第149回:統一地方選近し! 投票先の選び方はこれだ!!(松本哉)

 どうやらまた統一地方選挙なる選挙がやってくるらしい。衆院選やら参院選があったと思ったら知事選やら市長選挙など、日々暮らしてると次から次へと選挙のオンパレードで、もう大忙しだ。しょうがないからとんでもない奴に一票入れてみようかと思っても、国政選挙や知事選などでは有名人やら大物やら気合い入ったやつなどが出てくるので、こっちも少しは考える気もする。が、市議会とか区議会のような選挙になってくると、どこのどいつだかわからないようなパッとしないのがズラッと出てきて、しかも地方議会選挙は数十人も出てくるもんだから、誰が誰だかわからない。しかも、国会議員などとは違って誰からも注目されないのをいいことに、選挙がない普段は全くやる気がなく議会で寝てるような奴らも大量にいて、そのおかげでいよいよ誰だかサッパリわからない。もちろん中にはすごく頑張ってる議員もいるのだが、選挙の時は全員が目を輝かせてガッツポーズとかしてるから、よほど普段から注目でもしてない限りは判別が難しい。いったいどうすりゃいいんだ〜!!
 ということで、今回は統一地方選挙でどうやって投票先を決めればいいのかという、路頭に迷った人向けに、入門編を行ってみましょう〜。ま、俺も適当だけど。

そもそも選挙とは何か

 「大人になったらちゃんと選挙ぐらい行かないと」「みんなが選挙に行くのが民主主義だ」「国民の唯一の政治参加できる機会を逃してはいけない」みたいなことをもっともらしく言われると「ま、そうかな」なんて思ってしまいがちだけど、ちょっと待て。選挙はそこまで素晴らしいもんじゃないし、行けばいいってもんじゃない。
 では選挙とはなにか。それは決められない時に渋々やるものだ。例えば、仲間内で昼ごはん食べに行く時にどこの食堂に行くかを選挙することってまずない。「ごはんでも行く?」となった時、「あそこ行く? 安いし」「でもマズいよ、あそこ」「あっちの店は雰囲気いいけど客層がちょっとやだ」「いやー、あっちは今日は嫌いな店員がいる」など、ああだこうだ言って「じゃ、あっちにしようか」と大体みんなが納得する感じになる。これが普通。ところがたまにやたら紛糾していつまでも決まらず、「もうしょうがない、どこのランチにするか多数決で決めようか」ということもあるけど、これはもう苦肉の策って感じだし、かなりのレアケース。
 「本来は普通にみんなで話し合って決められればいいけど、それが難しいから投票して決めるしかない」というのが選挙。これはとても重要なことなので、とりあえず押さえておこう。そして、数人での食堂選びとは違って人数がデカくなってくるにつれて食堂選びは難航するので、やむを得ず選挙しないといけない場面は多くなってくる。さらに大規模な人数が毎日揃ってメシを食いに行くとなってくると、これはもういちいち決めるの大変すぎるので、しょうがないから食堂選びのセンスが一番マシなやつを決めてそいつに全部任せちゃおうということで、食堂を選ぶ選挙じゃなくて人を選ぶ選挙になってくる。そう、選挙って渋々やるものなのだ。
 そう考えてくると、選挙が完璧なシステムではない以上「これで安泰だ」と落ち着いてはいられない。食堂の選挙も大事だが、それ以前に「たくあんが腐ってた」とか「いや、しかし味噌汁の具は多い」「待て、その具は全部ワカメだ!」と、激論を交わすことのほうが重要な政治参加だ。それ抜きに選挙はあり得ない。

 さて選挙。その観点から考えてみると、やはり選挙で選んだやつに何でもかんでもやってもらおうと期待をかけ過ぎるのはよくない。というか、そもそも何でもかんでも万能にできるわけがない。「政治家」とか偉そうなこと言ったって、一皮剥けば結局は我々と同じしょうもない一人のロクデナシだ。食堂の話で言うと、政治家(食堂選び係)には「ひとまず任せるから、いい感じの食堂選んどいてもらっていい? でも毎日ヒドい店ばっかり選んでたら担当変えるからな〜」ってこと。飲み会の幹事と同じポジション。だから全権委任なんてとんでもない。もし全てを任せてしまったら、「はい、じゃあこれから3年間、毎日イタリアンにしまーす。中華、和食、カレーなど全部禁止〜」とか勝手に決め始めたり、超マズいラーメン屋のオヤジから賄賂もらって毎日まずいラーメン食べる羽目になり、挙げ句の果てには「だってみんなに選ばれたからね〜。信任されたってことだから文句言っちゃダメでしょ」なんて開き直り始めたりと散々だ(最近の政治ってそんな感じだ)。そう、勝手なことされちゃ困る。決断力は重要だけど、「オマエら黙ってついて来い」的なリーダーシップなんて全く要らない。

