第310回:権謀術数奇策縦横 やったれーっ!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

おーい、立憲くーん!

 もうこうなりゃ矢でも鉄砲でも持って来いっ! の気分で、書いちゃおう。どうせメチャクチャ、老い先短い身なのだし、好き勝手に書き散らしてもいいだろう、読者も少ないことだからな、ふんっ!
 ぼくの立場は「腐りきった自民党政権を倒すこと=政権交代=立憲民主党を中心にした野党共闘で政権を奪うこと」である。なんだかんだ言ったって、野党第一党なのは立憲だし、そこを中心にしてまとまらなければ、自民党政権を倒すことなどできっこない。
 「そんなことはゼッタイ無理ですね、フフフ」という冷笑系の方々は不愉快だろうから、ここから先は読まなくてよろしい。あ、そういう連中は、はなっから読みゃしねえか。それはそれで、ぼくはお気楽極楽。

 政権交代という声も聞こえ始めた。「まあ、無理だよ」⇒「いや、望みはある」⇒「自民がこのザマだから、まんざら夢物語じゃない」⇒「かなり現実的になってきた」…という感じの進み行きだ。
 ところが相変わらずの立憲くん。
 一方で激しく「自民党の政治資金パーティ」を批判しながら「改革案が通るまでは今まで通りに」という不可思議なリクツを持ち出して、岡田幹事長や大串選対委員長ら幹部が選挙資金パーティを実施しようとした。それを、代表イズミくんが容認しちゃうからよけい批判が殺到した。
 むろん、そんなアホなリクツが罷り通るはずもない。
 見ていた国民は唖然として開いた口がふさがらず、非難の嵐がゴーゴーゴー。自民党は小躍りして「敵失は味方の得点」とばかりに国会審議で鬼の首を取ったようなはしゃぎぶり。そっちこそ大バカの元締めなんだけど、自分のことは棚に上げている。当然ながら、立憲民主党の内部からさえ批判の声が上がり、たった1日で、岡田氏も大串氏も「パーティ中止」に追い込まれちまた。なんというカッコ悪さ。
 これを書いているぼくだって呆れちまって、口はあんぐりと開いたまま。
 せっかく膨らんできた政権交代論を、自らの手で萎ませる立憲くん。まったくなあ、ふうーっ…と、野党共闘による政権交代を望んでいるぼくも、切ない溜め息である。

「自民印」は「負け印」

 5月26日に投開票だった静岡県知事選は接戦だったが、それでも8万票ほどの差をつけて、立憲・国民の推薦候補が自民党候補を破った。自民惨敗である。
 さらに同日、東京目黒区の都議補欠選では、立憲と無所属の候補が当選、自民党候補は落選した。この自民候補は小池都知事も応援したにもかかわらず、である。ザマアみろ、いい気味と、ぼくはほくそ笑んだぜ。他に、同じ日に行われた広島県府中町選でも、自民党などが推薦した候補が落選している。
 もう「自民党印」は「負け印」なんですねえ。
 東京都知事選、こちらは小池百合子知事に立憲の蓮舫さんが挑戦を決めた。さすがの緑のタヌキ嬢も、こんな情勢じゃ自民党に推薦を頼むわけにはいかないよな。だって「自民印は負け印」なんだから。
 でもなあ、ここでもしゃしゃり出てきそうな悪の手先のショッカーがいる。ほらあのソバージュヘアの芳野さんとかいうレンゴーの会長さん。共産党もがっちり蓮舫さんに肩入れしそうだからね、共産党と聞くとアレルギーで体中ボツボツが出ちゃうという噂の芳野さんだもの、蓮舫さんの脚を引っ張る春の大運動会を開催か。これ、マジでありそうだから、リンダ困っちゃう。
 ともあれ、都知事選はほぼ小池VS蓮舫の一騎打ちで決まり。広島県のどっかの市長さんが、何を勘違いしたか「私が出ればあたらしい風が…」と都知事選に早々と立候補したが、まあ結局お笑いのタネ程度、落ちゆく先は吉本…てか。
 6月20日告示で、7月7日投開票の日程。ぼくは、小池さんだけには勝たせたくない。「都民ファ印も負け印」ということになればバンザイだす。

侮るなかれ、自民党+マスメディアの底力

 岸田首相、噂されていた「6月解散」になんか打って出られる状況じゃなくなった。だって「自民印は負け印」なんだからな。やったら惨敗必至。

 むざんやな甲(かぶと)の下のきりぎりす
 夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡  
 
 てなことになるのは必定。最後は、
 
 旅に病んで夢は枯野をかけ廻る(いずれも芭蕉) で、柝が入りチョ-ンッ!

