第147回:「世界マヌケ革命」とか言ってたら、台湾でコロナにかかって日本に帰れなくなった(松本哉)

 

 どこの国もそうだけど、国を仕切るやつらってのはすぐ面倒を起こす。国同士で揉め始めたり戦争になったりするし、珍しく仲良くやってるなと思ったら、国や金持ち同士が結託して各国貧乏人から金を巻き上げたりする。で、気付いたらそんなことを人類数千年も同じことずっとやってる。だめだ、こりゃ! どうやら世界の国や経済界に頼ってたら永久に平和はやってこなそうだ。
 じゃあ、ここは民衆同士の国際交流がその突破口になってくる。ところが、民間の国際交流って、だいたい何かやってる人とか目立ってる人、何かの団体のリーダーなんかの交流ばかり。もちろんそれもいいんだけど、ちゃんとした人たちや代表者同士が世界中で繋がったってしょうがない。重要なのは、特に何もやってない人、目立ってない人、ロクでもない人、無芸の人、最低の人間だけどやたら顔が面白い人、友達少ないけど異常に料理が上手な人、ダメ人間だけど酔っ払った時にたまに名言吐く人、常に裏方仕事ばかりやってる人なども含めた、コミュニティとコミュニティの交流。一人でも多くの人が、国境を越えて普通に近所の人みたいな感覚で交流できたら、もう国がいくらナショナリズムを煽ったり外国の悪口を宣伝しまくったりしても、そんなものは通用しない。大統領や首相が気付いたら町内会長ぐらいの発言力になってる程度でちょうどいい(そう考えたら若者が首相の名前知らないとか実はいいことなのかも!)。各国の自国民向けのプロパガンダが効かなくなるぐらい、わけわかんない奴ら同士が繋がってきたらもう最強。しかも、やれ出世だの金儲けだのみんなから評価されたいだのっていう価値観ではない、世の中をナメきって自由にやりたいことをやってるような大バカたちは世界中にいて、そんな奴らが続々と仲間になってしまえばもう無敵に近い。各地のマヌケなやつらがはびこって国の存在が薄まっていっちゃう。そう、何を隠そうそれが近年力を入れている「世界マヌケ革命」。
 コロナ中の約3年中断を余儀なくされたけど、最近はようやく各国の国境も開いたので、すでに日本にも続々と海外の人たちが押し寄せてきてるし、こっちからもどんどん行けるようになっている。こちらも、9月に韓国に行ったのを皮切りに、そのマヌケ革命も続々と再開している。
 で、そんな流れもあって、お次は台湾。世界のふざけた奴らとの再会を求めて、行ってきました〜、台湾。

台湾、地下文化交流の旅

 前回の韓国と同様、今回の目的はまず3年間のブランクを埋めること。簡単に言うと「よう、元気?」と言って回ることだ。SNS等を介して動向はお互い知ってはいるけど、実際の様子は会って話してみないとわからない。それにSNSなどで出てくる情報は目立った人や出来事ばかり。SNSに投稿するまでもないくだらない出来事や、SNSではなかなか登場しない隠れた逸材がマヌケ革命では重要なのだ。ましてやみんなが集まった時の空気感などは現地に行かないと絶対にわからないこと。まずはどんな感じかを再確認することが重要だ。
 で、まず台北の桃園国際空港に到着してみると、出ました〜、早速台湾の大バカな奴らが大量のビールを用意して待ち構えてた。で、いきなり空港の構内で飲み会に。やられた〜、初日ぐらいは大人しくしてようと思ったのに! しかも、わざわざ仕事休んで来たらしい。バカたちは変わらずバカだった! と、ひとまず安心。

頼んでもないのに勝手に仕事休んで空港で待ち構えるやつら

 早速、台北各地の世の中をナメきった独自スタイルのカフェやライブハウス、BAR、書店、レコード屋、洋服屋など、知り合いのふざけたスペースに遊びに行きまくる。で、これがどいつもこいつも驚くほど変わってない。SNSなどで見ていると、この3年で有名になったところもあれば、結婚したり子どもができたりして生活が変わった人がいたり、喧嘩して会わなくなったり、店が潰れたり引っ越したりしてて、色々変わってそうだなと思ってたけど、実際は何も変わってなかった。もちろん微妙には色々変化はあるんだけど、「オマエら何も進歩してねえじゃねーか!!」と、これまた一安心。そんな感じで、各地を回って3年のブランクを埋めていく。いやー、3年でよかった〜。これもし5年とか6年だったらさすがに色々変わってそう。危ないところだった〜。
 台北を回ったあとは台南へ。こちらもいろいろ回って久々の友人たちに会って各地で情報交換をしつつ飲み歩き、そしてまた台北へ戻る。戻ったあとはみんな集まって大宴会が行われたり、まだ行ってない場所に行ったりと、もうこの数日で100人200人には楽勝で会ったんじゃないかな〜。さあ、そんなことで約1週間ほどの台湾滞在も終盤を迎え、あとは帰るだけ。いや〜、今回の台湾、よかった〜。マヌケ革命は近い!!

