第238回:何をいまさら症候群(シンドローム)(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 最近、「いまさらそんなことを言うの?」と思うことが増えている。困ったもんだ。後出しジャンケン、言い訳としてもひどいパターンばかり。新聞をめくっていくと、そんな記事ばっかりが目についてうんざりする。これはもう、一種の「社会的な病気」じゃないかとさえ思う。
 そこでぼくは、こういう症例を「何をいまさら症候群」と名づけた。症例を適当にピックアップしてみる。

◎国葬のルール作り
(岸田文雄首相)

 岸田首相が6日、国会で「国葬ルール」に関し、有識者の意見等を踏まえ、国会で議論した上で一定のルール作りを前向きに考える、などと答弁した。
 国民の「安倍国葬反対」の声は、挙行直前には6割以上にも上っていた。二階俊博氏は「反対するヤツはバカ」「やってしまえば、みんなやってよかったということになる」などと言っていたけれど、挙行後の調査でも、依然として反対の声は6割を占めた。けっして「やってよかった」とはならなかったのだ。
 例えば、共同通信の調査(10月8、9日実施)でも、評価する36.9%、評価しない61.9%と、圧倒的に「評価しない」が多かったのだ。
 仕方なく岸田首相は「国葬ルールを作る」などと言いだしたわけだ。何をいまさら、である。それなら「安倍国葬」をやる前にルール作りに着手しておけばよかったではないか。何しろ、唐突に「安倍国葬」を言い出してから挙行まで、2カ月以上もの時間があったのだから、国会に諮る余裕は十分にあったはずだ。
 いまごろになって、批判の多さにすっかり怯えて「ルール作り」を言い出すなんて、ほんとうに「何をいまさら症候群」の典型である。

◎国葬参列は苦渋の選択
(芳野友子連合会長)

 思わず「ふざけんなよ」と言いたくなったのが、この人のお言葉。
 「国会の関与をおろそかにし、閣議決定だけで進めようとし、議会制民主主義や立憲主義を軽視。安倍政権以降の『一強政治のおごり』と言わざるを得ない」などと、いまさらながらの自民党政治批判を口にしつつ、自身の「国葬参列」については「今回の国葬には問題があるとの立場に立ちつつ、弔意を示す一点においての判断だった」とし、「苦渋の選択だった」とも言っている。
 芳野氏の参列については、連合内からも反対声明を出す組合が出るなど、反発も強かった。そのため、こんなみっともない「言い訳」をせざるを得なくなったのだ。
 自民党政府にベタベタとすり寄り、麻生太郎氏などから「お食事会」に呼ばれれば、嬉々として参加していた「労働者組織のトップ」の弁解である。苦渋の選択などと「何をいまさら」なのだった。
 付け加えておけば「苦渋の選択」と人が言うとき、ほとんどの場合、選択してはいけないほうを選んでいる。だから苦渋の選択とは、悪いほうを選んでしまったときの「言い訳」でしかない。芳野会長の苦渋の選択も、まさにその典型。だから、「何をいまさら症候群」なのである。

◎統一教会教義の賛同者は自民党にはひとりもいない
(世耕弘成自民党参院幹事長)

 開き直りもここまでくると、見苦しいを通り越して醜悪である。世耕氏は6日の参院本会議で、まず安倍晋三元首相と統一教会との関わりについて「教団と安倍元首相は真逆の考え」と全否定した。どこが真逆なのかわからないけれど、その上で、つい感情が激したのか口が滑ったのか、「この教団の教義に賛同するわが党議員はひとりもいない。わが党の政策に教団が影響を与えたことなど一切ない」と開き直った。あまりのことに、さすがに議場がどよめいた。
 おいおい、ちょっと待てよ。じゃあ、今までさまざまな形で明らかになり、自民党自体がやむを得ず“点検”(調査ではないそうです・笑)まで行ったのは、何のためだったのか。統一教会本部の大会等に参加して、〈マザー・ムーン〉だの〈真のお母さま〉だのと、背筋が寒くなるような言葉を吐いてすり寄っていた議員は、教義に賛同していたのではなかったと言えるのか。井上義行議員のように、最後の最後まで「賛同会員」だったと告白していた議員もいたではないか。
 世耕氏はそれでもなお「賛同者はひとりもいない」と強弁する。問い詰められれば「それは選挙運動のためであり、教義に賛同していたわけではない」とでも言い訳するのだろうか。あまりのひどさに、頭がクラクラする。
 言うに事欠いて「何をいまさら」の恥の上塗りをしたのが世耕氏だ。この人物のシンドローム、かなり重症である。

