時間切れに追い打ちをかける「質問攻撃」
旧統一教会問題で露呈した「宗教二世」の実態、当事者の切実なる訴えを受けて、10月21日、悪質・高額な寄附、商品購入などの被害者を救済するための法整備を検討する4党協議会(自民、公明、立憲、維新)が立ち上がりました。立憲、維新は先手を打つ形で法案(特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済等に関する法律案)を共同提出していますが(17日)、議員数の上で当然、与党側の同意がなければ成立しないので、この立憲・維新案を叩き台の一つとして、今の国会会期(~12月10日)での立法を期すべく、会合が重ねられています。
しかし、報道されているように、全くと言っていいほど合意形成が捗っていません。とくに11月4日の第5回会合では、与党側は立憲・維新案に関する「54項目」もの質問を投げかけました。疑問点について理解し、納得するために相手方から回答をもらう行為自体は何も悪くありませんが、4日に示された質問は、立憲・維新案の中心概念である「特定財産損害誘導行為」(いわゆるマインド・コントロールを含む)の意義や寄附者に対する「特別補助」制度の内容など、協議の中ですでに論点対立が先鋭化しているものを蒸し返しつつ、法律が施行された後の運用面を含めて枝葉の細かい論点を付加しているものです。端的に言えば、質問というより、一方的にケチを付ける内容で、与党側からの逆提案を示していたり、早期に目指すべき合意点を具体的(前向き)に導こうとするものではありません。
項目数が54にも及んでいることからして、いかにも法制上の問題点が多く、採用できない内容であることを広く印象付けたいのでしょう。朝日新聞は「質問攻め」と評しましたが、さらに度を超え、相手方に直接、間接の作業負担、ダメージを与える「質問攻撃」に等しい振舞いと言うべきです。質問を受取拒否できない野党の立場を逆手に取りながら、協議のテーブルを野党側にひっくり返させる(新法断念による世論の批判を、野党側に向ける)陰湿な政治戦術ではないか、とさえ疑いたくなります。
質問を無視することもできない野党側は昨日(8日)の第6回会合で、「54項目」に対して一通り回答しました。現時点では明らかではありませんが、与党側は「回答の内容は我々の疑問に対して十分応え、納得できるものではなかった」として、のらりくらりの態度をさらに続けることでしょう。こう着状態のまま、本当に時間切れとなりそうな気配です。
自公案(与党合意)が未だに存在していない
4党協議会の進捗が芳しくなく、合意形成の可能性を決して楽観視できないのではないかと、当初からその予兆がありました。
第一に、法案の提出を内閣が行うのか、議員立法として行うのかを決めないで、協議会をスタートさせたことです。一択に絞らないため、結局、協議会において議員立法の方向性が一致しなくても、内閣が良しとする内容を「閣法」として提出し、成立させるという逃げ道が残されています(今回でいえば、消費者契約法等、現行法の改正に限って、寄附等の取消しができる期間を延長したり、公的相談体制を拡充する内容にとどめるものです)。この点、7カ月ほど前のAV出演被害防止・救済法の立案に当たっては、初めから閣法の道を断ち切って、議員立法で成立させることを前提に各党協議が始まっています。
第二に、法整備の具体的な内容に関する与党合意が整う目途が立っていないことです。象徴的だったのは、10月28日、自民党、公明党の消費者問題に関する政調担当議員が別々に総理官邸を訪れ、岸田総理にそれぞれの「提言」を手交したことです。いまだに、提言のレベルでさえ与党合意はなく、自公案が存在していません。
前述のAV出演被害防止・救済法では、ことし4月13日に自公PTが「基本的考え方」を急ピッチで取りまとめ、同月26日に法案骨子を了承し、野党側に提示しています。その後、与野党協議が鋭意進められ、立法が結実したことは記憶に新しいところです(5月25日衆議院内閣委員長提出、6月15日参議院本会議可決、成立)。献金被害者救済法の立案では、連立与党においてボタンの掛け違いどころか、第一ボタンさえちゃんと掛かっていない状態です。公明党の支持母体である創価学会を背景に、寄附規制が新たに敷かれることを敬遠しているとは、巷で指摘されているとおりです。見方によっては、自民党以上に公明党が立法に消極的であるように映り、先般の「54項目」の質問設定も、自民党が公明党に配慮、忖度したものでしょう。公明党は、経済対策、子育て対策をはじめ、前述のAV出演被害予防・救済法でも、すべて自党の力で一貫して主導し実現させたかのようなPRをよく行いますが(与党の一員なのである意味やむを得ませんが)、今回の件に関しては積極的な広報を行わず、余計な波風を立てないように押し黙っている感じです。
先送りは絶対許されない
残りの会期も考慮しつつ、仮に、4党協議会で成案が得られなければ、閣法として消費者契約法、国民生活センター法の改正案を提出し、成立させる段取りに移行するでしょう。野党側が求める新法の内容は、消費者契約法等改正案の附則に検討事項として明記し、さらに法案を審査する衆参消費者問題特別委員会の附帯決議の中に盛り込むことで野党側の説得を試みるのではないかと予想されます。まさに「事実上の先送り」であり、2023年の通常国会で成案を得るとしても5月、6月に入ってからになってしまいます。
