第141回:二度あることは三度ある(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 日本のことわざには、なかなか含蓄の深いものがある。「二度あることは三度ある」ってのも、世の中のことどもに当てはまりそうだ。善いことも悪いことも、なんとなく三度までは続くような気がするから不思議だ。
 で、そのことわざに、ちょいとむりやり事寄せてみる。ぼくの願いが、二度三度とうまく現実化すればいいな……と。

二度あることの第一例 「維新敗北」

 いわゆる「大阪都構想」の住民投票で、僅差とはいえ大阪維新の会側が敗北したこと。ぼくは、そうなりゃいいなあと思っていた。
 ぼくの頭が悪いせいか、何度聞いても「都構想」なるもののメリットがよく分からなかった。逆に「大阪市を廃止して4特別区にすると、218億円の負担増になる」という大阪市財政局の試算が公になったものだから、デメリットはよく分かった。当然、松井一郎大阪市長が大激怒、多分、発表した東山潔大阪市財政局長は、松井市長に怒鳴りまくられたんだろうなあ、気の毒に。
 この財政局長、記者会見で“捏造”という言葉さえ使って謝罪していた。財政局長の苦虫をかみ殺すような表情に、口惜しさがまざまざと表れていた。むりやり権力によって試算を改竄させられる。どこかで見たような光景だ。
 ともあれ、よく分からないまま「大阪都構想」は沈没したのである。
 責任を取って松井一郎氏は「大阪維新の会」の代表を辞任すると発表した。しかし、大阪市長の任期は2023年4月まで、あと2年半も残っている。そちらは任期満了まで頑張るつもりらしいから、その2年半の間にいったい何が起きる(起こす)のか、どうも一筋縄ではいきそうもない。
 松井氏の辞任を受け、維新の会の党首選が行われるという。同じ責任者であったはずの吉村洋文大阪府知事が党首選に立候補する意向のようだ。じゃあ、吉村氏の責任はどうなるんだろう? ヘンなの。
 なにはともあれ、松井氏は市長の任期満了をもって「政界引退」だという。これで「改憲政党」のひとつの足元がグラついたわけだ。菅首相と松井代表はベッタリと言われるほどの仲良しで「改憲」でもピッタリ息があっていたから、松井氏の退場は菅首相にとっても大きな打撃だろう。
 ところで、みっともなかったのは公明党山口那津男代表だ。選挙協力をちらつかされてコロリと反対から賛成へ寝返った。
 山口氏は大阪入りして、松井・吉村両氏と一緒に街宣車に乗り「大阪都構想へご支援を」とやっちゃったのだから恥も外聞もない。中央では連立を組むのに、自民党大阪府連には後足で砂をかけた格好だ。その上での敗北、山口氏に「責任論」は噴出しないのだろうか。このまんまそっと幕引き、なんてまことにみっともないぞ、公明党。創価学会側からは、かなりの批判が出ているというから、ただじゃすまないだろうけれど……。

二度あること、その二 「トランプ退場」

 アメリカ大統領選挙、バイデン候補の勝利確定でやっと決着と思いきや、トランプ大統領最後の抵抗。「民主党の不正投票だあ」「裁判だあ」と喚きたてる。
 諦めきれないトランプ支持者たちは、“Qアノン”と称する陰謀論者たちのSNSに乗っかって、証拠もないのに「不正だ!不正だ!」の大合唱。トランプ氏自身も「不正だ」と強調する割には、まったく不正の証拠を示せていない。共和党内からさえ批判を受ける始末。ブッシュ元大統領(共和党)だって「バイデン氏へ祝福」をして、トランプ氏を見棄てたというのに。
 しかも“プラウド・ボーイズ”といわれるグループや武装自警団組織(ミリシア)などが、それに乗じて不穏な動きを見せているというからキナ臭い。
 今になっても煽り続けるトランプという男。
 それでもアメリカ民主主義の底力、なんとか良識(いや、常識というほうが正しい)が、トランプ再選を阻止した。あとは、何事もなく政権移譲が行われることを望むだけだが、ホワイトハウスにトランプ籠城、などという情報まで流れてくる。
 いやはや、とんだ大統領選挙だったなあ……である。
 ところで、日本のネット右翼諸士のトランプへの肩入れがハンパじゃない。ツイッターなどを見ていると、トランプが勝っている、民主党は不正投票をしている、不正だから投票数を数えるのをすぐに中止せよ……。なんじゃ、これ?
 だいたい「アメリカ・ファースト」を旗印に、「在日米軍基地の維持費を現在の5倍にせよ」とか、「貿易交渉で関税をゼロにしろ」、果ては「防衛装備品(武器だよ!)を爆買いしろ」などと日本には不利な事を押し付けるトランプを支持するって、いったいどこが“愛国”じゃい? 自国に不利益を及ぼす、君たちこそ“反日”じゃないか。などと言っても、耳には届かぬらしいから困ったもんだ。
 でもまあ、トランプ氏敗北を願っていたぼくにとって、これが維新敗北に続いて「二度あること」だったのである。

