特別国会を控えて
第49回衆議院議員総選挙が終わりました。参議院の通常選挙(3年に一度)は半数改選ですが、衆議院の場合は議員が総入れ替え(全員が新しい身分を得る)となるため、特別国会の召集(11月10日)を控えた今の時期が手続的に最もバタバタします。議院運営委員会の理事候補となる議員数名(自民、立憲など)が連日集って、会派(名称、所属議員数)の確定、院内の控室の割当て、常任・特別委員会の理事・委員の数の割当て、議員会館の事務室・宿舎の割当て、特別国会の段取り(憲法67条1項後段は、内閣総理大臣の指名をすべてに先行させる旨を規定していますが、実際は慣例に従い、事務総長が議長役を担って議長の選挙から始めます)など様々なことを決めていきます。いわゆる議事進行係(自民若手)も召集前には決まっています。
余談になりますが、落選した議員が議員会館の事務室から退去するのは、本日(11月3日)が期限です(議員宿舎は10日)。特別国会の召集日近くまでグズグズしていられないのは、退去後に業者が清掃、消毒した上で、新しい議員を迎え入れなければならないためです。現在の議員会館は2010年7月から供用が始まっていますが、任期をずっと全うしてきた方は11年分の相当な量の荷物を排出、廃棄(何を残し、何を捨てるかを短時間で判断)しなければなりません。負担の掛かる作業には違いありませんが、スタッフも含め、選挙のときのハイテンションがある程度維持されていることもあり、想像よりは早く完了することがほとんどです。ただ、最後の荷物をまとめて、部屋の電気を消す瞬間には、誰しも初当選からの思い出が走馬灯のように思い描かれつつ、落選の事実を強く自覚し、将来の不安を抱きます。永田町では本日、あちこちでこうした光景が見られます。
野党新勢力に期待すること
私が野党新勢力と呼ぶのは、日本維新の会(41名当選)、国民民主党(11名当選)、れいわ新選組(3名当選)の三党です。政党色、支持層は相異なりますが、みな勝利者に違いありません。共通して、党勢の伸びしろをなお十分持っていると思うところ、何より、与党第一党(自民)と野党第一党(立憲)が国会の運営を主導するという寂びた政治文化を変える原動力になることを強く願っています。
衆参で若干の違いはあるものの、与党第一党と野党第一党が議院の運営を牛耳る慣行は、昭和中期に形になり、平成初期にはほぼ完成されています。よく、TVのニュースで森山国対委員長(自民)と安住国対委員長(立憲)が部屋で向き合って会談している光景が流れますが、あのイメージを頭に置いてください。野党第一党は野党の代表として、第二党以下の意見を一本化して与党に伝えるというポジション(ある種の政治的権威付けを以て)が成り立っています。他方、与党側は、野党第一党をすべての野党から成る組合の代表者であるかのごとく、すべての野党を相手に個別の協議・交渉をしなくて済むという便利な存在として見ています。与党第一党と野党第一党だけで事を運んでいくのは効率的な面もありますが、野党第二党以下の少数野党の意見をストレートに反映しているとは限らず、時として「談合」のような振舞いもあり(予算案、法案の取扱いに関してはもちろん、内閣不信任決議案の提出などを巡っても、結果として参議院の審議に影響を及ぼします)、その弊害は以前から指摘されています。国民にとって本当に必要なことかどうかではなく、与党第一党、野党第一党にとって有利か不利か、いわゆる政局的な価値判断が優先してしまいがち(それに伴って報道も政局に偏り、国民には深層が分からない)だからです。
一例を挙げます。連載第166回で取り上げた国民投票法改正案は、立憲民主党が5月6日の衆議院憲法審査会で突然、修正の動議を提出したうえ、趣旨説明までは行ったものの、日本共産党、日本維新の会、国民民主党による質疑の要求には応ぜず、与党側と呼吸を合わせて一気に採決まで運んでしまいました。その後の衆議院本会議でも、共産などの討論の要求にも応えることなく、採決を行って、修正法案を参議院に呆気なく送ってしまったという経緯があります。共産は間違いなく、法案の本体、修正部分いずれも「反対」の立場でしたが、この点で立憲との関係が拗れると直後に控える東京都議会議員選挙で共闘関係に良くない影響が生じるということで、一切の追及を封印し、いまなお沈黙を続けています。たとえ、共産は腹に納めたとしても、維新、国民は納得していないでしょう。別稿で詳細を論じますが、この問題は今後も、年単位で尾を引きます。
