第210回:議員らの好みは「れっか丼」?(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

気分は、もう……

 行くあてのない旅をしている気分だ。何ひとつ思うように運ばない。
 かつて『海の向こうで戦争が始まる』(村上龍)という小説があった。海の向こうで始まった戦いの火はおさまらず、それに乗じてぼくらの国は戦いの準備を始める。大きな、勇ましい声が飛び交っている。

 「戦争に備えろ」
 「戦争がやって来る」
 「ほら、南の島々の周辺がきな臭い」
 「ミサイル防衛のための基地をもっと造れ」
 「北の大地に戦車が上陸するかも」
 「とにかく戦争が近い」
 「やられる前に撃て」
 「敵の基地だけではなく司令所も叩け」
 「気分はもう戦争だ!」

 そういえばそのものズバリ、『気分はもう戦争』(矢作俊彦、大友克洋)という漫画もあった。ある種の人たちはもはや「戦いの狼煙が上がった」という気分でいるようだ。
 党内では「穏健なリベラル派」と目されていたはずの首相さえ、来日したバイデン米大統領に、軍備増強をすんなりと約束してしまった。
 そして、ウクライナへは支援として、合計6億ドルもの借款を申し出た。日本円で750億円を超える金額だ。その金はいったい何に使われるのか。人道援助という触れ込みだが、兵器や弾薬に使われるのは防げない。金に色はついていない。
 ズブズブといつの間にか戦争に組み込まれていくぼくらの国。

「右」へ倣え

 それを、手を叩いて喜んでいる一群の人たち。他国の戦争に乗じて「憲法を変えよ」「軍備の増強を」「軍事費をGDP2%超とせよ」「愛国心だ!」…との声高の主張が、この7月の選挙でも巨大な街宣車から流れるだろう。
 それは与党だけではない。いまや野党(?)もまた「右ヘ倣え」の状態だ。まさに「右へ」だ。こんな記事(朝日新聞21日付)

国民 公約に「原発再稼働」
立憲と差別化「打撃力」も明記

 国民民主党は20日、参院選公約を発表した。これまで挙げてこなかった原発建て替えの容認や自衛のための打撃力の整備を掲げた。政権・与党内の議論と重なる部分がある内容で、他の野党とは差別化を図る狙いがあるとみられる。(略)
 玉木雄一郎代表は20日の会見で「専守防衛は維持する」とし、「戦争をさせないための抑止力、攻撃を受けた際の反撃力は必要だ」と説明した。(略)
 自民党は敵の指揮統制機能などを攻撃する「反撃能力」の保有を政府に求めており、党内では建て替えを含む「原発回帰」の動きも強まる。国民民主は政府予算案に賛成するなど「与党寄り」の動きを見せているが、玉木氏は「与党に近いか遠いかで政策判断したことは一回もない」と強調した。

 原発の「建て替え」まで丸ごと飲んだ。玉木代表がどう言い訳しようと、「気分はもう与党」である。
 「反撃能力」論などちっとも新しくはない。いつだって戦争は「相手が攻めてきそうな兆候がある。自国を守るために戦う」という理屈で始まる。小さな出来事を「すわ、攻撃だ! 反撃せよ!」と騒ぎ立てて、小競り合いだっただけのこと(それも、謀略で始まるケースが多い)を拡大させて本格的な軍事衝突に至る。それは歴史が証明している。玉木代表は、まるで歴史から学んでいない。
 国民民主党から「国民」がとれて「自由」がくっつくのは、もうすぐだろう。

“劣化な”人々

 折も折、その国民民主党の大塚耕平政調会長が“とんでもツイート”で炎上。
 大塚氏はツイッターで「ロシアの現状に鑑み、北海道の道路標識にロシア語表記があることは問題だと思う。なぜこうなったのか調べる」と書き込み、北海道内の道路標識画像を添付した。どう見たって、これは排外主義的、差別主義的な主張だ。各地にある「ロシア料理店」に、心無いヘイトスピーチを浴びせているネット右翼たちと同程度の、いや、それ以下の悪しき差別主義。
 さすがに批判殺到で、大塚氏はツイートを削除した。
 だが、「誤解されるリアクションがあった。いったん削除し、安全保障上の観点だということを理解していただく努力をしたい」と釈明しただけで、反省やお詫びの言葉はなかったという(共同通信5月20日配信)。
 ここにも“劣化な”人がいる。絶望的になる……。

 政治家たちの劣化具合は、他の「野党もどき党」に顕著だ。
 スキャンダルの宝庫とまで言われてしまっている「日本維新の会」で、またも飛び出した。この党の石井章参院議員(全国比例)が、参院栃木選挙区に立候補予定の維新の新人女性候補について「顔で選んでくれれば一番をとる」などと発言。ここまでくると、劣化度も相当なもの。もはや呆れて言葉もない。
 当然ながら、女性蔑視、ルッキズム、外見差別などと強い批判が殺到、石井氏は苦しい言い訳をしているけれど、これが本音なのだろう。それが「維新の本音」でないことを、切に祈るしかない。

