私のこれまで、そしてこれから〜国会議員秘書として、弁護士として、都議会議員として 講師:五十嵐えり氏

東京都議会議員の五十嵐えりさんは、中学生のときに不登校となり、10代のころからさまざまなアルバイトをされてきました。そのなかで弱者の人権が侵害されているということを実感し法曹を志されます。司法試験合格後、議員政策担当秘書を経て、弁護士登録。現在は、都議会議員として活躍されています。「司法試験に合格して人生が180度変わった」という五十嵐さんに、これまでのご経験、そして都議会議員として感じていらっしゃることを伺いました。[2022年3月5日@渋谷本校]

フリーターの経験から法律や権利の大切さを知る

 私が政治を志した原点は、不登校になったこと、そしてフリーターとして働いた約10年間の経験です。中学2年になったときにいじめに遭い、その頃から学校に行くのをやめました。その後はレストランでアルバイトをしていたのですが、2年ほど働いたある日、店長から「明日から来なくていいよ」と言われたのです。法律を勉強しているみなさんはご存じだと思いますが、これは労働基準法違反ですよね。解雇するのなら一カ月前には予告するか、一カ月分の手当を支払わないといけません。しかし、当時の私にはよく分からなくて「次のアルバイトを探すしかないか」と家に帰りました。しかし、中卒資格しかなかったので、次の仕事を探すのがとても難しかったのです。

 そこで労働基準監督署に駆け込んだところ、労働基準法違反だと教えてもらいました。署からアルバイト先に通知がいき、私の銀行口座には一カ月分の給料が振り込まれることになりました。こうした経験は珍しいことではありません。同じように働いている周りの友人たちにも、働いたのに給料が振り込まれないとか、10分遅刻したら一万円の罰金だと言われている人がいました。そこで私が思ったのは、法律や自分の権利を知らないと搾取されてしまうんだ、ということです。

 その後も、クリーニングの配送やスーパーのレジ打ち、4トントラックの運転手など、いろいろなアルバイトをしましたが、「知識がないと自分も友人も家族も守れない」という気持ちがあり、勉強したいと思っていました。中学では不登校になりましたが、勉強はもともと好きだったのです。それまでの経験から法律の知識は絶対に大事だと思ったので、司法試験を受けることを目指して、24歳で静岡大学の夜間主コースに入学。昼間は派遣のアルバイトなどをしながら4年間、法学部で学びました。ちょうど法科大学院ができた頃だったので、28歳のときに名古屋大学の法科大学院へ進学。伊藤塾生になったのも、このときです。司法試験に合格したあと、弁護士登録はしないで国会議員の政策担当秘書になりました。

 政策担当秘書というのは、主に国会議員の立法活動を補佐する仕事ですが、なぜそれを選んだかというと政治に興味があったからです。政治を近くで見たいと思っていました。日本社会は自己責任社会だと思うんですね。「大学に行かなかったのは、あなたの責任でしょう」「勉強しなかったのは自分で選んだことでしょう」と言われてしまう。でも、夜間大学に通うなかで、勉強できる環境は実はとても恵まれたものだと感じる経験がありました。

 夜間大学のときに外国籍の同級生がいて、とても頭が良く授業でも積極的に発言していました。でも、将来について話をしていたとき、私が何気なく「大学院に行って弁護士を目指したい」と言うと、その子は「あなたは大学院に行きたいと気軽に言えていいね。僕の家はお金がないから行けないな」とポロッと言ったのです。学びたいのに、優秀なのに、家庭の事情で学べない――それは私にとって大きな衝撃でした。社会にとってももったいない損失だと思います。周りの友人には親から「女の子は大学に行かなくていい」と言われている子もいましたし、私が見てきた社会には、たくさんの「差」がありました。でも、いまの日本社会では、なんでも自己責任にされてしまう。そのことに違和感を覚えましたし、その違和感をぶつけられる仕事が政治だと思ったのです。

