第5回:朗報! 生活保護申請にともなう扶養照会は止められる!(小林美穂子)

 生活保護申請にともない、申請者の親族に援助の可否を問う「扶養照会」がいかに百害あって一利なしかは過去にマガジン9への寄稿記事「百害あって一利なし、生活保護申請に伴うムダ作業『扶養照会』の弊害」で書いた。

 扶養照会は、申請者を泣かせ、申請者の家族を泣かせ、そして照会をかける側の良心的な福祉事務所職員も泣かせる。照会のための膨大な労力は福祉事務所職員を苦しめ、その発送にかかる切手代は税金だ。ゆえに国民も泣かす。こんな、関わる者みな満遍なく不幸にするルールが存続していいわけがない。
 その上、こんな迷惑千番なルールがあるおかげで、生活困窮しているのに生活保護制度につながれないでいる人が山のように出ている事実が事態の深刻さ、扶養照会の極悪さを物語る。長引くコロナの影響でこれまでとは桁違いに生活困窮する人が増える中で、生活保護制度を使いやすくするためには、まずは扶養照会のハードルをなんとかしなければ。

生活保護申請が国民の権利(by厚労省)というのなら

 私たち「つくろい東京ファンド」が大人食堂で集めたアンケートでは、炊き出しに並ぶほどに生活が困窮しているにもかかわらず、8割の方が生活保護を利用していなかった。その最大の理由が生活保護申請を親族に知られる「扶養照会」だったことから、私たちはそのアンケート結果に加え、扶養照会の抜本的見直しを求める署名を集め、また、扶養照会に関わったことのある方々(被保護者、親族、福祉事務所職員)から体験談を募集して、2月8日、3月17日の二度に渡り、厚生労働省に申し入れをした。
 その結果(かどうか知らないが)、厚生労働省は本年3月30日付で「『生活保護問答集について』の一部改正について」と題する事務連絡を発出した。(本年4月1日施行)

扶養照会新ルールの、なにが変わった?

 一番大きな改善は、これまでほとんど尊重されなかった「申請者の意思」が尊重されるようになった点だ。まだ完璧ではないものの、大きな前進といえる。
 「要保護者が(扶養照会を)拒んでいる場合等においては、その理由について特に丁寧に聞き取りを行い、照会の対象となる扶養義務者が『扶養義務履行が期待できない者』に該当するか否かという観点から検討を行うべきである」としたのである。
 つまり、本人が「親族に知られるのがイヤ」って言っているのなら、その気持ちを尊重しなさいよ。そして丁寧に丁寧に聴き取りをして、親族たちに援助を期待できない理由をしっかり探すこと。(そして扶養照会を止めてね……)ということです。括弧内はちょっと意訳かもしれないが、そんな意訳もできるような、含みを持たせる文言なのだ。
 厚労省の担当者は、扶養照会があまりに時代とも、現代の国民の経済状況ともかけ離れている現実、そして今後国民が直面するであろう厳しい暮らしを憂慮し、敏速かつ大きな改善に踏み切ったのだと想像する。

どこまで親族に責任を負わせるのか?

 生活保護申請時に申請者の親族に援助の可否を問う扶養照会。その「親族」が親だけだと思ったら大間違い。なんとびっくり、三親等が対象なのだ。ガッデム!
 「三親等」なんて語彙を人生でほぼ使ってこなかった私は、頭の中で確認しながら言わないと「三頭身」と言い間違える。「ガッデム!」と、勢いで中指立ててみたけれど、実際「三親等」がどこまでの血筋を定めているのか考えてみると、私のボンヤリした頭の中でファミリーツリーが揺れ始めておぼろげになるので、以下にまとめる。

《生活保持義務関係》

婚姻関係にある配偶者、中学3年以下の子に対する親(離婚した元配偶者)

《生活扶助義務関係》

父、母、子、祖父、祖母、孫、兄弟、姉妹

《相対的扶養義務者》

おじ、おば、甥、姪

 福祉事務所の実務でも《生活保持義務関係者》の場合は、重点的扶養能力調査対象とされ、特に厳しく追及されるため、夫婦間での暴力被害などがあった場合は、扶養照会が大きな障壁になるだろう。
 《生活扶助義務関係》になると重点度合いは低くなるものの、しっかり照会されてしまう。
 これまでの私の経験上、おじおば、姪甥にまで照会を送ろうとしたケースは一件しかない。父親のネグレクトでおばに育てられたものの「高校まで」という期限付きだったので、卒業と同時に上京した若い男性のケースだった。このように、おじやおばが事実上の育ての親であるとか、裕福で金銭援助を受けていた経歴がある場合だと照会される可能性があるが、例外中の例外(※)だと思ってもらってよい。

 問題は、婚姻関係にある配偶者、中学3年以下の子に対する親(離婚した元配偶者)、父、母、子、祖父、祖母、孫、兄弟、姉妹である。書いてて「バカじゃないの?」と悪態もつきたくなるほどにその範囲は広い。

※民法877条2項によると、おじ、おば、甥、姪が相対的扶養義務者に該当するかどうかは、家庭裁判所の審判等によって定められる。福祉事務所の判断のみで扶養照会をすることは法的にみても違法である

福祉事務所職員は扶養照会が好きなのか?