 維新、まだ続きがある。女性議員の岬麻紀氏(比例代表東海ブロック)だ。前の参院選に出馬した時の選挙公報に載せた「非常勤講師」との肩書が、実は経歴詐称にあたると問題になり、刑事告発までされる事態となった。
 釈明会見を開き「亜細亜大学と杏林大学で、過去に講義したことがあるので『非常勤講師』と記したが、両大学に問い合わせたところ『非常勤講師には当たらない』との回答があったので、この記載を取り消す。認識が甘かった」と述べ、議員報酬1カ月分を“寄付”することにしたという。いったいどこへ“寄付”するのやら?
 松井一郎維新代表も会見に応じたけれど、「あのー、あのー…」とまったく歯切れが悪く、ほとんど弁明にもならなかった。それでも岬議員を除名するとか党員資格停止にするといった処分は行わないとした。
 これでは、ウソをついてでも当選した者勝ち、ということになる。
 “鉄火丼”なら美味しいだろうが、“れっか丼”では臭くって鼻が曲がる。

超大物議員も“劣化”の仲間入り

 でもまあ、こんな下っ端議員のさまざまなスキャンダルなんか、かわいいもんだと思うしかない。大物、それも日本でも指折りの超大物議員にはかなうまい。
 日本政治の根幹、立法府である衆議院議長の細田博之氏だ。
 元通産官僚で自民党所属。そして、自民党最大派閥の細田派(清和政策研究会)の会長も務めていたという人物だ。現在は安倍晋三氏に派閥会長を譲ったけれど、大物ぶりは健在。その大物が、なんと“文春砲”をまともに食らったのだ。
 時事通信によれば、こうだ(5月22日配信)。

野党、衆院議長セクハラ疑惑で攻勢
自民は補正への影響懸念

 (略)19日発売の週刊文春は、細田氏が女性記者に私生活を尋ねたほか、深夜に「今から来ないか」と電話で誘ったなどと報じた。細田氏は「全く事実と違う。週刊誌には厳重に抗議したい」と否定。自民も議運委理事会への議長の文書による説明で火消しを図りたい考えだ。
 細田氏は発言が物議を醸してきた。衆院小選挙区定数の「10増10減」の見直しに言及したところ、野党の反発を受けて陳謝した。立民幹部は「議長の資質に欠ける。不信任を出すべきだ」と主張する。(略)

 仮にも政治の最高府の議長殿が、いったい何をやっているのかと呆れるばかり。しかも問題はセクハラだけではない。ほかにも深刻な問題が絡む。
 国会が決めた衆院小選挙区定数の見直しを、当の国会議長自らが否定する発言を繰り返していることだ。これは、安倍晋三氏の地元の山口県の選挙区が1減になることへのおもねり。つまり、安倍氏の顔色を窺うという、政治家としてはとても卑しい言動、大盛りの“れっか丼”である。議長など、すぐに罷免すべきだと思う。

原発推進の旗振り役

 実はぼくは、この細田氏を以前から警戒していた。細田氏は、自民党内でも屈指の“原発推進派”なのだ。ことあるごとに「原発再稼働、新増設推進」を主張して止まない。
 例えば、共同通信の配信記事(3月15日)がこう伝えている。

速やかな原発再稼働を要請
自民議連、ロシア侵攻で

 自民党の原発推進派議員でつくる電力安定供給推進議員連盟(会長・細田博之衆院議長)は15日、停止中の原発を速やかに再稼働するように政府に要請した。ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格や電気料金が上昇し、安定的な電力供給に影響を及ぼす恐れがあるとして再稼働が必要だと訴えた。
 議連に所属する議員らが萩生田光一経済産業相に決議書を手渡した。議連メンバーである自民党の高木毅国対委員長は「安全最優先でしっかりと再稼働を進めていただきたい」と求め、萩生田氏は「再稼働が円滑に進むよう国も前面にたつ」と応じた。

 「出来レース」とは、こういうことを言う。恥ずかしげもないパフォーマンス。前にもこんな傾向をこのコラムで批判したけれど、こういうのを「火事場泥棒」という。チェルノブイリ原発のロシア軍の占拠により、どんな危機が生じたか。少しでも調べてみたら、原発の危険性が身に染みていてもいいだろうに。
 細田氏はほかにも、「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美会長)の最高顧問にも就任している。
 さらには、少し前になるがBSフジの番組で「福島の不幸で原発を止めるのは、耐えがたい苦痛を将来の日本国民に与える」「日本は今ガラパゴス化している。原発再稼働をしようと世界中が言っているのに、日本だけが遅れている」「世界の潮流から取り残されている」などと繰り返していた。
 つまり、国民の間でかなり議論の分かれる事象に、一方的に片方の意見を言い立てる。立法府議長という、公平に議論を進めていくことを旨とする立場にありながら、一方的にどちらかに偏った意見を繰り返す。とうてい議長の資格はない。
 ぼくは前々からそう思ってきたが、このセクハラスキャンダルが噴出するに及んで、即刻罷免要求すべきだと確信するようになったのだ。

またも安倍晋三氏

 いずれにしても、国会議員たちの“れっか丼”ぶりは底知れない。
 折も折、バイデン米大統領がやってきて、岸田首相からがっぽり金を巻き上げて、ニコニコ顔で帰国していった。議員も議員なら首相も首相だ。
 そこへ図に乗ってしゃしゃり出てきたのが、またも安倍晋三氏。岸田首相が「防衛力強化」をバイデン大統領に約束したとの報を受けてすぐ、都内の講演会で「防衛費は6兆円の後半、財源は国債で」などとペラペラ。無際限に国債を発行して、そのツケは後の世代へ回しておく。もうこの男に話をさせちゃいけない。こんないい加減な政治なら、ほんとうにサルだってできる。

 でも、そんな連中を選んでいるのは国民なんだものなあ…。
 行先の分からぬ船に乗せられて、ぼくらはどこへ行くのだろう?

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。