第152回:NO LIMIT 2023 高円寺番外地、大成功!!!!!(松本哉)

 すでに各所で告知してきたように、9/22~10/1の10日間、高円寺にて海外の大バカたちが集結して行われる狂乱のイベント、「NO LIMIT 2023 高円寺番外地」が決行され、とんでもない大混乱のまま終了した。いやー、疲れた〜!! でも、結局、海外からも100名を超える謎のヒマ人達が大挙して遊びに来くるわ、国内も各地からいろんな人が続々登場し、まさにバカとバカのぶつかり合い! 謎の疫病に悩まされた約3年間の世界マヌケ交流のブランクを一挙に吹き飛ばすようなふざけた日々。いやー、とりあえずすごかった!

高円寺が交流の渦で大混乱に!!

 まず準備段階から大騒ぎで、日々怠惰な生活を送っている高円寺の人々がやる企画なので、当然準備不足のまま開催日が迫ってくる状態。これは大丈夫かと、若干心配でもあったのだが、蓋を開けてみるともうあっという間に大混乱の渦に叩き込まれ、みんなでなんとかした感じ。
 さらに、遠方から来たやつらが例によってやばかった。事前に「やるから遊びに来て〜」と、声をかけていた人たちだけじゃなく、突如ニューヨークから高円寺番外地のためにわざわざやってきた3人組やら、国内の片田舎から噂を聞きつけて「いや〜、来ちゃいましたよ!」なんていう、「誰だオマエは!」ってやつらが続々登場して、各地のマヌケなやつらの高円寺流入が膨れ上がる一方。

高円寺番外地の大まかなタイムテーブル。さらにここから続々とイベントも増えていった

 そして、高円寺番外地開幕日にあたる9/22には、左派老人最後の砦『週刊金曜日』になんと8ページにわたる高円寺番外地特集が組まれ、番外地企画に参加しているアーティストや研究者の寄稿なども掲載された。そのおかげで、続々と老人衆が高円寺を訪れてくる。言葉の通じない若者たちの狂乱の騒ぎに腰を抜かしそうになったり、完全に意味不明のアート作品に目玉が飛び出そうになったりとすごいことに! 残念ながら「いやー、あの勢いにはどうも馴染めなかった」と断念するご老人もいる中で、ぐいぐい食い込んで交流を深める強豪も続出。海外の若者たちと戦争中の話をしてる人までいて、これはこれでまさかの交流。いやー、予測不能感が最高だった。
 結果、ライブやDJ、展示やトークショー、ワークショップなど10日間で50を超えるイベントが開催されたので、当然全てのイベントに参加できた人なんかはおらず、どんなに頑張っても半分も見ることはできなかっただろう。開催中にも続々と急遽イベントが立ち上がったりしてたし、もう全貌は誰もわからない感じ。TwitterやInstagramなどで「高円寺番外地」を検索してもらえれば無数のイベント群が続々と出てくるので、気になる人はそっちで調べてみてほしい。

中国・寝そべり主義に関する特別シンポジウム。未知との遭遇に興味津々の各国の人々

 そして、その日の各イベントが終わった後がやばい。一部のイベントを除いては、だいたい夜12時ごろには終了するので、その後、行き場を失った国籍不明の人々がその辺の飲み屋や駅前の広場などで続々と飲み始める。ま、例によってこのイベント外の交流が最も重要で、少人数で昼ごはんを食べに行ったり、休憩でコーヒー飲んだり、夜に酒を飲んだりする時に出身地も入り乱れた人同士でいろんな情報交換したり、友達になったりして国境を超えて混じり合っていく。そう、この国境を曖昧にしていくために行うこの高円寺番外地、50を超えるイベントも、この交流のキッカケ作りにすぎないのだ。今回もそんな感じで高円寺の地を媒介にして世界各地のやつらがお互い知り合いになったのが本当に最高だった。この後は、勝手にお互いの国へ遊びに行ったりと、さらに交流が活発になることは確実。
 イベント外にあふれ出した国籍不明の人たちは高円寺中をウロウロしてるので、謎の盛況感に包まれる。近所の洋服屋の兄ちゃんも「今週、外国からのお客さんが半端なくて売り上げやばいっすわ! 今週毎日開けることにしました」なんて言ってる。海外組は20代〜30代ぐらいがほとんどなので購買欲も景気良さ全開のようだ。大繁盛なのは飲食店や物販店だけではない。駅前交番のお巡りも「なんかここ数日、駅周辺が連日週末みたいな感じになってるけど、何かあるんですかねえ? 毎日忙しくてしょうがないですよ」なんて聞いて来るぐらい。「いや〜、知りませんねえ。僕も不思議に思ってたんですよ〜」とシラを切る。

アラスカからやって来たベトナム茶研究家のSeth氏。ヒマを持て余すといつでもどこでもすぐ茶会を開く

前代未聞、全部に反対デモ!

