第219回:統一教会関係議員の「言い訳」集(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 ちょいと小咄を。
 かつて日本語でいちばん短い会話ということで、こんなのが流行ったことがある。
 「どさ」「ゆさ」
 青森地方の方言だとされているが、さてこれはどういう意味か。翻訳すると、
 「どこへ行くの?」「お風呂だよ」
 すると同じ東北、秋田地方から異論が出た。いやいや、おらほ(おれたちのほう)のが、もっと短いよ。これだ。
 「け」「く」
 おお、さすがにこれは短い。で、どういう意味か。
 「食べてね」「食べるよ」
 つまり、「け」は「食え」が、「く」は「食う」の短縮形である。なんでこんなに言葉が短くなったかというと、東北地方は寒さが厳しいので、口を大きく開ける話し方が苦手だった、という説もあるけれど、それが正解かどうか、ぼくは知りませぬ。
 まあ、軽い面白話である。しかしこれはこれで、きちんと会話が成り立っている。意味がスムーズに分かる。どんなに短くたって、言葉の意味さえはっきりしていれば、コミュニケーションは成立する。

 しかしペラペラと話は長いのだが、まったく話の筋が見えてこない一群の人たちがいる。政治家という類の連中である。その典型は、むろん安倍晋三氏だった。

 安倍氏の死のきっかけになったのは、どう考えても「統一教会」だろう。山上容疑者の成育歴が少しずつ明らかになっている。それを見ていくと、彼の憎しみが統一教会へ向かったのは必然だったように思われる。そして、その標的が安倍氏に転化していくのも分かる。彼が「統一教会」への憎しみを募らせ調べていくうちに、安倍氏にぶち当たったのは当然だ。なにせ、安倍氏はやたらと統一教会や関連団体のイベントに動画で祝辞や挨拶を送り、団体の機関誌に登場するのだから、彼の目にとまらないはずがない。
 容疑者の扱いについては、とても早い時期に、精神鑑定を行う「鑑定留置」が決定してした。それも4カ月にもわたるという。この素早い処置は、彼の犯行を「精神疾患」として処理し、統一教会と安倍晋三氏の関係等が裁判の場で問われないようにするためではないか。邪推と言われればそれまでだが、犯行後に漏れてきた彼の一連の言葉をチェックすると、かなり理路整然としていて精神的な異常さは感じられない。だから「精神疾患」ということにして、彼の供述にバイアスをかけ、真の動機を隠そうとしているのではないか、とぼくは「邪推」するのだ。

 自民党議員たちの統一教会との接点が、実は安倍氏の票のあっせんにあったとの報道がされている。とすれば、多くの議員たちが統一教会と深い関係にあったのも納得がいく。親分の言うことを子分が聞くのは当たり前だ。子分どもの言い訳がまったくリクツになっていないのは、親分を真似ただけだからだ。
 さまざまに統一教会やその関連団体と関連を持ち、選挙応援や後援会組織まで作ってもらった汚染議員たちの言い訳集は、悲しくなるほどみっともない。
 言い訳は、ほぼ以下のように分類できる。

1. 知らなかった編 ⇒ 統一教会関連とは知らなかった

 これがもっとも多い例だが、「イベントに参加したけれど、それが統一教会の関連団体だとは知らなかった」というもの。アホらしい。
 「天宙平和連合」という団体主催のイベントで、北村経夫参院議員(自民、元産経新聞政治部長)は元内閣府副大臣の江島潔参院議員(自民)に紹介されて壇上に上がり挨拶している。この件について、北村氏側は「関連団体とは知らなかった」と述べている。そんな言い訳が通るはずもない。これが元ジャーナリストだというのだから恐れ入る。団体の素性を調べることもできないジャーナリストなど、その名に値しない。
 少しネット内を泳いでみれば、これが統一教会系組織であることはすぐに分かる。ぼくだってたまには勉強会や小集会で話をしてくれ、と頼まれることがある。依頼してきた団体がどういうものかは必ず調べる。ネット上ですぐに確認できる。常識である。それもせずに参加するなど、政治家としての資格に欠ける。

2. 秘書が…編 ⇒ すべて秘書に任せていた

 これもよくあるパターン、というより議員たちの言い訳の常套手段。疑惑が発覚すると、すぐに「アレは秘書が…」と言って逃げ回る。病院へ逃げ込むヤツ多い。
 ところが、今回の場合、ここに落とし穴がある。統一教会信者を秘書にしている議員が相当数いるのだ。その「信者秘書」を通じて関連イベントに参加している場合もある。上部から信者に対して命令が下りてくる。その信者が「議員秘書」であれば、イベント実行委員長などにしてしまうことはいとも簡単だろう。「秘書が…」と言い逃れしようとして、その秘書の正体が分かり墓穴を掘ることになるケースもある。
 このケースでいちばんひどいのは、下村博文元文科相だろう。前川喜平元文科省事務次官は「統一教会が『世界平和統一家庭連合』に名称変更しようとの申請は、内実が変わらないからずっと拒否してきたが、下村大臣の時にあっという間に変更が承認された」と語っている。下村氏はそれに対し「あれは担当の文化庁の部長が承認したもの。私は一切知らなかった」と言い訳。疑惑議員の「秘書が、秘書が…」と同じ論法で逃げまくる。
 セコイ人、あんた、担当大臣だったでしょ!

