第568回:「命を守る」ことを最優先にした政治を〜「命がけ」になってきている支援の現場。の巻(雨宮処凛)

 コロナ禍が始まって、もう一年半。

 最近、やっとワクチンを打った。

 といっても、私の住む自治体のワクチンはずいぶん前に供給ストップ。どこに問い合わせても「いつ再開されるかわからずキャンセル待ち予約もできない」という返事。

 困窮者支援の現場で対面相談を受ける機会もある私は、この一年半、ずーっと不安の中にいた。ともに活動する中には、すでに感染した人もいる。喘息など基礎疾患持ちの自分の身を守るためにも、ワクチン接種を受けたい。しかし、自治体は完全にアウト、職域接種も対象外。40代でフリーランスの自分はもう年内は無理だろうと諦めかけていた。

 しかし、知人に相談したところ、奇跡的にキャンセル枠が取れたではないか。そうして数日前、ファイザーのワクチン1回目を接種したというわけである。心配していた副反応は私の場合ほぼなく、腕の痛みと当日の眠気だけ。翌日は眠気もなく、腕の痛みもほとんど消えた。どのくらい痛みがなかったかというと、ヴィジュアル系バンドのライヴ映像を見ながら完璧に振り付けをできるほどだ。つまり、腕の痛みも違和感も翌日にはほぼなかったということである。

 さて、そんなワクチンだが、若者を対象にした東京・渋谷の接種会場で大混乱が起きたことは記憶に新しい。「若者はワクチンを忌避している」という何を根拠にしたのかわからない都市伝説に基づいて予約なしの接種会場を設けたところ希望者が殺到、初日は午前7時半に受付を終了したという件である。

 そんなふうに遅々としてワクチン接種が進まない中、この国では少し前まで連日2万人近くの新規感染者が出続け、10万人以上が今も「自宅療養」という名の自宅放置の中にいる。

 8月、私の友人も感染したのだが(現在は治った)、東京都の発熱センターに電話するもまったくつながらず、発熱外来の予約も取れずという状況が続いていた。結局、症状が出てから数日後にやっと検査を受けられて陽性が判明したのだが、友人が「自宅放置」されている間、「急変したら」と気が気じゃなかった。

 そんな8月下旬以来、支援の現場でも大変なことが起きている。

 私も属する「新型コロナ災害緊急アクション」には、連日「アパートを追い出された」「所持金が尽きて何日も食べていない」などのSOSメールが来ているが、そんな中、コロナ陽性が疑われる人からのSOSも届くようになったのだ。

 カプセルホテルやネットカフェに泊まっているものの、熱があり、味覚がないという状態だ。その上、住まいもなく所持金もない。

 SOSを受けた場合、都内であれば支援者が駆けつけ、その日の緊急宿泊費や緊急生活費を渡して後日、生活保護申請に同行するなどの流れになる。が、コロナ陽性が疑われる場合は駆けつけることはできない。

 一方、他の相談現場にも、発熱した状態の人が相談に訪れているという。まさに支援の現場は「命がけ」になってきたわけだが、これらのことを通して痛感したのは、住まいも保険証も所持金もない人の陽性が疑われた場合、彼ら彼女らがすみやかに検査を受けてホテルに隔離され、食事やお金の心配をせず療養する仕組みは何ひとつないということだ。

 コロナ禍が始まって一年半。この間、「路上やネットカフェにいる人が感染した場合」なんて、いくらだって想定できたし、その準備は当然、なされるべきだった。というか、なされていると思っていた。しかし、国は本気で本当に、何も準備していないようなのだ。

 支援者らは熱が出て苦しそうにしている人を路上に戻すわけにはいかない。よってなんとか部屋を確保したりと奮闘しているようだが、それだって限界がある。発熱している人が数人であればまだ対応できるが、これが数十人になった途端にアウトだ。だからこそ国や東京都はここに力を入れてほしいと切に思う。だって、これを放置していたら、路上やネットカフェでどんどんクラスターが発生するのは目に見えているではないか。

 一年半が経つのに、いまだワクチン接種は進まず、陽性が疑われてもスムーズに検査を受けることもままならず、救急要請しても東京都では6割が病院に搬送されず、自宅に放置されたまま亡くなる人が後を絶たないなど、すべてが機能不全を起こしているコロナ対策。その上、「公助」も民間任せ。なぜ、ボランティアの支援団体が命がけで陽性が疑われる人の対応をしなければならないのか。

 今の政治は、「最低限、命は守る」という姿勢すら放棄しているように見えて仕方ない。このままでは、コロナ陽性者が路上やネットカフェで命を落とす事態にだってなりかねない。「自宅療養」ができない自宅のない人の場合、「路上療養」とか言い出しかねない気がするのは私だけではないだろう。

 そうしてこの夏、路上に出てきた人たちは目に見えて増えた。どことは言わないが、ある駅周辺に、夏以前はいなかった人たちが大勢寝ていて、その多くが「路上に出たばかり」とわかる人たちだ。

 このような人たちが感染した場合、どこに行けば、どこに連絡すればいいですか?

 ただそれだけの質問に、この国は答えられないようである。

 そんな状況の中、菅首相は突然の退陣表明。そうして自民党内は総裁選を前にして混乱の渦中だが、その間にも、多くの命が脅かされている。

 頼むから、一刻も早く「命を守る」ことを最優先にした政治が行われてほしい。

       

雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。格差・貧困問題、脱原発運動にも取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『ロスジェネのすべて』(あけび書房)、『相模原事件裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』(太田出版)。「反貧困ネットワーク」世話人、「週刊金曜日」編集委員、フリーター全般労働組合組合員。