第142回:コロナで街のコミュニティが広がり、路上の反乱が発生 ー高円寺再開発問題ー(松本哉)

 

 いやー、春になったと思ったら夏になってきて、そろそろ街に繰り出したい季節。
 そこへ、前回も書いた通り、我が街、東京・杉並区では区内各所で街の真ん中に大通りを通しまくるという再開発計画が着々と進んでいる。現時点では道路計画から始まっているが、いま日本中で行われている再開発って、人が集まって金をジャンジャン使うようなピカピカの商業施設があって、でかい通りを通して車中心社会にして、バブル以前の価値観が忘れられない人たちの憧れの的=タワマンをぶっ建てるという、もう昭和の遺物のような古くさい発想で、もう逆にみすぼらしくて見てられない。杉並一帯もそんな世界的な流れの渦中にある。
 と、そんな時! その再開発問題に大きな影響を及ぼす区長選挙が6月に行われるという。なんだ、そうとなったら、やはりここは街に繰り出して「ふざけんな!」と文句を言いまくって、現職・対抗馬を問わず、区長選に出ようなんていう魂胆の奴ら全員をビビらせておくしかない。巨大道路を通したり、くだらないビルなんか建てて街を壊そうもんなら、どんな目に遭うかわからないってぐらいに思わせとかないといけない。政治家なんてどいつもこいつも体のいいこと言ってても目の前の金に目が眩んだりして悪いことやり出したりしかねないし、仮にいい政治家だったとしても、やる事が多すぎて忙しいあまり、重要なことをどんどん後回しにされてほったらかされる可能性だってある。ということで、「おまえら、区長になるのはいいけど、変なことして街を壊したらタダじゃおかねーぞ」と、連中に再開発問題は重要課題だってことを思い知らせておかないといけない。
 とは言っても、高円寺に関しては反対が根強く、まだ着工できない状態には押しとどめているので(裏では地味に根回しが進んでいるけど)、別に抗議デモをやってもしょうがない。ということで、再開発されてない状態がいかに楽しい街かっていうことを全開に訴えまくる祝祭的な大パレードを開催することになった。いやー、初夏にふさわしいね。いや、これは景気がいい。

新型コロナのおかげで街の人がみんな友達に!

 で、パレードが行われることになったんだけど、その前に話しておかねばならないとても重要なことが一つある。この新型コロナが到来してからすでに2年以上が経つが、こいつのおかげで、みんな死ぬほど友達が増えたっていう謎の事実だ。「ええっ!? 普通はコロナで友達ができなくて困ってるんじゃないの?」と思うかもしれない。会社員や学生だったらそうかもしれないけど、街が職場でもある商店主をはじめ、そんな店などを出入りして遊んでたり飲み歩いてたり生活してる街に根を張って生きてる人たちってのは、またちょっと違う。逆に、コロナでイベントも飲食店もなくて手持ち無沙汰になったせいで、身近な人たちとばかり会うようになった。特に去年や一昨年などの規制の厳しい時などは本当にみんなヒマで、でもみんな大人しく家にいるのは退屈なので、貪欲に情報を集め出す。で、どこかに集まってるらしいって話を聞いたら用もないのに顔を出してみたり、公園で缶ビール飲んでるだけなのになぜか情報が自然と広がって人が集まってきたりする…遊びだけじゃなくて、店や仕事、生活などで困ったことがあったら街の知り合い同士で助け合って作業を手伝ったり情報交換したりもし始めた。しかも仲のいい人だけじゃなくて、友達の友達の友達の…、と謎の人脈が広がりまくっていって、高円寺で店をやってる人同士もどんどん知り合いになっていく。さらに常連のお客さんたちはいろんな店をウロウロするので店の人を繋ぎ、店主同士の交流からお客さんもどんどん行動範囲が広がっていく。コロナ以前は仕事も遊びもみんな忙しかったけど、コロナ禍中はやたら手持ち無沙汰感があったので、それが拍車をかけた。いやー、ヒマって大事だねー。

