第276回:「軍事費」と「失政の後始末」で消える金(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

兵器爆買い

 日本は“お金持ち”だなあと思う。あとからあとから、どこからともなくお金が湧いて出てくる。もしかしたら、「徳川の埋蔵金」や「山下奉文の戦時財宝」なんかを秘密裏に手に入れていて、予算が足りなくなった時には、そこから少しずつ財宝を取り崩して使っているのではあるまいか(笑)。
 そうとでも考えない限り、岸田自民党政権の金の使いっぷりは理解できない。金がない金がないと言いながら、やたらと使いまくっている。
 その使い道は、大きく2つに分けられる。「軍事」と「失政の後始末」である。
 まず「軍事」。例えばこんな記事(朝日新聞8月30日付)。そうとう危なっかしい兵器購入だ。

長距離ミサイル 日本へ売却承認
米政府、議会に通知

 米政府は28日、長距離巡航ミサイル「JASSM-ER(ジャズムイーアール)」の日本への売却を承認し、米議会へ通知した。防衛省は、敵の射程外から攻撃が可能な「スタンド・オフ・ミサイル」として、売却を求めていた。
 米ロッキード・マーティン社製の「JASSM-ER」は射程約900キロの対地攻撃用ミサイルで、日本への売却は初めてとなる。米国務省などによると、同ミサイルと関連装備品の売却費用は推定1億400万ドル(約150億円)。日本政府が最大50基の購入を米側に要請していた。(略)
 改修したF15戦闘機に搭載するJASSMの取得費を計上している。(略)
 日本政府は昨年来、敵のミサイル拠点などをたたく敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決めており、JASSMは敵基地攻撃能力の有力な手段となる。(略)

 

 もう、アレも欲しいコレも欲しいとやたらと欲しがる子どものように、米国産兵器の爆買いはとどまるところを知らない。
 JASSMを搭載するF15戦闘機の改修費はどれだけかは分からないけれど、これで空から敵基地を攻撃することが可能になる。射程900キロというのだから、かなり彼方から攻撃できるわけだ。
 かつて「専守防衛」が我が国の「国是」であった。つまり、こちらからは攻撃を仕掛けない。そのためには、直接、敵の領土内の基地を攻撃できるような兵器は持たない、ということだったはずだ。ところが、戦闘機で敵基地の射程範囲に近づいてミサイルをぶっ放す、ということを念頭に置いた兵器を装備するというのだ。
 これは小さな記事だった。もう、マスメディアも慣れっこになっていて、「ああ、また兵器の爆買いね」というように、大きな関心を示さなくなったらしい。ずるずると、ぼくらの国が米国に引きずられていく様を見せつけられるのは悲しい。敵基地攻撃などといっても、所詮はアメリカの先兵として使われるだけではないか。

防衛予算

 拡大し続ける日本国の予算。
 2024年度の予算は、概算要求で約114兆円前後になるようだ。これは各省庁からの要求を合算したものだが、一般会計の要求総額は2年ぶりに過去最高となるという。
 その中でも目をひくのは、やはり「防衛予算」の突出ぶりだ。
 これも、朝日新聞(9月1日付)で見てみる。

防衛予算7.7兆円 止まらぬ膨張
過去最高額「規模ありき」懸念

 防衛省が31日に公表した2024年度当初予算案の概算要求は、過去最高の7兆7385億円に上った。防衛力の抜本的強化を掲げる岸田政権は、23~27年度の5年間の防衛費を43兆円と決めており、2年目の概算要求は「敵基地攻撃」に使えるミサイルの開発費などが目白押しだ。「規模ありき」で無駄な支出が増えるおそれがある。(略)

 

 この記事から、主な項目を抜粋してみよう。
 「スタンド・オフ防衛能力」関連費用7551億円、命中率向上の誘導装置付き「新地対艦・地対地精密誘導弾」開発費320億円、統合防空ミサイル防衛能力に1兆2713億円、音速5倍以上の極超音速兵器の迎撃ミサイル開発費750億円、日英伊3国の共同開発次期戦闘機搭載の次期中距離空対空誘導弾に184億円……など大盤振る舞い。
 これらを見ていくと、前述の長距離巡航ミサイル「JASSM」の購入費なんか可愛いもんだと思えてくる。いつの間にか、ぼくらの頭は、こんな凄まじい金額の防衛費に馴らされていまっているようだ。
 それにしても「防衛費」という言い方はもう通じない。外国領土の基地までを射程に入れるなら、それは「防衛」の域をはるかに超えてしまっている。もはや「防衛費」ではなく「軍事費」と言わなければ整合性が取れない。

岸田失政

 膨張を続ける国家予算だが、その中には、おや? と首を傾げざるを得ない項目も並んでいる。要するに、失敗した政策の後始末の費用だ。
 例えば、これ。
 そのデタラメぶりが多くの批判を浴び、現実に岸田内閣の支持率を押し下げる要因のひとつになっている「マイナンバーカード」に関する費用だ。
 今回の概算要求では、総務省が「マイナンバーカード取得促進のため」という名目で、619億円を求めている。しかしこれまでに、マイナポイント等で、すでに2兆円超の予算が計上されている。その上にまだお金を注ぎ込むというのだから、この制度がいかに“金食い虫”であるかがよく分る。
 さらにデジタル庁は、マイナンバーカードの利用促進の広報活動のためとして、新たに6億円を要求している。よってたかって、このデタラメカードを食い物にしているとしか思えない。しかも、トラブル処理のための「総点検」費用は、まだ点検の内容が明確になっていないとして金額を明示しない「事項要求」として付け加えている。
 つまり、総点検費用などを加えると、マイナンバーカードにかかる実際の金額は、ほとんど天井知らずの状態なのだ。むろん、それは我々の税金である。決して、徳川埋蔵金などではない(苦笑)。