「おかしいことはおかしい」と言うために都議会議員に

 政策秘書の仕事をしているときに、国会では「共謀罪」法が強行採決されたり、森友・加計問題が起きたり、財務省の公文書の改ざんもおきました。財務省が公文書の改ざんを認めたと携帯に速報が入ったとき、これで本当に政権交代が起きると思って鳥肌が立ったのを覚えています。しかし、結果として政権は倒れないどころか財務大臣も辞めない。どう考えてもおかしいと思います。また、議員会館で働いていると、周りがエリートばかりだということを感じます。それに議員の女性率もすごく低い。このままだと社会はよくないほうに進むのではないか、自分の感覚も鈍くなっていくのではないか、と危機感をもちました。それで4年務めた政策担当秘書をやめて、普通の生活に近づこうと弁護士になったのです。

 弁護士業務で忙しくしている2021年の2月頃、友人に武蔵野市から東京都議会議員選挙に立候補してみないかと誘われ、非常に悩みましたが挑戦することにしました。ちょうどコロナの影響が広がっていたときで、有名人の自殺のニュースがあったり、女性の自殺が増えたりしていました。私は議員秘書をしていたときからボランティアで若い女性たちからの相談をLINEで受ける活動をしていたのですが、コロナ禍が始まって「親が家にいて暴力を振るわれる」「家庭に居場所がなく、学校に行っても友達からいじめられて死にたい」というような相談がとても多くなっていました。

 大変な生活をしている人たちがたくさんいて、憲法25条の生存権や基本的人権すら守られていない厳しい現実がある。おかしいことはおかしいと言いたいし、何もしないで過ごすのは嫌だと思ったのが、選挙に出ることを決めた理由です。結果、一人区の選挙区を2万6878票の得票で当選し、都議会議員になって半年が経ちました。

 議会には本会議と委員会があります。この半年の間に本会議の一般質問にも立ちましたが、委員会でも自分の経験を生かして、女性の働く環境支援や自殺対策、貧困対策などの質問をしてきました。都政の魅力は、予算規模が特別会計も含めて約15兆円と大きいため、国の事業に上乗せして都独自の事業や支援を行うことが出来ることです。たとえばコロナ禍が広がった直後、お店などへの時短要請に対する協力金制度は東京都が一番初めに行いました。そのあとに国でも同じ仕組みが出来たのです。また、小池都知事は今年の秋にもパートナーシップ宣誓制度を導入すると言っていますし、来年からは、高校生への医療費無償化をまだ実施していない区市町村分も含めて、都が医療費を負担するとしています。こうしたことの影響力はとても大きいです。

議員であり、弁護士であることの意義

 まだ私は議員になって半年ですが、弁護士でもあるということは、行政の運用が憲法に適合しているか、法律に則った運用ができているかなどをチェックできる(=行政監視機能が高まる)点において意義があると思っています。たとえば、いま国ではコロナ対策のために感染症法を改正する話が出ていますが、そもそも東京都では現行の感染症法すら適切に使っていないのではないかと思う場面がありました。

 2021年夏にコロナの第5波が起こり、東京オリンピック・パラリンピック中の8月21日には自宅療養者数が2万6409人になりました。病床が足りなくなって、救急搬送でたらい回しにされることが起きていたのです。こうしたときのために、感染症法16条の2第1項では、都道府県が全ての医療機関に病床を空けること等の協力を要請できる規定があります。しかし、東京都がその措置をとったのは8月23日。それまで、私は東京都に対して何度も部会などの場で、「感染症法に基づく協力要請を発動してほしい」と言っていましたが、東京都担当者は「それは政治的判断ですから……」などと言って発動しませんでした。この間に亡くなった方もいますし、もっと早く協力要請すべきだったのではないかと私は考えています。いま、定例会でも文書質問していますし、引き続き追及して、第6波、第7波に備えて、検証と改善を求めていきたいと思っています。

 法律の適正な執行に疑問をもつことは、ほかにもあります。たとえば、地方自治法179条に基づいて、議会を招集する時間的余裕がないときに自治体の長は緊急を要する議決を処分できる(専決処分)のですが、東京都はこれをずっと濫発していて、条例なども専決処分で作っています。コロナ対策の虹のステッカー(感染防止徹底宣言ステッカー)なども小池都知事が独断で決めた施策です。しかし、本当に効果はあるのか、事業者にとってどれぐらい負担なのか、お店の感染症対策の担保をどうとるのかなどのチェックが必要だと思いますし、そのために議会があるはずです。大きな予算規模を持つ自治体なのに議会も通さずに自治体の長が独断で決めてしまっては、議会の存在意義がなくなってしまいますので、都に対してはきちんと議会を通して専決処分を濫用しないように求めています。