3. 開き直り編 ⇒どこが悪いの? と開き直る

 もはや言い逃れできないとなると、この手を使う。
 岸信夫防衛相(安倍晋三氏の実弟)がその典型。岸氏は教団信者たちから、選挙協力を受けたことを簡単に認めた。その上で、「ボランティアとして手伝ってもらったのであり、それは別に悪いことではないから、これからもそういうお付き合いはあるかもしれない」と開き直った。統一教会の政治にもたらす悪影響などについては口をつぐんだまま。
 二之湯智国家公安委員長も関連団体のイベント実行委員長を務めた。国家公安委員長と言えば警察の総元締めである。その人物が、安倍銃撃の遠因ともなった統一教会の関連イベント委員長を務めていた。そして言い訳は「名前を貸してほしいと言うから貸した。それ以上の付き合いはない」と白々しい開き直り。それだけで即刻辞任だと思うのだが、自民党内からは責任を問う声が挙がらない。党自体が汚染されている。
 安倍元首相の政務秘書を務めたこともある井上義行参院議員(自民)は、教団の「賛助会員」であることを認めている。統一教会の教義と自らの政策が一致しているからだという。つまり「同じ考えだ、何が悪い!」との開き直り。では、統一教会の家庭崩壊をももたらす悪質な献金集めや霊感商法をどう考えるのか、についての言及はない
 そこへニューバージョン登場。福田達夫自民党総務会長だ。統一教会問題について「僕ははっきり言って、何が問題なのか分からない」。これはもう、開き直りの極致。批判殺到、慌ててゴニョゴニョと言い訳したけれど、後の祭り。何が問題なのか分からないヤツに政治家の資格はない。即刻、辞めちまえ!である。

4. だんまり編 ⇒ 何も言えず“だんまり”で時間稼ぎ

 この典型例が、細田博之衆院議長だ。前述の「天宙平和連合」のイベントでは、細田氏が壇上からさまざまな世界情勢の課題に言及し、日韓関係の改善などを呼び掛け、その上で「この集会の内容を、安倍総理にさっそく報告いたします」と、最高権力者の名前を持ち出して挨拶している。
 この件について、メディア各社は細田事務所へ教会との関係などを問いただしたが、事務所側は「回答は差し控える」の一点張り。
 細田議員のほかにも、だんまりを決め込んで取材や問い合わせには一切答えない議員が多数いる。彼らの辞書には「説明責任」という項目がない。

5. ウソをつく編 ⇒ ウソをついて逃げを図る

 このケースがいちばん多いように思える。
 茂木敏充自民党幹事長は、会見などで「自民党としては、統一教会とは一切関係はございません」を繰り返す。だが、ここまで自民党議員と統一教会の持ちつ持たれつの関係が暴かれてきた以上、その言い訳は通らない。もはや「ウソ」というしかない。
 すでに明らかになったことだが、安倍晋三元首相が「統一教会」票を、当落線上の候補編分配する権利(?)を持っていて、各候補へ配分していたという。とすれば、「自民党と一切関係ない」などと、どの口が言うのか、という話だ。
 時の首相、党総裁である人物が、統一教会票を権力維持のひとつの方法として使っていたのであれば、それは自民党が統一教会と密接な関係にあったことの証ではないか。茂木幹事長の会見での回答が「ウソ」であると言っていい理由だ。まあ、国会で118回もの「虚偽答弁」をしたと言われる安倍氏だから、その“薫陶”を自民党全体が受けていてもおかしくはないが。

6. おとぼけ編 ⇒ ソレなに? ととぼける

 これはもう、技術も思考も何もいらない。
 逢沢一郎衆院議員(自民)の場合。
 2018年に、岡山で開かれた統一教会の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁参加の大イベントに参加して「韓鶴子総裁の災害への高額なご寄付に感謝します」と名前を挙げて丁重に挨拶していたことを、記者に問われて「え、いつのこと?」と大とぼけ。さすがに、日時を挙げて問われると、やっと思い出したとでもいうように、「災害復興イベントだと思っていたので」とゴニョゴニョ。
 思い出せない、記憶にない、などととぼける議員たちもとても多い。しかし多くの場合、証拠の動画やイベントの模様がSNS上に残っているのだから、最終的には認めざるを得ない。「おとぼけ戦術」は、最悪の戦術ですよ、議員さんたち。

7. うやむや編 ⇒ 本質をごまかす

 なんだよ、その答え? というわけのわからない回答で、ことをうやむやにしてしまう、というのも、自民党のお家芸である。その例。
 木原誠二官房副長官は、岸田首相の懐刀と言われる人物である。その木原氏は、人を煙に巻くうやむや戦術を得意とする。2月29日の記者会見での、記者から「統一教会が反社会的勢力という認識は?」と問われての回答。
 「反社会的勢力を、限定的、かつ統一的に定義することは困難である」
 なんじゃコレ? 実はこれ、安倍内閣による閣議決定の文言とまるで同じ。以前からこうやって「閣議決定」で物事をごまかしてきた安倍内閣の悪弊が、こんなところで再び日の目を見たわけだ。この回答で、何を答えたことになるのか?
 しかし、これで黙ってしまう記者たちには「元気を出してくれよ」と檄を送りたい。菅官房長官に食い下がったあの望月衣塑子記者のように。

 言葉が通じない世界が政界であってはならない。
 「どさ」「ゆさ」でも「け」「く」でも会話はきちんと成り立つ。
 せめてその程度の言葉のやり取りでも、政治は分かりやすくなるはず。
 政治家たちよ、ぼくらにも分かる言葉で政治を語れ。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。