第11回:思考停止か嫌がらせか? 運用変更後も扶養照会をしたがる福祉事務所の闇。(小林美穂子)

 実に一年半ぶりに、夜道を自転車こいで映画館に出かけた。

 目当ては福祉関係者の間で話題となっている松竹映画『護られなかった者たちへ』

 過去にこれほどまでに真っ向から生活保護を扱ったメジャーな映画があっただろうか。大スクリーンで有名俳優たちの口から「生活保護」「扶養照会」「権利」という言葉がぽんぽん出てくることに驚きを禁じ得ない。

 日頃、私が生活保護の申請同行時に目の当たりにしている光景がスクリーンで展開される。働くことができない人が相談窓口でやんわり断られて帰される、優しく話は聞いてもらっても申請には至らず「あの人たち(福祉事務所職員)はいい人なのか悪人なのか」とキツネにつままれたような表情で仮設住宅暮らしを続ける老人、餓死寸前のような切迫した困窮状態にあっても、「これまでひとりで頑張って生きてきた、世間様の迷惑になりたくない」と、生活保護の利用をためらう人…。この国の人々にべったりとこびりついてしまった呪いの深さと(呪いをかけたのは誰だろう?)、福祉事務所の非情がリアルに描かれていて、普段からそんな世界にいる私としては観ているのが辛く、何度も足を組み直したり、靴を脱いで膝を抱えたりとモゾモゾしながら目の前の光景に耐えていた。

 仕事の関係上、生活保護に目がいきがちだが、東日本大震災の津波や原発の被害を受けなかった私達と、被害を受けた人たちとの間にあまりに大きな乖離があることも自覚させられた映画だった。

 細かく申せば、制度や実務に関して疑問に感じたり「それは違うのでは」という点もあったものの、とにかく多くの人に見てほしいと思う映画だった。

 さて、映画でも重要なポイントとなっていた「扶養照会」の話をしよう。

4月から運用が変わった扶養照会

 絶対に変わらないと誰もが思っていた生活保護申請にともなう扶養照会(親族に援助の可否を問う通知)は、今年2月26日に厚生労働省(以下厚労省)から通知が出て、内容が一部変更された。

 それでも十分ではないと働きかけ続けた結果、3月末、厚労省は福祉事務所職員の実務マニュアルである「生活保護手帳別冊問答集」の記載を変更する、という通知を新たに発出し、4月1日からの運用開始となった。

 その内容は、生活保護を申請する人の意向を尊重する方向性を明らかにし、本人が扶養照会を拒む場合には、「扶養義務履行が期待できない場合」に当たる事情がないかを特に丁寧に聞き取る、という運用を求めるもので、これまでは、一も二もなく問答無用で扶養照会がされていたのが、4月からは申請者が「扶養照会されたくない」という意思を明確にし、一人ひとりの親族への「扶養照会をすることが適切でない」あるいは「援助を期待できない」ことを説明すれば実質的に止められることになった。

 親族からDVや暴力被害を受けていた場合、従来までは「照会しなくて良い」程度のふんわりしたものだったのが、2月26日付けの通知より「してはならない」と禁止項目になった(遅すぎるくらいだが)。

 厚労省からお達しがあった。しかし、それで「めでたし、めでたし」とはならないのが福祉事務所の一筋縄ではいかないところ。運用変更を知らないまま今後も従来通りの運用をする職員も下手すると大勢いそうだし、知っていても追い払う口実、あるいはちっぽけな自分を大きく見せつけるためのツールとして扶養照会を使うサディスティックな職員や組織も確かに存在しているからだ、悲しいことに。

メリットは申請者だけでなく職員にも

 そこで、第5回コラムでもお伝えしているが、つくろい東京ファンドと生活保護問題対策全国会議で、問答集に書かれた項目を表にした申出書&添付シートを作成したわけだ。これさえあれば、扶養照会拒否の意思が明確になり、しかも「扶養照会をすることが適切でない」あるいは「援助を期待できない」ことが一目瞭然という、福祉事務所の職員たちに感謝されてしかるべきスグレモノだ。

 実際に、まともな職員さん数人から「助かります」と喜ばれ、生活保護申請用紙の親族欄も「記入しなくていいですよ」と気を遣ってくださるケースが2か所の福祉事務所であった。

