第8回:公助さん、出番です! 官民が協働したフードパントリーの報告@中野(小林美穂子)

 33℃近くまで気温が上がった7月17日の土曜日、東京都中野区鷺宮で中野区社会福祉協議会主催のフードパントリー(食料品配布)と相談会が開催された。

 新型コロナウイルス感染症の影響による休業や失業で生活困窮に陥り、中野区で社会福祉協議会(社協)の特例貸付(「緊急小口資金」と「総合支援資金」)を受けた人数は1万人を遥かに超える。そのうち、利用できる貸付のすべてを満額(200万)まで借り切った区民の数は2,800人だそうだ。
 この特例貸付、全国の支給累計額はなんと、目玉も飛び出る10,677.95億円(7月10日時点)。もともと数字に弱い私は、一兆なんてケタになると、もはや数字の読み方も分からない。「ものすごい額」という言葉で片づけそうになる、そんな額だが、それだけの生活資金を「貸付」しないと市民の生活が成り立たなくなっているオーマイゴッドぶりはタダゴトではない(そんな中でオリンピックだとよ……)。
 そして、「貸付」という名のとおり、これは市民が国から借りている借金。返済の必要が生じる。満額の200万円まで借りた人が返済する額はひと月2万円以上になる。
 「償還免除(返済免除)」の条件は非課税世帯であることなのだが、東京23区で暮らす単身世帯の場合、非課税の目安はなんと生活保護基準以下の年収100万円だ。
 月収15万円の派遣労働者や非正規労働者が、来年から月2万円以上の貸付を返済し、税金や年金を払い、家賃と光熱費、携帯代金を払ったら……生活することは難しい。
 この貸付は、短期であれば効力を発揮したのだが、長期になればなるほどにその人の未来を塞ぐことになる。むごいことである。
 しかし、なぜ、ここまで生活が困窮しても、生活保護を利用せずに貸付に頼るのか。

「ここに来ればお金がなくても食べられると」

 今年の4月に一年間休業していた「カフェ潮の路」をお弁当販売の形で再開した。すると、それまでの常連さんやご近所さんに加え、これまでには見なかった層の常連が増え始めた。練馬区の社協で紹介された、とやってくる彼らは「ここに来ればお金が無くてもお弁当がもらえると聞いた」と消え入りそうな声で言う。
 若い女性が多く、最近では専門学校に通う若い男性も混じるようになった。遠くから炎天下を歩いてきたのか、額から流れる汗を拭いながら、いつもあちこちの炊き出しに並んで食料を調達していると語った。
 若い人たちが食べるものにも困る状況は耐え難い。一旦でもいいから生活保護を利用して生活を立て直して欲しいと願うが、それぞれに事情があるのだろう、なかなか取り付く島を与えてはくれない。一人ひとりに名刺を渡し、必要であれば定期的に食料を送る旨を伝えるくらいしかできないのが歯がゆい。

 フードパントリーに訪れる人たちも同様だ。家賃や光熱費、税金、子どもの教育費などの支払いを優先すれば、切り詰めるのは食費。そこでフードパントリーを利用して生活の足しにしている。

自助も共助も限界だ!

 炊き出し現場も、しがない小さなカフェ潮の路も大変忙しく、日を追うごとに利用者数の記録を更新している。貸付でなんとか一時しのぎをしてきた人も、限度額まで借りた人が食べるに困る。来年、貸付の返済が開始されれば、更にものすごい数の人々がジワジワと真綿で首を締められるように追い詰められていく。出口のない砂漠のような日々をさまようことになる。オアシスは今のところ、どこにもない。
 多くの方々が生活困窮者に心を寄せてくださるおかげで、カフェ潮の路のお福わけ券(懐に余裕のある人が他の人の分も先払いするシステム)は現在潤沢にある。
 しかし、他の支援者から「電気もガスも水道も一年以上止められている人を保護した」などという声を聞くと、週一度のお弁当1個ではどうにもならない。命が懸かっている。
 人ひとりの生活基盤を整え、その後の日々を安定させるためには「公助」に登場してもらうしかないのだ。自助も、共助も限界だ。

中野区生活援護課長の参加

 そんなわけで、中野区社協主催のフードパントリーには、危機感を共有する官民が集結することとなった。私たち「つくろい東京ファンド」も生活相談チームとして混ぜていただいた。なんと、中野区の生活援護課の中村課長と一緒に!
 福祉事務所の現役職員がお忍びで民間の支援活動に参加することはたまにあっても、公務として参加するのはとても珍しく、私も初めての経験だ。
 ただ、団地内での開催ということもあり、また、フードパントリーを利用する方のほとんどが生活保護に強い忌避感をお持ちの方と感じているので、生活相談の希望者はほぼいないにちがいないと想像した私たちは、ならばせめて、その人のタイミングに合わせてお役に立てるよう、情報提供に力を入れようと資料を作成した。

