気がついたら10月である。今月はぼくの誕生月。年齢を重ねると、ほんとうに時間の経つのが速い。最近は、日々衰えていく自分を感じる。だから、なるべく楽しいことを考え、楽しく物事を見るようにしている。そしてなるべく(安くて)美味しいものを食べ、少しだけお酒を飲む。それがぼくの健康法と言えば言える。それに、朝風呂と夜の映画。これも欠かせない。
こんなふうに、最近は生きている。
沖縄ニュー・ウェイブ
イヤなニュースばかりだけれど、いいことだってある。
ぼくは友人たちと立ち上げた「デモクラシータイムス」という市民ネットテレビ(YouTubeチャンネルで登録者数が17万人を突破した)で、「沖縄うりずん通信」という番組をやっている。三宅千晶さんという若い弁護士の司会で、一橋大学大学院の元山仁士郎さん(沖縄県民投票運動のリーダーだった)、沖縄タイムス東京支社報道部長の照屋剛志さん、それにぼくがレギュラー。
その番組の9月号(現在配信中)で、ステキな若者に出会ったのだ。沖縄で新しい動きをし始めた人たちだ。
「辺野古新基地建設に反対し、沖縄の自治の底力を発揮する自治体議員有志の会」というちょっと長すぎる名前の組織だが、略称「有志の会」という。想いの丈を込めたら、こんな長い名称になってしまったらしい。それだけ意欲に満ちているのだ。沖縄県内の市町村議員の有志が集まって、とにかく自分たちの(沖縄の)意見をはっきりと表明し、行動しようという趣旨だという。9月16日に、その結成会見が那覇市内で行われた。新たな政治グループの立ち上げである。
9月29日時点で、参加議員は114名に達したという。沖縄県内の市町村議は合計644名なのだからなかなかの組織といえる。今も参加を呼びかけているから、まだまだ増える可能性もある。
「沖縄うりずん通信 9月号」には、その会の提唱者のうち、おふたりの若い議員さんが出演してくれた。與那覇沙姫さん(読谷村議)と仲宗根由美さん(北谷町議)だ。昨年の選挙で当選したばかりの若手議員。元気がよくって理論的で、なにしろ若い。そんな人たちが、地方自治の第一線に躍り出てきたことは、ほんとうの意味で、草の根から政治が変わっていく可能性を感じさせる。
彼女たちは「地方のことは地方で、自分のことは自分で決めたい」とはっきり言う。これこそが「地方自治の基本」だろう。さんざん言われてきたことをあっさりと、しなやかに乗り越えていく。地域からの新しいうねり。
いわゆる政治家っぽい感じはまったくしない。一緒にカラオケではじけていそうな若者たちが「なぜ国が押し付けることに黙って従わなければならないの。自分たちのことは自分たちで決めたい」と、ごく当たり前のことを、ごく当たり前の言葉で語り始めたのだ。ぼくも楽しくなるのは当然だ。
その熱くて楽しい語りと希望はぜひ、この「沖縄うりずん通信 9月号」で確かめていただきたい。
大集会の動きも
沖縄の動きはこれだけではない。
沖縄タイムス(9月25日付)が、こんな動きを伝えている。
「平和に生き延びることを本気で考える局面」
戦争回避する外交解決訴える
「台湾有事」の軍備増強に反対 県民の会が設立
11月に1万人規模集会を目指す沖縄を含む南西諸島で「台湾有事」を理由に進む軍備増強に反対する全県組織「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」の設立・キックオフ集会が24日、沖縄市民会館で開かれた。約800人(主催者発表)が参加。長距離ミサイルの配備や日米の軍事演習などに反対し、戦争を回避するための正常な外交関係の構築などを求める宣言を採択した。(略)
同会は11月23日、那覇市の奥武山公園で県民大会を開き、1万人規模の結集を目指す。県議会野党や中立の議員にも参加を呼びかける考えだ。
瑞慶覧長敏共同代表は「声を上げ、世界とともに連帯して活動しよう」と呼びかけ。具志堅隆松共同代表は「私たちが再び戦争に巻き込まれるということを、真剣に考えなければならない時期が来ている」と訴えた。(略)
集会宣言は沖縄戦の教訓から「軍隊は住民を守らないのは歴史的事実。平和に生き延びることを本気で考えなければならない局面に立たされている」と強調。危機感を示すために黄色いリボンなどを身に着ける参加者も目立った。(略)
これもまた新しい波だ。
沖縄の運動をリードしてきた「オール沖縄」が、いわゆる保守・革新のひび割れを起こし、さまざまな軋轢を生み始めたのに対し、もっと幅広い層を糾合して新組織を構成しようというわけだ。むろん、今までの組織を否定するわけではなく、一緒にできることは協力し合うというスタンスだという。
それが早速、1万人規模の集会を開く予定というから、かなりの浸透力を持った組織ということだろう。これに先行する「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」も共同歩調をとるらしいから大きなうねりになるかもしれない。
八重山諸島などに、次々に自衛隊の基地が造られ、ミサイル配備などが進む。穏やかな離島が、まるで戦時態勢に入ったようなキナ臭さ。
