第169回:東京五輪、最終局面!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 「東京オリンピック・パラリンピック」は、最終局面を迎えたと言っていい。
 6月21日夕刻、開催までほぼ1カ月という時期になって、東京五輪・パラリンピック組織委員会、東京都、日本政府、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の「5者協議」が開かれ、「五輪の観客数上限を会場定員の50%以内で、最大1万人にする」と正式に決定された。さまざまな疑問や批判を無視する形で、この決定がなされたのだ。

 折から、五輪開催地の東京都での新型コロナ感染者数は、前週を超え始め、とても「減少傾向」とは言えない数値を示している。こんな状況の中で、菅義偉政権はなぜそんなに「有観客」にこだわるのか。
 しかも、7月23日のオリンピック開会式は、1万人を超えて2万人の観客を認める方向で検討しているという。つまり、正規の一般客以外に別枠で1万人程度の入場を認めるということだ。では、その1万人って誰だ?

 ぼくの親しい新聞記者の解説はこうだ。

 いかに組織委が海外からの来日客を制限しようとしても、「IOCマフィア」だけは別枠なんですね。
 彼らは最高級のホテルと最高級の食事、そして開会式や人気競技の貴賓席を要求しています。IOC関係者やその家族は、まさに貴族待遇です。彼らの最大の楽しみは、貴賓席で飲み食いしながら、開会式という特別式典を見ることなんです。
 もし、無観客となった場合、広い観客席にいるのは「IOC関係者+スポンサー枠」の人々のみになりますよね。それがTVなどで写し出された場合、まさに「オリンピックは誰のものか」という議論と批判が巻き起こるでしょう。誰もいない観客席の一角(貴賓席)だけがクローズアップされて、オリンピックという存在そのものに疑問が投げつけられるのは必至でしょう。
 IOCはそれだけは避けたい。そのためには、自分たち以外の観客がどうしても必要ということになります。そういうことですよ。

 なるほど、分かりやすい話だ。
 自分たちだけじゃ目立って仕方ない。他に観客がたくさんいればその陰に隠れられる。これぞ、忍法「木の葉隠れの術」、お前ら忍者か!
 日本人観客たちは、IOC委員やその家族たちの目くらましに使われるというわけなのか。バカバカしい。

 実は、今回のオリンピックに関しては、わずかだが、IOC関係者からも「日本へ行くのは控える」という声が出ているという。なにしろ、世界でも後ろから数えたほうが早いというワクチン接種後進国ニッポン。二の足を踏むのも分かる。
 さらには「このままでは参加を見直す」と表明したトップクラスの選手もかなりいると言われている。開催されれば、いやでも明らかになることだけれど。
 そうなれば「世界最高の競技大会」という看板が泣く。トップクラスが不参加となれば、日本選手がメダルに近づく。「やったっー! やりましたっ! 〇〇選手、金メダルです!」とのアナウンサーの絶叫が、すでに聞こえるような気がする。そんな金でも、ほしいですか? ま、それでも金は金か……。

 ウガンダ選手団が、20日にサポート・タウンである大阪府泉佐野市に到着した。ところが、9人の選手団のうち1人がPCR検査で陽性と判断された。
 たった9人のうちで1人の感染者。これが数百人単位(数千人の国もある)での来日となったら、と考えるとゾッとする。

 同様のことは、6月13日からブラジルで開かれている「コパ・アメリカ」(サッカー南米選手権)でも見られた。無観客で行われたにもかかわらず、選手やコーチら関係者に続々と感染が広まり、21日現在で140人の感染者が確認されている。現地では開催反対の声が強かったのに、サッカー連盟とブラジル政府が強引に開催した。
 なんだか「東京五輪」の小型版のようだ。オリンピックは「コパ・アメリカ」よりも数百倍の規模を持つスポーツの祭典だ。どうなると思う?

 6月18日、尾身茂政府分科会会長ら専門家有志は、「無観客が望ましいが、有観客でも厳しい規制を」との提言を行った。また尾崎治夫東京都医師会会長や大学医師会などは「無観客が前提。もし緊急事態になったら即座に無観客か、もしくは中止を」と、尾身氏らよりもさらに踏み込んだ提言を行っている。
 だが、菅政権は突っ走る。IOCからの圧力はもちろんだが、接種が思った以上に進んでいることから、これで五輪をうまく乗り切って秋の総選挙へ、という政治的思惑が優先しているのは誰の目にも明らかだ。

 川淵三郎氏、誰が決めたのか知らないが、いつの間にか「オリンピック選手村村長」になっていた。こんなに無定見な人物だとは知らなかったが、ずいぶんなニッポン・バンザイ派だったんだね。
 20日、選手村が報道陣に初公開されたが、その際にこんな挨拶をしていた。
 「国内の議論ばかりされ、国際的に開催を約束した立場での議論がされていない」とマスコミ批判。さらには「ともかくここまで来たんだから、日本の国力、信頼感、プライドを世界に示すためにもみなさんの力を貸してほしい」「日本の心意気を発信していけるようみなさんのご支援を」と訴えた。
 日本の心意気とかプライドとか、それこそ旧いスポーツ界の根性論。組織論はそれなりにお持ちだと思っていたが、やっぱりこういう人だったんだ。

 さらに、なんとも形容しがたいバカ・ニュースも飛び込んだ。
 なんと、競技会場での「酒類の販売は認める方針」というのだ。えっ? さすがに耳を疑った。まあ、オリンピックの正式スポンサーにはご存知のビール会社が名を連ねているので、そこへの組織委員会の忖度ではないかと言われている。
 もしそうだとしたら、この会社はそうとうイカレていると思う。だって、会場でその会社の名前が入ったビールサーバーを担いだ売り子さんが写ったら、例えば居酒屋店主などは激怒するだろう。「居酒屋はダメで五輪はOKかよ、バカ野郎! もうお前んところのビールなんか店に置かねえぞ!」となるだろうよ。それに気づかないような会社だとしたら、どうしようもないな。そうじゃないですか、アサヒビールさん。
 ぼくだって、もしこのまま競技会場でのビール販売が解禁だったら、もうアサヒは買わないだろうな。

 しかしもっと深読みすれば、これは、前出の新聞記者の分析に行き当たる。貴賓席でワイングラス片手に高級な食事を楽しむIOCマフィアやその家族などが写し出されたら、IOCに対する反感は最高度に達するだろう。それは困る。「いえいえ、一般のお客さんにもビールくらいは楽しんでいただいていますよ」というシチュエーションを、組織委としては作りたいんじゃないか。
 これも、一般客をだしにつかったIOCの策略なんじゃないかしら。ぼくは、この推測はかなり当たっていると思うよ。
(※その後、さすがに批判を受けて競技会場での酒類販売は断念したようだ)

 ともあれ、東京五輪は最終局面を迎えた……。
 「気分はもう戦争」(矢作俊彦、大友克洋)。
 いざ来い ニミッツ、マッカーサー、出てくりゃ地獄へ逆落とし……なんてね。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。