 そう、そんな人の繋がりがやたら広がったコロナ期間を経ての久々の街頭大パレード企画なので、盛り上がらないはずがない。しかも自分たちの基盤中の基盤である街のローカル感を守るための行動なので、それを聞きつけた人なんかが続々と集まってきて、気付いたら街の商店主たちを中心に、高円寺で活動するアーティストやミュージシャン、飲んだくれから留学生まで70人近いスタッフが集まり、なんだかんだと準備を始める。
 そして、街の人っていうのはみんな何かしら手に職のある人たちばかりなので、やることが早い。屋台を作ろうって話が出たら大工をやってる人が「自分作れる!」とすかさず道具一式を持って現れるし、パレードでライブやDJやろうってなったら、普段遊んでる人たちが瞬時に名乗りをあげ、そしてすかさず近所の音響屋さんや音楽スタジオの人たちが機材の手配をやり始めるし、普段からイベントの装飾をやってる人たちがやたらかっこいいステージのデコレーションをやりはじめたり、写真家の人たちは「写真撮ります!」とカメラ持って集結するし、フライヤーやポスターを作ろうってなったらアーティスト、デザイナーたちが手慣れた感じで作ってくれて、あっという間に数種類のかっこいいポスターが出来上がる。出演予定のミュージシャンなどはいつの間にかパレードのテーマソングを作って「この曲自由に使って!」と提供してくれるし、留学生たちは続々と宣伝を各国語に翻訳してネットに上げてくれる。普段飲み屋をハシゴしまくって飲んだくれてるやつらは役立たずかっていうとそんなことはなく、日常の飲み歩きと同じように毎晩ウロウロしてるのでいろんな情報を直接伝達してくれたり新情報を入手してくれたりするし、フライヤーもハシゴ酒のついでに高円寺中にばら撒いてくれる。そんな飲んだくれの彼ら、彼女らの情報力はネットやSNSよりもはるかに早く的確かつ強かった。う〜ん、すごい!
 スタッフも別に固定メンバー制でもなんでもないので、とりあえず会議でも作業でもワラワラ集まってきてやる感じだけど、ほんといろんな人がいる。年齢層は、商店主たちはやはり30代40代ぐらいが多く、そのお客さんたちは20代30代が多い。もちろん飲んだくれチームには40代50代もいるし、重い腰を上げてたまに気になって様子を見にくる街の長老衆は60代70代。男女比も半々ぐらいだし、留学生や日本で働いてる外国人もちらほらいて、欧米の人たちから台湾や中国、韓国などから東南アジアまで、いろんな出身地の人たちが「選挙権はないけど、高円寺が好きだから」と、手伝ってくれる。人の感じも様々で、オタクがいれば不良もいて、パンクからヒッピーから肉体労働者もいれば学者やインテリもいるし、完全に脈絡がない。なんなんだこれはと思うけど、よく考えたらみんな高円寺に住んでるか深い関わりのある人たちばかり。そう、「高円寺」でみんな繋がってる。
 なるほど、これが「街」ってことか!

全世界の街の高級化(ジェントリフィケーション)を阻止!

