第151回:世界に激震! 久々の超巨大イベント「高円寺番外地」が勃発!(松本哉)

 むかしむかし、とあるアジアの東端に、繁栄を極めた島があった。長細い形をしたその島々は、一時は世界の富を集め、文化も育ち、その島に憧れる人も世界には少なくなかったという。ところが、その島は独自の言語を持ち、しかも、何か用件を伝えるだけでも数十通りも言い回しがあるような特殊な独自言語であったため、島の外の世界との意思の疎通が難しく、徐々に世界から取り残されていってしまった。
 そして、徐々に凋落の一途を辿り始めた頃、「気合い」「根性」「自己責任」「以心伝心」「察する」「和を優先」「ワタシ、政治には関わらないんで」「それちょっとカドが立つからやめとこう」「迷惑かもしれない」「日本すごい」「行けたら行く」「一旦持ち帰って上と相談の上改めて」などという奇怪な独自概念を次々に駆使して没落に歯止めをかけようと試みたが、それは逆効果で逆に没落を加速させたという。さらに、末期には弱り果てた島の長たちは「インボイス」「マイナンバーカード」などという、これまた奇妙な制度を作り島の民から高い年貢を取り立てるなどの過ちが続き、その結果島の民たちは、あるものは死に絶え、またあるものは島から逃げ出し、その長い島はみるみる落ちぶれて世界から消えていったという。そして今日、世界ではその島のことを知るものはいなくなってしまった。
 ただ、ユーラシア大陸の東に、原住民語で「にほん」だとか「にっぽん」などと呼ばれる島があるようで、そこがそのかつての繁栄の地だったのかもしれないとも言われるが、それはもはや知る術もない。
 くわばらくわばら。

 …なんていう未来がやって来そうな気配すら感じる、最近の日本社会のダメっぷり。特に最近の日本政府、この細長い島になんか恨みでもあんのかってぐらいの失政っぷり。全くもう〜。
 で、やべえやべえ、こんな泥舟と心中なんてまっぴら御免だとケツをまくって逃げようと思って周りを見渡してみると、これがまたどこの国もおかしなことになってきてる。なんだ、世界中、全部泥舟だったのか〜。じゃ、どこへ行っても一緒じゃねえかー!

 コロナのドサクサで国境を閉じている間に、各国はやりたい放題だった。自国民が国から出られないのをいいことに、あの手この手で民衆管理を強めまくってきている。コロナ対策に最後まで厳格だった中国は徹底した統制を敷いて人々を管理したし、日本で最近問題になっているインボイスやマイナンバーカードも、増税で金を巻き上げたいこともあるけど、人の管理をより強めたいっていうのが本音だろう。世界で起こっている街の再開発と“こぎれい化”も、グレーゾーンや街の隙間を取り除いていくっていう意味では、管理・統制につながっていく。
 これは、それぞれ状況ややり方は違いつつも、世界中で一斉に起こってること。いや〜、嫌だな〜、管理・統制。グレーな感じとか、曖昧な隙間を縫って攻めてる感じとかって、一番面白いんだけどね〜。全てが白黒はっきりしてる世の中なんて面白くもなんともない。そうだそうだ、世の中グレーが大事なんだ! いや、グレーってより、のらりくらりとどうとでも取れる玉虫色も最高だ。日本に染みついている曖昧ではっきりしない玉虫色文化。支配側ものらりくらりやってくるなら、こっちだって対抗して玉虫色でなんだかわからない感じの「揉み手で会釈しながら近づいていくけどどうも何か目論んでるらしい」みたいな不気味な抵抗手段でやってやろうじゃねえか。さあ、玉虫色 vs 玉虫色の世紀の決戦! 海外の人に説明するのは相当難しいけど、これはものすごく奥深い戦いになること間違いなし! 会釈 vs 会釈の地獄の決戦の火蓋がついに切られる!!!!!
 …ま、なんの話だかよくわからなくなってきたが、ともかく統制の隙間を縫って勝手なことをやって、管理外の隙間の空間をもうちょっと拡大していきたいって話。