 こうしたケースワーカーの対応の効果は絶大で、身を固くしていた相談者がホッとして緩む。申請者のケースワーカーに対する信頼が生まれる瞬間を見る思いだ。

 「頼れるものなら最初から頼ってますよ。頼れないから来てるのに」

 そう言う申請者に対して、「生活保護は税金なので」とか「決まりですから」などと、すでに尊厳を削られ尽くした相談者に負い目を負わせるようなマウンティングをしたり、聞く耳をもたない職員は、相談者と信頼関係を築けない。その後も良いケースワークなんてできる筈もない。スタートラインで関係は決裂しているのだから。

 この申出書&添付シートを提出した場合、私が同行したケースでは、今のところ100%扶養照会は止められている。しかし、地方だったり、単独申請だったりした場合はどうかと問われれば、残念なお知らせをしなくてはならなくなる。

それでも照会したい職員がいるナゾ

 長引くコロナ不況により、生活困窮する人が爆発的に増え、生活保護の申請件数はそれほど増えなかったが、社会福祉協議会の貸付件数は10月16日時点で累計2,889,059件、貸付総額は1兆2千億円を超えている。これだけの人がこれだけの額を国から借金しないと生きていけないご時世だ。ウィズコロナが実現したとて、返済はできるのだろうか? できなかった時、彼らは生活保護を利用してくれるだろうか?

 生活保護制度に対して負のイメージを持つ人たちが少しでも利用しやすいようにしなくては、この国は大勢の命を失うことになるだろう。かけがえのない命を守るためにも、まずは生活保護利用を阻む最大要因である扶養照会を、実質されなくても済む方向に変更してくれた厚労省には感謝である。

 なのに、なんで窓口となる福祉事務所の職員が従わないわけ?

 福祉事務所の職員は厚労省よりエライんか! 申出書出して、これ以上ないくらい意思表明してるじゃん、なんで扶養照会しようとするわけ? 支援者の同行がないと「扶養照会する」って、第三者が見てないところで弱い者イジメか? だから福祉事務所はブラックボックスって言われるんですよ。最後のセーフティネットを張って、市民の命と生活を守るべきあなた方は、映画の中でも悪者扱いされてるんですよ。悪者イメージ定着しちゃっているんですよ。それもこれも、利用者を餓死させたり、助けを求めてやってきた人を巧妙に笑顔で追い返したり、尊厳を踏みにじったり、組織のトップ(厚労省ね)から「しなくてもいい」と言われた扶養照会を強行したり、そんな嫌がらせとしか考えられないようなことしてるからですよ。

 そういう人たちはね、最後のセーフティネットを任された福祉事務所職員でありながら、目の前の命を見捨てているのはいうまでもなく、相談者の生活や健康を守ろうとする志ある職員たちにも迷惑かけてるんですよ。辞めていただきたい! 辞めないんならアップデート、アップデートプリーズ! ナウ!

 つい、怒りを爆発させてしまった。しかし、私が怒っているのにはそれなりの訳がある。

「扶養照会されるなら、申請を取り下げるつもりです」

 扶養照会の運用が変わって半年。

 つくろい東京ファンドには、申出書&添付シートを提出したにもかかわらず「扶養照会をすると言われた!」というSOSメールがこれまでに5件届いている。

 中には「(扶養照会をすることが)条例で決まっている」と虚偽の説明をしている自治体もあり、台東区も真っ青だ。台東区について気になったら『コロナ禍の東京を駆ける』を読んでね。

 悪質なのは、行政書士が同行した際には「ご事情は理解したので扶養照会はしない」と約束しておきながら、同行者不在の家庭訪問時に「やっぱり決まりなので」というケースだ。そんなことしてると地獄に行ったときに舌が何枚あっても足りないぞ、コラ。閻魔様の牛タン祭りかよ。牛じゃないか。牛はそもそも嘘つかないし。もう、タンはいいから、ほんと、やめて!!