二度あることは三度あってもおかしくない

 「ガビチョウ」という鳥を知っていますか? 漢字では「画眉鳥」と書くらしい。本来は中国~東南アジアに広く分布する鳥らしいが、日本にはペットとして持ち込まれたものが抜け出して定着した、いわゆる外来種である。
 ぼくの散歩コースの自然公園の辺りでも、最近よくこの鳥を見かけるようになった。全体的には茶系だが、腹に筋があってけっこう可愛い。でも、この鳥は、実は姿かたちよりも、その鳴き声が特徴的なことで知られている(ガビチョウの鳴き声※動画リンク)。
 日本では、一般的に鳥の鳴き声は文字で表せる。カッコー、チュンチュン、ホーホケキョ、カーカー、コケコッコー、ちょっと変わったところではテッペンカケタカ、トーキョートッキョキョカキョク……なんてのもある。
 だが、このガビチョウの鳴き声はとても文字では書き表せない。なぜなら、やたらと他の鳥の真似をするからだ。さまざまな鳥の声が混じり合って、結局、元はどんな鳴き声なのか分からない。かなり甲高く長い間鳴き続ける。けっこううるさい。まあ、あの声がステキだという人も多いから、人さまざまというしかないけれど。
 で、なんでこんなことを思い出したかと言うと、菅義偉首相の国会審議中継を見ていて連想したのだ。とにかく自分の声(人間の場合は言葉)というものを持たない。質問されるとすぐに詰まる。立ち往生する。仕方なく、秘書だか官僚だか知らないが、後ろかヒソヒソ耳打ち、ペーパーを差し入れる。それを菅首相はペラペラ(いや、つっかえつっかえ)読むだけだから、まるで質問と噛み合わない。しかも、自分の言葉ではないのだから、質問と噛み合っていないことにも気づかない。
 この人の官房長官時代の記者会見での答弁は“鉄壁”とまで呼ばれたが、それは単に「まったく問題はない」「それは当たらない」「答えは差し控える」、最後は「あなたに応える必要はない」などと、木で鼻をくくったような答弁でやり過ごしてきただけだった。それを記者たちは、問い詰めもせず放置してきたからこそ“鉄壁”だったのだ。
 だが、さすがに首相答弁ではそうもいかない。
 「お答えは人事に関することなので差し控えさせていただく」と例の如く突っぱねる。そこで「人事に関して質問している。それじゃ質疑にならないじゃないか」と反撃されると、もうシドロモドロで立ち往生するしかない。
 ガビチョウなら困ったら飛んで逃げちゃえばいい。菅さんも、ここまでひどく困っているのだから、どっかへ飛んで行っちゃうしかないんじゃないかなあ。

 というわけで、「二度あることは三度ある」のことわざ通り、ぼくの願いの三度目が実現してくれないだろうか。
 維新敗北、トランプ退場、自民政権崩壊……となれば、ふむふむ「二度あることは三度ある」は真理だったなあ、とぼくはぐっすり眠れそう……。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。