3周年を迎えた「北風社」。ようやく行けた

台南「大乱歩」にて

台北のライブハウス「Revolver」前の路上の光景も変わってなかった。安心

バンド界隈は結構変化あり。前からあるバンドは有名になってたり解散したりしてたけど、10代20代の新バンドがたくさん登場してた。こちらは若手の新勢力「吸膠少年(シンナーを吸う少年)」の企画

コロナ陽性! 夢の台湾隔離生活

 しかし、ここで衝撃的な事件が起こる。なんと、台湾から出られなくなったのだ。というのも、帰国前のPCR検査を受けに行ったところ、見事に「陽性」! すでに数百人に会いまくって、さらに同時期に5人ぐらいが陽性の判決を受けたので、もうどこからどう拾ったのかわからない。ま、それはいいや。ともあれ、陰性証明がないと日本から入国許可が降りないので出国不能になり、しかも台湾政府からは5日間の隔離指令が来る。おい、帰れねえ!! しまった〜、完全に路頭に迷った。自分の国から入国許可が出ないってどういうことなんだ〜! でもなんだか妙に清々しい気分もしてなんだか面白い。いやいや、でも、よく考えたらやはりヤバい。台湾の自費PCR検査は異常に高くて約2万円ぐらいする。帰るには陰性になるまでこいつを受け続けないといといけないので、陰性になるまで一回2万円ずつ飛んでいく。しかも飛行機も格安のLCCで取ったので、こちらも片道約2万円で、帰国予定が延長になるたびに金が飛んでいく。しまった〜、まさかの台湾強制長期滞在! 万事休す!
 一方、台湾の大バカ連中は大爆笑で「松本が陽性で帰れなくなった! ザマーミロ!」と、大喜び。どいつもこいつも「もう高円寺の店は全部畳んだほうがいい」とか「これを機に台湾人になるしかない」「このまま年を越して来年考えよう」とか言いたい放題。オマエら〜、覚えてろ〜!!!
 早速隔離に入らないといけないんだけど、台湾の友達たちが寄ってたかって面倒見てくれて、友達の家でちょうど空いてる部屋を見つけてくれたので、そこを使わせてもらうことになった。ホテルなんかに泊まったらもっと金が飛んでいくところだった。ありがてえ〜。

 そして、大量に買い込んだ食料とともに、夢の隔離生活。しばらくはこの部屋から出られない。しかも、毎日何もすることがない。いや〜、なんか小菅の東京拘置所みたいでなかなか楽しいな〜。久々にのびのびとゆっくりした生活の予感!!!!
 …と、思ったのも束の間。台湾のマヌケたちが続々と訪ねてくる。場所は台北市内の、ちょっと山になってるところなんだけど、どんどん山を登ってくる。おまけに近所の村人たちも「なんか足りないものはないか」とか「困ったときは言ってくれ」と続々と現れる。ずいぶん賑やかな隔離生活だな〜。さらに、同時期に陽性になって隔離中の友達が「いや〜、これでやっと飲み相手ができた」と隔離場所をこっそり抜け出して遊びにくる。挙げ句の果てには、「現在陽性中の人、3ヶ月以内にコロナになって免疫ある人、飲みましょう〜」とか連絡が回り始めて、続々と現れる。「せっかく台湾来たのに閉じ込められて可哀想だから会いに行ってあげよう」みたいな感じで連絡が回ってるみたい。おーい、みんな隔離の意味がわかってない! なんだ、隔離ってこんな感じだったのか〜、知らなかった! 結構楽しいじゃねーか。
 ちなみに、隔離中の人への管理は厳格で、毎日電話がかかってきて症状や隔離状況の確認が行われる。台湾での電話番号を持っていなかったので、検査の時に適当に友達の番号を書いたせいで、その友達に担当者から電話が行く。台湾に住んでる人の場合は携帯のGPSで位置確認されたり、電話連絡で細かく管理されるんだけど、こっちは観光客なので何も持ってない。という情報を聞いた担当者が困り果てて「台湾の住所も電話もないの? それ、めんどくせえな〜、どうすりゃいいんだよ〜。ま、いいや。好きにやっといて。困ったら連絡して」だって! コロナ中、観光客がいなかったから、これも初対応なので、困って放り投げたっぽい。しまった! 台湾政府からも見捨てられた!!!!
 まあ、そんな感じで隔離飲み会が始まって飲んでると、その中の一人の青年が「自分はまだ罹ってない」という。えっ、それ大丈夫なの!? と、みんなが心配すると「いや〜、実はコロナ保険に入ってるんだけど、これまで全く罹らずに来ちゃってあと2週間で期限が来るんだよね。ここは是非とも罹って保険金もらわないと生活がヤバい」とのこと。どうやら、罹ったら日本円で70万円ぐらいの保険金が下りるらしい。それは大変だと、「よし、じゃあ俺たちがひと肌脱ごう」と、更なるどんちゃん騒ぎが始まり、その保険青年も「いや〜、いつもありがとう。迷惑かけるねえ」と感謝してて、もう全てがアベコベでわけわからなくなってくる(この青年、不幸にも結局最後まで罹らず夢の保険金逃したらしい)。

