ここ数年、新型コロナやら政権の腐敗やら、世の中いよいよヤバくなってきてる。ということもあり、今後何がどうなってもビックリしないように、このマガ9の連載でも今のうちから暗黒時代到来に備えておこうっていうことを主眼に置いてきた。禁酒時代に備えて居酒屋カー造ろうとか、地下出版のやり方とか、地下情報網構築のやり方とか、そんなことを書いてきた。
…と、そんなタイミングで今度は戦争が始まってしまった! 国家と国家のぶつかり合いの狭間で、またしてもその辺りに暮らしてる人たちが、逃げ惑ったり家を焼かれたり食べ物にありつけなかったりっていう酷い目に遭う。そして今でも世界中では国家間でのいがみ合いが減るどころか増すばかり。これはもう他人事ではいられない。
そんなことで、今回もひとつ、暗黒時代のサバイバル術の研究、行ってみましょう〜。前回は『寝そべり主義者宣言』という、いま中国アンダーグラウンドで出回ってる文書の日本語版を各地で売っている話をしたので、今回は、その流通網でとても重要な役割を担っている、各地の個人でやってる書店の役割について紹介してみたい。
各地に点在する独立書店!
まずは書店そのものの存在のおさらいから。書店の数って昔はずっと増え続けてたんだけど、1990年ごろをピークにして、インターネットが普及してくる90年代からどんどん減り始める。かつては本の需要も多く、一般書店以外にも専門書の店やら古書店までいろいろあって成り立っていた書店だけど、みんなが本を読まなくなってくると書店はどんどん厳しくなってくる。さらにamazonの登場やら少子化やらで踏んだり蹴ったりで、90年代ごろになると、個人書店に至っては、収入源がマンガとエロ本とガチャガチャ頼みという、断末魔の叫びのような書店が点在するほどになっていた。2000年代になると、その断末魔系書店すらも滅んでいき、「ああ、もう書店という文化は無くなっていくのか…」という空気感も漂い始める。多少の差はあれ、海外でも似たような流れになっていた。
ところが! その後、書店の逆襲が始まってくる。もちろん店舗数で言えば減る一方なのは変わりはないんだけど、独特な個人書店がちらほらといろんなところにでき始めた。従来の個人書店とはまた少し違って、店主の好みが全開に出てる、本のセレクトショップのような店。近隣住民の層に合わせてまんべんなく売れ筋を揃えていた従来の個人店とは真逆で、店主のノリ全開なので、本の品揃えも超独特だし、コーヒーや酒を出すところもあれば洋服や雑貨も売ってるところもあるし、書店の内装や本棚を店主自ら作るところも多い。そんな感じなので、店に入った瞬間にその店主や常連客から滲み出る人間のにおいがする店だ。そして海外でもその流れは同じで、漢字圏ではそんな店は「独立書店」と呼ばれている。日本でそういう言い方をするか知らないけど、断末魔系個人店と分ける意味でも、ここは独立書店と表現しておく。
2000年代以降というのは、バブル崩壊から10年20年と経つなかで、崩壊後のてんやわんや状態から抜け出して、ザ・資本主義な生き方に見切りをつけて個人で小さな事業を始めたり店を開いたりする人が増えてきた時期。今から思えばそんな流れで書店を開いた人も出始めたんだろう。ちなみに、エラそうにいろいろ言っといて今更なんだけど、ロクに本も読まずに書いてばかりの自分としては書店界には完全に疎い。なので、その当時も今から思えば自分の身の回りでも友人なんかが「本屋をやりたいんだよねー」という話もよく聞いてたけど、何の話か分からず勝手に、あ、あれね、ガチャガチャ置いたり、ジャンプを万引きしたチビッコの群れをホウキ持って追いかけたりってやつか〜、という光景が頭をよぎり「本屋!? 5秒以内に潰れるでしょ! ここは堅く駄菓子屋にしといた方がいいんじゃないかな〜」なんて断言してたけど、のちになって続々と登場してくる独立書店を見て「なるほど! こういうことだったのか!」と気付く。そして、ここ10年ぐらいは海外なんかでも若い人が書店を開くという例がすごく多く、各地でいろんな独立書店を見て回ったりもした。で、気付けばすごい増えてる。しかも店主の趣味全開みたいな店ばかりなので、どこに行っても感じが違うのでいくらたくさんあっても面白い。なるほど〜、15年ぐらい前にみんなが言ったやつって、これだったのか〜。…楽しいじゃねえか!!!!
