第114回:ついに「緊急事態宣言」へ(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

冷たい反応

 先日、ぼくはこんなツイートをした。新型コロナウイルスへの政府の対策についてだ。

 現金給付は「自己申告制」だという。そうすると、申告窓口で「書類不備」で突き返されたり「虚偽申告」を疑われたりして、結局もらえない人が多数出てくるだろう。生活保護申請をしたことのある人なら誰にでも分かることだ。

 何気なく思ったことを書いただけだけれど、その反響はすごかった。なにしろ、2日間で「インプレッション」は115万を超え、「いいね」は1万2千をクリアしたのだ。いまだに増え続けている。
 以前の分を調べてみないと分からないけれど、ぼくのツイート史上では最速最大だと思う。なかなかみなさん、分かってくれていると思い、少し嬉しくなった。
 しかし、やっぱりいるんだなあ、わずかだけれど、ぼくのこのツイートに噛みついてくる人たち。いろんな理屈を並べ立てる。こんな具合だ。

◎厳しい審査するのは当たり前だ。必要のない人にもばらまいたら財源が足りない。
◎裏を返せば生活保護みたいに不正受給する人も多数出てくる。
◎不正受給は、震災のときとかでもかなりいた。
◎ナマポを不正受給していた芸人の例もある。不法滞在の外国人が虚偽申請する可能性も否定できない。身分証明書、源泉徴収票、給与明細書は必須。元々失業している人は、雇用保険を申請するのが道理。
◎生活保護と同じように、「なんでこいつが貰えるの?」ってのが必ず出てくる。日本人にはロクに還元されないのに、反日勢力にはドバドバ税金が流れる。

 まあ、反日勢力だとかナマポだとかは、相手にするのもバカらしいけれど、やはりおかしい。だいたいぼくは「必要のない人にもばらまけ」なんて言っていないしね。
 生活保護での不正受給を挙げている人もいるけれど、どのくらいの割合だか知っているのだろうか。全国厚生労働関係部局長会議で示された資料によると、全体の生活保護件数の中で不正受給とされたのは0.45%に過ぎない。これは厚労省の資料だ。
 0.45%とは言いながら、額にすれば169億円と大きな数字であることは間違いない。だからといって、最初から「不正」を疑って、厳しい審査で時間をかけるとなると、今日明日の食事代にも事欠くような人たちにとっては生き死にの問題になる。0.45%の不正者のために99.55%の人たちへの現金給付を遅らせろというのか。このリクツが弱者には冷たいと思うのだ。
 それに、アベノマスク(と揶揄されている)にかかる費用は200億円+郵送費だという。そっちのほうがよほど無駄遣いじゃないか。

「現金支給」の落とし穴

 さまざまな批判を浴びて、安倍政権が打ち出したのは「1世帯あたり30万円の現金支給」という案だ。けれども、これもなんだか怪しい。だって、支給に該当するのは約1千万世帯だという。日本の世帯数は約5800万。あとの4800万世帯はどうなるの? しかも、所得が50%程度減ってしまった世帯が対象なのだという。
 そりゃ「んな、はした金いらねえよ」と言うに違いない麻生太郎氏のような御方もいらっしゃるだろうが、少ない年金でカツカツの生活を強いられている高齢者世帯などは、急に所得が減ったわけではないから対象外。こんな政策が弱者救済になるのか。
 しかも、この1千万世帯だって、現金受給に至るまではさまざまな条件があり、それに伴う超煩雑な手続きが必要で、実際にいつになったら貰えるのかは予想もつかない。ある政府関係者は「支給は多分、5月ごろになるだろう」などと言っている。間に合うか!?
 どのような条件や手続きが必要か。東京新聞(4月4日付)が「現金給付のポイント」という記事で、内容をまとめてくれている。

◎個人ではなく世帯の支給。
◎新型コロナウィルスの感染拡大で収入が減っていることが条件。証明する書類提出が必要。
◎対象は全5800万世帯のうち約1000万世帯の見通し。
◎年収による所得制限は設けないが、減った後の月収が一定水準を上回る世帯は除外する。
◎給付による所得は非課税。
◎申請は市区町村が窓口。

 どうだろうか。疑問がいっぱい湧いてくる。まず「収入減」とは、いったいどの時期を比較した数値なのか。個人営業などの場合、そんな書類をすぐに用意できるものなのか。フリーランスのように仕事が不定期の人たちは、どんな書類を用意できるのか。
 それらを、市区町村の担当窓口に提出しても「書類不備」を指摘されるケースが多発するだろう。ことにフリーランスの場合は口約束等のみで、正式な契約書類を交わしていないことも多い。それでは、フリーランスはこの申告さえもできないということになる……。
 申請窓口での混乱やトラブルが多発するのは、目に見えているではないか。つまり、きちんとした制度設計をしないまま、思いつきで口走ってしまうといういつもの「安倍手法」が、大混乱を招いてしまうだろう。

「緊急事態宣言」に気をつけろ!

 そうこうするうちに、ついに安倍内閣は「緊急事態宣言」を出すことにした。例の「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」の成立に伴うものだ。東京や大阪など、大都市を中心にした都府県を対象にする。
 これはかなり危険な法律だ。住民へ不要不急の外出は避けるよう要請できるが、これには罰則はない。ただし、「私権の制限」という隠し爆弾が後ろに控えている。これを発動するのかしないのか、そこが安倍晋三氏の悲願の「改憲」につながるかどうかの見極めどころなのだ。
 新型コロナは絶対に押さえ込まなければならない。しかし、検査をまったく放棄した安倍政権の初期対応が今回の「非常事態」を招いたことは間違いない。それには「東京オリンピック」が足枷となっていたのだったし、明らかに政府の大失態だったのだ。
 ぼくの邪推(?)かもしれないが、あの「アンダーコントロール・オリンピック」さえなければ、いかにデタラメ連発の安倍政権にしても、ここまで検査を遅らせはしなかっただろうし、もし初期検査体制がきちんとしていれば、こんなひどい状況には陥らなかっただろう。むりやりの「オリンピック招致」が元凶だったと思うのだ。
 だからこそ、その失敗を逆に奇貨として「安倍改憲」を目論むことなど、どうあっても許してはならない。

 安倍首相には、ことが収まった段階で、新型ウイルスとともに静かに退場をお願いしたい。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。