放出のお値段

 処理汚染水の海洋放出にともなう費用も膨大なものになりつつある。
 この件については、「マガジン9」でもおなじみのジャーナリスト牧内昇平さんの【物書きユニット「ウネリウネラ」公式サイト】のコラム「原発汚染水の海洋放出 結局いくらかかるのか? 青天井の放出コスト」に詳しいので、ぜひ参照してほしいけれど、牧内さんによるとこの費用もデタラメなのだという。少しだけ引用させていただこう。

当初の試算は「34億円」

 汚染水は原発事故後のかなり早い時点で問題になっていました。多核種除去設備(ALPS)で処理してもトリチウムが取り除けないことが分かっていて、政府(経済産業省)は有識者を集め、このトリチウム水をどう処分するか話し合いました。2013年のクリスマスにはじまった「トリチウム水タスクフォース」という会議です。(略)
 会議では「地層注入」「海洋放出」「水蒸気放出」「水素放出」「地下埋設」の5つの選択肢が出てきました。これら5案について、2016年6月にまとまった報告書は処分にかかる「時間」と「費用」を算出しました。

処分方法   処分に要する期間(月)  費用(億円)
地層注入   69~156         177~3976
海洋放出   52~88          17~34
水蒸気放出  75~115         227~349
水素放出   68~101         600~1000
地下埋設   62~98          745~2533

 そしてマスメディアはこの試算を大きく報じました。(略)
 これをきっかけとして、世間には「時間と費用のどちらをとっても、海洋放出がリーズナブルなんだな」という相場観ができたと筆者は考えています。(略)

 

 これが経産省の最初の試算だったのである。ところがそれがどうなったのか? 詳しくは、牧内さんのコラムを読んでいただきたいが、あれよあれよという間に費用は膨れ上がり、最終的には1200億円という額に達していると、牧内さんは指摘している。
 また、放出に伴う漁業者たちへの支援金として、すでに政府は800億円を用意したというが、さらにそれに207億円の上乗せをするという。合計では1000億円を超すことになる。で、その金はどこから出てくるか。東電の負担もあるけれど、それだってもとを質せば我々の税金と電気料金なのだ。
 つまりこれらは、明らかに政府の失政の後始末に使われる金なのだ。

辺野古工事費

 9月4日、最高裁小法廷は、沖縄県の辺野古工事における埋め立ての設計変更の不承認は「違法」として、県側の敗訴が確定した。つまり、沖縄県は「最後の手段」を最高裁によって奪われたことになる。
 むろん、玉城知事は「辺野古基地建設反対」の意思を撤回してはいないけれど、国と司法によって両手両足をがんじがらめに縛りあげられた状態になった。
 しかし、法的な問題はさておくとしても、辺野古基地建設費に関してはもうメチャクチャなのだ。東京新聞(9月5日付)がそれを詳しく報じている。

辺野古 工事費底なし
軟弱地盤巡り沖縄県敗訴確定
埋め立て14%、半分近く使い切る

(略)工事には2022年度末時点で4千億円以上が投入されている。防衛省が当初見積もった総工費3500億円を上回りながら、埋め立ての進捗率は14%に過ぎない。辺野古予算は底無しの様相を帯びてきた。(略)
 22年度末時点の工事の進捗を見ると、事業全体の埋め立て土量2020万立方メートルのうち、4年余りで埋め立てた量は14%。しかもこれまで埋め立ててきた場所は、工事がしやすい水深の浅い海域だ。
 防衛省は4年前、軟弱地盤対策のため総工費を9300億円に引き上げた。
 難易度が高くかなりの費用がかかると見込まれる軟弱地盤の工事が始まってもいない時点で、すでに総工費の半分近くを使い切ったことになる。(略)
 「事業進捗からすると、2兆を超えて3兆も超えるかもしれない」。工費膨張の恐れは、国会でもたびたび指摘されている。(略)
 総工費を2.7倍の9300億円に引き上げたのは、海底に約7万本もの砂杭などを打ち込み、軟弱地盤を固める大掛かりな改良工事が必要となったためだ。工期も5年から9年3カ月に延ばした。(略)

 

 これなどは、典型的な政府の失政のツケだろう。
 選挙や県民投票を通じて、何度も沖縄県民は「辺野古基地反対」の意思を表明してきた。その意思を無視し、強引に工事を進めてきた。
 これから工事に入ろうとする大浦湾側は、沖縄本島では数少ない「生物多様性の海」である。そこへ、細かい土砂混じりの土を投入すれば、8万群体ともいわれる大浦湾のサンゴは壊滅的打撃を受けるだろう。
 すでにほぼ1兆円に達しそうな金をぶち込み、最終的には2兆円とも3兆円ともいわれる金を使おうというのだ。そんな金がどこから出てくるのか。

 繰り返すけれど、国家予算が「軍事費」と「失政の後始末」の支払いで膨張している。我々の税金が、辺野古の軟弱地盤への土砂となって消えていくし、マイナンバーカードや処理汚染水の放出によって、どんどんその額が膨れ上がっていく。

 どこまで国民から金を搾り取れば、政府は満足するのだろうか。
 経済ジャーナリストの荻原博子さんによれば「江戸時代は四公六民、すなわち領主が農民の収穫分のうち4割を取り、6割が民のものだった。ところがいまや、ほとんど五公五民、国民の稼ぎの半分が国家に召し上げられているのです」とのことだ。
 我々の生活を豊かにするための税金ではないのか?

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。