 50以上のイベントなんてとてもじゃないが紹介できないんだけど、せっかくなので最終日に行われたデモについてだけは紹介しておこう。
 まず、企画段階で予定されていたほとんどが屋内イベントだったので、開放的な野外イベントもやりたいっていう話は出ていた。かといって、野外ステージなどは超大変な上に場所もないので、野外パレードという形で企画をやろうということになった。もちろんその目的は、この高円寺番外地のテーマの通り、国やら行政やらを通さずに国を超えたアンダーグラウンド文化圏のやつらが直接繋がる世界地下文化連帯。ただ、書類上はデモ申請なのでデモのテーマを何か決める必要がある。「世界のみんなが繋がろう」みたいなフレーズはダサすぎて口が裂けても言いたくないので、何かテーマを決めたい。ま、こういう時はみんなでダラダラ飲みながらああでもないこうでもないとふざけた案を出しながら、「それいいね!」「いや、それダメでしょ」って感じで決めるのが常。しかし、今回はそんな時間はない。みんな大量のイベント準備を抱えていたり、世界各地から問い合わせが来まくっていて連絡に追われていたり、みんなやることが山積だ。ということで、とりあえず「何に反対するかは後で決めよう」というアベコベなことに!
 早速急ピッチで準備が始まり、トラックの上にバンドの機材を積んだバンドカー、そしてDJ用のステージを積んだDJカー2台の登場が確定し準備は進む。で、すごいのが「何に反対するかはまだ決まってないんだけど、デモに出ない?」というデタラメにも程があるオファーにもかかわらず「出る!」と言ってくれるDJやバンドが続々と出場決定。挙げ句の果てにはカンパの募集まで始まってしまう。どうなってるんだ〜! やばいやばい、早く何に反対するか決めないと大変なことに!
 これ、軽く言い訳するけど、もちろんみんな「騒げりゃテーマなんてなんでもいい」なんて思ってるわけじゃない。この高円寺番外地の最終日にやるパレードということもあり、だいたいどういうことなのかみんな分かってるのだ。これが小さなコミュニティの中で分かり合えてるんじゃなくて、日本各地の人たちや国を超えた人たちもちゃんと高円寺で我々がやるデモに対して信頼してくれているということ。以心伝心というか、ツーと言えばカーというか、目配せをして「ま、こんな感じで」とか、「野暮だなあ、みなまで言わせんない!」みたいな感じ。もう理屈だけで動いてる人間達が腰を抜かしてひっくり返るような事態。ちなみに、これ実際に申請する杉並警察署ももうこんな感じ。デモの申請するってだけで、何も言ってないのに「またあれか? バンドとかDJとか、居酒屋で飲んじゃったりするんだろ?」みたいな感じで、「テーマも当日までに考えといて」ってことで済んでしまう。杉並署員のレベルアップは進み、最近に至っては「バンドの転換はこのあたりがいいんじゃねえか? ここは駅前で見せ場だからここ終わってからのタイミングとかどう?」みたいに、警察が完全にライブハウスのスタッフみたいなってきてる。これはすごい!
 とは言っても、さすがにこの全てあうんの呼吸のまま曖昧デモに突入するわけにもいかないので、しょうがないから何に反対するか話し合う。税金高すぎるとか物価が高いとか、戦争の問題とか、街の再開発とかいろんなテーマ案が出る。有力だったのはまさにデモの日10月1日から始まるインボイス。おお、これでしょー、となりかけたが、謎の無国籍集団で「インボイス反対〜」ってオマエら消費税納税関係ねえじゃねーか(笑)、ってことに。遠く回りまわっては関係なくもないけど、それいちいち説明するのはキャッチーじゃないので、一旦それもお流れ。よし、じゃあ最近話題だった移民難民問題とか? でも、外国人たくさん集めて入管法反対ってのも、なんだか日本人が外国人を利用してデモやらせてるように見えそうで、どうもよくない。
 ということで結局話がまとまらず、そんな時、ある台湾人が「前、台北でやった時は反対内容を100個ぐらい羅列してデモやったよ」と紹介してくれた。それいいね! ということで安易に「全部反対デモ」に決定。で、アジア各国から集まった大バカたちがやるってことを示すために、「アジア粗忽者一揆」という副題がつけられる。

「全部反対デモ」粗忽者たちの平和な宴が高円寺の路上を埋め尽くす

 そして、その全部反対デモがまたすごく良かった。「全部反対!」という巨大な看板のもと、みんなそれぞれいろんな自分のテーマで紙に書いてきて掲げてたりして、しかも全体的にすごい平和でハッピーな雰囲気に包まれて、楽しい感じのパレードだった。こういうパレードの雰囲気って主催側でできる演出って本当に限られていて(なのでほとんどやらない)、実際は参加者たちにかかっている。高円寺の人たちや高円寺に来る人たちのデモへの参加の仕方が本当にすげえなー、と最近いつも思う。で、この楽しい空気感をアジア各国や遠くは欧米からも来た人たちと共有して、みんなで街を歩けたことはすごい感動的。国の支配者のやつら同士がすぐバカな揉め事を起こすなか、こうやって違う意味の大バカたちが国も国境もヘッタクレもなく一緒に何かを作るっていうのはすごく重要だよなー、と改めて思う。

