第141回:永久保存版! ありがちな質問に答える、都市の再開発問題Q&A!(松本哉)

 

 数年前、このマガ9でも紹介した通り、東京・高円寺では再開発問題がクローズアップされている(高円寺再開発についてはこちらも参照)。もちろんこれは高円寺の問題なので、他の地域の人からしたら「ふーん、大変だねー」ぐらいにしか思わないかもしれない。それに、地方なんかでは巨大ショッピングモールが建ち始めて駅前商店街が寂れたり、対抗して駅前も大規模開発をしたりして昔ながらの街並みが消えていく問題などはもう20年ほど前から起きている。今ではネット社会に押されてそのショッピングモール自体も下火という新展開に入っているぐらいで、「今さら商店街の危機とか言ってるの? うちの街なんかとっくにもう滅んだよ」ともよく言われる。
 しかし、高円寺を含む東京・中央線エリアにまでその開発の波が押し寄せているというのが、結構驚くべきこと。このエリアはゴチャッとした街並みで昔ながらの商店や若者が開いた独特な店が無数にあったりして、ローカルな地域コミュニティとサブカルチャーやカウンターカルチャーが混ざり合っているという完全な特殊エリア。開発されて整然としてきれいサッパリした街とは正反対の文化圏として今でも人気のあるエリアだ。にもかかわらず、充分に盛り上がって賑わってるその街をわざわざ再開発して、ありきたりなどこにでもあるような街に近づけていくという、あまりのセンスのなさに愕然とするばかり。それ、逆に街が寂れるよ。
 もちろん高円寺は再開発(大通り計画)に反対する人がほとんどなので、そこまでは進んでいない状態だけど、周辺の中央線エリアではかなり強行的に再開発が進められてるところもあるし、都内や他都市の各所でも似たような状況の街は多い。特に再開発でいい街並みが潰されようとしているところは、「防災のためにはしょうがないんじゃない?」とか「気持ちはわかるけど時代の流れだからねー」みたいな空気感で押し切られる感じのところが多いけど、ちょっと待て〜!! それって、金を儲けたい開発屋とか大仕事をして名を残したい政治家が、人を丸め込むための常套手段の決まり文句。本当にそうなの? と、一度落ち着いてその問いをあらためて考えてみよう。
 ということで、今回は再開発問題でよくありがちな質問を、Q&A形式で考えてみよう〜。再開発問題を抱えている町で、その話題になったとき、たいていこういう話が出てくるしね。ただ、これは自分が勝手に答えてるだけなので、模範解答ってことではないので悪しからず。とりあえず参考までに〜。あと、高円寺の例で書いてるけど、それを自分の街に当てはめて読んでもらえれば!
さあ、行ってみましょー。

Q:他の街は開発されても知ったこっちゃないけど、高円寺だけは守りたいんですが…。
A:甘い! いま進んでいる再開発計画は道路計画だったりエリア全体の開発が念頭あるので、全部が繋がっている。それに、高円寺の街だけ守っても、周辺の他の街が全部クソつまらない街になってしまったらいずれ高円寺も陥落してしまう。特に中央線一帯は各エリアが独特なローカルな面白さがあり、「中央線文化」としても知られ、国内外を問わず中央線エリアを目指して遊びにやってくる人たちが絶えない独自の文化圏。高円寺単独で守れるものではなく、周辺のローカルな面白いエリアと網の目のように繋がってこそ謎すぎる高円寺が守れる。周辺地域も変な開発が進まないようにすることは大事だし、それに、周辺がつまらなくなったら遊びに行く場所も少なくなり、籠城戦のように自分の街に閉じこもることになり、そうなったらあまりいい未来はなさそうだしね。隣町とは一蓮托生だね〜。

