第659回:悪質ホストクラブ問題、急展開を迎える。の巻(雨宮処凛)

 「好きで好きで仕方なかった」一一。

 この言葉は、2019年5月に起きたある殺人未遂事件で逮捕された人物が語ったものである。

 刺されたのは歌舞伎町のホスト・琉月(るな)さん(当時20歳)。刺したのは歌舞伎町のガールズバーの店長だった女(当時21歳)。この事件が有名になったのは、事件直後の写真がSNSで広く拡散されたからだ。マンションのエントランスらしき場所に倒れた血まみれの半裸の男性と、その横でタバコを吸いながら電話をかける女性。その前には警察官。

 コロナ禍が始まる前年のこの事件はしかし、時の経過とともに忘れられていった。

 それから4年後の今年、歌舞伎町のホストクラブ近辺には不穏な空気が立ち込めている。

 ホストクラブの売掛が払えず、風俗で働いたり「立ちんぼ」となって身体を売る女性の存在が大手メディアでも取り上げられるようになり、8月には「頂き女子りりちゃん」が逮捕。「おぢ」からお金を引っ張るノウハウのマニュアルを販売していた「りりちゃん」は「頂き」で手に入れたお金をホストに貢いでいたのだが、詐取した額はわかっているだけで約1億5000万円。10月には、「りりちゃん」の担当ホスト(26歳)とホストクラブ責任者の男(34歳)も逮捕されている。容疑は組織犯罪処罰法違反の疑いで、「りりちゃん」が詐欺で騙し取ったお金と知りながら現金およそ4000万円を受け取ったというものだ。

 また、11月16日には歌舞伎町の35歳のホストが恐喝と傷害の容疑で逮捕。客の女性を殴って脅し、現金を奪った疑いだ。

 その翌日には、歌舞伎町でホストクラブを経営する男も逮捕されている。客の女子高生に酒を提供したことが原因だが、女子高生は170万円を超える売掛金を払うために経営者の指示でパパ活や「立ちんぼ」をしていたという。

 その少し前の11月5日、歌舞伎町ではまたしても殺人未遂事件が起きている。逮捕されたのは25歳の女で、カッターナイフで刺されたのは23歳のホスト。逮捕された女は「半年で1800万円貢いだ」「人生を壊されそうになって許させなくて刺した」などと動機を語っているという。女はホストから凄まじいDVを受けていたそうで、顔を8針縫う、膀胱を損傷する、肋骨を折られるなどして入院を余儀なくされた経験があるそうだ。

 このような状況を受け、11月9日には塩村文夏議員が参院内閣委員会で悪質ホストクラブ問題について質問。また、立憲民主党は17日、政府に対して悪質ホストクラブの被害防止対策強化などを求めて要望書を提出。

 ちなみにこれに先駆けて11月3日、警視庁が歌舞伎町の「立ちんぼ」についてのデータを公表したのだが、これには衝撃を受けた。今年1〜9月までに売春防止法違反容疑で女性80人が摘発されたのだが、そのうち4割の売春動機が「ホストクラブの支払い目的」だったというのだ。

 売掛を払うため、また担当にシャンパンタワーをするために地方の風俗店などに「出稼ぎ」する女性も少なくないわけだが、最近は「海外出稼ぎ」も増えている。警察は、悪質ホストクラブの背景に組織的な犯罪集団があると見て、ここにきて取り締まりを強化しているようだ。

 さて、このようなホスト界隈のもろもろを、あなたはどこまで知っていただろうか。

 というか、いつからホストクラブって、こんなことになっていたのだろう? もちろん、すべてのホストクラブを悪質と決めつけるつもりなどない。が、ここまで書いたようなことが現実に起きているわけである。

 なんでこんなことになるのか、まったく意味がわからないという人にオススメしたい作品に、『明日、私は誰かのカノジョ』がある。「好きで好きで仕方なかった」という事件が起きたのと同じ19年5月に連載が始まった漫画で、紙・電子書籍で累計400万部を突破。22年にはドラマ化している。

 パパ活、整形、レンタル彼女などなど現代の女子たちのリアルがこれでもかと生々しく描かれているのだが、登場人物で誰よりも注目されたのが「ホス狂い」の「ゆあてゃ」だ。

 ツインテールに地雷系の服、ストロングゼロにストローという、今やすでに懐かしめのスタイルで歌舞伎町を闊歩する彼女には「はるぴ」という「担当ホスト」がいるのだが一一と、ここまでにしておくが、ゆあてゃの「被りは伝票で殺すんだよ」という台詞はブームになったので知っている人も多いだろう。私も昨年、ディズニープラスでドラマを一気見。ああ、自分が10代だったら、「ゆあてゃ」に憧れて、歌舞伎町を地雷系の格好で闊歩してたかもしれないな……と遠い目になったりした。