しかし、被害者救済の観点で、今のタイミングでの先送りは許されません。政府が現在検討している消費者契約法の改正は、取消権の行使の期間(マインド・コントロールを受けての困惑状態から脱した時点から5年間)を一定期間延ばすなどの内容ですが、そもそも論として、マインド・コントロールから抜けない状態の人は取消権を自ら行使しないので(むしろ、高額寄附をするほど、教義に近づき自らは幸福になれると信じ込んでいる)、この意味での洗脳が強い人ほど、救済のスキームから外れてしまいます。消費者契約法(の改正)では、立憲・維新案にあるようなマインド・コントロールによる特定財産誘導行為を「違法」と定義づける制度を設けることができず、取消権が行使されない間は、家族等への二次被害が続いてしまうおそれがあります。「自分はいままで誤った教義を信じていた。寄附したのは間違いだった」と気付いた(気付けた)人の救済にはカバーできても、強力な信仰心を以て献金等をずっと続ける人は、箸にも棒にも引っ掛からないのです。
しばしば、立憲・維新案に対する批判として、「寄附を制限したり、一定額以上の寄附を特定財産損害誘導行為に当たるものとして第三者が取り消せるようにするのは、個人の自己決定権、財産権の保障の理念に反する」といったものが寄せられます。しかし、個人の自己決定権、財産権の保障の「間隙を突く」ように、旧統一教会のような組織が国内に蔓延り、高額献金、高額商品購入等の被害が広がった(政治、社会は過去数十年間、この悪しき実態を見過ごしてしまった)ことに思いを馳せるべきです。国会は今、これら近代法の諸原則に体当たりする覚悟が無ければ、将来にわたって実効的な救済は図れないということを肝に命ずる必要があります。
会期末まで残り1カ月となりました。今後、旧統一教会の解散命令の請求に向けた「質問権」の行使に話題に持っていかれそうです。しかし、それはそれとして、最後まで4党協議会の行方を見守るしかありません。野党側は、議論のテーブルをひっくり返したくて仕方ない心境であろうことは容易に想像できますが(誰か一人が短気を起こせば、政治的にはそれで終わってしまいます)、何とか堪えて、「人生を返して」と叫び訴える宗教二世その他の被害者が納得できる立法の実現に勤しんでもらいたいと思います。
最後に蛇足的内容ですが、国会改革の観点からは、いわゆる通年国会的な会期の設定運用を試みるべきです。通常国会の形式的延長によって「1月開会12月閉会」を原則とし、衆議院議員総選挙、参議院議員通常選挙が行われる場合、実施に必要な期間を閉会ないし休会(政治休戦)とするのです。法案審議だけではなく、議員の質問主意書の提出も国会の開会中でないと出来ない事情があり、行政監視強化の点で閉会の期間をできるだけ短くする必要があります。
今回、与党側が献金被害救済法の立案を時間切れで終わらせる戦術を狙うのも、元々、2022年二度目の臨時国会の召集が遅れた上、会期が2カ月余と短くなっている(無責任与党に堂々たる逃げ道を与えてしまう)からです。立憲ほか4会派は、内閣の臨時国会召集を「要求から20日以内」とする国会法改正案を共同提出していますが(10月3日)、通年国会的な運用も国会法の改正を視野に入れて取り組むべきです。
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(11月9日午前追記)
本稿を締めた後、自公党首会談(8日夕)のニュースが飛び込んできました。
岸田総理は会談後のぶら下がり会見で、内閣が主体となって今の国会に新法(案)を提出することを念頭に、その準備を加速する旨を表明しました。具体的な内容としては、①消費者契約法の対象とならない寄附一般について、社会的に許容しがたい悪質な勧誘行為を禁止する、②悪質な勧誘行為に基づく寄附について、取消しや損害賠償請求を可能とする、③子や配偶者に生じた被害の救済を可能とする、の3点を盛り込むとのことです。
以前は「政府内で検討し、今の国会で準備ができたものから法案を提出する」という国会答弁を繰り返すだけで、消費者契約法や国民生活センター法の改正(取消権の期間の延長、相談体制の拡充など)に留まるとみられていたものが、これらの法改正とは別の「新法」の制定に言及し、悪質な寄附等の一般的な規制ルールを整備する道を開いた点では、単純な「先送り」ではなく「前進した」と評価できます。
もっとも、閣法の選択を表明したことで、4党協議の進め方にも影響が出てきます。とくに野党側の提案をどれほど聞き入れ、採用するのかは不透明です。岸田総理の意向表明はあっても、政府案の具体的な内容が示されていません。いずれまとまる政府案を踏まえて、今までの協議の枠組みで継続していけるかがポイントです(野党側は今月14日までに法案の要綱を示すよう、与党側に要求しています)。前記②については、取消しや損害賠償を可能とするとしても、寄附は一回限りでなく複数回行われることがあり、それを予防するためには、立憲・維新案にある特別補助制度に従って、同意のない寄附を無効とする(寄附をさせない)とした方が効果が上がると考えます。
引き続き、4党協議の進展を見守りたいと思います。