第278回:散歩のノリでデモに行こう(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

ああ、夏太り

 最近は、週に1、2度くらいしか「都心」へ出かけない。まあ、その程度には仕事(多くはボランティアだが)をしている。
 ぼくが住んでいるのは東京の多摩地区のとある街。山手線の内側へ出かけるとなると、どうしても「都心」という言葉になってしまう。わが街は東京都内ではあるけれど、それくらい感覚的に違う。なにせ、我が家の両隣は農家なのだ。
 まだまだ暑さが去らない。ほんとうに、このところの気温は異常というしかない。まさにグテーレス国連事務総長の言うように「地球沸騰化」である。だから昼間の散歩もままならない。それでも晩酌のビールは欠かさないものだから、夏痩せどころか、ちょいと夏太り気味である(苦笑)。
 以前はせっせと水泳に通っていたのだが、ここ2年ほどはコロナのためにそれも控えていた。太るわけだ。だから最近は、少し気温が下がる夕刻に散歩することにしている。それでも汗はかいてしまうから、帰宅してシャワーを浴びて、ビールをクイーッ。これではやはり、体重は減らないなあ(再苦笑)。

夕餉の匂いと野鳥たち

 夕暮れの散歩、なかなか面白い。
 住宅街を歩いていると、家々から夕餉の支度の匂いがする。ふむ、この家は焼き魚だな、こちらのお宅は醬油味の煮つけかな、などと想像しながら歩いていると、クウッとお腹が鳴る。もちろん、いちばんお腹を刺激するのはカレーの匂いだ。こいつを嗅ぐと、食欲が一挙に増す。さて、我が家の夕食の献立はなんだったっけ?
 夕焼け空もなかなかだ。刻々と変わる空の色。紅く染まった雲に、何だか動物の顔が重なる。巨大な動物、怪獣じみている。ゴジラみたいだ…。
 我が家の前の路地には、夕暮れの花、オシロイバナが咲き始めている。白、赤、ピンク、絞りまで、けっこう風情がある。
 少し早めの散歩の際は、脚を伸ばして“墓参り”だ。いや、墓参りといったって、自分ちの墓じゃない。自転車で15分ほどのところにあるおおきな「多磨霊園」まで行ってみるのだ。これがけっこう興味深い。樹々が多いから少し涼しく感じられるし、有名人、著名人のお墓もたくさんある。
 あれ、こんなところに岡本家の墓。あの「芸術は爆発だっ!」の岡本太郎さんのオブジェが、ご両親に捧げられている。そんな発見も楽しいし、車がほとんど通らない霊園内だから、広い道の真ん中を、ゆらりゆらりと…、散歩の悦楽。
 どこかからかお線香の香りが漂うし、野鳥の鳴き声も聞こえてくる。ここは、さまざまな野鳥たちの“天国”でもある。
 スズメやカラスやハトはもちろん、シジュウカラ、エナガ、コゲラ、ツグミ、ムクドリ、ジョウビタキ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、時にはサギやコサギ、アオサギなんかもやって来る。それに、本来は南国の野鳥なのだが、ペットとして飼われていたものが脱走(?)して野生化したワカケホンセイインコなんかも見かけることがある。グリーンの美しい鳥だが、鳴き声は悪声だ。
 霊園に離接する「浅間山公園」には、野鳥観察スポットまであり、いつもかなりの撮影者でにぎわっている。

いざ、都心のデモへ

 そんな日々…。
 18日、ちょいと都心まで、少し大きな散歩に出かけた。
 この「マガジン9」の「全国デモ情報」でも告知されていた「ワタシのミライ~No Nukes & No Fossil」という集会とデモに参加しようと思ったのだ。
 若者たちや外国人観光客であふれかえっている原宿駅で下車、代々木公園へ向かう。ぼくにとっては久々の都心のデモ、そして久々のカミさんと一緒のお出かけでもあった。
 まあ、デモ行進なんて、あまりまなじりを決して行くものじゃない。のんびりと、散歩のつもりで参加すればいい。それに、ぼくらは高齢者。ゆっくり歩くのがちょうどいい。
 集会は11時から始まっていたというが、ぼくらが着いたのは午後1時過ぎ。今回はいつもの「さようなら原発1000万人アクション」の単独主催ではなく、以下の3団体の共催だという。

 「ワタシのミライ」=再エネ100%の公正な社会を目指し、2022年に発足。FoE(Friends of the Earth)Japan、グリーンピース・ジャパン、Fridays For Future Japan、などが共同で運営。

 「Fridays For Future Tokyo」=スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの気候ストライキを受けて始まった若者による世界的な気候正義運動。その東京の組織。

 「さようなら原発1000万人アクション」=2011年の福島原発事故を受けて始まった脱原発の市民運動。呼びかけ人は、内橋克人、大江健三郎、落合恵子、鎌田慧、坂本龍一、澤地久枝、瀬戸内寂聴、鶴見俊輔の9人。

 この3組織の構成を観れば、老若男女、性別も国籍もジェンダーも年齢も問わない、まさに現代を象徴するような集会だったことがよく分る。
 共催組織が示すように、集会の会場の代々木公園は、ほんとうにさまざまな人たちでにぎわっていた。こんな楽しい集会&デモ、気持ちいいなあ、暑いけれど。
 ぼくらは遅く到着したので、音楽演奏やいろんな方たちのスピーチなどはあまり聞けなかったけれど、それでも会場の楽しさは満喫できた。会場脇にはさまざまな団体がテント張りの出店をしつらえて、自分たちの活動の案内や宣伝、物品販売等を行っていた。いろんな場所で、いろんな人たちが活動している。見て回ると各地の熱気が伝わってきて、それも楽しい。
 ステージ上では、小出裕章さんや鎌田慧さんらのシニアとともに、「Fridays For Future」の川崎彩子さんたち若者も活発な意見を交わしていたし、少し離れたサブステージでも若者たちのアピール、そして世田谷区長の保坂展人さんも特別参加でお話をしていた。新しい可能性を見せてくれた集会だった。
 午後3時半からデモが2コースに分かれて出発。参加者は約8000人とのこと。ぼくらは渋谷コースに参加した。ここでもファッショナブルな若者たちがシュプレヒコールを繰り返しながら、渋谷の繁華街を意気揚々と歩いていた。渋谷の街を歩く人たちとほとんど変わらないカッコよさ。
 こういうの、いいなあ。

 くたびれたので、渋谷交差点でデモを離脱。
 デモ隊はもう少し先の公園まで行進するという。
 とても暑かったけれど、気持ちのいい午後だった。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。