デモには「若けえやつらにゃまかせておけねえ」と、老人決死隊“老いぱんく”が登場! 最期まで好き勝手な人生を送る決意を見せ、アジアの若者たちから拍手喝采を浴びる

恐るべし高円寺

 そして、高円寺にも触れておきたい。
 今回の高円寺番外地を主催したのは、主に高円寺で店をやってたりスペースを運営している人たちの連合で、そこに個人で参加する人たちが集まって運営がされた。やはり店をやっている人たちや、そこでイベント企画をしてる人たちは普段から金勘定とかイベント企画に慣れているので、いろんな企画がパッパと決まっていき、行動力がすごかった。会場が足りないとなったら知り合いの中から「あ、うちの店使ってもいいですよ」とまた参加店が増える。そんな感じ。みんな勝手に自分のセンスで企画を乱発していくので、完全にカオス。意味のわからないライブとか、完全に謎の演劇とか、自分では思いもよらないような企画の連続ですごいことになっていた。

東高円寺の自律スペースTKA4にて。この日のライブイベントは、従来のブッキングに加え、知久寿焼、橋の下音楽祭の頭目・永山愛樹率いるアルコド、GEZANなど、急遽出演のライブが続々と決まり、キャパを遥かに超える大パニックに

 あと、やはり各会場が全部歩いていけるので、これも良かった。ちょっと顔出して、つまらなかったら次に行けばいいし、気が変わったら戻ってもいい。そしていく先々でいろんな各国からの友達がウロウロしていて「あ、オマエここにいたのか!?」なんてどんどん遭遇したりしてたので、そのおかげで人の交流もかなり活発になった。歩ける距離感で知り合いのスペースがたくさんあるのって超重要。
 さらに、もう一つ重要なのが高円寺番外地で店やスペースが集結し、この10日間の企画が終わったら一瞬で解散して散り散りになること。祭りが終わったあとはまたみんな自分の本業に戻ってそれぞれまた勝手に自分たちのことをやり始める。これがすごくいい。これがもし「せっかくみんなで協力して大きな企画やったんだから継続してこれからも何かやっていこう」みたいになったら面白くもなんともない。継続的なメンバー、お金、ルール、伝統、権威、予定調和、などなどつまらないものが続々と出てくるので、継続はしないに越したことはない。それに、イベントってイチから作る時が大変だけど一番面白いしね。
 終わったらさっさと解散して跡形もなくなり、またいつか何かある時はその時に集結したメンバーで全部イチから始めるのが気持ち良くていい。そういう意味でも、商店主や個人事業主の臨時連合として登場する高円寺での数々の騒ぎは無敵とも言える。ちなみにこれ今回の高円寺番外地やたまにやるデモやパレードだけではなく、うちらとは全く関係のない高円寺の各種イベントなんかもこの形態で行われることはすごくよくある。個人店や個人事業が無数にある街ならではの特色かもしれない。というか、本来は日本中がそうだったので、今からでも各地に個人店や個人事業がはびこりまくる社会になるのが理想的だ。
 そう、個人事業主が本気を出した時に発揮できるパワーってとてつもない。1週間は仕事ほったらかして全精力を注いでことに当たり、残りの3週間で挽回して月末までに帳尻を合わせる、っていうサラリーマンにはできない動き方が可能(挽回に失敗して地獄を見ることもあるのでどっちがいいかは不明)。余談だけど、それをみてもインボイスで個人事業主が弱体化するのは本当に文化的にも痛手だな〜。

来年は台湾で何かが起こる!?

 そんなことで、高円寺番外地も最終日を迎え、高円寺のDBというスペースで閉幕イベントのDJパーティーが行われている時、その会場で突如衝撃の映像が流された。それがこちらである。

 そう、NO LIMIT 2024 台湾の予告動画だ。「おおー、いいねー!」と喜ぶ各国のやつらと、驚き慌てふためく台湾人たち。そう、何を隠そう、この動画サプライズで勝手に作ったのだ。この動画に出てる台湾人たちが高円寺に到着して、軽く飲んでる時に、酔っ払って「来年は台湾だな、俺たちがすげえことやってやる」みたいな大風呂敷を広げ始めたので、「言ったな! じゃあ動画で記録するぞ」→「いいよ、撮れよ撮れよ」という流れで撮影。そう、高円寺で酔った勢いで口を滑らせることは命取り。即座に字幕と音楽を入れて予告編を勝手に作成。最終日にはイベント各会場で動画が流された。ちなみに動画内の音楽はこの大見得切ってる本人の曲で、最終日昼の「全部反対デモ」のステージ上に登場したバンド「共犯結構」で歌ったばかり。それがまさに「台湾の若者たち、立ち上がれ〜」って歌詞だったのでまさにピッタリ。で、「ハメられた〜!」と頭を抱えつつも大喜びの台湾チーム。
 まあもちろん、半分悪ふざけで作った予告動画だし、実際にやるかやらないかは台湾チームの気分次第。高円寺番外地を上回るとんでもないことが起こるかもしれないし、軽いイベントで終わるかもしれない。または何もないかもしれない。さあ、果たしてどうなることやら。所詮世の中悪ふざけの塊。来年何が起きるかは、来年になってみないとわからない!! 諸君、乞うご期待!!

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。