 とすりゃ、岸田首相に残された選択肢はただひとつ。
 9月の任期満了に伴う「自民党総裁選」で、大田舎芝居を演じてマスメディアの関心を惹きつけ、総裁選で紙面や電波をジャックしてしまうことだ。
 雨後のタケノコ、どうにもならん小粒連中が、我れも我れもと顔を出す。どうせ「バカとアホウのからみ合い(鶴田浩二)」だから、見飽きた小石河連合(小泉進次郎、石破茂、河野太郎)だとか、最初の女性首相などとおだてられて舞い上がった上川サンとか、ネット右翼の手垢にまみれた高市サンなどが出てきて、それをよしゃあいいのにマスメディアがアーダコーダと真面目くさって取り上げる。という戦法で、浅慮&忖度のマスメディア政治部記者のみなさんのご協力のもと、自民党への関心の高まりに乗じて総選挙へ、てなことを考えているに違えねえ。
 ホント、これぐらいの読みは、ぼくにだって出来ちまう。岸田くんのこれまでの軌跡を見ていれば、その程度の小物宰相でしかねえんだよな。
 そうなりゃ腐っても鯛の頭とマスメディア、その力はやっぱり侮れない。なんだかんだで注目は集まり、自民党支持率復活…みたいなバカな世の中が待っている。そこまで総選挙があるかないかは分からないが、6月解散説がポシャッちゃえば、このシナリオは有力だろう。するとテレビ熱の前に、相対的に野党連合なんか萎みかねない。

じゃあどーする?

 おお、そこで奇策の出番よ。
 権謀術数なんて、こんなときに使わないでどうすんだ?
 簡単な話、自民が総裁選で大騒ぎするなら、野党第一党もそれにぶつけて党首選をやればいいんだ、簡単だろ?
 そんなの規約違反だ? 立憲民主党の規約にない? バカタレめ、んなこと知るかよ。奇策だっつーてんだろ、規約もクソもあるかい。
 臨時党大会を開きゃいいんだよ。なんじゃかんじゃいうヤツは除名しちまえ! 重大危機事態、国会も開かずなんでもかんでも閣議決定しちまうというデタラメ乱暴な自民党内閣なんだから、野党がそんな臨時大会を開いたってバチは当たるめえ。
 あん、乱暴だ? 政権取ろうってんだから、乱暴も棍棒もねえだろよ。自民党に負けない大騒ぎをすりゃあいいんだ。マスメディアが取り上げざるを得ないようなバカ祭りをやれってぇの。YOSAKOIソーランでもなんでも構わん。
 なぬ、YOSAKOIソーランはあのパワハラの権化のバカ自民議員・長谷川岳サンが始めたんだからイヤだ? んなことほっとけ。利用できるものは何でも使う。そうでもしなきゃ、政権なんかとれっこねえだろ。
 さあ、ここからが立憲の根性の見せどころ。女でも男でも、立ちたい人は、8時だよ全員集合! とにかくわっしょいわっしょいわっしょいしょい、YOSAKOIソーラン、アソレソレ。えっ、その人だれ? って人までが名乗りを上げる。
 そこへ、議員じゃないあの有名人も参戦する。えっ、議員じゃなければ党首選には立候補できない? そんな規約になっている? 知るかよ、そんなこと。何度も言ってんだろ、規約もクソもあるかい、千載一遇のチャンスなんだ。この機を逃したら、また何十年もチャンスは巡ってこないんだぜ。
 つーわけで、地方都市の首長さんからお笑いタレント、ウーマンラッシュアワーのあの人やせやろがいおじさん、アイドルやら有名ミュージシャン、それに弁護士から学者さん、作家や評論家、ジャーナリストにTVコメンテーター、官僚職をほっぽり出した人まで加わって、いやあ、やっぱお祭りって面白い。森の木陰でドンジャラホイッ!
 そこへなんと、オレが首相になるためにはこれしか道がない、などとおっしゃって、どこかの小政党の党首までが、突然立憲の党員に鞍替えして党首選に躍り出る。おっもしろいでしょ、この展開。あのクドカンだって、こんな脚本は書けないぜ。
 そして、政権を奪取した暁には、この人を財務相に、あの人は経産相、厚労省は彼女、デジタル相は、わーい河野タローの代わりに民間からあの人だ! 次の人どーぞ。所管外でもなんでも口出ししまっせ。などと、もう世間は大騒ぎ。それを目当てに“人当て博打”のブックメーカーまで出てくる始末。あの人に決まれば配当は120倍…とかなんとか(いや、これはいくら何でも水原サンにシツレイ)。
 いつの間にか、現党首のイズミさん(だっけ?)なんか、すっかり影が薄くなっちゃってる。まあ、いいことだけどね。
 当然「モーニングショー」だって放っておかない。玉川さんもマイク片手に候補者たちにインタビュー。実は秘かに応援してました、大推しです、なんて告白するアイドルまで現れて、いやはや、自民党総裁選なんかかすんじゃう。
 だって、小石河の古ぼけた顔や、最多死刑執行命令の女性大臣、多分、ヘイトウーマンの杉田某の推薦を受けちゃう右翼人気のあの方などの争いなんか、もう色あせたコメディ映画、つまらなくって見ちゃいられない。

マジっすよ、ぼくは

 どうっすかね、このアイデアは? けっこうイケてるでしょ。でも当然ながら、大真面目な方たちや愛国や憂国のあっち方面の方々から総攻撃を受けますけどね。ま、それは覚悟の上や下への大騒動。
 「政治をなんと心得る!」
 「無礼者、民の心を弄ぶのか」
 「愛国心をバカにすんな」
 「そんなヤツは国に帰れ」
 「もっとまじめにやれーっ!(帰ってきたヨッパライ)」
 はいはい、分かってますよ。
 だけどこれ、意外にマジメなんだけど。あ、マジメってカタカナにしているところが不真面目だって? えへへ、バレたか。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。