 どうしても食堂の話になっちゃうから、また選挙の話に戻そう。地方の政治や社会の運営で一番大事なのは“自治”。いろんな人たちが、ああだこうだと揉めたり紛糾したり、勝手なこと言い放題で収拾つかなかったりしてもいいから、そこの住民たちが直接社会を作っていくって作業があることが重要。そして、そんな好き勝手やってる住民たちの辻褄をうまく合わせたり調整したりする「現状調整係」が政治家の任務。とはいえ議員だって一市民なので、住民たちの紛糾にどんどん巻き込まれるべきだけどね。
 つまり、我々そこの住民たちで社会を作っていくことを邪魔をしないのは誰かという基準で考えるのは重要。特に街づくりにおける“自治”というのはとても非効率なのでやたら時間がかかるんだけど、それを急にしゃしゃり出て来て勝手に決めたがるやつには注意したい。

選挙に行かないやつを否定しない

 で、どんなやつに投票するかって話だけど、その前にひとつ。投票しない(つまり棄権)という選択肢について。これは行く食堂を多数決になりそうになると「ちょっと待てよ〜、あそこ冷凍肉だからやめた方がいいって!」と抵抗するタイプだ。確かにこれも納得できる。ちゃんと人々の自治で決めていくことが大事で、安易に人任せにするのはいけない。でも、これ結構諸刃の剣。自治力が高い状態だったら「オマエら政治のやつら勝手なことばっかすんなよ」と、政治の存在感を薄めることもできていいんだけど、近隣の人の顔もお互いよくわからないような自治力ゼロ状態でみんなが棄権すると、一部の政治家の独裁状態に近づくので、逆にやばいことになる。
 自分自身、たまに、あまりにバカバカしい選挙の時は棄権することもあるけど、たいていは選挙には行っている。が、「全員選挙に行くべき」とまでは思ってない。投票の拒否も意思を持ってすれば立派な政治参加。いずれ民衆の自治がすごく広がり、出番が少なくなって影の薄くなり誰からも相手にされなくなってきた政治家たちが勝手な暴政をやり始めようなんて時には、みんなで一斉にソッポを向くボイコット運動はものすごく効くので、これも一つの手段として頭の片隅におくのもいい。渋々行われる選挙には渋々行く。自分はそんな感じ。

 さーて、ようやく本題。じゃ、投票に行く場合、誰に入れりゃいいんだよって話。人間、だいたいロクなもんじゃないので、完全に正しい人を選ぼうとすると難しいしキリがない。というか無理。ということで、もし「この人しかいない!」っていう人に恵まれなかった場合は、「こんなやつに政治家やってもらわれちゃ困る」というのを消していく消去法がオススメだ。そう落選票としての投票。
 ということで、以下、こういうヤツはやべえっていう7つの具体例を挙げてみよう!

・やたら国政の話をする

「強い日本を作るために」やら「日本経済発展のために地域から」みたいな、国の目標とかぶせて主張する地方議員は結構多い。こう言う人には自分は投票しない。
 そもそも地方自治体っていうのは、国の下部組織ではなく、独立した自治体なので制度上は国家とは対等な関係にある。その上で中央政府と自治体が話し合ったり調整したりしてなんとかうまいこと治めていくのが本来の姿。もっと言うと、実際に目に見える社会や自分たちの街を治めるのは自治体なので、むしろこっちの方が重要。各地のそれぞれの自治体がメインで社会を独自に運営して、都道府県や国は、それを辻褄合うようにうまく合わせたり、揉めたり対立しないように「まあまあ」とうまく調整したりするのが国などの役目。それが地方自治の考え方。結果的に国の役に立つのはいいけど、“国のために”となったら本末転倒で全くアベコベの世界。
 ちなみに、中央政府の決定に従って下部組織として地方があるという考え方は、一党独裁の恐怖政治や昔の帝国主義、江戸時代以前の武士や朝廷が支配する時代などの考え。「国家繁栄のために地方から」とかすぐ言い出す人は現代の自治体の存在が何かよくわかってない可能性が高いので、やっぱ嫌だな〜、そういう人に自分達の街の運営を任せるの。
 あ、ちなみに外国人参政権も。「日本のことを外国人に任せるのか!」とか謎の怒りの人とかいるけど、いや自治体は国関係ないから。そこに住んでる人が地域の社会作りに参加するのは当たり前の話で、これをやたらと国と結びつけて考えたがる発想の人は、これまた自治体をなんか違うものだと思ってる可能性が高い。