Q:行政側は「住民の合意が得られるまでは街の再開発はしない」って言ってるので、これは事実上の中断宣言では? いやー、よかったよかった!
A:確かに現時点では反対が多く再開発が実行できない状態でも安心ではない。例えば高円寺も「すぐにでも大通りを作る工事を着工する!」という状態にはない。ただ、これは表向きに動いていないだけで、水面下では土地を持っている人などをはじめ一部の住民に対して、道路を通した方がいいという説得(洗脳に近い(笑))をし続けてる。そして、実際に高円寺で生活してる街の構成員のほとんどは、アパートに住んでいたりテナントで店舗を借りて営業しており、そういう人たちの耳には、行政側からの説得工作の情報がほとんど入ってこないのが現状。そして、一部の住民の説得が完了して合意が得られた時点で計画は表面上に現れる。行政側としては、「住民の代表と合意が得られた」とするけど、一般の人たちにとっては「そんな話聞いてねーよ」という状態になることが定番のパターン。しかし、それは時すでに遅し。
ということなので、「合意が得られるまでは〜」というのは時限爆弾状態の一番危ない状態。単に計画の進行が遅くなってるだけで、中断はしていないということ。
やはりここは、市長なり区長なりが「再開発、道路計画に反対」と明言してるかどうかを見極めれば、ゆっくり進んでるのか中断してるのかが判明します。

Q:「再開発反対!」って、普通は着工が始まった時にいうことじゃないの? 気が早いんじゃない?
A:計画が表面化したらすぐに土地の買収や工事が始まる。そうなったら、工事現場から邪馬台国の古墳でも出てこない限りは、止まることはレア。その時点では、すでに役所内でも全ての計画が決定され書類も作成されてるし、工事業者などとの契約も全て済んでいる状態なので、それを引っ込めさせるのは至難の業。間違いなく意固地になって推し進めてくるはず。なので、計画がまだ水面下で動いているうちに「それ、要らないよ」と言い続けて水面上に浮上させないことが超大事なタイミング。
世界中の多くの再開発反対運動って、だいたい決まって実行され始めるって時に開始されがちなので、勝率がかなり低くなっている。やはりここは先手必勝。計画がまだ水面下の根回しの状態の時に「いやいや、それ要らないよ」ということが大事。そう、お風呂場のカビと同じで、早め早めに拭き取っておくのが一番。
それと、謎の説得工作が進む前に、実際に土地を持ってる人たちの耳に声が届けば、「街の人たちが反対してるしなあ…」と、土地を売りにくく思う人情ある人も少なくないはず。

Q:火災などもあるし、防災のためには再開発は必要なのでは?
A:大通りを作れば防災度が上がるのは確か。でも、昔からそうやって大通りがどんどんできてきたわけだし、まだ足りない、まだ足りない、と、際限なく道路計画が出てくることに。で、そんなこと言い出したら最終的にはモンゴルの大草原みたいな状態にならないと完全な安全は訪れないことになる。どこまでやれば安心なのかを決めずに、次々と巨大道路計画が出てくるんじゃ、もう信用ならない。
そもそも街を壊して安全を追求するっていうのは本末転倒もいいところ。街の特色や賑わい、活気を維持したまま、どうやって安全な状態に近付けるかというのが防災のあり方のはず。具体的には、路地にも入るポンプ車を増やしたり、建て替えの際には燃えにくい材質を使うよう促進したりというやり方も実際に進んでる。普通に考えたら、まずはそっちの方向に全力で力を注ぐのが筋のはず。

Q:渋滞の緩和になるなら再開発で道路整備、いいんじゃない?
A:いま日本の人口は減ってきているし、新型コロナでテレワークも増えてきていて、物流はともかく、それ以外は何でもかんでも移動すればいいという時代でもなくなってきてる。ましてや高円寺は徒歩圏での街やコミュニティが成立しているところで、むしろ次世代の町づくりのモデルケースとして扱われてもいいぐらい。それをわざわざ壊して、ひと昔前の人たちが憧れた車優先社会を導入するという、謎の古くさいセンスには驚くばかり。
そんなに渋滞緩和というなら、まずは会社の重役や天下り団体の謎の役員などが、用もないのに車で出社して仕事してるフリをして帰るような、あいつらを止めるのが先決だね〜。

Q:駅前の八百屋や魚屋の前とか高架下の飲み屋通りとか歩きにくくて嫌なんだけど。
A:慣れれば大丈夫です。それに、ああいうゴチャっとしたところこそが街の人たちが作ってきた風景で、それは一度無くなったら二度と戻らない。急がば回れ。急ぐ時は空いてる道を選んで歩くのが街の歩行術。デパ地下の食料品売り場で「こっちは急いでるのに、歩きにくい!」と怒っても意味がないのと同じで、急いでるからって、自分の都合だけで文句を言うのは粋じゃない。そう、街は通路ではない。
あ、それと、文句言ってた人に限って、再開発できれいサッパリしちゃったら「昔はよかった」とか言い出します。