 高円寺が街一揆の様相を呈してくると、他のいろんな街からも「うちも状況は一緒だ! 手を組もう!」と、同盟の申し入れの連絡が続々とやってくる。文字や電話口だけで物事を進めるのは嫌なので、連絡が来るとすぐに「じゃ、今から飲みに行きます!」とすぐに飲みに行ってみると、なんだか知らないけど一瞬で仲良くなってすぐに同盟成立(笑)。そんなことで、すぐに西荻と葛飾・立石の再開発反対の人たちと手を結ぶことになった。で、立石の潰れる寸前の立ち飲み屋で「すでに我々は三都市になったからこれは世界規模の乱だ〜」とか酔っ払って言ってたら、気づいたら本当にそういうことになって、ここはやはりいつもの大風呂敷作戦で、西荻・高円寺・立石の全世界一斉蜂起を名乗ることになった。
 そうなったらもう調子に乗っちゃって「世界の再開発を全部止める」「世界中で再開発に苦しんでいる人々は杉並区役所前に集結せよ!」とか大風呂敷に大風呂敷を重ねてたら、練馬とか板橋とか南阿佐ヶ谷や大田区や神宮外苑など、再開発問題を抱えるところの人たちが続々と参加を表明。おおー、いいね! さすがに海外や遠方からは来ないけど、ちょっと世界に近づいた! そう、街をやたらこぎれいにして商業主義化する再開発って、各都市が単独で行われてることじゃなくて、何事も金もうけに主軸を置く今の世の中の構造からなってて、実は全部繋がってる普遍的な問題。各地の人たちが力を合わせることって結構大事なのかもしれないねー。
 よーし、世界同時反乱だ!!

各地に飛んで酔った勢いで再開発ふざけんな同盟を結びまくる。これは立石の飲み屋街にて。

久々の路上へ! 5.15「高円寺に再開発は要らないパレード」決行!

 そして5月15日の当日、まんまと晴れたこともあってパレードは盛大に開催される。もう準備の段階でやたらいろんな人たちが集まってああだこうだと作業を進めてきた段階で成功しかない状態だったけど、予想通り大成功。バンドやDJなどのサウンドカーが3台出て、それぞれ音楽のテイストやコンセプトが違う感じだったので、普段の自分の遊び方に合わせて参加できる。そして、その合間に移動式居酒屋の「呑んべえ号」が出動。「音楽で騒いだりもいいけど、やっぱ高円寺は呑み文化でしょー」っていう人たちは呑んべえ号周辺に集結し、ウーロンハイやレモンサワーを注文する。これもまさに日常。1人でプラカード持って歩いてる人もいたし、弁当食べながら歩いてる人もいた。このパレードのいろんなところを見てると、普段の高円寺の日常の光景が至る所に見えた。普段街で見かける人もたくさん見たし、ともかくひと目見て「あ! 高円寺だ!」って感じ。ま、書いても伝わらないと思うので、写真を多めに載せておこう。

パレード当日。早朝から準備を始めるが、みんな近所に住んでるので、続々と準備のために駆けつけてくる

これが伝説の居酒屋、呑んべえ号。この存在感は本当にやばかった!

パレード開始! 約1000人が集まり、久々の景気のいい路上の祭が出現!

“街”とは、地名でも駅名でもなく、人の群れのことだった

 冒頭でも書いたように、今回は抗議デモっていうより、再開発されてない高円寺がいかに楽しくいい街かを示して「再開発要らねー」っていうコンセプトを訴えるパレードなので、日常の遊びや生活が全開に出まくってたのがすごくよかった。そしてもちろん、バンドやDJ、スピーチする人、音響機材からPA、運転手から発電機まで、全部高円寺の近所の人や物ばかり。それをいろんな人たちが協力して作られてる。言ってみれば、おばあさんが近所に醤油を借りにいくようなことの延長線上にこのパレードが成り立っているようなもんだ。
 “高円寺”というのは別に単なる地名でも駅名でもなく、こういう人の繋がりのことこそを“高円寺”と呼ぶんだと思う。当然、今回のパレードに来てない人たちも含めて。そして、再開発をされていない状態だからこそ、その意味での“高円寺”ってものがまだ存在してる。でも、もしくだらない再開発で商店街がなくなり、でかい商業施設やタワマンができたりしたら、“高円寺”に無関心の人たちが大量に流入し、街の人々の関係性は一挙に薄れ、それこそ“高円寺”は消滅し、ただの地名と駅名としての空虚な「高円寺」が残るだけになってしまう。それは別の町でもそうで、“西荻”とか“立石”ももちろんそうだし、日本中や世界中の街に言えることで、その街をウロウロしてる人たちの謎の繋がりと人間関係と、そこから発生する謎の営みがその街の名前。人の営みが見えなくなった街は、もう“街”ではない。
 ま、そんなことで、今回のパレードは大成功。それは人がたくさん集まったとか楽しかったとか、そういう単純な話ではなく、“街”が街頭に出現したからだ。そして、今回の目的は、コソコソと再開発を目指す行政側に対して「高円寺には余計な再開発なんて要らないからね」と、あらかじめ言っておくこと。そして、新しく高円寺に来た人など再開発問題をまだ知らない人たちにその問題の存在を知ってもらうこと。
 これ、一回だけやってもしょうがないから、ちゃんと定期的にやっとかないとな〜。