・やたら再開発をやたらしたがる

 道路を通したり橋をかけたりして、地域に富を呼んできて名声を得るような政治は、戦後から高度成長期の話。ところが、この経済凋落期のいまだにまだそんなことをやろうとしてる政治家もたくさんいる。もはや大規模開発したからといって豊かになる時代ではないし、仮に僅かにお金の回りは良くなったとしても、街から人間味がなくなって心の貧しい街になってしまう。
 ただ、再開発などの大規模開発をすると税金から建設業者など大企業へ金が動くので、地元有力者に気に入られて票になったり、場合によっては裏金が動いたりしてる可能性だってある。それでいまだに再開発やりたがる人は多いんだけど、ただ、街はつまらない街になってしまう。
 これ、さっき話した上部組織・下部組織の話にも通じるけど、街も同じで誰かが勝手にデザインした所に住民を住まわせるなんて完全に人も街もバカにした話。誰も住んでない山間部や臨海部などに新しい街を作るときはいいかもしれないけど、すでにある街を新たに大規模にガラッと変えるのは良くない。街というのはそれぞれの人々の営みがゴチャゴチャと長い年月をかけて積み重なって形成されてくるもの。で、その中で不便な道や川を整備したりインフラを整えたりと微調整していくのが行政の役割。どっからともなく現れた謎の政治家が数百年かけて作られてきた街の形態を勝手な謎のプランで上から変えちゃおうなんて、完全にふざけた話だ。そういうのは埋立地でやってくれ。
 大企業や財界が金のために再開発したいと言ってきたり、国などから巨大道路などの打診があったときに「いや、ちょっと待ってくれ。それじゃ街が壊れる」と、街を守る立場に立って交渉するのが自分達の街の代表である自治体の立場であってほしい。ということで、自治体の議員でありながら再開発を進めるような輩はだいたいロクなもんじゃない。

・笑顔が不気味

 候補者が美人かイケメンかブサイクか、そんなことを見て心が動いてる人はいないだろうか? コラー、キミは中学生か! 当たり前のことだが、そんな外見で人がわかるわけはない。ただ、表情というのは意外と人の人間性出るので、実際に普通に会話してる雰囲気なんかを見てみるのも重要だ。ポスターなどでは実直で爽やかそうな人が実際に見たら妖怪みたいな笑みを浮かべていて背筋が凍るなんてこともある。ポスターの爽やかさに心が動きそうになったら、現場でも動画でも実物の表情や油断した時の話し方などを見てみるのもいい。
 ただ要注意なのは、いい人そうな感じだからといって考え方も素晴らしいとは限らない。その証拠に、自民党の中にもすごくいい感じの表情を浮かべ、「この人悪い人じゃないんだろうな〜」と思わせる人だってたまにはいる。そういうときは「この人、何かで人生間違っちゃったんだろうな〜。かわいそうに」と同情しつつ投票を見送ることにしている。

・なんだか知らないけど弱者に厳しい

 割と泡沫系のヤバそうな候補者にたまにいるんだけど、生活保護者がどうのこうの! とか、外国人にどうのこうの! 何がフェミニズムだ、男性の方が差別されている! みたいに、どちらかというと弱い立場の人に妙にキレまくってるタイプの人がいる。もちろん、中には何かしら問題があることだってあるかもしれないけど、だとしても金額的にもそこまででかい話じゃないし、怒る優先順位がどう考えてもおかしい。むしろ権力を持ってる大金持ち連中やら政財界の重鎮たちがやらかしまくってる悪事の方がよほど問題だし規模もでかい。思考回路としては、必殺仕事人・大岡越前・高倉健・銭形平次などの真逆のポジション。これは信用ならない。

・「経済成長」とかまだ言ってる

 かつての高度成長期の思い出があるのか知らないけど、いまだに「経済成長」とか言い出す人。これは危ない。かつての成長が容易な時代はまだしも、いまや世界経済が完全に頭打ちの状態。この状態で経済成長しようなんてとんでもない話で、それこそ環境破壊や貧富の差、コミュニティの破壊などいろんなマイナス要因と引き換えにしなきゃいけない。もしいま本当に成長させようとしたら、小金持ちを大金持ちにするかわりに貧乏人をクソ貧乏人にしてバランスとりつつ、なんか数字の上では成長したように見せるのが関の山。とんだ危険思想。
 それより、今はもうちょっとのんびりと、非効率でもいいから金じゃないものの価値を大事にしていく、のんびりマヌケ社会が求められてる。むしろ「経済成長もうやめた!」ってやつがいたら1票入れたいぐらい。