Q:そもそも高円寺はどこもかしこもゴチャゴチャして訳わからない店や人が多いのがウザい。再開発してもっと表参道みたいなオシャレな街になってほしい。
A:早めに表参道に引っ越しましょう。

Q:自分のような社会常識に忠実で素晴らしい道徳感あふれる人間からしたら、高円寺のような謎の価値観で生きているような訳わからない人たちばっかりの街、嫌なんですけど。再開発でもなんでもして無くなってほしいです。みんなもそう言ってます(←自称常識人は必ずこれを付ける)。
A:高円寺が無くなったら、その訳わけわからない人たちが居場所を失ってあなたの街に行くことになります。そうならないためにも協力をお願いします。

Q:結局のところ、再開発反対って自分の街さえ良ければいいっていう運動?
A:失礼な! でも、半分図星かも。例えば高円寺の人たちや、高円寺が好きで遊びに来る人たちは、他の街にはない高円寺独特の雰囲気や空気感が好きでこの街にいるので、「中野や吉祥寺が滅亡しても、高円寺だけはこのままでいてほしい」という思いを持ってる人は多いと思う。
ただ、別の質問でも触れた通り、この計画もまぐれで高円寺に登場した計画ではなく、東京中、日本中の大きな流れの中の一環としての高円寺再開発計画。もっと言えば世界的な流れで、街を整然と作り替えて大型の商業施設も建て、たくさんお金が動くような街にすることが再開発界では流行ってる。この流れは海外では「ジェントリフィケーション(Gentrification/紳士化)」と呼ばれ、街がきれいで小金持ちの感じになる代わりに、金を産まなそうな味のある店や街の独特な人間味がなくなっていく。そして、そんなジェントルマンな街並みとは全く正反対の最後の砦のような高円寺にまでその波が押し寄せてくるということは、世界的に問題になっている街のジェントリフィケーションがついにここまで来たかっていう、象徴的な出来事。高円寺にしろ他の街にしろ、単独で起きていることではなく、金もうけメインの町づくりか、人間の生活メインの町づくりかっていう、もはや哲学の問題。「自分たちさえ〜」という地域エゴとは無縁の問題ですね。

Q:キレイな方がいいじゃん! ゴチャゴチャしてるの嫌じゃん!
A:キレイなのつまんないじゃん! ゴチャゴチャしてる方が楽しいじゃん!

Q:じゃ、どうやったら再開発を止めて高円寺の街並みを守れるの?
A:この道路計画は東京都の都市計画道路なので、都がその計画をなくせば自動的に止まる。ただ、現在は杉並区にその権限が移っているので、「東京都の計画を、委託された杉並区が実行する」という状態。なので、杉並区が「やらない」と言うだけで完全に止まってしまう。都道府県もそうだけど、市区町村というのは国で言えば大統領制のようなシステムで区長の権限が非常に強いので、区長が「やらない」ということが超重要。東京都に対して「区民は望んでないんで、その計画要らないから」と、言い続ければ、そこで初めて計画が中断する。すでに書いた通り、現在の「住民の合意が取れるまではやらない」というスタンスは、「合意が取れたらやる」ということなので、着々と水面下で進んでいるのを容認することになってしまう。なので、自分の街の再開発計画を決定する権限が誰なのかが分かれば、そのポジションの人に「反対」という立場に立ってもらえればいい。
もちろん、最終的には土地を持っている人が売らなければ道路はできない。でも、さすがに彼らにその決断を押し付けるのはかわいそう。人によっていろんな事情を抱えてる人も多いしね。やはりここは、議会や市長、区長が反対の立場に立つことが最重要っていうこと。

