第207回:あらためて「原発」を考える(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

少なくなった「原発報道」

 ウクライナ戦争は、もはや泥沼。
 軍事ジャーナリストや国際問題専門家等の人たちの間では「収束には数年かかるだろう」という意見が多い。現に23日、ぼくが司会した市民TV「デモクラシータイムス」の番組「ウィークエンドニュース」でも、田岡俊次さんや布施祐仁さんは「停戦に至る道筋は見えない。イラク戦争やアフガン戦争の例を見ても、戦争が終わるのには数年以上がかかるだろう」との見解を述べておられた。無力感に襲われる。

 いま世界の目はウクライナに釘付けである。ぼくでさえ、すっかりウクライナの地図が頭の中に染みついてしまった。都市の呼び方まで、少し前のキエフがキーウになり、チェルノブイリがチョルノービリと変わり、あのオデッサさえオデーサだという。映画『戦艦ポチョムキン』で描かれた「オデッサの階段」は、まだぼくの記憶に鮮烈に残っているというのに。

 こんな激動に隠されてしまったか、このところ「原発」に関連するニュースが、めっきり減ってしまった。大きな地震が起きた時「〇〇原発については、現在のところ異常は確認されておらず、周辺の放射線量にも変化はないとのことです」とアナウンサーがオマケのように読み上げるだけ。しかし、実際には福島第一原発などでかなりの影響が出ている。
 例えば、3月16日夜の宮城・福島での震度6強の大地震の際、福島第一原発2号機では、プールの冷却水のタンクの水位が低下、原子力規制庁は警戒事態の態勢に入っていた。決して「異常が確認されていない」わけではなかったのだ。

 原発関連ニュースの報道がどんどん小さくなる。ほかに伝えなければならない重大なことが頻発するから仕方がない、という言い訳も聞こえるけれど、それで「原発事故」が忘れ去られてはならないとぼくは思う。
 だから、小さな新聞記事(TVにはあまり期待していない)や雑誌、ネットの原発記事などを、ぼくは目についた限り拾い集めてツイートすることにした。このコラムでも、時折、それをまとめて発信しようと思う。

超小型原子炉の開発

 最近、もっともギョッとしたニュースがこれだ。4月18日に日経新聞がネットで配信した記事。先週のコラムでも書いたけれど、もう一度タイトルだけでも挙げておく。

トラック輸送可、超小型の原子炉
三菱重工30年代にも
地下に設置、事故リスク減

 記事では日経らしく、安全性やら利便性、経済性などをしきりに強調しているが、使用後の核廃棄物の処理方法については、一切言及していない。使い終えれば原子炉ごと回収するというが、その回収した原子炉の処理はどうするのか?
 30年代に商用化し、25年間の稼働を見込むということだから、早ければ2055年~60年ごろには、原子炉や使用済み核燃料の処理が必要となる。そのころには、安全で完全な核廃棄物処理方法が実現しているとでもいうのだろうか? 大災害が起きた場合などに現地に持ち込んで、安全性を確かめた上で地中に埋めて稼働させるというのだが、津波が襲ったらどうなるのか?
 さらに心配なのは、これを船舶(特に潜水艦)などの動力にするなどという「軍事転用」の恐れはないのか。いや、それこそが本当の目的なのではないかと、ぼくは疑うのだ。商用化するというのだから、当然、海外への輸出も視野に入れているだろう。とすれば、軍事転用は……。

処理を外国へ丸投げ?

 日本で最初の原発が稼働したのが1963年10月26日に稼働した茨城県東海村の動力試験炉「JPDR」である。それからすでに60年近くが経っている(ちなみに、この10月26日は「原子力の日」とされている)。
 だが、60年経っても有効な核廃棄物の処分方法は確立されていない。青森県六ケ所村の「再処理工場」は、1993年に工事を開始したが、これまでに25回もの竣工延期を繰り返しており、いまだにいつ完成するのかその目途はたっていない。しかも、工事費用も当初予定の7600億円から、いまや2兆9500億円にまで膨らみ、それでも完成しない。実際、完成(するかどうかも分からない)までに、あとどれほどの費用が必要なのか、当事者たちもよく分からない状態だ。それはそうだ、いつ完成するか予想もつかないものの費用など、計算できるはずもない。
 この超小型原子炉は、放射性廃棄物を増やすことに貢献するばかりで、その処理など後輩たちに任せます、という無責任さなのだ。それに、安全だと胸を張るけれど、あの「原発絶対安全神話」なるものが、どれだけデタラメだったかは、福島原発の有様を見れば一目瞭然ではないか。
 では核廃棄物はどうするか?
 以下は東京新聞の記事(4月17日付)である。