 さあ、そこでいよいよ話は本題に入るけど、世界各国に散らばる好き勝手に生きたいっていうふざけた奴らによる、グレーや玉虫色を守るための目論見。このマガ9の連載を読んでいる方ならお分かりだと思うけど、各国で好き勝手やってるような大バカで最高に面白いやつらは、国も国境もヘッタクレもなく交流しまくっていくのがいい。ヒビの入った土鍋から滲み出る鍋の汁みたいなもんで、一度抜け道ができたら、もうこれは誰にも止められない。
 具体的に自分が関わったものを羅列してみても結構ある。黎明期には2011年ごろに香港で「世界マヌケサミット」を開催したのを皮切りに、2015年に日本で戦争法が成立する時にアジア各国の大マヌケなやつらで結託して各国同時多発で開催した「アジア反戦大作戦」、2016年初頭には台北で野外ゲリラライブイベント「東アジア大バカ集会」、同年秋の「NO LIMIT 東京自治区」、2017年「NO LIMIT ソウル自治区」、2018年「高円寺一揆」、2019年「NO LIMIT ジャカルタ&バリ WHY FES」などなど、断続的にアジア圏の音楽繋がり、芸術繋がり、飲み友達、店やってる人繋がり、などなど国を超えたいろんなことやってる人たちの繋がりで結託して遊びまくってきた。コロナ期は中断したものの、2022年には来たるべき海外勢を迎え撃つ準備イベントの「大阪WHY FES」も行った。もちろん、これらのイベントは別に一貫した一連のイベントというわけでは全くなく、それぞれが独立して運営メンバーも企画趣旨も別々で行われている。
 おまけで言うと、2020年にはマレーシアのクアラルンプールで一大多国籍イベントが開催されようとしていたんだけど、例のコロナのおかげで中止になってしまった(残念!)。ま、つまりは、2010年代以降、だんだんとグレーと玉虫色の肩身が狭くなる中で、国境も人種も国籍も超えて、しかも不真面目に遊びまくりだすという現象が勃発し始めたのだ。土鍋に入ったヒビは埋めても埋めてもまた滲み出してくる。そう、もう手遅れなのだ。
 よし、やろうやろう。またなんかやろう!

地獄の台湾の口車に乗せられる!

 そんなこともあり、世界大バカたちの結託の流れはもう止まらないわけだけど、このコロナの約3年の空白を埋めようと、「どうだい? 最近どうしてた? こっちはまだ生きてるよ」と挨拶してまわるべく、韓国、台湾、香港とここ数ヶ月の間に歴訪してきた。
 そうこうしてるうちに、最もノリがイカれてて調子に乗った大バカたちが大量にいる台湾地下文化シーンのやつらが、また何か言い出した。以前台湾に行った時、台湾のやつらが「前、みんなでNO LIMIT とかいろいろ東アジア圏の大バカ地下文化集結イベントやってたでしょ。あれ、またやろうよ。東京でやったら盛り上がるから、次は東京でなんかやってくれよ。そしたらその翌年は台湾でやるから!」と、えらい剣幕で言い始める。「じゃあ先に台湾でやれよ〜」と振ってみるが、「いや、こっちはまだ機が熟してない。台湾は来年だな。今年は東京で」と、譲らない。飲み会の時なんかにも言ってくるもんだから、こっちもいつもの悪いクセで「よーし、やろうやろう!」なんて、口走りそうになるが、そんな安請け合いしたら大変なことになるので、グッと堪え「いや〜、なんかやりたいね〜!」とごまかす。それにそもそも、こういうイベントはみんなでやるものなので、自分の一存で勝手に返事なんかできない。その後もあまりにしつこいので、「じゃ、日本帰ったらみんなに話してみるよ」と、かわして逃げ帰る。
 日本帰国後、「なぜか台湾からの圧がやばい! どうしよう!」と、みんなに相談してみると、「ここはひと肌脱ぐしかない」という結論に。よーし、やるか〜。