パレードの大トリには大御所、梅津和時氏率いる烏賊様バンドがジャズ、ブルース、沖縄民謡などを演奏し、くだらない再開発構想にとどめを刺す。

飛び入り参加でギターをかき鳴らす高円寺在住の中国人留学生。「生まれて初めてデモを見た!」と感動しまくっている。

高円寺史上最強の存在感を出すバンド「ghettos」の演奏で高円寺は早くもカオスに!!(撮影:謎の写真家・濱口氏)

〈おまけ〉 謎の珍説! 田中良・杉並区長「再開発計画はフェイクニュース」

 さて、ここからは余談になるけど、謎の現象をひとつ紹介してみよう。
 景気のいいパレードの勃発はさすがに各所で話題になり、杉並区議会でも取り上げられたのだが、これがまた驚くべき展開に!!!!!!!
 「デモが起こったけど、再開発計画ってどうなってるの?」という趣旨の質問に対して、田中良区長の答弁は、なんと!「再開発計画なんてそもそも存在しない」と言い出した。杉並区のホームページに書いてある道路計画のことを「ない」ってどういうこと!? おまけに「選挙前になるといつもフェイクニュース流す政治勢力がいて迷惑してる」だと! コラー、何言ってんだ〜笑。っていうか自分が区長やってる区の商店主や住民つかまえて政治勢力ってどんな言い草なんだ〜! ま、この辺はただ再開発にケチつけられてムカついて言いがかりの悪態ついてるだけなんだろうから、それはいいや。
 ただ問題は「再開発計画は存在しない」という謎の説。よくよく質疑を聞いてみると質問が巧妙で、完全に茶番劇。質問者は区長派の自民党の区議で、質問時にわざと「(高円寺駅周辺を)面的に整備する計画はありますか?」と、線(道路)ではなく面(駅前開発)と巧妙に質問し、それに対しすかさず区長は「そんな計画はない! フェイクだ!」だって。バカにしてんのか〜!笑 まあこの質疑自体、区長と自民党区議が結託してるんだろうけど、要するに商店街を壊して大通りを作る計画のことを意地でも「再開発」と呼ばない作戦で、「再開発計画は存在しない」と言い張る手のようだ。…アホか〜!!!!!!! そんな手に乗るか〜!!! それって、八百屋にお使いに行かされた小学生が釣り銭チョロまかして「お釣りは存在しない。フェイクニュースだ!」とか言って逃げ切ろうとするけど、すぐバレて母ちゃんにぶん殴られるのと同じレベル! お釣りも再開発もあるし、そういう子どもだましはいいから、道路計画(=再開発)やりたいなら正々堂々と言えばいいじゃねーか〜。
 と、まあこんな体たらくな区長をどうするかっていう審判の日が、6月19日の杉並区長選挙。どうなるか楽しみだ〜。ま、どう転んでも“街”の反乱は終わらないけどね。

田中区長のあまりにふざけた態度に頭にきたので、高円寺からもサウンドカーや呑んべえ号が急遽西荻の再開発反対デモに参戦することに! 盛り上がってまいりました〜

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。