 当日、打ち合わせ会場に現れた中村課長は、首から中野区の名札を下げていた。
 支援に届きにくい方、生活保護の敷居が高いと思っている方に情報を届けられたら」と挨拶をしたとおり、食料品が詰まった持ちきれないほどの大きなバッグの中に、「生活保護のてびき」が同封され、私たちが作った資料「生活保護Q&A」も直接配布された。


配布した食料品と生活保護制度の資料

 訪れる方々はほとんどが女性だった。食べ盛りの小さな子どもを自転車の後部座席に乗せた人も複数いらっしゃる。食料がギッシリ詰まった袋を渡されて歓声が上がる。
 その一人ひとりに資料を渡しながら、「今日は中野区の福祉事務所から職員も参加しています。福祉の制度で分からないことがありましたら、何でもお聞きくださいね」とお声かけをすると、3件の相談があった。

一兆円を超える貸付額は生活保護バッシングの「成果」

 中村課長と組んで生活相談に入ると、皆さんが生活保護利用者に対するネガティブなイメージをお持ちなのが改めて明確になる。そんなイメージが彼らを福祉事務所の窓口から遠ざけている。それもこれも、ぜんぶ一部の政治家(片山さつき他)が扇動した生活保護バッシングのせいだ。そして、乗っかって悪質なバッシング番組を作ったメディアよ、責任を取って欲しい。あなた達があの手この手でデマを流通させてくれたおかげで、必要な人に制度が届かない。人々に過剰な無理をさせている。
 その証拠が国の特例貸付(借金)の申請数2,543,274件(7月10日時点)に現れている。250万件!! 返せない借金を重ねさせている。どうしてくれるのだ。
 引き換え、生活保護の申請件数の増加率は去年から緩やかだ。バッシングを扇動した人、協力したメディアは一刻も早く、前言撤回をし、生活保護制度の利用を奨励して欲しい。それが大人の責任の取り方というものだ。

 「制度は社会に必要だから存在するのであり、利用されてこその制度だと思います。
 新型コロナウイルス感染症の影響下で、公的支援に対する偏見が解消され、誰もが利用に躊躇することのないような社会にしていきたいです」

 福祉事務所の「中の人」中村課長の言葉は当たり前すぎるのに沁みる。助けを求めて窓口にたどり着く人たちをあの手この手で追い散らす水際福祉事務所も見習ってほしい。
 不正受給の噂話も「ああ、それは都市伝説です」と穏やかな口調で否定し、「生活保護利用者の内訳は、半数以上の55.8%が高齢者世帯、障害や傷病者世帯が24.6%で大半を占めています。残りが皆さんのようにコロナ禍で一時的にお仕事を失ったり、収入が不安定になってしまった方々です」と説明する。
 世の中に行き渡ったデマを、福祉事務所の職員が否定することの圧倒的な説得力よ!! 怪しい民間の支援団体の私たちが言うのとは、意味合いが全然違う。

目の前の人のために官民知恵を絞る

 また、制度のはざまに落ち込んでいて、生活は苦しいのに使える制度がなくて悩んでいた方の相談では、私も中村課長も唸って考え、腕組みして考え、やはり何もないかと諦めかけたその時に、課長が相談者に向けた質問で突破口が突然開けて、「ああ、それなら!」と膝を打つような場面があった。
 お互いの立場を超えて、目の前の人のために持っている知識を総動員した結果である。自分の名刺を渡して、その後の支援に備える中村課長と不肖わたくし。制度を利用して、荒波を乗り切って欲しいと願いながら、相談者の背中を見送った。

 中野区で地域に深く入り込んで活動をする社協、中野区民の命と生活に責任のある福祉事務所、そして就労サポートの団体や、私たち民間の生活困窮者支援団体、そして寄付や食料を寄せてくださる区民の方々が、中野区の困窮問題は中野で解決するのだ、そんな決意を感じさせる猛暑の一日だった。
 福祉事務所とつくろい東京ファンド、立場が異なるために対立することも多々あるものの、同じ方向を見ていると信じたい。
 次回は8月後半。官民協働のフードパントリーは、引き続き中野区の各地域で開催される予定だ。他区にも拡がって欲しい取り組みである。

つくろい東京ファンドのメンバーと生活援護課の中村課長(右から2番目)

       

小林美穂子
1968年生まれ。一般社団法人「つくろい東京ファンド」メンバー。支援を受けた人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネーター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで就労。ホテル業(NZ、マレーシア)→事務機器営業(マレーシア)→工業系通訳(栃木)→学生(上海)を経て、生活困窮者支援という、ちょっと変わった経歴の持ち主。空気は読まない。共著に『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(岩波書店)。