第13回:【保存版】生活保護申請に伴う「扶養照会」を止める方法実践編 ~申請者用、親族用~(小林美穂子)

Change.org「チェンジメーカー・アワード」大賞受賞

 年の瀬が押し迫った12月20日、署名サイトであるChange.orgの栄えあるチェンジメーカー・アワードの大賞に「困窮者を生活保護制度から遠ざける不要で有害な扶養照会をやめてください!」が選ばれた。

 便宜上、つくろい東京ファンド代表の稲葉が受賞したことになっているが、真の受賞者はこの署名に参加し、勇気を出して辛い体験談を寄せてくださった大勢の方々だと思っている。皆さん、本当にありがとうございました。そして、おめでとうございます。
 2021年は一般的にはほとんど知られていなかった「扶養照会」という言葉が広く知られた年となった。来年はこの扶養照会によって苦しむ人をゼロにしたいと思っている。

 これまでにも何度となく不要照会…違った扶養照会の弊害や、2021年4月1日から変わった不要……(しつこい)扶養照会の運用について書いてきたが、今年最後となる連載は、扶養照会を「絶対に止める」ための実践編を鼻息荒く伝授して締めくくろうと思う。
 支援団体不在の地であっても、支援者の同行がない場合であっても、福祉事務所の水際作戦を自力で跳ね飛ばし、扶養照会も阻止できるように皆さんをエンパワーしたい。

困窮者の前に立ちはだかる高い壁が崩れる

 社会福祉協議会が窓口となった臨時特例貸付の返済が来年からいよいよ始まる。
 12月11日時点の速報値で、累計貸付申請件数 3,126,920件、累計貸付決定額 1兆3165億700万円という、とんでもない金額を国から借りなければ生活ができない人々が溢れるこの日本で、来年からの返済に「オッケー、余裕~♪」と応じられる人がどれだけいるだろうか。
 「きつい!」「返済したいけど生活できん!」と頭を抱えている人は、是非、これ以上の借金を重ねるのではなく、権利である生活保護制度の利用にシフトして欲しい。
 コロナ禍で失職、減収したり、体調が悪くて働けなかったりするのは自己責任ではない。こういう時にこそ使うのが生活保護制度であり、1月28日の参院予算委員会では田村憲久厚生労働相(当時)も、「生活が大変窮迫されて、必要がある方は、生活保護を受ける権利がある」と答弁した。厚労省も公式ホームページに「生活保護の申請は国民の権利です。ためらわずにご相談ください」と広報をし、DaiGo氏の差別動画が炎上したすぐあとにも、カウンターのようにツイッターで広報している。

 生活に困窮した人々を生活保護制度から遠ざけていた最も高い壁が扶養照会。
 そう、申請者の親族へ援助の可否を問う知らせが送られる、あの百害あって一利もないルールだ。
 今年4月から運用が劇的に変わり、それまではスパイダーマンでもたじろぐような天衝く壁が、突如として30センチくらいの低さになった。とはいえ30センチであっても邪魔である。疲れていたら足が上がらない。一日も早く、この障害物を崩して、誰もが安心してアクセスできる制度にしてほしい。

4月1日からの運用改正おさらい

 これまでは、親族による虐待やDVがあったケースを除いて、扶養照会は申請者の意向を完全無視して行われてきたものだが、2021年3月末、厚労省は要保護者が扶養照会を拒んでいる場合においては、その理由について特に丁寧に聞き取りを行い、親族が扶養を期待できない者に該当するか否かという観点から検討を行うべしという通知を出した。つまり、親族が要保護者(申請者)を援助できない理由があるんじゃないですか? 関係性とかどうなんですか? そこを丁寧に聴き取って、なんなら扶養照会しなくていいんですよ、つーことだと私は解釈している。
 それでも融通が利かない職員もいるであろうことを見越して、たとえば「扶養を期待できない者」っていうのはこんな例よと、具体的な項目をズラズラッと挙げている。気が利くね。
 変わった運用と、その経緯に関して詳しく知りたい方は下記の過去記事をどうぞ。

●第5回:朗報! 生活保護申請にともなう扶養照会は止められる!
●扶養照会の運用が変わりました!申出書で扶養照会を回避しましょう!(つくろい東京ファンドHP)