継続は力なし。毎回第1回がベスト

 さあ、東京でどうするか。
 まず真っ先に考えるのが、以前やってたイベントの継続ということで第2回、第3回…、という形での開催。でも、実のところこれあんまり好きじゃない。これ自分が何かやる時の行動哲学みたいなものでもあるんだけど、毎回別のことをやりたい。
 例えばずいぶん昔、反原発デモをやった時も、月一ペースでやったんだけど、継続性が生まれないように毎回必ず実行委員会は解散して、新たにメンバーを募集して再スタートという形を取りながらやった。最近のアジア圏マヌケ交流もNO LIMITシリーズも3回やってるんだけど、同様のやり方で回ごとに主催メンバーは違っている。
 要するに、継続してやってると主催が組織やグループっぽくなっていってしまい、最初からいるメンバーが「初期はこうだった」とか言いがちだし、一方で昔を知らない新参メンバーは、なんか勝手なことしちゃいけないんじゃないかと萎縮しちゃったりもする。イベント内容も、第1回や初期の企画が大したことないのに勝手にレジェンド化して、なんかみんな意識しちゃったりもする。こんなの面白くもないし、足枷でしかない。何事も、最初に「これやっちまおうぜ!」と言う初回が一番面白いし、全員が平等に関われる。それに何やってもいいので可能性も無限だ。
 イベントとはちょっと違うけど、高円寺で“素人の乱”という謎のショップ群を始めた時も、それぞれの店が独立して運営し、よほど困った時を除いては金銭的にも経営的にもお互い一切口を出さず、みんなが勝手にやると言う原則があった。これも、「こうしなきゃいけないんじゃないか…」なんていう無駄な足枷を取り除くためのもの。全員が自分のセンス全開で好き勝手にやれる状況をどう作るかというのが大事。
 と、いうことで今回の東京を、また一から考えた時に、高円寺+歩いて行ける範囲での開催案が浮上。以前、2016年にやった「NO LIMIT 東京自治区」の時は、東は神田、西は国立までものすごい範囲で開催して、みんな行ったり来たりして大騒ぎだった上に、大多数の人たちは終電前に高円寺に集結してそれこそテンヤワンヤになった。あの収拾つかない悪夢のような状況も面白いのは面白いんだけど、受け入れ体制が追いつかず、あまりに大変だった。ところがこのコロナ期を経て、高円寺の地下文化圏は2016年当時とは比較にならないぐらい拡大し、いろいろな店やスペースも膨大に増えた。よし、そうなったら主要な開催地は全部高円寺やその周辺だけの力で行けるんじゃないか? 実のところ、東京各地の重要スポットたちにもまた声かけて一緒にやろうかというのも常に思うんだけど、そうしたら結局、「継続」が見えてきてしまうので、我慢。最近登場した謎の新人たちに力を発揮してもらうためにも、ここはやはり無謀な新規作戦を推したい。現に、今回の運営スタッフは、前回の東京自治区に参加したことのない人たちが大多数。これはすごい!

高円寺番外地、勃発!