楽園のような隔離生活。これでいいのか!笑

イチかバチかの台湾脱出作戦!

 そうこうしてる間に隔離(?)生活も終わり、ついにまた世に放たれる。しかし、すでにPCR検査+飛行機のチケットで4万円は飛んでおり、次の検査結果次第ではまた金が飛んでいくかもしれない。しかも東京で店をやってるので、自分の留守中はそこの人件費や家賃もかかるわ、仕事できない分の損失もかさんでくるわで、いよいよやばいことに! すでに台湾での現金も底をついている。まずい、このままでは台湾滞在中にクビが回らなくなる! と言うことで、最後の奇策として、台湾で1日BARを開業して帰国資金を稼いで帰るしか道は残されていない! そう、台湾脱出を賭けた一大勝負! もしこの作戦に失敗して大赤字でも出そうもんなら、場所を借りた店に皿洗いで借金を返すハメになり、いよいよ日本に帰れなくなる。これはやばい〜!!!
 藁をも掴む思いで、半路咖啡というこれまた強力な大バカたちの集うカフェの定休日を一日借り、「なんとかBAR・台湾店」を決行。ちなみになんとかBARとは、東京・高円寺でやっている日替わり店主式の飲み屋の名前。メニューも値段も日本と全く同じに設定し、ヤケクソの一日BARを開催!
 いや〜、大丈夫だろうか…。と、緊張が走るが、台湾ではすでに“帰ろうとした瞬間にまんまとコロナになって帰れなくなったマヌケ外人”として既にとんだ笑い物になってるので、不幸中の幸いで、面白がって続々と遊びに来る。おお、これは日本に帰れる光明が見えてきた!
 サッポロビールに始まり、ハイボール、ウーロンハイ、レモンサワーなど、日本の安い飲み屋で出てくる超普通の酒を出してるだけなんだけど、「日本人が作る本物のレモンサワーだ!」と勝手に価値が出てやたら売れる。というか、起死回生の商売もそうなんだけど、隔離だのなんだので結局会えなかった友達もたくさんいたので、その人たちが続々と現れるのでいよいよ大パニックに。前回韓国に行った時も同じなんだけど、コロナ明けで久々に行くので、会う人会う人全員が3年ぶりなので「うわー!! 久しぶり〜!!!!! 最近どうしてるの!?」っていう会話を10分に一回ぐらい繰り返す。これはもう盛り上がらざるを得ない。