・リーダーシップ

 これも謎に言いたがる人多い。確かに「リーダーシップが足りない」と政治家に文句言う人もいるのでその影響だと思うが、そもそも政治家にそんなものは要らない。人々をどこかへ導こうなんて、余計なお世話にも程があるし、それにいったい何様のつもりなんだ。なんで導かれなきゃならないんだ、こっちはそんなにバカじゃねえ。
 ただ、優柔不断でグズグズしてたんじゃ何も進まないので、山積した課題を決めていく決断力は必要になってくると思うが、リーダーシップと決断力は似てるけど違う話。といって選挙ポスターに「決断力」とかデカデカと書いてるのもいるけど、これは他によほど言うことがないってことなので危ない。ま、リーダーシップにせよ決断力にせよ、それって政治理念の方向性じゃないので、そんなものが売りの人は避けた方がいい。っていうか、そもそもそういうのって、自分からアピールするもんじゃないし。

・選挙以外の政治参加を小バカにする

 署名活動や住民投票の請願、陳情、抗議活動やデモ、社会的メッセージのあるイベントやアート作品や音楽などなど、政治参加っていろんな手段がある。で、これを「そんなの意味ない。そんなことやってるヒマあったら選挙行って世の中変えろよ」みたいなことをポロッと言ってしまう政治家ってたまにいる。当然選挙ポスターなどで言う人はいないけど、トークイベントやTwitterなんかでうっかりボロを出す人は多い。これも消去法で真っ先に削除をオススメする。
 冒頭でも言った通り、選挙は渋々やるもの。また食堂の話だけど、何が食べたいかって話をさせずに「オマエらが中華だの洋食だの言っても意味ないから、さっさと食堂選び係を選べ」って言ってるようなもんだ。そんなやつに俺の大事な昼食を託すわけにはいかない。

 ま、ひとまずちょっと思いついたところではこんな感じかな〜。要約すると、①国優先の街づくりをしない、②選挙で選ばれた政治家を絶対視しない、③お金や効率優先で物事を考えない。このへんが地方自治体の選挙では大事なところ。
 そこから、弱者を見殺しにするのか救済するのかとか、税金をどこから取ってどこに使うのかなどの政策ができてくるはずなので、もしヒマがあったら見極めてみたらいいかもしれない。
 ともかく、「明日の日本がどうなるか」じゃなくて、「明日の自分の街がどうなるか」を考えるのが統一地方選。さあ、1700以上ある自治体の中で、どこが自治の確立に近づけることができるのか!? はたまた落ちぶれて国や都道府県の下部組織へと吸収されていくところはどこか!? これは見ものだ〜!!

〈おまけ〉

 さて、自分のいる東京都杉並区の高円寺では、いま街の再開発問題がある。さらに近くの西荻窪など区内の他地域でも無数の開発計画がある。これは去年の区長選で落選した田中前区長を筆頭とする旧支配勢力の置き土産。
 そんな中、選挙任せにしていたらいつまで経ってもこの計画はなくならないので、統一地方選の前に「やっぱり高円寺に再開発は要らないパレード」を開催することに決定〜!! そう、どんな街であってほしいのか、どんな昼ごはんが食べたいのか、これをみんなが主張して紛糾することは街にとって重要なので、また一発やってしまいまーす。そして、これから選挙に出ようなんていうやつら全員に対して「お前ら〜、再開発計画進めたらタダじゃおかねえぞ〜」というメッセージ。
 そう、選挙の時だからこそ、選挙だけじゃなくて街づくりに関する主張をみんながしてしまおう!

* 

「やっぱり高円寺に再開発は要らないパレード2023」
2023年4月16日(日)

14:00〜 再開発は要らない集会スタート(高円寺中央公園)
15:00〜 パレード出発(高円寺一周)
18:00〜 アフターパーティ第一会場 DB
19:00〜 アフターパーティ第二会場 なんとかBAR

※DJやバンド、屋台なども登場する一大イベント!
※スタッフは全員ボランティアで、当然スポンサーなどもなしでやってます。もし機材費などのカンパに協力いただける方がいたらありがたいです!

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口座名 SAVEKOENJI
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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。