 以前、東京で開催した時は「東京自治区」というイベント名だった。これは東京に国も国境も関係ない独自のエリアを出現させようってノリの命名。で、さあ今回。今回は高円寺の遊び人たちによって開催されるので、「自治区」なんていう賢者っぽい立派そうなネーミングはどうも似合わない。でも、意味合いとしては同様に、各地の国家をはじめ既存の枠組みの社会秩序ではない独自の繋がりと文化圏で一つの空間を作り出そうってことだから、何かしら名前をつけたい。でもいくら遊び人とはいえ「高円寺無法地帯」みたいにすると、なんだかとんでもない荒くれ者たちがでかい石とか棍棒を持って集まって来そうな感じで怖いので、それはダメだ。
 そこでたまたま適当に付けたのが「高円寺番外地」。番外地ってあの網走番外地の番外地で、番地などが振られていない場所のことで、地図上の秩序の外にある独自の別の場所。いつお縄頂戴になるかわからないようなマヌケな雰囲気もいい。
 そしてもうひとつ。網走番外地もそうだけど、高倉健の出てくる映画なんて、損得で言えば損しかないけど義理人情のためにしょうがねえひと肌脱ぐしかねえ、みたいな話が基本。人と人との繋がりや交流も結局はそういうのって重要で、正義や理屈だけで交流するもんじゃない。高円寺でも海外との交流でもそうだけど「こんなバカなやつに関わったおかげでとんだことに巻き込まれたけど、こりゃあもう乗りかかった船、どうにでもなりやがれ」的な繋がりってすごくたくさんあるし、そうやってお互い手助けをし合うことって一番重要なことだと思ってる。そんな繋がりが友情で、そこから信頼が生まれる。そこを淡白に「面倒なことには関わりませーん」みたいな態度では、いつまで経っても本当の交流なんてできない。
 そしてもうひとつ重視しているのは、訳のわからないやつら同士の交流。有名な人やグループのリーダー的な人、芸術や音楽やスペース運営など何かやってる人など、そんな人たちの交流も大事なんだけど、それだけじゃなんだか宙に浮いた感じになっちゃう。最も重要なのは、それに加えて、その周辺をウロついて、一緒に遊んでたり、毎日酔っ払ってたり、用もないのに打ち上げに必ずいたり、役立たずだけど話だけは面白かったり、…っていう、各国各地のそんなやつら同士もまとめて遊び友達や飲み友達になっちゃうことが超重要なのだ。そうなってくると、もはや国や都市名を聞いただけで、そこにいるマヌケな面々のバカな表情が続々と思い浮かび、思い出し笑いが止まらなくなる状況。
 そんなやつらとの交流が、一連の海外との結託イベントの重要ポイント。そして、見よ諸君! 今回もアジアや世界各国、または国内各地から「遊びに行くよ!」と言って来ている、バンドや芸術家、スペース運営者、単に飲みに来るやつらなど、損しかない面々の顔! いや〜、高円寺番外地にかかってこ〜い!!

「高円寺番外地」のフライヤー

フライヤーも多言語で作成

バカイベントだけじゃないよ

 音楽イベントやら、大バカたちとの飲み会など、とんでもないことが連日繰り広げられると思われるが、別にただバカ騒ぎだけではない。
 特に今回は空白のコロナ期間を経て久々の交流ということで、みんなが各地でどうサバイバルしてきたか、状況はどう変化したのか、あるいは独自に編み出した裏ワザはあるのか、などなど、アンダーグラウンド文化圏の時間の空白を埋める情報交換のトークイベントなども開催予定。また、まだ未定だけど、いま日本中の大学で急速に広がっている謎の不服従ムーブメント「だめライフ愛好会」らと、1990年代に勃興した元祖だめライフの「だめ連」、中国の寝そべり主義者の乱なども交えた、世界のんびり革命のイベントも計画中。そして、今回は入管法改正問題もあったことから、難民問題も重要ということで、最近高円寺でも活躍中の難民移民支援グループ「難民移民フェス」と、世界の難民や移民の支援と世界地下文化交流の接点を探るイベントも計画中。
 ま、書ききれないので情報は後ほど続報を待てってことだけど、他にもいろんな重要イベントも計画中。しかも、世界地下文化交流の視点からいろいろ考えるので、他のイベントとはちょっと一味違う企画が満載になる予定。
 ただのバカ騒ぎは苦手っていう人も安心して参加してほしい。あ、高円寺「なんとかBAR」では、連日世界各国の料理が出る企画もあるので、飲み食い好きの人も要注目。

中国行ってきまーす!

 さあ、台湾のやつらの口車に乗せられてスタートしたこの狂乱の損しかしないイベント。もうやるしかない。ということで、各国からも続々と参加表明が続くいま、中国だけはまだビザが完全に開放されておらず、みんな躊躇している様子。よーし、じゃあもうしょうがない。直接話すのが一番手っ取り早いので、一升瓶持って「コノヤロー、高円寺に行くしかない!」と言いに、中国に行くことに。
 あ、マガ9読者の皆さんも、高円寺番外地の開催期間中(9/22-10/1)はどうにかして予定を空けて、高円寺へ遊びにきてみて〜。世界中の友達ができるので、これは絶対見逃せないイベント!!
 じゃ、ひとまず中国に行ってきまーす。

【おまけ】
高円寺番外地の情報は特設サイトなども作る予定だけど、まだ完成してないので、ひとまずは、Twitterブログあたりを見といてください。サイトなどできたらここでお知らせするはず。

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。