 旧ルールでも、DVがあったり、扶養義務のある親族と20年以上音信不通だったりする場合(東京都の独自ルールでは10年)や、親族が70歳以上の高齢者である場合などは扶養照会をしなくてもよいと定められていた。
 しかし、実際はどうだったか。
 コロナ禍の一年間、連日のように生活保護申請の同行をしていた私自身が目撃した、印象に残ったケースを紹介しよう。

●申請者は父親による暴力にさらされ、幼い頃から児童養護施設で育った。母親は誰だかも知らない。反社会的組織組員だった父親(現在推定90歳オーバー)には一度も育てられたことはなく、50年以上会っていないがゆえに生存も消息も分からない。
【福祉事務所対応】
「(父親への扶養照会を)規則なんで私の一存では止められない」
結果的にはしなかったかもれないが、申請者に対しては明言を避け続けた。

●申請者は若い男性。シングルマザーに育てられ学校を卒業したものの仕事が続かず、しっかり者の姉夫婦の家に一年間居候した挙句、不仲になって着の身着のままで飛び出してきた。DV被害があるわけでもないし、母親も若いため扶養照会をしなければならないという福祉事務所。母親も生活に余裕はないため、申請者にはあらかじめ母親に電話をしてもらい、扶養照会通知が届いても驚かないように、そして「援助は無理」と答えてもらうよう説得したが、母親に泣かれた申請者は苦しそうだった。
【福祉事務所対応】
ケースワーカーは、結局母親には扶養照会をしなかったのだが、姉にはしてしまった。不仲になっている姉には何の連絡もしていなかったため、通知を見てショックを受け、激昂した姉は申請者を罵倒。後日、ケースワーカーをとがめると、「しないで欲しいって言われなかったから」という呆れた返事。生活歴やこれまでの経緯の聴き取りで、姉の家を出てきた経緯だって話してあったのになんという言い草か。

●若い女性の申請者の扶養照会をすべきか止めるべきか、担当の女性相談員が悩んでいた。どんなに聴き取っても母親による暴力はない、ネグレクトはありそうだけど認定するのが難しい、なにより母親に経済力がそこそこありそうだ……。
しかし、私は申請者の女性からそれまでに家族の話をたくさん聞いていたので、隣にいる申請者に聞いた。
「今、目の前にお母さんが現れたら、どう思う? どうする?」
間髪入れずに彼女が「殺す、すぐ殺す」と美しい目を険しくして答えた。
【福祉事務所対応】
扶養照会はされなかったが、「照会されたくない」という意思表示だけではどうにも判断しにくかったケース。

●申請者は60代男性。10年以上連絡を取っていないと何度も主張するにもかかわらず、「あなたに何かがあった時に困る。たとえば最悪、お亡くなりになった時とか」と扶養照会を止めることになかなか同意してくれなかった。申請者は家族のことを何一つ話したがらず、福祉事務所側も止める根拠を見つけることができなかったのだ。
「死んだら、無縁仏になった方がいいですよ。自分の骨なんて、その辺に撒いてください」。そう彼は言ったが、扶養照会がされたか止めてくれたかは確認していない。

●風呂なし・トイレ共同、エアコンもない廃屋のような古いアパートで、冬はすきま風で室温が零下になる部屋に何十年も住みながら、必死にアルバイトなどで凌いできた60代男性。礼儀正しく丁寧で、声は聴き取れないほどに小さい。そんな彼が、仲のよい姉には連絡してもいいが、兄にはやめて欲しいと何度も何度も懇願。「絶対に援助はしてくれません」「不仲です」「親の葬儀でも兄には近寄らなかった」と再三言っても、それはどうしてなのかと聞かれ続け、最終的に申請者は身を固くして「子どもの頃からずっと……いじめられていたから」うつむいて絞り出すように言った。
【福祉事務所対応】
扶養照会はしなかったと推察する。それでもしていたら、許せない。