 各地からSOSが届くと、私はすぐに詳しいお話を伺い、了承を得た上で福祉事務所に電話をかける。

 「貴自治体が生活保護手帳別冊問答集を無視してまで扶養照会をするというのは、なにか特別な信念がおありか?」「個人的判断か、組織的方針か?」などと慇懃にお聞きすると、担当ケースワーカーはゴニョゴニョとどっちつかずのあやふやな返答をしたあとで、数日間のうちには相談者に「扶養照会はしません」とか「一旦保留」の電話をかけてくれる。

 5件中4件はそうやって止められたのだが、1件は部分的に強行されてしまった。私達が同行できていればと今でも悔やまれるが、なにしろ遠方だった。そして、ケースワーカーとのやり取りで相談者の心が折れてしまった。相談者には抗う力が残っておらず、私が知った時には照会を承諾したあとだった。相談者の心情を考えると、悔しくて悔しくて、無念で仕方がない。

福祉課は弱い者イジメ課なのか?

 最後のセーフティネットを頼りに窓口にやってきた人たちは、刀折れ矢尽きた状態にある。自分の力でなんとか乗り切ろうと爪に火を点してやってきたが限界はとうに超えた。

 小さな子どもがひもじい思いをするのに耐えかねて、ようやく窓口にたどり着く人もいる。家族の形は一つとして同じものがなく、それぞれ事情はさまざま。事情がなくても、制度利用を親族に知られたくないと思うのは、恥の文化の下地の上に生活保護バッシングや自己責任論をこってり塗り重ねたこの国では、至極あたりまえのことである。

 扶養照会の運用が変更されたのだ。それなのに、なぜ福祉事務所は誰もが嫌がる照会をしたがるのかと、眉間にシワを寄せて憂いていたら、そのシワを深彫りするニュースが飛び込んできた。

 「生活保護世帯数が15%減 生駒市、庁内連携の成果と説明 市民団体は申請権の侵害ないか懸念」(ニュース奈良の声 2021年10月7日)

 コロナ禍で人々が生活に苦しんだ2020年に、生活保護利用者を15%も減らしたと言って自慢しているのだ。呆れ果てて悪口も引っ込むほどだ。言葉を失う。

 利用者が減った要因は、生活保護の相談に来た人を自立支援事業に誘導したり(申請権の侵害疑いあり)、ハローワークと連携して就労に結び付けたり(水際作戦)しているのだが、扶養照会が最も効果的だったのではないかと想像する。

 「今までは申請が出てから文書で扶養義務者に扶養照会を行っていたが、相談に来られた段階で、その扶養義務者、特に親や兄弟など、家族に一度相談してという働きかけもして、場合によってはその方たちも2回目、3回目の相談のときに同席してもらい、皆さんで支援をしながら生活を自立させていくということもしているby生駒市」

 これ、公権力の濫用じゃないですか? 暴力だとすら思うのは私だけですかね?

 生活保護を利用すべき低所得者の中で、実際に利用しているのはたったの2割。諸外国と比較しても極端に低いこの捕捉率は、国連からも注意勧告を受けている。それなのに、更に相談者や親族にプレッシャーかけて、利用者減らして得意げな自治体が存在している。

 なんて恥ずかしいんだろう。生活保護利用が恥なのではなく、こういう自治体が存在することこそが恥だ。

みんなの生活保護、そして扶養照会は撤廃一択!

 コロナ下でシフトを減らされて減収したり、仕事を失ったり、体調を崩して働けない、そんな人は是非、生活保護制度を利用して欲しい。ちゃんと食事をして、安心して体を休めて、生活と健康を立て直して欲しい。もしも制度利用に扶養照会がハードルとなっているなら、以下の申出書と添付シートを印刷して記入の上、窓口に提出して欲しい。そして、それでもなお、親族に知らせると言われた時は、すぐに私達に連絡して欲しい。照会を止めるべく、全力でお手伝いしますから。

 最後に、ある福祉事務所の課長が語った言葉を。

 「制度は必要とされるから作られ、使ってもらわなきゃ意味がない」

 私たちみんなの生活保護です! 生活に困ったら、今こそ、制度を利用しましょう。

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〇扶養照会を止めるための申出書&添付シート
https://tsukuroi.tokyo/2021/04/20/1551/

〇質問や問い合わせは……
「つくろい東京ファンド」 info@tsukuroi.tokyo

       

小林美穂子
1968年生まれ。一般社団法人「つくろい東京ファンド」メンバー。支援を受けた人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネーター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで就労。ホテル業(NZ、マレーシア)→事務機器営業(マレーシア)→工業系通訳(栃木)→学生(上海)を経て、生活困窮者支援という、ちょっと変わった経歴の持ち主。空気は読まない。共著に『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(岩波書店)。