時代の変化や実態を踏まえて

 厚労省による扶養照会の運用変更は奇跡のように画期的なものではあったが、その改正が記載された生活保護手帳別冊問答集にこう書いてあった。
 〈私的扶養の果たす社会的機能や国民の扶養に対する意識は時代とともに変化するものであり、扶養の問題を考えるにあたっては、常にこのような時代の変化や実態を踏まえて判断していかなくてはならないものである〉
 これは改正前から記載されている文言なのだが、だったらもっと早く変えて欲しかったと恨みごとの一つも言いたくなる。イエ制度も、バブル経済も、もはや二度と戻らない過去の遺物だ。平成も令和も格差は開く一方で、いまや誰もが自分の生活だけで精一杯ではないか。その証拠が、全国でも1.45%、都内だと推定0%~0.5%という低すぎる扶養実績で、それにしたって今に始まったことではないでしょう?
 改正前に私が生活保護申請を手伝った若者は、福祉事務所の担当ケースワーカーに、家族に知らせないで欲しいと必死に頼み込んでいた。それでも聞き入れてもらえず、結果、きょうだいには罵倒され、たった一人の親は泣き、その後入院してしまった。改正がもっと早かったらと、恨めしい。
 生活に困窮してしまうのは、雇用や政治などの問題であって、決して自己責任ではない。困窮した家族を援助できない親族も自分を責める必要は微塵もない。微塵もないのだ。

実践編〈親族に生活保護利用を知られたくない申請者用〉

〇生活保護の申請書を持参すると、追い返されない
 福祉事務所で生活保護の申請をする際、あらかじめ申請書を持参すると追い返されない。追い返すのは申請権の侵害であり、違法行為。お互いの時間や手間を省くためにも、申請書を持参することをおススメする。東京23区であれば自治体に申請書類をFaxできる「フミダン」という便利なツールがあるので、是非利用して欲しい。

→オンラインで生活保護申請書作成ができるウェブサービス「フミダン」(つくろい東京ファンドHP)

〇扶養照会を止める
 福祉事務所の窓口で申請書を提出する際に、同時に提出して欲しいのが、「扶養照会に関する申出書」と「添付シート」。これも、つくろい東京ファンドのホームページから印刷して、必要事項をありのままに記入の上、必ず写メかコピーを取って自分用に保管した上で、原本を提出して欲しい。
 添付シートには、親族一人ひとりに「知らせて欲しくない」そして、「援助してくれる見込みはない」ということが分かるように明記してあればいい。それでも「知らせる!」という福祉事務所があれば、是非、つくろい東京ファンドに知らせて欲しい。厚労省が「しなくていい」と言っているにもかかわらず、そこまで熱心に扶養照会をしたいのは、嫌がらせ以外にどんな意味があるのか興味があるし、必ず止めるように助太刀いたす。

→申出書&添付シート・ダウンロードはこちら

 申請書が受理され、その後の家庭訪問の時にいきなりケースワーカーが「やっぱり扶養照会はする」と前言撤回してくるケースが何件も報告されている。そんな時には、「私の意思は書面で提出していますので、扶養照会をするのならその理由を書面で提示してください」と伝えよう。書面で提出しているものを口頭で反故にしようとするのは、役所の手続きプロセスとしても問題がある。
 また、扶養照会は毎年する自治体もあるので、翌年も申出書と添付シートを記入して提出すると、職員の「うっかり送付」を防止できる。以下を参照に記入して欲しい。
 不明点があれば、つくろい東京ファンドにメール(info@tsukuroi.tokyo)でお問い合わせください。

親族側も苦しめる扶養照会の非情

 扶養照会で家族と縁を切られたり、罵倒されたりして大きなダメージを受けるのは保護を利用する申請者側だけではない。扶養照会通知を受け取る親族側にもいろいろな事情があり、その通知は辛いものであることが多い。

〇子どもが生後数か月の頃に家族を捨てて失踪した夫が、何十年もしたのちにどこか見知らぬ地で生活保護を申請し、成人して幸せに暮らす子どもたちに「援助できないか?」と通知が来る。思い出したくもない相手なのに、毎年毎年送られてくる。

〇自分を虐待した親を援助しろと通知が届くたびにPTSDを起こし精神科に通う。

〇歳を取った母親が生活保護を利用している。母親の扶養照会が届くたびに、非正規職員ゆえに母を助けられない親不孝な娘だと自分を責めてしまう。

 もともと私が扶養照会の残酷さ、非情さを最初に知ったのは、現在大手企業で働き、幸せな家庭を築いている知人にまつわる新聞記事を読んだからだ。
 知人が幼いときに父親が母親を殺害した。それきり何十年も会っていない父親の扶養照会が、ある日突然届く…そんな地獄を考えてみて欲しい。記事を読んだ時、足がすくんだ。体が震えた。扶養照会は、自分の人生を必死に生きる人達の前に立ちはだかる。