旅先で助けてくれた独立書店
さて、いま中国アンダーグラウンドで流行っている寝そべり族に関する『寝そべり主義者宣言』という文書の日本語訳を作ってバラ撒きまくっているんだけど、どうせならっていうことでいざという時の予行演習も兼ねて完全地下流通っぽい手法で製作から流通までやってみている(詳しくは前回の記事を見てみて〜)。前回も紹介した通り、売り歩く時にはやはり人が重要で、各地の人たちが面白い人たちや場所などをどんどん紹介してくれて、それでどんどん販路も拡大していった。
と、そこへ重要になってくるのが各地に点在する独立書店だ。そう、独立書店っていうのは、ローカルな“知”の集結点なので、ここを介してピンポイントで面白い広がり方をする。しかも、こういう書店っていうのは一般書店と違って個人または数人でやってるので、その店内のことは全て把握してるオーラ全開の店主がズシーンと構えており、ほとんど玉座の間みたいなレジの中で悠然と何だか訳のわからないことをやっている。で、その店主の嗅覚と気分次第で全てが決まる。
今回も、いくつかの書店から「それ、仕入れます!」と連絡をもらって納品させてもらったんだけど、この仕入れたいと連絡をもらう時がすごく嬉しい。玉座の間で思案する謎の店主たち琴線のどこかに触れて連絡してきてくれたんだろうから、こっちも「おおー、やった! ありがとうございます!」っていう合格通知受け取ったみたいな感じ。ということで、今回は地下流通の練習でもあるので、そんな店主たちの気持ちを大事にする意味でも、こっちからの売り込みとかは一切せず、申し出てくれたところに納品して回る感じにしてみた。
ま、ごちゃごちゃ説明しててもよくわかんないだろうから、せっかくなので地方を回ってる時に連絡をくれたいくつかの独立書店を少し紹介してみよう。
うずまき舎(高知)
https://uzumaki.cc/
本を完成させて西日本への旅に出ようとしてすぐ、とてつもない早さで真っ先に連絡くれたのが高知県のうずまき舎という書店。「是非仕入れたい」と言ってくれたので、これはもう売り言葉に買い言葉。行ったことないところだったんだけど、何も考えずに「じゃ、直接持って行きまーす」と返事。すると向こうも「なに!」と思ったのか、「いや〜、山の上にあって移動手段ないと来にくいところなんですけど…」とのこと。当然こっちは四六時中何も考えてないので、「車で行くので大丈夫でーす」と軽く返事。
で、現地に行ってみるとこれがまたとんでもない。最初はいくら山の上って言ったって山深いところにあるぐらいで、例えば埼玉や千葉の人が「うち、田舎で何もないから〜」とか言ってる、あの感じだと思ってたけど、甘かった! 本当に山の上。軽自動車で行ったんだけど、ギリギリ通れるぐらいの山道なんかもちょくちょくあって、どんどん高度も上げていく。夜中に油断して音楽なんか聴きながらノリノリで運転してたら100%崖の下に転落する勢い。
そんなところだから、一体どんな店なのかと思ったら、着いてみるとすごいちゃんとした書店! しかもゆっくりとコーヒーも飲めるような店で、居心地がいい! 家賃の高い都会の店舗じゃなくて山の中だから商売に追われたりせずゆっくり店をできるし、これ、いきなり完全に“寝そべり主義”そのものだ〜!!!
うずまき舎への険しい道のり。ちなみに道中のところどころにある謎のぐるぐるマークが目印。この秘密基地感が最高
なタ書(高松)
https://www.facebook.com/natasyo/
さあ、お次は高松の古本妖怪の名で恐れられる藤井氏が経営する「なタ書」。もう17~18年やっているなタ書の名前は各地に轟いており、中国・四国地方を回ってるとき、いろんなところで「松本さんだったら、なタ書行った方がいいよ〜」と、妙にオススメされていた謎の書店だ。高松に着いた直後にそのなタ書から連絡が入り「高松来てるなら遊びに来ませんか?」という。ここも行ったことなかったので、興味が湧いて「じゃ、夕方5時ごろ行きます!」と返事。すると、その数分後、Twitterを見たら「松本氏、なタ書に来店し交流会開催! 全員集まるしかない!」みたいな謎のイベントが勝手に発表されている。ギャー、しまった、ハメられた!!! いや〜、こういうイカサマな店最高だなー。
しかし、そもそも平日の夕方に緊急イベントやって誰か来るのかなー、と思いつつも、とは言ってこういうパターンの場合はいきなり「なんかやって」などと無茶振りされかねないから、「いざという時に何かやるネタ考えといた方がいいのか?」と恐る恐る時間になってなタ書に行ってみると、案の定誰もいない。で、初対面の藤井氏、悠然と深々と椅子に腰掛けながら「いや〜、高松で急に何か呼びかけても誰も来るわけないですよね〜」と語りかけてくる。しまった、またハメられた!! で、こちらが怯んでいると、藤井氏いきなり「いや〜、松本さん、私はこれからの人生どうしたらいいんでしょうか」などという質問をしてくる。知るかそんなもん〜(笑)。
これは一枚も二枚も上手でヤバいから逃げようとすると、「いやー、せっかくだから高松案内しますよ」と、街に連行される。しまった、またハメられたかと思いきや、これがまた面白い書店や古着屋、ゲストハウスなどに次々と案内してくれる。おお、さすが老舗独立書店だけあって、顔が広い。で、どこの店に行っても入るなり「お酒頼める?」と無茶な注文をして、しょうがないな〜、と苦笑いされながらなぜか酒にありついている藤井氏。いや〜、謎すぎる! でも、そんななタ書が17〜18年も続いているというのは独立書店の希望の星以外の何者でもない!