◎弁明は紙っ切れ
(細田博之衆院議長)

 いやはや、日本の三権の長である(はずの)国会議長の醜態ぶりには、呆れ果てて声もない。その名前を口にするだけでおぞましいのが、細田氏である。
 まあ、かねてから問題の多い人物ではあった。
 セクハラ疑惑も数々指摘されたが、それにも黙り通して知らんぷり。記者の問いかけには一切答えずに逃げ回っていた。ほかにも10増10減の選挙区割改革にも、議長という身でありながら不満を唱えて、安倍氏の山口県の区割りに口を挟むなど、常軌を逸した言動で批判を浴びてきた。細田氏は旧安倍派(清和会)の元会長だったから、安倍氏への忖度であることは間違いなかった。つまり、中立であるべき議長なのに、やたらと口を挟む小物感の強い人物だったのだ。自民党会派を離脱なんて、名目だけだったわけだ。
 細田氏は、議長として自民党から一応は離脱している、という理由で「党員“点検”」を免れていた。ところがボロボロと統一教会との癒着の疑惑が出てくるものだから批判が強まり、ついに自民党からの要請で“点検”に応じた。まあ、これも「何をいまさら」感が強いのだが、その回答がなんとA4用紙ペラ1枚。ふざけんな!の怒声が噴出したのも無理はない。
 そこで7日になって、2度目の“紙回答”。こっちはペラ2枚なのだから、おい、ふざけてんのかよ!である。
 前の回答で統一教会系集会に4回出席としていたものが、「点検したらもう4回出席」として計8回と訂正された。「何をいまさら」の2乗である。探れば探るほど疑惑が出てくる。その上、やっぱり直接の記者会見には応じないという。さらに別の疑惑が出てくるのを恐れているのだろう。
 こうなれば多分、残された手段は、疑惑議員の最後の切り札「入院」しかないだろう。何しろ「何をいまさら症候群」という立派な病気なのだから。その上でなるべく早く、議長席から降壇してもらうのが自民党にとってもいいと思う。
 むろん、それでも「何をいまさら」感は拭えないけれど。

◎国葬反対8割は大陸から → 大陸という言葉は使わない
(小林貴虎三重県議+高市早苗経済安保担当相)

 「安倍国葬」に関して、小林貴虎三重県議(自民)がツイートした「国葬反対のSNS発信の8割が大陸からだったという政府分析が出ている」が炎上した。それについて小林県議は「ツイートの根拠は、高市早苗大臣の発言」と明かしたのだ。高市氏が10月2日に、名古屋市内で開かれた「日本会議」の会合での講演で「政府調査の結果」として話した内容に基づいていた、というのだ。
 高市氏は、政府調査については否定した。しかしながら、日本会議での講演内容については「主催者が非公開で開いた講演内容をお話しすることはない」として、詳しいことには何も触れなかった。そして「私は『大陸』という言葉は使わない」として、小林県議の「大陸から8割という政府の調査結果」を否定した。
 「大陸」という言葉を使わなかったなら、どういう言葉だったのかを説明すれば済むだろうに、そこは頑として説明を拒否。講演内容が人に言えないようなものだったのか、逆に疑問は増すばかり。
 慌てたのは小林県議だ。「大陸から8割ツイート」を全面削除。そして会見を開き「不正確な情報だったので高市事務所に電話し、秘書の方に謝罪した」と述べた。ところが会見での具体的なやり取りでは、すべてがシドロモドロ、なぜそう思ったのか、どこが間違っていたのか、なぜ削除したのか…などという記者の質問にはまるで答えられない。さらには、自民党県連幹事長の指示で、削除を撤回に改めた。
 妙なウケ狙いのツイートをして、すぐに訂正・削除・撤回という「何をいまさら症候群」ではあるけれど、もはや錯乱状態で「何をいまさら症候群」の重症例となった。
 多分、どこかから圧力がかかったのではないか、という憶測が飛んでいるが、ぼくもそう思う。でなければ、あんな訳の分からない会見になるはずがない。とすれば、圧力をかけた人は誰か…だが、まあ容易に想像はつく。これが自民党の怖さです。
 またこの小林県議については、統一教会の有力な関連組織UPF(天宙平和連合)に五年間勤務していたという資料まで出て来ている。もはや言い逃れるすべもない。さっさと辞任することだけが残された道である。
 オマケだが、このドタバタ劇については、小池晃参院議員(共産党)が秀逸なツイートをしていたので、ついでにご紹介。

