国会法第124条は、「不当欠席議員の懲罰」について定めています。衆参の「議員が正当な理由がなくて召集日から7日以内に召集に応じないため、(中略)議長が、特に招状を発し、その招状を受け取った日から7日以内に、なお、故なく出席しない者は、議長が、これを懲罰委員会に付する」という内容です。招状は、一字加えると「招待状」になってしまい、意味の受け止めが全く変わってしまいますが、端的に言えば「元々来なければならない者を呼ぶ(呼びつける)ための書状」です。議員には応召(おうしょう)の義務があり、登院するか・しないかについての個人的裁量はありません。
議長招状の発出は、今から74年前、第5回国会(特別会、1949年2月11日から5月31日までの110日間)の参議院において先例があります。召集日以来、召集に応じていなかった栗栖赳夫議員(緑風会)、西園寺公一議員(無所属)、橋上保議員(民主党)、平野成子議員(日本社会党)の4名に対し、松本恒雄議長が5月11日、招状を発出しています。
その後、栗栖、西園寺、平野の各議員は5月14日に、橋上議員は同月16日に、それぞれ「請暇書」(参議院規則第187条)を提出し、議長が許可しています。「請暇書」の提出により辛うじて、国会法第124条の最後にある「懲罰」の対象とはなっていません。
参議院では当時、不当欠席が横行していました。1949年5月7日の参議院・議院運営委員会の会議録には、「登院しておっても、ちょっと来たら、勝手にどこかへ行って、商売をしておる人が多い」という委員の発言も残っています。また、「請暇書」「欠席届書」の提出の不徹底がみられ、委員会、本会議が定足数を割り込んでしまい、開会に影響が出る事象がしばしば起きていたようです。同年5月9日の議院運営委員会では、「議員の登院励行に関する件」が議題となり、「各会派において長期欠席者に対して自粛を促し、それでも出席しない者に対しては議長が招状を発することとし、なお召集日以来引続き登院していない者に対しては直ちに議長が招状を発する」という決定がなされています。この決定に基づいて発出されたのが、前記4名に対する招状です。
74年ぶりの議長“招状”
以上は1949年5月の昔話では終わらず、一昨日(2023年1月30日)、ガーシー参議院議員(NHK党)に対する招状が発出されました。74年ぶりのことです。公知のとおり、同氏は参議院議員通常選挙(2022年7月10日)で当選したものの、直後の第209回国会(臨時会、2022年8月3日から5日までの3日間)、第210回国会(臨時会、2022年10月3日から12月10日までの69日間)を正当な理由なく一度も登院せず、第211回国会(常会、2023年1月23日召集)が開かれている現在も、不登院を継続しています。3会期連続、実質的に3カ月間、一般的な意味での勤務実態がなく、改善の見通しが立たないので、懲罰に向けた招状の発出は妥当な決定です。
2月上旬(国会法第124条の定めにより、早ければ7日)には、参議院懲罰委員会が開かれることになります。懲罰には、①公開議場における戒告、②公開議場における陳謝、③一定期間の登院停止、④除名、の4種類がありますが(国会法第122条)、一貫して不登院を続ける議員に対して①から③までは効果がなく、④除名を選択すべきことになります(ただし、憲法第58条第2項但書により、本会議で出席議員の3分の2以上の賛成が必要です)。参議院は3月に入ると、衆議院から予算案、予算に関連する法律案が続々と送られ、委員会、本会議のセッティングが急に忙しくなることもあり、この懲罰案件については2月の早いうちに決着させるべきと考えます。公人としてどう見られているかという点に無思慮、無自覚な者は、国・地方、政党の別にかかわらず、議員には不向きです。はっきり言えば、存在自体が税金の無駄遣いになっています。
再確認すべき、登院励行の「本当の意味」
第5回国会の参議院・議院運営委員会で「議員の登院励行に関する件」が議題に上ったエピソードに触れましたが、ある種のサボり体質は、今なお(形を変えて)衆参ともに、与野党ともに続いています。例えば、ことし4月、4年に一度の統一地方選挙が行われますが、その「応援」という名目で登院しなかったり、所属委員会の委員を差し替える議員がこれから増えてきます。まさに因習、悪習の類いで、登院励行は現在の問題でもあるのです。
ガーシー議員は、「自分たちだって、国会をサボっているではないか」という「一分の理」を抱いているように思えます。懲罰、除名のカウントダウンが始まっている中、除名する側の道理、政治姿勢も改めて問わなければなりません。
制度化すべき、議員の「休職」
さらに、この問題の後には、議員の正規の「休職」も議論し、制度化を図るべきです。去る1月16日、水道橋博士議員が辞職していますが、議員の「病気」イコール「辞職」が通例化しては、偏見を助長し、人材が硬直化し、民主主義を弱体化させてしまいます。休むべき議員は、正規の手続きを経て、合理的と考えられる期間は休んでもらうべきです。自身の病気だけでなく、「育休」もあれば「介護」も理由として考えられます。頭の硬い憲法論で、いつまでも逃げることはできません。現実に「辞職」を選択する議員が出て、政治的、社会的に影響が生じている以上、フワッとした議論に終始せず、制度の形をつくることが大切です。
GW明け、新型コロナウイルスの法的位置づけが変わるため(2類から5類へのレベルダウン)、本会議の出席人数制限も無くなり、かつての国会運営が戻ってきます。議員の「働き方」を変えるチャンスでもあります。