岸田内閣が提出した「消費者契約法等の一部改正案」「不当寄附勧誘防止法案」(いわゆる救済二法案)の審議が6日から、衆議院の消費者問題特別委員会で始まりました。今日は、野党側の質疑、参考人質疑が行われています。
衆参3日間ずつの審議日程とされ、まだ衆議院段階ですが、参議院では会期末に当たる10日(土曜日)まで日程消化をして審議し、成立させるという話が出ています。一方で、参議院の審議日程に余裕を持たせるために、「数日間、会期を延長すべき」という話も急浮上しています(この場合、成立は14日?)。いずれにせよ、会期内で成立を図る点で与野党が一致しているため、「衆議院をいつ通過するか」が第一関門となります。
救済二法案は、原案そのままでの採決、成立とはいきません。5日、自民党側から修正2項目[①寄附を受ける法人等の配慮義務違反に対する行政規制(勧告、名称公表)の追加、②法律見直しの目途の短縮(3年→2年)]が提示され、立憲、維新などが①②を呑むかどうかが焦点となっています(本稿を書いている段階では、合意できるかまだ不明です)。①②を呑めるということになれば、与党とともに修正案を提出する運びとなり、採決を円満に行って、法案を参議院に送ることができます。一方、参議院では事実上、法案修正はできないので(参議院の修正案として、衆議院で再度議決する必要が生じるので、会期末では政治的に無理です)、衆議院での「一発勝負」となります。
水面下だけではなく表の交渉も行い、法案修正を大前提に審議を始めるのは珍しく、ある意味“みなし50点”でのスタートといえます。野党側から見れば、まだ正面切って合格点であるとはいえません。明文で補えない点は政府側の「答弁」で補足させ、野党側のさらなる内容上の要求は、衆参特別委員会の「附帯決議」に盛り込むことを与党側は想定しているはずです。
救済二法が成立すれば、今月中~下旬には公布されます。附則の規定により「公布日から20日を経過した日に施行される」ことから、2023年1月上~中旬、救済二法は揃って施行されることになります。そうすると、2023年1月下旬に召集される通常国会で早速、予算委員会の質疑などを通じて、法律の運用を含めて政府の対応を継続して追及できます。また、見直し規定が「2年」と修正されれば、衆参両院の現職議員の任期中に「救済二法の改正」を行う巡り合わせになるので(2024年12月を期限の目途に検討し、必要な法整備を行います)、踏み込みが足らなかった制度設計を徒に先送りすることなく、第二期の与野党協議を始めていくべきと考えます。会期制を採る日本の国会において、「2年」という期間はあっという間に過ぎていきます。期限付き法整備の「宿題」が反故にされることも、往々にしてあります。
法律のターゲットを明確にする必要
救済二法案の審議では、その射程を国民に分かりやすく示すことが必要です。
世間的には、「旧統一教会対策に限った立法ではないか?」という受け止めが圧倒的に強いのですが(議論のきっかけを生んだことは間違いなく、法律の内容が現に被害の渦中にある方にとって使い勝手が良くなければ話になりません)、不当な寄附の勧誘が禁止されたり、報告要求や勧告などの行政上の措置を受けるのは、「法人」一般です。無論、宗教法人だけではなく、施行されれば、形式上は全国の法人に影響が及ぶので、そのイメージを明確に示す必要があります。
具体的に問題となるのは、例えば、不当寄附勧誘防止法(案)第3条第1号が「寄附の勧誘が個人の自由な意思を抑圧し、その勧誘を受ける個人が寄附をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること」を配慮義務として定めている点です。当該法人側に義務違反があれば、すでに政府答弁で明らかにされているとおり、不法行為に基づく損害賠償請求の対象となったり、今般予定される法案修正で勧告等の行政上の措置の対象となりえます。
寄附やカンパの名目で事業資金を集める法人のすべてが「個人の意思を抑圧」するわけではないにせよ、運用如何によっては集めづらくなり、萎縮してしまいます。救済二法の施行後、寄附のあり方をめぐって予想外の事態、混乱が起きないとも言い切れません。付言すれば、金額の上限は法定されているものの、個人による「政治資金」の問題はどう整理されるのか、といった点も無視できません。同法(案)第12条が、法の運用上の配慮として「法人等の活動において寄附が果たす役割の重要性に留意しつつ、個人および法人等の学問の自由、信教の自由および政治活動の自由に十分配慮しなければならない」とわざわざ定めたのも、以上の点を意識してのことでしょう。
だからこそ、立憲・維新案のように被害実態を直視し、「マインドコントロール」を定義した上で、救済の範囲(輪郭)をはっきりさせる制度づくりが意味を持つのですが、これを言うと話の蒸し返しで、堂々巡りになってしまいます。政府は何より法案審議において、第3条各号をはじめ、解釈上の指針を明らかにすべきです。
また、多額の寄附によって子、配偶者に生じた被害を救済する特例として、扶養義務に係る定期金債権(の将来分)を保全するため、寄附者本人(親)に代わって寄附の取消し、返還請求を行うことができる制度も盛り込まれましたが(法案第10条)、扶養対象となる子(未成年者)が親の同意なく権利を行使する場面が想像しがたく、手続上の想定(イメージ)を示す必要があります。他にも、運用前に明らかにすべき点が多く残っています。政府答弁を積み重ねながら、“みなし50点”が最終的に60点くらいになればいいと思います。
混乱の会期末とはならず
会期末、重要法案が「未処理」で取り残されることはよくあります。与野党間で一定の対立を残したまま、与党が数の力で採決を押し切ろうとすれば、野党が「内閣不信任決議案」を提出するなどして抗戦し、時間切れ(廃案)に追い込む――。これが国会戦術の常套で、見慣れた光景でした。
しかし、今回はそうした「肉弾戦」的要素はなく、駆け引きをしながらも、与野党ともに日程協議に勤しんでいるというのが率直な印象です。第210回国会から成立した立憲・維新の国会対策上の協力関係も、当初は色々と物議を醸しましたが、結果として国会運営(とりわけ衆議院側)の改善につながった面があります。半年前、通常国会の会期末に近いタイミングで内閣不信任決議案が提出されたことで、AV被害救済・防止法案の成立に「黄信号」が灯ったことがありましたが、今回はそのような心配は当たらず、消化不良で越年することはありません。
日程攻防を可及的に減らすために、今後、通年国会的な運営を本格的に志向してはどうでしょうか。政府与党も、国会への向き合い方が根本的に変わるはずです。現状は、引っ越しの期日直前になってバタバタと荷造りを始めるような感じにみえます。もう少しスムーズに審議に入れないものか、率直な疑問が生じるところです。
また、10月17日に先行提出されている立憲・維新案の審議が実現しなかった点も、このまま有耶無耶にせず、計画的に委員会に付託できるようにし、閣法(内閣提出の法律案)と対等の位置づけで、並行して審議できるようにすべきでしょう。立維案の提出者の答弁を聞かなければ、本当の意味での立法者意思は分かりません。閣法の審議が先行し、対案として提出された野党法案が後で審議入りするケースもよくあることで、今回はその逆パターンになっているだけです。法案の採決さえしなければ(一事不再議に抵触しない限りで)、単独で質疑を行うことも可能です。議員立法のあり方が変わり、国会の活性化に結実すると考えます。