「大陸からって言ったんですか?」って聞かれて、「大陸とは言ってません(中国って言ったけど)」 命名「大陸論法」(フィクションです)

 むろん、上西充子法政大教授の「ごはん論法」のもじりだが、これはぼく的には、バカウケでありました。

◎記憶にはあるが記録にない
(山際大志郎経済再生担当相)

 とにかくアホらしいほどに「何をいまさら症候群」が自民党界隈では蔓延しているけれど、アホらしさの極致なのがこの人物。もうこの人が会見に出てくるたびに、思わずぼくの頬が緩んでしまう。さて、今回はどんな面白い言い訳をしてくれるのだろう、と期待に胸が膨らむ。会見の最初から「何をいまさら症候群」の、今度はどんな新しい症状が飛び出すのか、ドキドキしちゃうのであります。
 それにしても「韓鶴子総裁という方とお会いした記憶はあるが、とにかく事務所に記録がないので、点検の際は書かなかった」だとか「記録は1年をめどにすべて破棄しているので、詳しいことは分からない」、更には「ネパールへ行ったことは記憶しているが、統一教会の会議だったかどうかは憶えていない。報道でそうだと言われれば、それが正しいのでしょう」などなどなど…。
 聞いているこちらのほうが、ラビリンスの中を連れ回されている気分。すでに「何をいまさら症候群」の枠には収まらない症状である。

◎元二世信者の記者会見を中止せよ
(統一教会=世界平和統一家庭連合)

 日本外国人特派員協会が7日に開いた元二世信者の記者会見が、とんでもないことになった。小川さゆりさん(仮名)の会見の前に、なんと統一教会側から中止を求めるメッセージが届いていたのだ。それによると「彼女は精神に異常があり、安倍元総理の銃撃事件以降、それがひどくなり、多くのウソをつくようになった。だから会見は中止すべきだ」というような内容だったという。
 これまでさんざん教団のウソの会見を見せられてきた者にとっては、「何をいまさら」と言うしかないけれど、それにしても冷酷無残。教団にとって危険な人物とみなせば、「精神異常」と決めつける。こんなことを公にすることのほうがよほど「異常」だ。病名を本人の許可なく公表することは、確実に名誉棄損にあたる。
 小川さんは「その症状は夫と出会って4年前に治っている」と語り、涙を見せつつも毅然として会見を続けた。隣で支えるご夫君の態度も立派だった。
 しかもこの要求書には、小川さんの両親の署名まであったという。肉親を使って、その子を貶める。そんな非道な手段まで使うのが、果たして宗教団体と言えるのか。統一教会がかなりの窮地に立たされているという証左であろうが、それにしても酷すぎる。
 組織全体に「何をいまさら症候群」が感染してしまった。やることなすことが「何をいまさら」の悪例ばかり。もはや手の施しようがない。小川さんが会見で語ったように、「組織解散」を議論しなければならないところまで来ているのではないか。

 実を言えば「何をいまさら症候群」だけではなく、次のようなヤバい「シンドローム」も蔓延中だ。

◎別の症例「だんまり症候群」

 まるで唇が縫いあわせられてしまったかのように、一切、しゃべらない政治家の方たちもいる。実は、「何をいまさら症候群」よりもっとひどいのが、この「だんまり症候群」なのだ。その典型が細田博之氏なのだが、巷間噂されているのが、ジェンダーフリー・バッシングや性教育批判の先頭に立ってきた山谷えり子氏や、古くからの統一教会との関係を指摘されている大物の麻生太郎氏、菅義偉氏などの名前である。
 このシンドロームは、けっこう大物とされる政治家連中に多い。大物ゆえに、記者たちも遠慮して(怯えて)あまり突っ込もうとしないものだから、悠々と生き残って、政治の中枢に存在し続けている。

 それにしても、こんなひどい連中は「政治芸人」とでもいうしかない。だって、山際氏など、どんな芸人よりも笑える(笑っている場合じゃないが)のだからね。太田光さん、山際さんを番組にスカウトしたらいかがか?
 自民党の中枢にまで捜査の手が及ばなければ、やはりこの問題は解決しない。検察は、「東京“汚職”五輪」で手一杯なのかもしれないが、ぜひこの際、被害者救済のためにも、統一教会捜査に手を尽くしてほしいと思う。
 

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。