都などのおエライさんたちのやり口には、ほとんど愛想が尽きた。いくら批判したって、見事なほどの“カエルのツラにションベン”連中。アホらしくってやってられんワ。
 だから、まともな批判はちょいと脇へ置いといて、「東京住まいの落とし文」とでも洒落てみようか。

 此の頃お国に流行るもの コロナ利権に 騙し合い GoToトラブル空騒ぎ
 家に籠れと言いながら 同じ口にて旅に出ろ 右往左往の庶民ども
 故郷へ思いは募れども 行けば感染ると言う輩 どうすりゃいいのさこの私

 お役所文書の墨塗りに 嘘と改竄こき混ぜて 政府秘密は闇の中
 議員不倫の夏休み 文春砲の恐ろしや コロナの陰でねんコロナ
 二世三世のバカ議員 宅には妻子もおるだろに 密会こそが愉悦なり

 国の議会は閉じたまま 大臣(おとど)は何処(いずこ)へ雲隠れ
 議員報酬そのままに 長い休みを取るばかり 切歯扼腕の我等なり
 近寄る者には恩賞を 与えて周りは狗(いぬ)ばかり 醜悪なるぞ裸王どの

 小器用なるを旨として 小型布覆(アベノマスク)を進言し
 これで民草安心と 500億円無駄遣い 意地でも外さず顎を出し
 感染間近の官邸で ついには別の口覆(マスク)をば つけるに至った恥知らず

 妻はどこかと訊ぬれば 芸能人(タレント)集めて大饗宴(うたげ)
 似たもの夫婦と言いながら 余りの酷さに声も出ず
 お線香上げに行きましょか 言うなら行けよ 虚言(うそ)つかず

 黄昏(たそがれ)迫る官邸じゃ 労働意欲湧かないとか
 午前は私邸(うち)でお茶時間(ティータイム) ようやく午後に官邸へ
 1時間ほど執務をし 立ち寄りたるは餐庁(レストラン)
 仲間集めて晩餐会 追従ばかりを好みつつ 痛い言葉に耳開なし

 東(あずま)の京も大阪も 聞かぬ日はなし感染増 「日本モデル」と言いながら
 感染惨状手もつかず 都知事も府知事も言葉のみ 恰好だけでは収まらず
 大口叩きの物頭 自然終息待つばかり 専門家会やら分科会 何の専門か不明闇

 置き去りにされた民草に 店舗閉鎖を要請し 給付金など後回し
 貧困家庭に学生や 外国からの留学生 研修生らの嘆きには 耳傾けぬ安倍政権
 人権国家と言いながら 誰を援けるつもりやら 悲しき黄昏迫り来る

 地球の上に朝が来る その裏側は夜だろう 西の国ならヨーロッパ
 東の国は東洋の~(川田晴久(義雄)とミルク・ブラザーズ)
 こんな歌なら楽しいけれど げに恐ろしきこの世界
 新たな冷戦時代だと 言う人多き昨今よ

 世界は滅茶苦茶支離滅裂 大統領と主席様 儂がいちばん俺最高と
 地球滅亡を天秤に かけて覇権を争いつ コロナ感染知らん振り
 さっさとお前ら感染し 静かにせよと神様が 言ってくれないものだろか

 コロナ禍よりも戦争が 来ては困ると思いつつ 大統領選まで待つのみか
 メルケル姐さん先頭に ここは世界が団結し トランプ・習の頭をば
 冷やす試みする時ぞ 淋しいけれど日ノ本の 安倍は頼りにならぬ故

 悲しき島の悲鳴にも 米兵傍若無人にて 掻き消されつつあり沖縄の
 離島に襲来感染源 宿舎(ホテル)は米国御用達 島内闊歩の米兵は
 旅券検疫なしとても 自由三昧地位協定

 下手な落首を並べ立て 皮肉や冗句のつもりだが そこは素人ここまでと
 言葉も尽きた意も尽きた 自己満足の鐘の音が 遠くで轟音(ご~ん)と鳴り響き
 もう恥晒しを止めよとも 聞こえる夜の静寂(しじま)かな

 とまあ、バカな経文語りもこの辺で、チョ~ンと柝が入る……。
 お粗末でした。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。