永岡文科相はきょう(1月18日)、旧統一教会に対する報告徴収・質問権(以下、単に「質問権」と略します)を行使しました。
宗教法人が「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をした場合に、裁判所による「解散命令」の対象となります。宗教法人の所轄庁(二以上の都道府県に活動拠点がまたがるものは文科相、一の都道府県にとどまるものは知事)は、裁判所に対して解散命令の「請求」を行うことができる点を踏まえ、法令違反の「疑い」を元に事実関係を把握するために行使されるのが質問権です(宗教法人法第78条の2第1項第3号、第81条第1項第1号)。旧統一教会の所轄庁は、文科相です。今回の質問権行使は、2022年11月22日、12月14日に続いて、3度目となります。
質問日 | 回答期限日 | 内容(メディア報道による) | |
1 | 2022年11月22日 | 2022年12月9日 | 会計帳簿、組織運営の規定など |
2 | 2022年12月14日 | 2023年1月6日 | 旧統一教会の不法行為責任を認めた裁判に関する資料 |
3 | 2023年1月18日 | 2023年2月7日 | (不明) |
解散命令の発動の要件である「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」に当たるかは、個々の事案に応じて、①組織性、②悪質性、③継続性が認められるかどうかで判断されます。政府は2022年11月8日、質問権行使の一般的な基準を策定し、当該宗教法人による行為が相当数繰り返されていること、その被害が重大であること、といった事情を考慮するとしています。①から③までは、宗教法人法の明文で定められているわけではありませんが、憲法で保障された信教の自由、宗教的結社の自由への配慮から、政府自らが定めた基準として、その内容に従うものです。
「法令に違反し」とは、刑法など罰則によって担保された法律に違反することと解釈されてきましたが(1996年1月30日の最高裁決定で解散命令が確定したオウム真理教事件が典型)、2022年10月19日の参議院予算委員会で、刑罰法令の違反だけでなく「民法上の不法行為も含まれる」と政府見解を180度転回した岸田総理の答弁も記憶に新しいところです。前日の衆議院予算委員会では、「刑罰法令の違反に限られる」旨の答弁をしながら、一夜にして政府解釈を急転回した、その政治姿勢も問われるところですが、それはさておき、旧統一教会に関しては刑罰法令の違反はみられないものの、裁判で民法上の不法行為が認定され、その損害賠償請求が認められた事件(確定した判例)があるため、政府は旧統一教会に関する事実を根拠として(前記の①組織性、②悪質性、③継続性の認定)、裁判所に対する解散命令の請求を視野に入れることができるのです。ここまで見れば、旧統一教会の解散命令の請求を行うために、手続上は確実に事が進んでいるようにみえます。
質問の項目・回答に関する情報開示がない
旧統一教会をめぐる被害の実態は改めて言うに及びませんが、法人格を奪って解散させることをも視野に入れた質問権の行使について、その内容(項目、回答)の情報開示が何もないのは「問題あり」と言わざるを得ません。先に、過去分の質問権を含めた表を示しましたが、一部のメディアが報じたもので、内情まで詳しくは分かりません。解散命令請求を視野に入れ、質問権が適切に行使されているかどうか、現在までのところ、誰も監視、チェックしていない(監視、チェックを及ぼそうにもそれができない)状況が続いています。成り行きを見守るだけなのです。
そして、旧統一教会からは過去2回、回答文書が入った多くの段ボール箱が発送されていますが、そのすべての内容を文部科学省(文化庁)の職員だけで精査しきれるのか、という疑問が湧いてきます。端的に言えば、同教会の被害者の方々が回答文書に目を通すほうが、内容の真偽、漏れなどを発見し、投げかけるべき質問項目を思い付きやすいのではないかと思います。法令違反に「民法上の不法行為も含まれる」という政府見解は最近出てきたもので、①組織性、②悪質性、③継続性の認定に関しては、被害の当事者でないと分からない部分もあるはずです。
仮定の話ですが、質問権を行使した結果、解散命令の請求につながらない事態になった場合に、質問の項目、回答を第三者が見ていないことから、政府に対する責任追及が曖昧になるおそれもあります。政府側は逆に、「質問権を適正に行使した」の一点張りになってしまうでしょう。文化庁宗務課のキャリアもある前川喜平さんが、「質問権の行使は大して役に立たない」という趣旨のことをおっしゃっているのも、改めて頷けます。