原発の大型放射性廃棄物3種、
5万トン国内処分未定
海外処理へ制度変更 政府検討

 原発の廃炉後などに放射性廃棄物となる大型機器三種類について経済産業省は海外業者に処理を委託できるよう制度見直しを検討している。その三種類は現在使用中を含め、全国の原発に計五万七千三百三十トン(三月末時点)あることが、電力各社への取材で分かった。(略)日本では処分場所は決まっていない。
 外為法の通達では放射性廃棄物の輸出を原則禁止しているが、経産省は相手国で利用されることを条件に通達で例外規定を設けることを検討している。三種類は、原子炉の熱で発電に使う蒸気をつくる蒸気発生器、原子炉に戻る水の温度を上げる給水加熱器、使用済み核燃料の貯蔵や輸送に使う機器。(略)

 普通に考えて、日本で使い古した原発機器を喜んで買い取る国があるとは到底思えない。長年使った機器は、経年劣化や放射線に晒されて脆弱化しているはずで、それを「買い取る」には、それ相応の「うまみ」が付随しているのだろう。
 日本国内で処理できないものを他国(多分、途上国?)に輸出する。ここにも利権の臭いがする、と思うのはゲスの勘繰りだろうか?

温暖化対策という隠れ蓑

 しかもこの原発、しきりに「脱炭素電源」と言い立てる。世界に広まったカーボンニュートラル、つまり温暖化を防ぐために炭酸ガスを排出する化石燃料の代替エネルギー源として「原発」を再認識しようということだ。
 このように原発関係者たちは、何かにつけて原発を持ち出す。そんな原発推進の陰で、阻害要因になる再生可能エネルギーには、冷たい。
 例えば、こんな記事(朝日新聞4月12日付)。

東北電も再エネ一時停止
太陽光発電増 使いきれず

 東北電力は10日、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの受け入れを一時的に止める「出力制限」を実施した。9日の四国電力に続き全国3例目となった。
 太陽光発電が増えて、時期によっては地元で電気を使いきれなくなっている。(略)
 東北電は10日午前8時~午後4時、太陽光と風力発電所の計21カ所からの電気の受け入れを停止した。制御量は11万キロワットで、供給力の約1%に相当する。(略)

 むろん、風力や太陽光は自然に左右されるため、なかなか需給のバランスが難しいとは言われている。しかし、これは送電網が各電力会社に独占されていることも大きい。送電網を開放することで、電力の融通はいまよりもっとうまくいくはずである。そうなれば、需給のバランスが今よりスムースにとれることになり、再生エネのストップなどという事態も少なくなることは間違いない。

電力会社の体質は変わらず

 そこへまた、許しがたいニュースが飛び込んできた。東京新聞(4月26日付)によればこういうことだ。

地元了承ないまま処理水工事準備
東電、海洋放出計画でトンネル掘削機設置

 東京電力は二十五日、福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水を浄化処理後に海へ放出する計画を巡り、沖合一キロの放出口まで海底トンネルを掘る「シールドマシン」を発進場所に設置した。放出に向けた設備計画は原子力規制委員会の認可前で、立地自治体による着工の了承もまだ得ていないが、東電は同日の記者会見で「工事に向けた準備。問題ない範囲は先行して進める」と説明した。(略)
 すぐにでも着工できる状態となった。(略)
 二十五日には放水口を造る準備も開始。二十九日にも海底の掘削を始める。(略)
 規制委による設備計画の審査の議論は終わったが、東電は内容を踏まえて修正した計画を規制委にまだ提出していない。(略)
 トンネル掘削の着工には福島県と大熊、双葉両町の了解も得る必要がある。

 なんとも恐れ入った東電の姿勢だ。
 工事準備に入るなら、少なくともすべての手続きを終え、立地自治体の了承も得、さらには地元漁協などとの話し合いの決着の後、というのが筋だろう。それらを吹っ飛ばして「もうすぐ規制委の了解が得られるはずだから、地元の納得はその後でもいい」と考えたとしたら、もはや企業倫理のかけらもない。規制委も甘く見られたものだ。
 そこのけそこのけ、原発さまが通る……という意識で、反対する者たちを蹴散らしてやってきた長年の体質が、まだ色濃く残っているのかもしれない。

 ぼくの「原発ファイル」は、すでに48冊目に達している。こんな記事がつまったページを繰ると、ほんとうにカネとドブ泥の臭いが立ち上ってくる気がする。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。