実践編〈扶養照会通知を毎年送られて困っている親族用〉

 関係が切れた親族の援助を迫られることに大迷惑をしている親族の皆さん、あるいは家族関係が良好であるがゆえに自責の念に駆られて苦しい思いをしている皆さんが、ご自身の日常を守りたいと思うのは当然です。
 先に述べた2021年4月の扶養照会に関する運用改正では、「援助の見込みが望めない場合」は扶養照会しなくていいと定めている。つまり、「要保護者である親族を援助する気はない。金輪際、扶養照会通知を送ってこないで欲しい」と意思を示せば、論理上は照会通知の発送を止められる筈なのだ。
 ただし、DVや暴力被害がなかった場合の「婚姻関係にある配偶者」、「中学3年以下の子に対する親(離婚した元配偶者)」に限っては、意思を示しても照会をされる可能性はある。

 照会拒否を送る宛先は扶養照会を送ってきた自治体宛てである。
 経済的理由でも何でもよいので、とにかく「今後も援助できない」「関係性が切れている」ということが明確に分かれば、福祉事務所側も切手代と労力をかけて毎年送る必要がなくなる。双方にとってめでたいことである筈。
 生活保護問題対策全国会議が親族版申出書を作成してくれたので、以下を活用して欲しい。

→扶養照会拒否の申出書(親族側版)のPDF・ダウンロードはこちら

 自分の状況に完全に合致する項目が見つからなくても、「その他」の欄にたとえば、「自分の生活でいっぱいいっぱい」「非正規で余裕はない」「関係性が切れており、扶養照会通知が送られてくるたびに苦々しくてやりきれない気持ちになる」など、思いのたけを自由に書いて欲しい。扶養照会をしたがる行政は、申請者の思いにも、親族の苦悩に対しても、あまりにも鈍感すぎるから。

扶養照会撤廃に向けて

 日本人はとても我慢強い国民だと、我慢が嫌いな私は常々感心している。
 しかし、我慢強いために、私たちはますます我慢を強いられてしまってはいないだろうか?
 辛い気持ちをグッと飲み込んで一人で苦しまず、「辛いです」と誰もが言えるようになったら、「え、そうだったんですか、やや、これはすみませんでした」と気付いてもらえることも多々あるのではないか。こちらが我慢強いのをいいことに、相手は私たちを苦しめていることに気づいてもいない。
 そして、扶養実績がほとんどないのに、延々膨大な切手代と労力をかけて、申請者やその親族を苦しめる「扶養照会」という時代遅れなムダ作業を続けている。
 誰も幸せにしない、というと、「たまに行方不明の親族が見つかって喜ぶ人もいる」と福祉事務所職員は言いたがるが、そんな例外中の例外を探しだすよりも星の数ほどの葛藤や苦しみにも目を向けてくれ。生活保護の捕捉率の低さを悩んでくれ。
 家族関係の回復は、当人同士でやればいいことだ。大の大人である当事者の意思を無視してまで福祉事務所がすることではない。これから、生活困窮する人は益々増える。若い路上生活者が増えているとの報告が方々の支援団体から入っている。社協の貸付返済で詰む人が大量に出ることが予想されてもいる。
 やっとの思いで福祉事務所にやってきた人達に「家族に知らせるぞ」と脅すのではなく、「よく来てくれた。これまで頑張りましたね」と迎える福祉事務所、そして使いやすい制度になって欲しい。切に願う。私達は、来年も引き続き、扶養照会廃止のために皆さんの要望を国にガンガン届けて行きますので、どうぞご協力ください。

 大変な一年を生き延びた皆さん、本当にお疲れさまでした。来年もともに生き延びましょう。

       

小林美穂子
1968年生まれ。一般社団法人「つくろい東京ファンド」メンバー。支援を受けた人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネーター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで就労。ホテル業(NZ、マレーシア)→事務機器営業(マレーシア)→工業系通訳(栃木)→学生(上海)を経て、生活困窮者支援という、ちょっと変わった経歴の持ち主。空気は読まない。共著に『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(岩波書店)。