第256回:『新篇 秋田音頭』(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 ぼくのふるさとの民謡に『秋田音頭』というのがある。なんとも陽気な(というより能天気な)歌である。ほとんどメロディはない。ただ景気のいい秋田弁が、まるでラップ・ミュージックのように次々に飛び出す。そう、これはジャパニーズ・ラップの草分けなのかもしれない。
 その歌詞をちょっとだけ思い出してみる。

ヤーットセー コラ秋田音頭です ハイ キッタカサッサ コイサッサ コイナー
(この掛け声が歌の前に入る)

いずれこれより御免な蒙り音頭の無駄を言う 当たり障りもあろうけれども さっさと出しかける

秋田名物 八森鰰(はたはた)男鹿で男鹿ぶりこ 能代春慶桧山納豆大館曲げ輪っぱ(のしろしゅんけいひやまなっとうおおだてまげわっぱ)

秋田の国では雨が降っても唐傘など要らぬ 手頃の蕗の葉さらっと差し掛けサッサと出て行かえ

秋田のおなごは何してきれえかと聞くだけ野暮だんす 小野小町の生まれ在所を おめさん知らねのげ

秋田名物コの字づくしをつまんで言うならば 坊ッコにガッコ傘コに小皿ッコ酢ッコに醤油ッコ
(注・秋田弁では小さな物にはなんでも「コ」をつける。ガッコとは漬物のこと)

ケーサツ来たたてショーボー来たたて おらだばおっかねくねえ ええごとしねどもわりいごとしねから でっきりおっかねくねえ

 これはほんの一部。こんな調子で延々続く。また、県内各地方でやや歌詞が違うのでバリエーションは多いし、酒席で興が乗って、適当な歌詞を即興で作ることもある。そのあたり、ラップと似ているのかもしれない。
 ちなみに、友川カズキの『変調秋田音頭』という、かなりエロティックな替え歌もあるけれど、ここに載せるにはちょっと憚られる…。

 上にあげた歌の最後のフレーズなどは、秋田弁不案内の方にはちょっと分かり難いだろうから、ぼくが意訳しよう。
〈警察が来ても消防が来ても、オレは怖くない。いいことはしないけれど、悪いこともしていないからまったく怖くない〉
 警察や消防が出てくる歌詞なのだから、民謡とは言ってもそんなに古いものではない。成立こそ江戸期らしいが、好き勝手に歌詞を追加していった結果、現存のようなものになった。明治大正昭和と、酒好きの酔っ払い秋田人たちが、その場その場で作って歌ったものがたくさん含まれている。このあたり、能天気な秋田人の面目躍如である。ぼくは詳しくないが『河内音頭』などとも共通点があるのかもしれない。

『秋田音頭』のリズムに乗せて

 最近、このコラムはやや堅苦しくなっているんじゃないか…との噂も聞こえてくる。まあ、ごく少数の読者のみなさんからの温かいアドヴァイスである。
 世の中が、戦争だ大地震だ新型コロナだ原発増設だ軍事費倍増だ増税だ少子化だ高齢者は集団自決だなんだかんだあーだこーだと、やたら暗い話題やニュースばっかりなのだから、コラムが堅苦しくなってしまうのも仕方ないけれど、たまにはぼくも秋田人らしく、能天気にやってみたくなったのだ。
 で、秋田音頭に乗せて、オラも歌ッコぶちかまそう!

国会名物数々あれど 座れば居眠り起きてりゃヤジで 官僚作文読むだけ答弁 それをメディアは野党の無力と(気楽なもんだ)

エライ議員さんだば なして臭えかと聞くだけ野暮だんす 汚職献金資金隠蔽 おめさん知らねのげ(まあなんにでも金の臭い…)

教会さんとは仲よく勝共 銭っこ要らねえボランティア 手頃な秘書さんさらりと派遣で さっさと当選だあ(信者の自民党議員秘書軍団)

議長はいちばん高いところで 声がでっきり届かねえらしく 統一教会セクハラ疑惑 何を訊いても「はあオラ知らね」(はい、あの方です)

