第103回:スマホ投資詐欺にご用心(森永卓郎)

 STV札幌テレビ放送が2023年11月に次のようなニュースを伝えた。
「北広島市に住む70代の男性が現金200万円をだまし取られる特殊詐欺事件が発生しました。警察によると今年10月中旬、男性がインスタグラム上で投資に関する広告を見つけクリックしたところ、『森永卓郎を名乗る人物』と連絡が繋がりました。その後、男性は『森永卓郎を名乗る人物』から投資関連の学習会のアシスタントをしている『佐藤美樹を名乗る人物』を紹介され、さらにLINEのグループに誘導されました。投資関連の勉強会に参加しているうちに、男性は『佐藤美樹を名乗る人物』から、金の取引に関する話を持ち掛けられ、これを信じた男性は11月8日に、銀行窓口で現金200万円を『ALYSSAと名乗る人物』から指定を受けた口座に振りこんだということです。不審に思った男性の妻が話を聞いたところ詐欺に気づき、警察に相談したということです」。

これが詐欺の手口だ

 これと同じようなスマホ広告をきっかけとした特殊詐欺は、この半年ほどずっと続いている。まず、フェイスブックやインスタグラムに著名人の写真入りで、完全無料の投資アドバイスや勉強会を開催するという広告が掲載される。登場する著名人は、私だけでなく、堀江貴文氏や前澤友作氏、高橋洋一氏、岸博幸氏、田村淳氏、荻原博子氏など様々だ。その広告をクリックするとグループLINEへの招待コードが送られてくる。グループLINEは招待された人だけが参加できるので、一般の人はチャットを見ることはできない。そこで、チャットの主宰者(例えば偽物の私)が個別株の推奨をしてくる。それが2度、3度と値上がりすることで、参加者はすっかり信じ込んでしまうのだ。
 そこでチャットの主宰者が、確実に値上がりが見込まれる「HEO」を買わないかと持ちかけてくる。水素エネルギーを推進するための仮想通貨で、参加者限定で購入することができるものだ。もちろんHEOという仮想通貨は存在しないが、これを扱う架空の取引所には毎日HEOの価格が表示され、1か月に3~5倍のペースで価格が上昇していく。その相場もでっち上げだ。ただ、「短期間で1000万円儲かった」「もっと買うぞ」といった参加者の声に押されて追加購入する人も多い。
 ITの専門家が調べてくれたところ、投資勧誘の広告は、私の名前を使ったものだけで400種類以上あるという。私が被害者の方とメールのやり取りをした感触で言うと、LINEの投資グループは一つのグループを300人前後で構成していて、被害者を除くほぼ全員がサクラだ。そのサクラが投資を煽ってくるのだ。
 そして1~2か月後、主宰者がHEOの払い戻しを解禁するのだが、解約するには5%の手数料が必要だと言ってくる。例えば1000万円を投資していれば、2カ月後にはそれが1億円に値上がりしているから、その5%は500万円になる。そして、安心させるために、解約手数料を支払えば、著名人と直接会える講演会に招待すると言ってくるのだ。もちろん実際には講演会の開催予定などなく、開催日には突然LINEグループが閉鎖され、その後連絡が一切取れなくなる。これが、基本的な詐欺の手順だ。最近ではHEOのほかに、ゴールド商品や未公開株など、さまざまな投資商品が使われている。
 こうした詐欺は、私のところに相談メールが来ただけで200件近く、被害額は総額で2億円程度に及んでいる。そのなかには、その人が老後のために一生懸命貯めてきたお金も含まれている。
 フェイスブックをはじめとしたネット広告は、新聞やテレビ、雑誌と比べて審査がとても緩くなっている。それどころか、私を含めて名前を無断使用された人たちがいくら抗議をしても、いまだに詐欺広告を掲載し続けている。警察は被害届を受理はしてくれるが、海外拠点の詐欺グループをいまだに特定できていないし、投資を取り戻せた人も、私が知る限り一人もいない。
 冷静に考えれば、こうした投資は詐欺だと気づくはずだ。まず、私が無料で見知らぬ人に投資アドバイスをするはずがないし、私は投資顧問業のライセンスを持たない(投資助言業への登録をしていない)ので、そんなことをしたら法律違反になる。HEOという仮想通貨が存在するかも、ネットで調べればすぐに分かる。主宰者からのLINEメッセージも日本語がおかしいので、海外拠点の詐欺だと分かるはずだ。その他にもおかしなことはたくさんあるのだが、多くの人が騙されてしまうのは、人間、欲の皮が張ると、冷静な判断ができなくなるからだろう。

いま投資をしてはいけない

 多くの人が抱えている間違いは、「投資でお金が増える」と思い込んでいることだ。「短期でアップダウンはあるにしても、長期では必ず株価は上がっているではないか」とか、「分散投資をすれば大丈夫だ」と考えている人が多いのだが、お金が自動的に増えることはない。詳しいことは、田内学『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)という本を読んでもらえば分かると思う。株価が上昇し続けるように見えるのは、バブルが拡大し続けているからだ。そして、そのバブルの崩壊がいま近づいてきている。
 アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、12月13日に、短期金利の誘導目標を3会合連続で据え置くことを決めた。同時に発表した経済見通しでは、2年にわたって実施した歴史的な金融引き締めが終結し、2024年中に3回の利下げがあると予測している。過熱してきたアメリカ経済が、一転して失速する懸念が高まってきたのだ。
 「株価は、半年先の景気を織り込む」と言われているのに、現実にはFRBの発表以降もニューヨークダウは連日過去最高値を更新し続け、株価バブルはむしろ強まっている。一体、何故だろうか。
 実は、リーマンショック直前にも株価バブルは起きていた。FRBは短期金利の利上げを続け、今回と同様に5%超に達した。そのため米国経済は減速に向かったのだが、株価は下がらなかった。利下げで景気が改善し、株価が上がると多くの投資家が考えたからだ。ところが利下げが続き、2%台まで下がったところでバブル崩壊は起きた。金利が下がるところまで下がると、利下げによる景気回復が期待できなくなってしまうからだ。今回も同じことが起きると仮定すると、バブル崩壊は2025年から26年に発生する。もちろん、バブル崩壊の時期を正確に予測することは誰にもできないが、バブルは必ず崩壊する。そしてバブル崩壊は一度起きると、株価は激しく落ちるのだ。
 1929年のときは、株価は10分の1になった。それは100年前の話だという人もいる。ただ、数年前に「これからの投資は、新興国株式への投資だ」という話がさかんにされた。そのなかでBRICSが特に注目だと多くの経済評論家が主張した。ブラジル、ロシア、インド、チャイナ、そして南アフリカだ。それを信じて、ロシア株の投資信託を買った人も多かったが、その後のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア株ファンドの価格は10分の1に下がった。これは、いま起きている話だ。
 新NISAの開始で、国民の投資熱は高まっている。ただ、値動きのある金融商品は、価格が暴落したり、紙くずになることもしばしばある。若いうちなら裸一貫からやり直すこともできるが、中高年以上はそうはいかない。だから、中高年以降は欲を張らずに、元本保証のある金融商品で老後資金をコツコツと貯めるべきなのだ。
 改めて言う。いま投資をしてはいけない。

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森永卓郎
経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。