今回、立憲民主党は96名当選と、議席を減らしました。枝野代表が2日の党役員会で辞意を表明したことから、安住氏が特別国会以降も国対委員長を続投するのかどうかは不明ですが、党勢が減衰していることは客観的に明らかなので、野党新勢力には、ここで一気に野党間の権力バランスを変え、活躍の舞台を増やす戦いに挑んでもらいたいと思います。
問題は憲法審査会だけではなく、予算委員会、厚生労働委員会など他の委員会でも同様です。現時点で確定したことはいえませんが、人数的に見て、維新はすべての委員会に理事を出し、国民、れいわはオブザーバー参加になると思われますが、野党新勢力は与党側の理事、野党第一党の理事に遠慮したり怯むことなく、委員会での発言の機会をどんどん訴え、勝ち取っていくべきです。
そもそも論を言えば、現在の会期のあり方も問題です。通常国会は会期が150日と決まっていますが、臨時国会、特別国会については日数上の定めはなく、与党第一党、野党第一党が実質的に協議、決定する仕組みです。会期末に毎度繰り返される与野党攻防(内閣不信任決議案等の提出により、対決法案の成立を阻む日程上の闘争)に辟易している国民も少なくありません。とくに、このコロナ禍においては長時間、大勢の議員が本会議場に集うことが問題視されるべきです。いつまで国会を開くかという協議そのものを無意味化するためにも、運用上の工夫を以て「通年国会」とすることも不可欠と考えます。三党には、こういう新たな視点を忘れないでほしいと思います。
党首力をもっと見たい
さらに取り組むべきは、党首討論の定例実施、質疑時間の拡大です。党首討論はその実施を確実に担保することとともに、少なくとも各党30分くらいの持ち時間は必要です。全体で45分というのもあまりにも短すぎます。水曜日が定例ですが、全体が長くなるのであれば、翌週の水曜日と二日間に分けて実施することも考えられます。午後3時からではなく、夜間実施にした方が視聴者的には好ましいという意見に、私も賛成です。
党首討論が開催されなくなったのも、野党第一党の都合です。1回45分で短く終えるよりも、予算委員会(集中審議)で数時間、総理を着席させて問題追及した方が見せ場が増えて得だ、というのは確かにそうかもしれません。しかし、予算委員会には総理だけでなく、関係する国務大臣、政府参考人(幹部官僚)も出席します。総理が答弁に困った時は、脇から大臣や局長が出てくるので、本当の意味での質疑、討議は成立しません。議員が質疑者席に立つ時間が長くなり、その限りで見せ場も増えますが、同時に追及の相手に逃げ場も作ってしまうのです。桜を見る会、森友・加計学園問題などの追及において、安倍元総理がどういう答弁態度を取ってきたかを思い出してもらえれば結構です。
総選挙に際しても党首討論会が何度も開催されましたが、メディア(司会者)が介在してしまうので、緊張感のある丁々発止のやり取りはなかなか見られません。とくに私は、れいわ新選組の山本太郎代表と岸田総理との一対一の応酬を見てみたいのです。党首討論ではなく本会議の代表質問では、岸田総理は予め通告された質問に対する「原稿読み答弁」に終始してしまいますが、これが党首討論になると、一切の予定調和がなく、雰囲気がガラっと変わります。そもそも、山本代表に予定調和は通用しないと思います。
寂びた政治文化が変わってきたと国民が実感することができるよう、議員一人ひとりが個性を発揮し、任期いっぱい、躊躇なく暴れてもらいたいところです。
『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』が、C&R研究所より発売されました。2021年6月の法改正を踏まえた改訂版です。ぜひご一読ください。
(目次)はじめに/第1章 憲法改正の手続と国民投票法/第2章 憲法改正原案と憲法審査会/第3章 憲法改正の発議と国会による広報/第4章 投票期日と投票権/第5章 国民投票運動/第6章 投票・開票の手続と国民投票の結果/第7章 今後の課題/第8章 国民投票法の歴史―制定・改正の経緯―/付録 国民投票法制関係年表