原発もう一度爆発したって オラだの知ったこっちゃねえ どうせその頃あの世さいるから 仲間と酒盛りでぇ~(原子力ムラの村人たち)

原発休止は勘定に入れず それも延長にくっつける んだば国会で居眠り中は 議員任期の延長にするのか バカこくでねえ(すんげえリクツ)

2万円もらってカードっこ作り 何から何まで丸裸 ええことわりぃことみんなバレても 銭コにゃ代えられねえ(マイナンバーカードで2万円)

わらしッコ減ってもオラには関係ねえ それより何よりミサイル買って 頭なでられバイデンに尻尾振る(岸田氏)

オラにはとっくにわらしッコいるし 観光旅行でいい目も見せた あとはなんとして世襲させるか それだけ心配だぁ~(同岸田氏)

長州藩には殿様ござる その名は信千世お世継ぎでござる じばんかんばんかばんを持たせ 乳母日傘のお子ちゃま世襲(岸家の跡取り)

倍増倍増なんでも倍増 軍事費子ども費おまけに物価も倍増だ 足りねば丼勘定で国債発行 この世は天国いい湯だなぁ~(自民党さまの胸の内)

基地を増やしてミサイル配備 どうせ死ぬのは住民だべさ シェルター造って逃げ込む連中 戦争ごっこで日は暮れる(南西諸島にミサイル基地)

差別なんぞはしたことねえ LGBT何者だ? 隣にいたなら石でもぶつけ それでも差別はしたことねえぞとコケコッコー(岸田氏秘書官も杉田氏も岸田氏本人も)

ヤバいことだば言い換えろ 武器は装備品 輸出は移転 原発グリーントランスフォーメーション ああもうオラにはわけ分かめ(自民党語辞典)

風船めがけてミサイル撃って 撃墜したぜと大はしゃぎ んだばオラだもやらねばなんめえ 気球に聞いたらやめてけれ(米国追随、こんなことまで)

ミャンマー軍から勲章ッコ貰い どこさ飾るべ思案顔 血まみれだっても勲章は欲しい 撫でて嬉しやタローさん 次はロシアがくれるの待つか? (副総裁タロー)

次の質問どうぞのタロー 新バージョンは所管外 ブーメランだべ以前の動画 そんなの知らねえブロックすんべ 国民不在であっけらかん(別のタロー)

相手が撃つならこっちもやるべ 相手が石っこならこっちは刀 刀にゃ鉄砲で鉄砲なら大砲 銭ッコどぶに捨ててるようで 銭ッコなくなりゃお手上げだべさ(抑止論)

弾薬庫いつの間にやら全国乱立 オメエの家ッコの近所にも あぶねえお蔵が建設中 それでも安眠お気楽国民 そんなの関係ねえ(沖縄出身の小島さん、それでいい?)

狭い部屋から悲鳴がしても にやにや笑って大丈夫 医者にも見せない入管の これが日本の人権事情 「お・も・て・な・し」って何のこと(ウィシュマさんのビデオ)

学術会議にゃ情けは無用 銭ッコ出すから言うことば聞け 歴代会長が抗議をしても 菅も岸田も知らん顔 政治の下で自由な意見は潰される(政治の介入)

サンデーモーニングは潰しましょうと 政治家どもの悪だくみ 登場人物お馴染みメンバー 逆に「サンモニ」箔がつき(重要内部文書が流出)

捏造という時ゃたいがい本物 本物だったら辞めてやる 開き直りもデジャヴで 結局居座りネグレクト 安倍センセの真似ッコだ(高市サン)

はだしのゲンなど追放しちゃった広島県 原爆なかったんだと言いてえか 岸田のお膝元だし忖度だべな 核の怖さを忘れたか(広島の平和教材)

ゲンを隠したその次は 第5福竜丸も沈没させた しまいにゃ原爆ドームまで きれいさっぱり取り壊し すっきりしたいな岸田サン(同じく平和教材)

希望も願望も未来も夢も なんもねえのにG7 なにをエラそに議長国 女性の地位は最下位で 腹減り犯罪だけ激増 暗い世相にも春は来る……

 というところでとりあえず、お・し・ま・い……
 

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。