まあ、1日しか交流できなかったので、まだまだ未知数だけど、とりあえずとんでもない店であることだけは確かだ。そして妖怪藤井氏、『寝そべり主義者宣言』を熟読し吟味した挙句、仕入れてくれた。おお!!
伝説の店「なタ書」、実は日本初の完全予約制の書店。余程の混雑防止なのかと思って理由聞いてみると、「誰も来ないから一日中店番するのが嫌になった」と藤井氏。
そういえば、藤井さんには「素人の乱・残党ラジオ」に出演してもらったんだけど、めちゃくちゃなことになったので、興味ある人は聞いてみてください(前編/後編)
YOMS(高松)
http://yoms-furuhon.sakura.ne.jp/
同じく高松市内の、なタ書とも近い場所にあるYOMSという書店。店主の斉藤くん、実は昔高円寺にいたことがあって、いま店を開いているということは少し聞いてたんだけど、なんだかんだと10年近くは連絡もしてなかったので、超久しぶりに遭遇した。ここは同じ独立書店でも、なタ書とは雰囲気もテイストもすごくちゃんとしてる感じの古書店(なタ書がちゃんとしてないっていう意味ではない)。新型コロナの蔓延防止期間中で注文はできなかったんだけど、本来はビールなどのメニューもあった。いやー、楽しそう。普段改めて遊びに行きたいところ。
そして、これは別に書店だからというわけではないけど、店があったおかげで斉藤くんと再会することもできたようなもの。普段から緊密に連絡し合うような関係じゃない場合って、そのままタイミング逃してずっと連絡しないなんてことはザラだけど、やはりここで個人店というのは重要。人間関係を保つという役割も果たす。いやー、いいね〜。
そして、さらに驚いたのが、仕入れてくれた『寝そべり主義者宣言』がこのYOMSでやたら売れている。増刷が追いつかなくて、東京で品薄だからオンラインでの注文が多いのかなと思って聞いてみると、「いや、高松のこの辺の人が結構買ってくれるんですよ〜」とのこと。すげー!!
10年以上前に高円寺で顔を合わせていた友人が、高円寺を離れた後は疎遠になってたけど、またこういう機会でまた関わって寝そべり本バラ撒き作戦を共にできてる感じがなんだか感慨深い。これも独立書店あってのことで、改めて重要性に気付かされる!
YOMSと斉藤くん。ドリンクメニューがあるのが嬉しい。これがあるだけで、店の人やお客さん同士に会話が生まれるキッカケができる
大都会門司港(北九州)
https://www.facebook.com/daitokaimojiko/
順序が逆になったけど、西日本の本を売り歩く旅で最初に行った書店が、北九州の門司港にあるこの謎の店「大都会門司港」。ここは門司の街中にある中央市場という古い寂れた商店街の中でやっている店。明治時代の町人のようなオーラを放つ米澤さんがやってる店で、「インフォショップ」というジャンル不明のジャンルを名乗っている通り各種情報に長けた書店で、コーヒーでも飲みながら(やはりここでもコーヒーやお酒が頼める)、米澤町人から話を聞き出せば色々教えてもらえるに違いない。
そして、やはりさすが町人なだけあって、商店街や近隣の店なんかとの繋がりもあって、そこがすごくいい。特に古い商店街なので、近所の爺さん婆さんたちから新たに入ってきた若手の店など、いろいろ混じり合うのは視野が狭くならないためにも重要だ。そんなところに中国アンダーグラウンド発の寝そべり主義者宣言が置いてあるのも面白い。学校帰りのクソガキがうっかり間違って万引きして、秘密基地で仲間と読み耽りだしたり、98歳ぐらいのお婆さんが「これはなんだい? 読んでみようかねえ」と買って帰って、家で寝そべりながら105歳ぐらいのお爺さんと回し読みし始めたり、一体誰の手に渡るかわからない感じが最高。市場で魚を買って、卵を買って、トイレットペーパーを買って、海外地下文書を買って帰る。いいねー、そんな社会。
いまだに何の店かわからない大都会門司港! 本やCD、Tシャツなどが売ってるが、イチオシは製作中の謎の屋台。誰も来ないから本を積んで街に打って出るとのこと。攻めてるな〜
汽水空港(鳥取)
https://www.kisuikuko.com/
ここはちょっと例外で、売り歩きツアーでは寄らなかった店。ここは前から知っていて店主のモリくんも知り合いだったけど、まだ店には行ったことなかった。ということで行こうかなとも思ってたんだけどちょうど雪がすごくて結局断念した。