やたらと愛国心を振りかざす“本土”の人たちが「台湾有事」を言い立てる。敵基地攻撃だPAC3だトマホークだ新型迎撃ミサイルだと、安全な場所から「地政学的な必要」だとかなんとか喚きたてる。それに脅かされて、「シェルターを造ろう」などという動きまで出てきている。小さな島にシェルターを造ったって、いったい何人がそこで攻撃から身を守れるというのだろう。実はその計画は、自衛隊員のためのシェルターだということが分かっている。決して住民保護のためではない。
穏やかに暮らしている住民たちはたまったもんじゃない。島の道路を、自衛隊の軍用車両が走り、武装した自衛隊員が行軍する。突然の島の変貌に脅える島民たち。
沖縄の心ある人たちが「沖縄を再び戦場にさせない」と立ち上がったのは当然の成り行きだ。前述した「有志の会」とも連携するというから、これから大きな運動となっていくだろう。これは「希望」だ。
都知事が突然の「待った」
小池百合子都知事が突然、東京都の明治神宮外苑の樹木伐採に「待った」をかけた。東京新聞(9月16日付)が報じた。
外苑伐採 小池知事が「待った」
事業者へ「しっかり対応を」
イコモス要請は「関係ない」
突然なぜ いぶかる関係者東京・明治神宮外苑の再開発を巡り、小池百合子都知事は15日の定例会見で、樹木保全の具体策を示すように事業者に求めた都の要請書について「事業者はしっかり対応していただきたい」と述べ、今月にも始まるとされていた樹木伐採の前に、具体的な保全策を示すよう改めて求めた。要請には法的な拘束力はないが、伐採開始にひとまず「待った」をかけた格好で、日程に影響を与える可能性もある。(略)
“風見鶏”の異名をとる小池都知事らしい動きではある。
神宮外苑の再開発には、多くの人から危惧や反対の声が挙がっていた。ことに、故坂本龍一さんが小池都知事に手紙を書いてまで、伐採の中止を訴えたことは大きな反響を呼んだ。村上春樹さんも何度も反対を表明したし、坂本さんに触発されたという桑田佳祐さんの新曲『Relay~杜の詩』には、明らかに伐採反対の意志が込められている。
また、ラグビー元日本代表の平尾剛さん(神戸親和大教育学部教授)も。秩父宮ラグビー場の改築移転に強く反対し、再開発での周辺の環境破壊に抗議している。
さらに、ユネスコの諮問機関のイコモス(国際記念物遺跡会議)が強く伐採に疑義をとなえたことも世論に影響した。小池都知事は記事にあるように「イコモスの要請は関係ない」と一蹴しているが、気にしているのは明らかだ。
つまり、人々が声を上げれば、行政は気にせざるを得ないということだ。「都心の数少ない緑のオアシスを再開発で壊すな」と盛り上がった声が、小池東京都知事を動かしたのだ。声を上げることの大切さを示している。
むろん、小池都知事が「再開発中止」にまで踏み込むとは思えない。東京じゅうを再開発怪獣が跋扈して、どこの駅前も再開発の嵐だ。風情ある駅前商店街は、見る影もなく潰されていく。その怪獣の背中に乗っかっているのが小池都知事なのだから、いずれ別の手で「再開発」を押し進めてくるだろう。しかしその時も大きな声があれば、そう簡単には伐採できまい。声を上げ続けなければならない。
開発事業者の三井不動産も、とりあえず「伐採は来年以降」と言わざるを得なくなった。延期ではなく中止に追い込むまで、声を上げ続けなければならない。
声を上げれば動くことも
もうひとつ、世論が政府を押し戻す事例があった。日本学術会議の問題である。
これは、朝日新聞(9月30日付)の記事を見てみよう。
学術会議 推薦105人任命へ
政府方針 拒否6人は含まず日本の科学者を代表する組織「日本学術会議」の会員改選にについて、政府は学術会議が推薦した105人全員を任命する方針を固めた。(略)
首相官邸によると、前回改選時の2020年に菅義偉首相(当時)が任命拒否した6人は含まれていないという。(略)
学術会議は改選に向け、8月末に推薦名簿を提出した。しかし、3年前に任命拒否された6人については、岸田政権に任命を求め続けてきたものの実現していない。(略)
来週の総会で発足する(学術会議の)新執行部は、引き続き6人の任命を求めていく見通しだが、政府は任命拒否の撤回には応じない方針だ。(略)
政府の方針はかたくなで、前内閣が拒否した6人の任命は認めない方針だ。しかし、今回は学術会議側推薦の全員をそのまま任命、ひとりも拒否することはなかった。それについて記者会見で問われた松野官房長官は、例によって「人事に関する件については回答を差し控える」という回答でむにゃむにゃ。まったく何のために記者会見を開いているのかわけが分からない。
学術会議側はこれ以降も、前の6人の任命を求めていくために、今回の改選にあえて6人を含めなかったのだという。
さすがに岸田政権は、今回はひとりの任命拒否者も出せなかった。あの菅首相の轍を踏むまいと考えたに相違ない。これも、世論の反発を恐れてのことだった。
外苑の樹木伐採の件も学術会議の件も、多くの人たちが声を上げれば、行政も簡単には無視できなくなる。ことに選挙の匂いがする昨今、岸田内閣も小池都知事も、世論の動きには敏感にならざるを得ない。
声を上げよう。
いいことは、自分たちで作らなくちゃ。