第144回:朝鮮文化とふれあうつどい(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 11月29日、うす曇りの日曜日、初冬の風が弱く吹いている日。
 ぼくら夫婦が、毎年たのしみにしているお祭りが今年も開かれた。「朝鮮文化とふれあうつどい」という。今年で第22回目というから、なかなか伝統あるお祭りになってきたようだ。府中市の府中公園が会場である。

公園入り口の横断幕です

 コロナ禍で、参加者数はいつもの年よりやや少なめに見えたけれど、それでも広い公園にたくさんのフリーマーケットのお店が並び、テントの出店も盛況で、活気にあふれていた。ステージでは、テコンドーの演武、「テゴダンとその仲間たち」の農楽演奏、李政美さんやPOE(朴保)さんの演奏と歌。飽きさせない演出だ。
 でもね、やはりコロナ感染予防ということで、毎年人気になっている「チマ・チョゴリ試着コーナー」は、今年は中止だって。ガッカリしている少女たち……。まあ、いろんな部分でコロナの影響は出ていた。

テコンドーの演武

 ぼくとカミさんは、このお祭りでの昼飯も楽しみにしている。
 いつもだと焼肉の出店も大繁盛なのだが、残念ながら今年はそれも自粛。でも「焼肉ビビンバ丼」がいい匂いをさせていたから、ぼくらはそれにアタック。写真を見てください。美味しそうでしょう!
 正直に言えば、美味かったのだけれど、ちょっと冷めていたのが難点だった。やはりビビンバは熱々でなくちゃね。いやいや、それでも美味かったんですよ。

これが「焼肉ビビンバ丼」です。なかなかでした

 ぼくが特に素晴らしいと思ったのは、「在日一世と家族の肖像・写真展示コーナー」だった。円形会場にずらりと展示された数百枚に及ぶ在日一世と彼らの家族、子や孫たちの写真は、「日本という異国」で暮らさざるを得なかった人々の刻まれた歴史をそのままに映し出していた。
 『在日一世の記憶』(集英社新書、小熊英二・姜尚中 編)という784頁の分厚い本があるけれど、その本の写真版といった趣である。それを見て回りながら、ぼくのまったく知らない暮らしが、ぼくらのそばにあったことをこの目で確認した。

在日一世たちの写真展、しみじみと……

 そんな人々を今も苦しめているのが、差別という暴力だ。しかも、その先頭に立っているのが、日本政府そのものであるという悲しい現実。
 会場内で、署名活動が行われていた。
 「幼児教育類似施設に対する『新たな支援策』に、すべての外国人学校幼稚園も対象にするように求めます!」というものだった。その趣旨が書かれていた。

 日本政府は無償化制度の「対象外」とした施設の一部を調査し、2021年度から幼児教育類似施設に関する「新たな支援策」を実施しようとしています。
 私たちは、すべての外国人学校幼稚園を「幼児教育・保育無償化」対象にするように求めるとともに、2021年度から実施される幼児教育類似施設に関する「新たな支援策」の対象にするよう求めます!

 つまり日本政府は、朝鮮学校幼稚園を、幼稚園・保育園(幼児教育類似施設)の「無償化」から除くとしているのだ。同じ幼児を育てる施設を、なぜ色分けするのか? 幼い子どもたちに、どんな罪があるというのか?
 ぼくも埼玉県にある朝鮮学校幼稚園を見学したことがある。日本語と朝鮮語のバイリンガル教育をしている以外は、日本の幼稚園となんら変わるところはなかった。この子たちの多くは、いずれ日本国内で生活を築いていくはずだ。
 若年層労働力の不足を言い、外国人労働者の受け入れを、日本の高齢化社会での「労働力不足対策の一環」として推し進めようとする日本政府が、やがて労働力の有力な担い手になるだろう在日の幼児たちを差別するということは、まったく理にかなわない政策というしかない。そのくらいのリクツが、日本の政治家たちにはなぜ理解できないのだろう。なぜ、この子たちを大事にしないのだろう。
 などと、つい政治がらみの疑問を持ってしまったけれど、むろんぼくら夫婦は、快く署名に応じたのである。

 幼稚園だけではなく「高校無償化」も朝鮮学校には適用されない。そんな苦境を救おうと、日本全国にある67カ所の朝鮮学校すべてを歩いて訪れた記録が本になった。
 『朝鮮学校を歩く 1100キロ/156万歩の旅』(長谷川和夫・写真&文、花伝社、1800円+税)とい大きなカラー本である。会場内で、著者の長谷川さんの即売サイン会が開かれていた。
 ぼくはサインをいただいて購入。ちょっと嬉しかった。

会場で購入した本、それにぼくが持っている新書

 というわけで、ぼくの日曜日はお祭り日。帰りはのんびりと府中市散歩。この公園から自宅までけっこうな距離はあるけれど、他の公園を通ったり、紅葉が映える池のふちを回ったり、1時間ほどかけて帰宅した。
 なかなか楽しい休日でしたよ。

 来年はコロナも終わって、もっと盛大なお祭りになることを願っています。

会場では、音楽や踊りも

こんな光景も

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。