店主のモリくんがまたとんでもない人物で、鳥取で店を作ると言い出したら本当に一から本屋を作ってしまった。そう、建物から全部。Twitter(@kisuikuko)などを見ていると、洪水で流れたり豪雪で雪に埋まったり、天変地異のたびに大パニックになって「もう世の中おしまいだ!」みたいになってるけど、無敵のDIY力を持つモリくんやその一味の者たちによって、常に奇跡の復活を果たす。うーん、すごい! いざ暗黒時代になった時でもかなりしぶとそうな店のひとつで、かなり頼もしく、ここで取り扱ってもらえるということの安心感がすごい。洪水で店ごと海に流されても、地割れで地中に埋まっても、雷が落ちて大爆発しても、ハリケーンみたいなのが来てどっかに飛んでいっちゃったりしても、しばらくしたら「いや〜、酷い目にあった」とか言いながらケロッとして営業再開してそうな感じがする。
あ、余談だけど、山陰地方には鳥取と島根という二大巨頭があり、その鳥取と島根が入れ替わってても日本中の人は5年ぐらいは気づかないんじゃないかってぐらいの存在感を発揮している。そこで「フザケンナ!」とでも言わんばかりに、島根(2県のうち右か左のどっちかの方)の出雲市にある句読点という、これまた独立書店からも「仕入れたい!」と連絡が! おおー、嬉しい! 島取・鳥根熱い! で、モリ氏からも「日本海マヌケゾーンが出来つつあるから今度遊びに来て」とのお誘い。ヤバい! 行きたい!!!!
いざという時に真価を発揮する独立書店
と、今回西日本を回ってきたときに遊びに行ったところを中心に数店紹介してみたけど、どの店もノリやテイストが違うことがわかると思う。当然ながら、ここで紹介してない日本中の独立書店だって全部違う。そんな人間味の塊みたいな店っていうのは暗黒時代にはすごい活躍するはずだ。もちろん書店に限らず、食堂でも八百屋でもだけど。
日本では今のところ、出版に対する厳しい検閲や制限は少ないので、独立書店と言っても結構軽い感じのところや小洒落た感じでやってるところも多いと思う。でも、中国の場合は独立書店というと、もうちょっとアンダーグラウンド感が漂う。“知”や“表現”、“思想”などが集まる独立書店にある自主流通本っていうのは結構狙われるので、やはり緊張感が漂う。例えば、若者たちが集まるエリアで古着屋、雑貨屋、書店、レコード屋などが並んでいる光景は日本と同じだけど、最初に手入れが入ったりして狙われるのが決まって書店。次にレコード屋。要するに表現が関わるとちょっと敏感になる。いろんなものが置いてある店でも、zineなどの独立出版物だけが販売を規制されるなんてこともザラだ。
かといって別に悲壮感が漂ってるわけでもなく、みんなケロッとして上手い裏技を考えたりして作戦練ったりしてる。日本だってまかり間違って暗黒時代になったら怖そうだけど、書店は無敵なので全然大丈夫だ。政府に反抗的な本のカバーを全部野鳥の本とか畑を耕す本にしといてもいいし、合言葉を言ったら裏から秘密の本を出してきたり、辞書の中がくり抜かれてて拳銃が隠されててもいいし(よくないか)、どうでもいい本を買って金を払ったら異常に長いレシートが出てきて実はそっちが本当の内容が書かれてたり、…と、いろんな技が考えられる。うーん、そんな作戦考え始めたらどんどん案が浮かんできそうだけど、それはまた別の機会にでも。ともかく、暗黒時代の頼みの綱になることは間違いない。
こちらが『寝そべり主義者宣言』の取り扱いを申し出てくれたところ。そして、全国各地にはこのような独立書店が無数にある。うーん、頼もしすぎる
さてさて暗黒社会シリーズ、今回は独立書店について書いてみた。そんな世の中にならないようにすることが大事なんだけど、独立書店というのはデーンと構えてていざという時に真打登場で実力を発揮してしまう無敵の守備隊みたいな存在だ。ということで、amazonや大手チェーンの書店で本を買うのもいいけど、たまには独立書店も覗いてみるのがいい。本を読まない人も、書店の店主の延命のためにこっそり米や塩を差し入れてみるのもいいかもしれない。
そして、そんな独立書店が世界中で今も増え続けている世の中。いやー、ワクワクしてくるなー。
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