 もちろん、ホストにハマったらどうなるかはわかっている。が、私は10代を濃いめのバンギャとして過ごした身。ヴィジュアル系とホストの世界は見た目は多少似ていても目的から何から何まで全然違うわけだが(ヴィジュアル系は音楽、ホストは接客)、「好きで好きで仕方なかった」という気持ちには身に覚えがありすぎるし、自らを犠牲にしてまで何かを応援することの快楽も知っている。

 10代の頃、一緒にバンギャをやってた子たちの多くは貢ぐために風俗に流れたし、手が届きそうで届かない対象・ライバルが多い対象に対する燃え上がる思いも痛いほどわかる。そして当時の自分がなぜそれほどその世界にハマったのかと言えば、他に居場所が皆無であり、自分を受け入れてくれる世界はそこにしかなく、また自分と同じように傷ついている人が多くいた場所だったからだ。歌舞伎町にも、そんな匂いがする。

 そのようなことから、「ホス狂い」界隈については、遠巻きながらうっすらとしたウォッチャーとしてこの数年、観察し、関連書籍を読んだり、Tik Tokでホス狂いの人々の投稿を見たりなどしてきた。

 22年に出版された『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』の著者は、そんな歌舞伎町を「アジール」と指摘している。避難所だ。確かにそんな一面もあるだろう。本書によると、冒頭の事件で刺されたホストは施設育ちで一時期はホームレスにまでなっている。それを「拾って」くれたのが今の店の上司。そんな「疑似家族」のような関係性と強い絆にまつわる話が多くある。

 はぐれものたちが辿り着く、欲望むき出しの街。だけど「仲間」と認められれば居心地のいい場所。

 しかし、そんなアジールの一部ホストクラブは、いつからか女性への搾取を隠しもしなくなった。もちろん、それは以前からあったことだけど、凄まじい勢いでエスカレートしていった。

 立憲議員の質問や要望書、また相次ぐ逮捕などで悪質ホストクラブへの包囲網が作られつつあるのを知った時、「やっと」と思った。同時に、なぜここまで放置されてきたのかと、改めて疑問に思った。

 その最も大きな理由は、「どうせホス狂い」という無意識の差別心ではないだろうか。自戒も込めて、そう思う。

 さらに、この界隈のことは構造問題として語られることは極端に少なく、「ホス狂い」の女性たちの刹那的な生き方といった文脈でばかり語られてきた。

 が、今一度まっさらな目で見てみると、悪質ホストクラブ周辺には構造的な搾取があり、また組織的犯罪とも言える状況があるわけである。

 すでに女性に売春をさせた容疑でこれまでも多くのホストが逮捕されている。また、塩村議員の質問の翌日には山井和則議員も厚生労働委員会で悪質ホストクラブ問題について質問しているのだが、そこではひとつのあっせんグループが、ホストクラブの借金に苦しむ女性2000人を風俗店にあっせんしたことが語られている(名古屋のケース)。2000人。とてつもない数字で、それだけの女性たちの人生が狂わされたということに、ただただ言葉を失った。

 冒頭の事件に戻ると、裁判で、女性は月にホストクラブに数百万円使っていたと話している。そのお金は、風俗とパパ活で稼いだもの。そのおかげで琉月さんはナンバーワンになれたという。

 しかし、だからこそ、事件は起きてしまった。

 4年前のこの事件があった頃、背景にある構造の問題がもっと認識されていれば、その後、辛い思いをする女性が少しは減っていたかもしれない。が、当時、この事件は面白おかしく取り上げられただけで終わった。

 判決は、懲役3年6ヶ月。女性から琉月さんに届いた手紙には、謝罪の言葉とともに、「2ヶ月という短い間でしたが、夢のように幸せな時間をありがとうございました」と書かれていたという(『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』より)。

 夢のような時間。

 だけど、その代償は、あまりにも大きい。

 これから悪質ホストクラブ界隈はどう変わっていくのか、注視していきたい。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。格差・貧困問題、脱原発運動にも取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『ロスジェネのすべて』(あけび書房)、『相模原事件裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』(太田出版)。「反貧困ネットワーク」世話人、「週刊金曜日」編集委員、フリーター全般労働組合組合員。