衆参委員会の「秘密会」で適切な情報開示を
旧統一教会に対する質問項目、その回答文書は「非開示」の取扱いになっていますが、せめて、衆議院文部科学委員会、参議院文教科学委員会の「秘密会」の場で(国会法第52条第2項)、出席委員に限定した「開示」を行うべきです。一定の開示を行って、与野党委員の質疑を行い、会議録も残す(ただし、公開は相当期間の経過後)など、随時のチェックを働かせるべきです。
宗教法人法第78条の2第3項の規定に基づき、質問項目は前もって「宗教法人審議会」に諮問し、「妥当である」という答申を受け、質問権が行使されることになっています(今回も同様の手続きが取られました)。審議会委員はその内容を了知しています。しかし、国会議員が知る由も機会もないというのは、市民感覚的に考えてもバランスを欠いたものです。法令違反に関する①組織性、②悪質性、③継続性の認定に当たって、宗教法人法の適正な運用を民主的に担保する意味でも、国会が脇で伴走することが重要です。まもなく通常国会が召集され、衆議院予算委員会が連日開かれるようになりますが、ぜひその裏で、秘密会を確実に開いて、政府の質問権行使を規律に沿った、実効性あるものとすべきです。いわゆる被害者救済二法(法人寄附不当勧誘防止法、消費者契約法等の改正法)の内容に関して、自民、公明、立憲、維新の4党がすり合わせの協議を行っていたのも(2022年10月21日から11月24日までの計9回)、国会の正式な委員会の枠組みを離れた、クローズな場で行っていたわけなので、正規に秘密会を開くことに抵抗はないはずです。
憲法、国会法に規定があるにもかかわらず、秘密会の開会実績が乏しいのは、自民党の長期与党化でその運用が硬直化(≒無意味化)したためです。旧統一教会の回答文書を開示すると、自民党にとって都合が悪いものが出てくるという見方もありますが、いずれ露わになる情報です。また、野党の一部は、細田衆議院議長と旧教会との「接点・関わり」について、通常国会でも再び追及することを画策していますが、すでに「耳にタコ」が出来ています。「接点・関わり」問題の蒸し返しをしたところで、視聴率が獲れるワイドショーが喜ぶだけで、被害者の救済には役に立ちません。その追及のモチベーションは、秘密会の開会に向けるべきです。
「法令違反」の事実を集約できるシステムを
宗教法人の解散命令に結び付き得る「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」には、一般論として、法人寄附不当勧誘防止法(2022年12月16日公布、2023年1月5日施行)が定める寄附者への配慮義務(第3条)、禁止行為(第4条)も含まれる、というのが政府見解です。配慮義務は、①いわゆるマインドコントロールに陥らせてはならないこと、②個人とその家族の生活を困難にしてはならないこと、③使途誤認をさせてはならないことの3点が定められ、禁止行為は、重大な不利益を避けられないと不安をあおったり、不安に乗じたりして寄附が「必要不可欠」と告げ、「困惑」させることなどが定められています。
法人寄附不当勧誘防止法の配慮義務、禁止行為に関する規定が、宗教法人法に基づく解散命令の制度とつながりがある(政府も肯定している)点はとくに重要です。旧統一教会問題のような寄附、霊感商法等をめぐる被害を根絶できるよう、配慮義務や禁止行為に違反する事実を消費者庁(全国の消費生活センター)に集約し、文化庁に情報提供する連携態勢を講じられるかが実効性の鍵を握っています。この連携、情報の共有に関しても、国会の監視が必要です。
国会は急ピッチで法人寄附不当勧誘防止法、消費者契約法等の改正法を成立させたものの、法施行前の過去の寄附をめぐる被害に関して、「(新法の規定に基づいて)1円たりとも返還を求められない」という「期待外れ」の部分に関しては、与野党ともに今後も口を噤むままです。「救済新法」という呼称を以て、悪い意味で「集団妄想」に罹らなければいいのですが、すでにその兆候がみられます。
宗教法人に対する質問権を新設した1995年の宗教法人法の改正に際して、国会は、衆参それぞれに「宗教法人(等)に関する特別委員会」を臨時に置いて、集中的に法案審査を進めました。今回、宗教法人法の改正は直接、議論になっていませんが、いずれ「カルト対策法」などの立法を検討する場合には、こうしたオープンな議論の枠組みが必要です。国会はその時々で、為すべきことを自覚し、実行すべきです。秘密会はすぐに設置できます。