 また、都知事はコロナ禍の当初、「東京都をロックダウン(都市封鎖)する」と言って都民を震えさせました。しかし、どんな法的根拠があるのでしょう。ご存じの通り、東京都にも国にも、欧米のようなロックダウンができる権限はありません。私は根拠なきロックダウン、私権制限を安易にすべきではないし、ちらつかせるべきでもないと思います。病床の確保すら早期に行わなかったのに、なぜ国民の権利や自由の制限する方向ばかり、前のめりで勇ましいのか疑問でなりません。行政として、憲法や法律をしっかり守ってくださいと言い続けたいと思います。

憲法を通して政治をチェックする

 「パートナーシップ宣誓制度」導入についても、東京都は条例で作ると言っています。今年の秋導入予定です。2月14日に総務委員会で示された条例の素案を見ると、申請が原則オンラインでできたり、子どもがいる場合には証明書に名前を入れられたり、さまざまな方の声を聞いて努力して作られたと思います。しかし一方で、疑問ももちました。「双方またはいずれか一方が性的マイノリティであり、互いを人生のパートナーとして、相互の人権を尊重し、継続的に協力し合うことを約した二者」が、都知事に対してパートナーであることを宣誓するという内容になっています。これを見た瞬間に違和感しかありませんでした。パートナーシップ制度を使いたい2人が「お互いに相手の人権を尊重します」と都知事に宣誓するのでしょうか。尊重すべき責任があるのはむしろ都知事ではないでしょうか。

 憲法24条でも、婚姻は両性の合意のみによってできると書いてありますし、婚姻届を出す際に「お互いの人権を尊重します」という宣誓文を書かされることはありません。なぜ同性カップルだけこういう宣誓が求められるのか、私には理解できません。異性のカップルと同性のカップルとの間での不平等が生じていると捉えれば法の下の平等を定めた憲法14条の問題にもなりますし、この制度を使うために宣誓させられていると捉えることもできます。そうなると思想・良心の自由を保障する憲法19条違反になるでしょうか。まるで司法試験の問題のようですが、このようなことが現実にあるのです。人権や基本的な価値を学んでいれば「おかしい」と言えます。細かいかもしれませんが、このような点をきちんと改めて、憲法の価値に則った法制度を作っていくべきだと考えます。この問題については、同僚議員とも問題点を共有し、委員会で質問をして改善を求めていきたいと思います。

 また、東京都では男女平等参画推進総合計画を5年おきに定めているのですが、来年度からの計画のための素案が示されたときにも、やはり違和感がありました。性暴力表現等への対応の部分に関する部分の「表現の自由を十分に尊重しつつ表現される側の人権や性暴力表現に接しない自由、マスメディアや公共空間において、不快な表現に接しない自由にも十分な配慮を払うべき責任を有している」という文言です。怖いなと感じたのが、「マスメディアや公共空間において不快な表現に接しない自由」というところです。

 表現の自由は広く保障されているとはいえ、それとは別の話ですよね。「不快な表現」とは何でしょうか。「不快な表現に接しない自由」が侵害されたといえば、その表現はしてはいけないのでしょうか。この文言は悪いように解釈しようと思えば、いくらでもできるのではないでしょうか。すぐに都の担当者を呼んで説明を求めたところ、根拠としたのは平成12年の内閣府の計画とのことでしたが、さらに調べるとすでに内閣府では修正されているものだとわかりました。その後、東京都担当者を呼んで何度も議論しましたし、パブリックコメントでの批判的な意見もあって、この表現はなくなりました。

 私は野党という批判的に見ることが許される立場なので、憲法的にここは問題があるのではないかということを日ごろから言わせてもらっています。当たり前ですが弁護士というものは憲法の条文を知っているので、政治の場でも「これは本当に人権を守る運用か」と確かめることができるのです。

「改憲のための改憲」には反対する

 次に、これから何が起こるのかを少し考えてみたいと思います。2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻しました。ニュースやツイッターなどを見ていると「他国に攻撃されないよう核兵器を持つべきだ」、「憲法9条を改正すべきだ」とさまざまなことが言われています。

