2021年10月20日
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マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

『MINAMATA ミナマタ』(2020年アメリカ/アンドリュー・レヴィタス監督)

漆黒の闇の中に浮かぶ母と娘の入浴シーン。母は浴槽に胸まで浸かり、娘を抱いている。娘の体は硬直してまっすぐで、目は虚空をさまよっている。母は慈愛に満ちたまなざしをその娘に注ぐ。傷ついたイエスを聖母マリアが抱くミケランジェロのピエタ...

『山城知佳子 リフレーミング』(東京都写真美術館)

会場の外は白い。モニターの中の映像では、フェンスの前で女性がソフトクリームを舐めまわしている。自動ドアで会場の中に入ると、暗い。その対比が沖縄の陽射しとガマ(洞窟)の闇を連想させた。『山城知佳子 リフレーミング』は、地元沖縄を題…

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤亜紗著/光文社新書)

著者が全盲の木下路徳さんに、いま・ここにはないものや場所について頭の中で視覚的に思い浮かべること=想像力について話したときのことだ。小学校の時に弱視学級に学び、後に失明した木下さんはこう言ったという。「なるほど、そっちの見える世…

『我らが願いは戦争』(チャン・ガンミョン著・小西直子訳/新泉社)

10年以上前、中朝ロ国境地域を移動し、中国延辺朝鮮族自治州の州都、延吉市を訪れた際、当地を拠点に貿易を営んでいるビジネスマンに、「南北朝鮮は統一すると思いますか?」と聞いたことがある。朝鮮語が堪能で、北朝鮮からの魚介類の輸入にも取…

『極上のおひとり死』(松原惇子著/SB新書)

シングル女性の自分らしい人生とその最期の迎え方を考え、実践することをライフワークとしてきた著者の新作である。ひとりとは自由であること――著者は折に触れて語るが、それは寂しさや不安を抱えることでもある。双方を理解した上で、著者はひ…

『模倣の罠 自由主義の没落』(イワン・クラステフ、スティーヴン・ ホームズ著/中央公論新社)

アメリカは長きにわたって世界のアメリカ化――自由主義的な秩序の構築――を進めようとしてきた。その遂行のためには武力の行使も辞さなかった。ところが、自由と民主主義の伝道師としての役割は割に合わない、むしろマイナスだ、という大統領が…

『不安ウーマン~医療的ケア児のシングルマザー 明日を生きていくために~』(福満美穂子著/ぶどう社)

寝たきりでてんかん発作や重度の知的障がいがある娘を、著者はピョンちゃんと呼ぶ。かつての人気漫画『ど根性ガエル』の主人公ひろしのTシャツに張り付いたカエルのピョン吉になぞらえた。2人は一心同体という思いを込めた呼び名で、前著『重症...

『へんしんっ!』(2020年日本/石田智哉監督)

見ていて、いろんなもの──常識とか、自分のものの見方とか──を揺さぶられる映画だ。  監督の石田智哉さんは大学で映像制作を学び、現在は大学院生。映画の前半では、電動車椅子ユーザーである石田さんが、全盲の俳優、ろう者のパフォーマーな...

『海辺の彼女たち』(2020年日本=ベトナム/藤元明緒監督)

もう十数年前の話だが、仕事で南アジアの小さな村に滞在したことがある。小学生くらいの男の子が、「親戚のおじさんが日本で働いたことがあるよ。僕も大きくなったら日本に働きに行くつもりなんだ」と人懐こく話しかけてきた。笑顔の彼と話してい…

『すばらしき世界』(2021年日本/西川美和監督)

西川美和監督の作品は、普段は眠っている、あるいは蓋をしている感情を静かに呼び覚ます。私たちは心を揺さぶられ、困惑する。それらはときに自分では見たくないものだったりするからだ。本作品の主人公は殺人の罪を犯し、刑務所を満期釈放となっ…