扶養照会をしたがる福祉事務所の言い分

 扶養照会にまつわる体験を紹介していると、私は相談者のとなりで感じた悲しさを再び追体験してしまって顔がゆがむ。相談者のお気持ちは私の比ではない。

 労力と時間をかけて扶養照会をしたところで、援助実績は都市部で0%も珍しくないし、全国平均でも1.45%というありさまな上、これだけ申請者も家族も苦しめるのが分かっていながら、なぜこんな不毛な作業を続けるのかと福祉事務所側に問うと、すごく悩みながら「扶養照会も悪いことばかりではなくて、たまに生き別れになった家族の消息が分かったって喜ぶ親族もいるんです」という回答が複数あった。
 「たまにってどれくらいですか?」と聞くと、「ものすごく稀にです」
 「ものすごく稀」なハッピーケースに比べ、申請者の意思を無視した尊厳の粉砕、トラウマ蒸し返し、取り返しのつかない家族崩壊、税金の無駄遣いはどうなんでしょうね? という追い打ちはかけない。私は見た目と違って優しいので。
 代わりに「家族との絆を結びなおすのは、別に申請時に、まるで生活保護の条件であるかのように、役所から、実質上強制的に、されなくてもいいんじゃないですかね? 生活が安定してから、本人が自分の意思で連絡取ればいいのでは?」とお答えする。

お上に怒られる

 また、「厚労省とか東京都が定期的に行う監査の時に怒られるんですよ。何で扶養照会しないんだー!って」というコメントもあちこちで聞く。
 良かったですね、福祉事務所の皆さん!
 このたび、その厚労省から新ルールが通達され、生活保護手帳別冊問答集にも書き込まれることになったから、これからは怒られたりしませんよ。お墨付き♥(*´▽`*)。
 これからは良心に従い、申請者の意思を尊重しながら、扶養照会を止める方向で尽力できます。相談者との信頼関係も格段に築きやすくなりますね。おめでとうございます。
 厚労省のお墨付きを得て、今こそ目覚めよ、福祉事務所の良心! 思い出せ、存在意義!
 それでも申請者の意思に反して扶養照会を断行したいという職員は、完全に弱っている相手に職権ふりかざしてイジメ、嫌がらせをして満足するタイプの悪代官野郎、あるいは嫌がらせをして窓口に助けを求めた人を追い払いたい人で、そういう人はパソナに転職相談でもしたらいいと思う。福祉事務所によっては常駐しているでしょ?(※)

※福祉事務所によっては、就労支援などをパソナなどの派遣会社に外部委託している

要保護者の意向を尊重せよ、という新ルール

 最後になったが、今回適用されることになった扶養義務の取り扱い改正内容は以下の通りである。親族が以下に合致する場合、福祉事務所は扶養照会をしなくてもよい。

■暴力や虐待を受けたことがある場合(これに関しては扶養照会はしてはいけない)
■10年以上音信不通である
■しばらくは仕送りを受けるなどの援助を受けていたが、これ以上の援助は無理な場合
■親族の年齢がだいたい70歳以上、あるいは未成年である
■親族が生活保護受給中であったり、障害があったり、働いていないこと(家庭の主婦など)
■親族が長期入院している、あるいは社会福祉施設入所者である
■この親族と相続トラブルがある
■経済的援助が見込めないこと
■暴力や虐待はなくても、この親族に扶養を求めることが、明らかに自分によって有害である場合

 上記を福祉事務所窓口で根掘り葉掘り聞かれたり、疑われたりするのは弱っている身には辛すぎる。なので、これさえあらかじめ記入しておけば、自分の意思や親族との状況がたちどころに分かり、しかも扶養照会を止めてもよい法的根拠まで分かるという、申請者にも福祉事務所にも役に立つ申出書と添付書類を、私たちつくろい東京ファンドは生活保護対策全国会議の皆さんと作成したので、是非、活用していただきたい。

●扶養照会に関する申出書:PDFはこちら
●扶養照会に関する申出書添付シート:PDFはこちら

 上記2枚をプリントアウトし、自分の意思をしっかり伝えよう。念のため、コピーも取って、控えとして保管しておこう。

 本年4月1日より、扶養照会は止められる。止めましょう! そして、生活に困ったら、遠慮なく生活保護制度を利用して、立て直しましょう。そのために、私たちのためにある制度です。

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小林美穂子
1968年生まれ。一般社団法人「つくろい東京ファンド」メンバー。支援を受けた人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネーター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで就労。ホテル業(NZ、マレーシア)→事務機器営業(マレーシア)→工業系通訳(栃木)→学生(上海)を経て、生活困窮者支援という、ちょっと変わった経歴の持ち主。空気は読まない。共著に『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(岩波書店)。