 では、国会議員たちは憲法改正について、何と言っているでしょうか。昨秋の衆院選以降の発言を調べてみました。たとえば岸田総理は総裁選告示の1週間前、9月10日に「憲法改正は絶対に必要」と明言しました。さらに12月の所信表明でも、「現行憲法が今の時代にふさわしいものであり続けているかどうか、我々国会議員が広く国民の議論を喚起していこう」と呼びかけています。それまで自民党の中に憲法改正推進本部というものがありましたが憲法改正実現本部と名前を変えてタスクフォースを置き、全国の自民党支部に講師を派遣して憲法集会を開くとしています。

 自民党の人たちは、衆院選で憲法改正への支持が得られたように言っていますが、本当に私たちは憲法改正を争点に投票したのでしょうか? コロナ対策を争点に投票された方もいたかもしれません。そもそも与党が憲法をちゃんと守ってきたのかと考えると、2015年の安保関連法案が出た際には、衆院憲法審査会に呼ばれた3人の有識者は「違憲」だと言っていました。しかし、安保関連法案は国会で数の論理で強行採決されてしまいました。憲法53条違反もあります。安倍政権時の2017年6月、野党が森友・加計問題の真相究明を求めて臨時国会の召集を要求したのに、政府与党は98日間にわたって応じなかったのです。現政権に本当に憲法を守るつもりがあるのか、私は懐疑的です。

 ほかの政党はどうかというと、日本維新の会は、国会で憲法改正原案をまとめて改正を発議して、参院選の投票と同じ日に国民投票をしたらいいのではないかと言っています。国民民主党も参院選後の3年間の国政選挙がない時期に国民投票を行えばいいのではないかと言っています。一方、立憲民主党は、憲法の趣旨に照らして「改憲のための改憲」はしないと言っています。私は、憲法改正は「どうしても憲法改正しないと不都合があるとき」に行うものだと習いました。必要があれば変えるべきだと思いますが、安易に変えるものではなく、ましてや改憲のための改憲はありません。今年の参院選が一つの山場であり、国の方向性を決める国政選挙になると思います。

政治家に対して「憲法を守れ」と言うこと

 自民党は具体的な憲法改正案をすでに提示しています。9条を改正して国防軍を保持する、内閣総理大臣を最高指揮官とするなど、ホームページで提示されているのでぜひ見てください。自由及び権利を保障する12条、21条の表現の自由も改正しようとしています。これらが何を意味するのかということを、法律を学ぶ者としてきちんと理解し判断しなければいけません。政治家には憲法尊重擁護義務があるはずですが、憲法の条文をちゃんと勉強していない政治家もいることは事実です。ですから私たちは、自分の人権を守るために政治家に対して「憲法を守れ」としっかり言わなければいけません。もし憲法違反があった場合には選挙などで意思を示していかなければいけないと思います。当然、私も議員として守っていきます。

 今は社会が非常に不安にさらされている状況です。このようなときこそ歴史から学ぶべきだと思います。権力者の言動には要注意です。もし権力者が憲法や法律なんて守らなくてもいいとなったら、平和や民主主義、法の支配は全く意味を成しません。それはやっぱりおかしい。私たちは平和のために論理や法の支配、民主主義、そういったものを守らなくてはいけないと思います。私は底辺にいましたが、一生懸命に司法試験の勉強をして、それによって本当に人生が180度変わったと思っています。私の根底にある価値観は、やはり自分の経験と憲法を学ぶなかで培われたものであり、それはとても大切なものです。みなさまもぜひそんな価値を身につけて、各方面でご活躍する皆さんと憲法を守るという取り組みを一緒にしていければと思います。

いがらし・えり 1984年、愛知県名古屋市生まれ。 中学2年のときに不登校になり、高校には進学せずにアルバイトで働く。高卒認定資格を取得後、静岡大学夜間主コース入学。名古屋大学法科大学院(既修者2年コース)入学。30歳で司法試験に合格。 2015年、参議院議員事務所に入所して政策担当秘書となる。 2019年、同事務所を退所。 2020年、弁護士登録。弁護士として刑事・民事事件を扱うほか、原発被災者弁護団としての活動や若い女性対象の生活相談などに取り組む。2021年、東京都議会議員選挙(武蔵野市選挙区)にて初当選。

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