Q:デモとかパレードなんかやっても意味ないだろ。そんなヒマあったら選挙行けよ(上から目線のおじさん口調で)。
A:いや〜、そう一筋縄にはいかないんだよね、これがまた。まず、選挙っていうのは、その候補者の政策をトータルで選ぶので、個別問題では選べない所が欠点。例えば、政策は素晴らしいけど暴言やパワハラ、賄賂など素行が最悪な候補者と、人間は素晴らしいんだけど、政策がトンチンカンで苦情殺到の候補者の一騎討ちだったらすごい困る。または「街の文化や伝統は守るけど、別に弱者は救わないよ」って人と「文化とか意味ないから街なんて全部ぶっ潰してOK、でも貧困は無くす」みたいなねじれてる時とか。
もっと言うと、都合の悪いことや小さな問題など選挙の争点にすらならない。なので、実際に町で反対の声が上がってはじめて、それが争点になってくる。高円寺の再開発問題にしても、実際ここ10年20年の間は水面下では進んでいるにもかかわらず、計画はないもののように扱われてきた。そうなったらもう誰が推進派で誰が反対派なのかもはっきりしないまま議員や区長が選ばれることになる。パレードでも抗議デモでも、そういう目に見える形で再開発を必要としていない人たちの声を出すことで、初めて争点になる。もちろん選挙も大事だけど、その前に現職区長、対抗馬の候補者、議員の候補者など、全員に対して「やべー、再開発やるなんて言ったらとんでもないことになりそうだ!」と、事前にビビらせることが重要。
それともうひとつ。選挙はもちろん選挙権を持っている人だけが投票できる。でも実際に高円寺の街を作っている人たちの中には、実家から住民票を移してない人もいれば、外国人がやってるBARやレストランなどもたくさんあるし、長く高円寺に住んでる外国人なんて珍しくない。また、ローカルな話で申し訳ないが、中野区の大和町や野方1丁目あたりなど区境の向こう側は実質的に高円寺民だけど、杉並区の選挙権はない。与党も野党も選挙のことばかり考えてるからこういう人たちって置いていかれがちだけど、でも街単位で物事を考えるなら、そんな人たちの声を聞くことも町づくりにとっては大事なことだ。

西荻の再開発反対を訴える、BAR「三人灯」の頭目にして商店会長という謎の人物、水越氏の元を訪れて結託の謀議。

 さてさて、とりあえず適当に羅列してみたけど、こういうやり取りって、その辺の街の人たちとの世間話の中でたくさん出てくる。それに店なんてやってると、毎日のように初対面の人と知り合いになっていく。特にうちはリサイクルショップなので、引っ越してきた人が真っ先にやってくる店。そんな新たな高円寺住民たちは口を揃えて「いや〜、高円寺っていいですねー。商店街とか賑やかで。再開発とかもなくて昔の感じで雰囲気いいですね」なんて言ってくるので、「いや、これが実はあるんですよ〜、変な計画が〜」なんてやりとりは日常茶飯事。もちろんそんな時は立ち話程度だから、深くは話さないけど、たまに飲み屋なんかで謎に突っかかってくるオッチャンなんかに遭遇すると上のQ&A的な話になることもたまにある。
 いま、多くの街では実際にコミュニケーションが減ってきて、ごく親しい人との会話以外はほとんど交流がないなんてところもある。そんな状態だと、なんとなく「しょうがないんじゃない?」「時代の流れだし」みたいな安易な感じで再開発と街の改造が容認されちゃうこともある。それは本当に超もったいないこと。で、気づいた時には「昔はよかったんだよ。街に人のにおいがして」なんて言うことになる。それはダサい! その話、今しよう!
 ということで、みなさん、自分の住んでる街について謎の水面下の計画とかないか、ちょっと調べてみよう。で、それは世界中と繋がってる問題だから、全員で結託して「コラー、何勝手なことやってんだー!」と文句を言い出してみよう!!

4月21日(木)
「高円寺に再開発は要らないBAR」

5/15に行われる史上空前の規模のパレード資金調達BARです。この日の収益は全額パレード運営資金に回す予定です。飲みましょう〜。同時にカンパも受け付けます。
19時ごろから、なんとかBAR(杉並区高円寺北3-4-12)にて!

5月15日(日)
「やっぱり高円寺に再開発は要らないパレード」

14:00 高円寺中央公園集合
15:00 パレード出発(バンド、DJも出ます)
 演奏:ねたのよい、下町Boys、アニキ ほか
18:00〜24:00 After Party 高円寺 Studio DOM にて
※抗議デモというより、まだまだ高円寺に再開発される気配がないことを祝う祝祭的なパレードになる予定です。攻撃は最大の防御。派手にぶちかましましょう〜

【カンパご協力のお願い】
高円寺に再開発は要らないパレードは商業イベントではない為、開催費用はすべて主催者の自腹+皆様からのカンパで賄っております。ご協力何卒よろしくお願いします!

『SAVEKOENJIゆうちょ口座』
口座名 SAVEKOENJI
記号 11360
番号 17743981

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。