 こうなってくると、店全体がもうわけわからないノリになってくるのは世界共通。東京から持っていった物販用のTシャツも並べといたんだけど、これを台湾のパンクバンド「共犯結構」のメンバーの秉諺(ビンイェン)が突如「さぁ〜、みんな集まった集まった。今日は舶来品のとんでもないものがあるよ〜。これがなんと今日しか買えない!」などと勝手に寅さんみたいな口上で叩き売りを始める。ところが売り手も買い手も酔っ払ってるため、その辺にあるものを片っ端から売っちゃうし、なんでも買っちゃう。誰かがすでに買ってその辺に置いてあるやつまでどんどん売っちゃうから、「さっき買ったやつがない!」などと大混乱になる一方で、二重三重に売り上げが伸びていくので、無限に金が増えていく。お金も商品も訳わからないことになって大パニックに。
 そして、今度高円寺で営業再開するゲストハウスの前売り割引チケットも売ってたんだけど、みんな訳も分からずに勢いで「よし、じゃあ7泊分買った!」「いや、ワタシは2週間分買う!」などと飛ぶように売れ始める。「いや〜、気分いいからもう1週間分買おうかな」などと、どんどん売れる。もはや宿泊代払いすぎて飛行機が買えなくて日本行きを断念するありさまに!! オマエら本当に高円寺来る気あるのか!!!?!? これ多分、翌日目が覚めたら「あれ、なんだこのチケットは。しまった! 昨日、高円寺行くって約束したような気がする!」と思い出すパターンだ。でも、さすがに買った以上は日本に行くだろうから、この大バカたちが来年になったら続々と遊びにやってくると思うと恐ろしいぐらい! いや〜、こりゃ来年はいきなり賑やかになってきそうだ〜。ま、経緯はともあれ、国を超えた交流が活発になるのはいいことだ!

半路咖啡で一日店主BARを決行

 さて、当初は1週間ほど行こうかと思った台湾作戦も、気づいたら半月以上も滞在してしまったが、何はともあれ帰国資金も捻出できてなんとか東京に帰ることができた。いやー、危なかった。年越すかと思った〜。
 台湾のやつらもいつもの大バカたちがメチャクチャに飲みまくって大混乱だったけど、いつもに増して大バカさを発揮しまくってた。やはり3年ぶりに海外から人が遊びに来たっていうのが面白かったんだと思う。こっちも、今まで頻繁に遊びに行ってた時と比べても謎にテンションが上がる感じはあった。やはり直接の交流ってのはとても重要だと再確認。当初の目標の「よう、最近どうしてる?」って挨拶して回って、お互いの空気感を確認することは見事に達成。というか、挨拶どころの騒ぎじゃなかった。
 そして、すっかり忘れてたんだけど、国を越えた交流の面白い点をもう一つ思い出した。よそ者が来るとみんなが集まるという現象。普段はちょっと距離があってあまり顔を合わせることがない人たちも、海外や遠くから友人が来たら一堂に会したりすることってよくある。台湾も、ここ3年は鎖国状態が続いていたので、なおさら顔を合わせるメンバーが固定化しがちだったと思う。で、そこへ久々によそ者(自分)が遊びに行ったから、珍しいのでいろんな人が遊びに現れる。さっきも言った通り、会う人会う人みんなが3年ぶりなんだけど、よくよく見てたら台湾人同士も「おー、3年ぶりだ〜」みたいな会話をしてるのをたくさん聞いた。あるいは、ちょっとしたイザコザから少し疎遠になってた人たち同士も久々に顔を合わせて「いやー、実はこう思ってた」「久々に会えてよかった〜」みたいに語り合ってたり、すごくいい光景をたくさん見た。その時は「あれ、この人たち会ってなかったんだ〜」ぐらいにしか思ってなかったけど、後々聞いたら「いや〜、昨日の飲み会はみんな会えていろんなわだかまりも解けたりして、すごく良かった〜」ってことも度々あった。なるほど、そうだった〜、よそ者来訪は当人の知らないところで色々役に立つもんなんだよね。いや、やっぱり国境を越えた人の行き来は重要だ!

 さあ、そんなことで「世界マヌケ革命」、まだまだ再開したばかりでまだ挨拶回りの段階だけど、徐々に加速してる気配がある。台湾から日本に帰った瞬間にドイツでとんでもないうどん屋をやってる友人たちが遊びに来てしばらく高円寺に滞在し始め、その直後には香港で独自のスペースを運営してる人たちが高円寺のゲストハウスに泊まりに来たり、そう思ってたら中国から連絡が来てもうすぐ友達が遊びに来るという。もういろんな何かが始まっている感じ! 徐々に始まるのかと思ったら、ものすごいスピードで加速し始めている。いや〜、これはもう誰も止められない〜
 みなさん、もう覚悟を決めて、死ぬほど海外のとんでもない人たちと交流しまくって、大国やら経済界を中心とした世界秩序を乱しに乱して大混乱にしていきましょう〜。

台湾の寅さんこと詹秉諺(共犯結構)

高円寺のゲストハウスのチケットを買い過ぎて破産する人々

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。