もうアメリカへ行く気にはなれない
「マガジン9」でもお馴染みの映画作家・想田和弘さんが「週刊金曜日(4月4日号)」の巻頭コラム「風速計」で、「米国の変質」と題してこんなことを書いていた。
米国で27年間暮らし、永住権も持っていた僕にとっては、信じがたいことが起きつつある。
トランプ政権がいわゆる「不法移民」だけではなく、合法的な移民や旅行者まで、排除のターゲットにし始めたのである。
例えば、あるフランス人研究者が3月9日、学会に出席するため渡米した。しかし入国する際に携帯電話が調べられ、トランプの政策についての意見を述べた個人的なメッセージが発見された。それで研究者は入国を拒まれ、強制送還された。(略)
携帯電話まで調べられるという事態。まるで、日本の治安維持法時代か、アメリカの赤狩り(マッカーシズム)の時代へタイムスリップしてしまったようだ。
他にも、想田さんはさまざまな例を挙げて、トランプの外国人政策のひどさを批判している。ドイツやイギリスの旅行者が国境で手錠等をかけられ、劣悪な環境の移民勾留所に収容されたり、母国へ強制送還されたりしているという。
今の米国には「言論の自由」はない、とも書いている。その上で「今のままではリスクが大きすぎて、ぼくも米国へ行く気にはならない」と、文章を結んでいる。
アメリカは、はっきり言って狂い始めている。
トランプ政策は「完全に狂っている」
トランプによる相互関税が発動され、世界の市場が大混乱に陥っている。この「関税戦争」は当然ながら相手国の反発を招き、中国は米産品に報復関税34%を課した。米国市場もニューヨーク4日のダウ平均株価は2231ドル安と、史上3番目の下落を記録した。終値は3万8314.86ドル。
しかしトランプは「これは大手術なのだ。手術は成功した。もうじき株価は上向き、アメリカの解放が始まる」と強弁する。
ところがここにきて、相互関税の税率算出方法がデタラメだと、猛批判が起きている。ノーベル経済学賞受賞の経済学者クルーグマン氏は「トランプの相互関税」について「完全に狂っている」と酷評。
米政府は「洗練された分析に基づく」緻密な計算式を用いて算出したと言うが、よく調べてみると、実際は「米国が抱える貿易赤字を、輸入額で割っただけの数式」でしかないというのである。小学生でもわかる単純さだ。
要するにろくな経済知識も持たないトランプが、周りの茶坊主たちに言いくるめられ、おかしな数式を口走って「相互関税」を発動しただけに過ぎない。それをトランプはとくとくと「アメリカの解放だ」としたり顔で吹聴する。
そんな根拠のない関税を課せられたのでは各国もたまらない。なにしろ理屈が通じない相手なのだからどうしようもない。アメリカは「狂った」と、ノーベル賞学者が頭を抱えるわけだ。
トランプもさすがに焦ったか、今度はFRB(連邦制度準備理事会)のパウエル議長に対し「金利を下げろ、政治的振る舞いは止めろ」(毎日新聞5日配信)と圧力をかけ始めた。自分の失敗を他人に押し付けるという、最低政治屋のやり口である。トランプ風の小物は日本にもたくさんいる。関西のどこかの県知事なんかもそうだな。
荒れる現状に対し、米金融大手のJPモルガン・チェースはレポートを発信し、景気後退のリスクを40%から60%に大幅に引き上げた上で、「血を見ることになるだろう」と警告した(NHKニュース・5日)。
もはやトランプではどうしようもないと、当のアメリカの経済専門家たちも感じ始めたということだ。
アメリカ以外の各国でも、株価の急落は深刻だ。日本でも市場が大混乱に陥っている。トランプの言い逃れはもはや通じない。
それでもトランプは「これは薬だ。もうじき効き目があらわれる」と口走る。この男「薬害」という言葉を知らないらしい。
トランプは「MAGA=MAKE AMERICA GREAT AGAIN(アメリカを再び偉大に)」をしきりに主張して今回の選挙を勝ち取ったけれど、いま彼が行っているのは、とてもそんなことではなく、むしろ出来の悪い漫画(MANGA)でしかない。
それは、安倍晋三元首相が繰り返した「日本を取り戻す」という空疎なスローガンによく似ている。ふたりが仲良かった理由がよく分かる。
絵文字入りチャットで軍事機密
経済だけじゃない。
イエメンの親イラン武装組織フーシ派への爆撃を巡って、呆れる事実が発覚している。ヘグセス国防長官やウォルツ大統領補佐官(安全保障問題担当)らがグループチャットで軍事機密情報を共有し、それがなぜか、ある雑誌記者もそのグループに招待されていた。当然、軍事機密が報道機関に暴露された。とんでもない「軍事機密」である。
さらに、ウォルツ補佐官らがGmailの私用アカウントを公務に使用していたこともバレた。絵文字を使ったまるで“中坊”同士みたいなやりとりもあったというから、この国の危うさはハンパじゃない。こんな人物が「安全保障問題担当」なんだぜ。ロシアや中国の情報機関はシメシメと舌なめずりしていることだろう。
馬鹿と鋏は使いようと言うけれど、こんなバカを使えば国家は傾く。
極右インフルエンサーが人事を左右する……
驚くべき出来事はまだある。朝日新聞(5日付)に以下のような記事が載っていた(他紙にも同様の記事あり)。
トランプ氏人事 インフルエンサー影響?
NSC幹部ら解雇 極右活動家の提案通りにトランプ米大統領が3日、極右の活動家として知られるインフルエンサーのローラ・ルーマー氏(31)からの助言を受け、国家安全保障会議(NSC)の数人の職員を解雇したと複数の米メディアが報じた。(略)
ルーマー氏は陰謀論や反イスラム的な言動で知られ、2001年の米同時多発テロが「内部犯行」だったと指摘したこともある。トランプ氏の熱烈な支持者で、大統領選でもトランプ氏と行動をともにしたこともあるが、差別的な発言などを理由に共和党内からも過激すぎると警戒される人物だ。
ルーマー氏は2日、ホワイトハウスでトランプ氏と面会。報道によれば、トランプ氏に対して忠誠心がないと考える人物のリストを提示したという。その後、トランプ氏はNSC情報担当の上級部長ら数人を解雇した。(略)
このローラ・ルーマーは、なんだかあの杉田水脈のような極右を彷彿させる。
この女性極右活動家の進言に従って、トランプはサイバー軍司令官と国家安全保障局(NSA)長官を兼任するティモシー・ハウ氏と、同副長官のウェンディ・ノーブル氏も解任したという。
恐ろしい話ではないか。極右活動家によって政権人事が左右される。かつて、レーガン大統領時代には、ナンシー夫人が占星術に傾倒し、その占いによって政策や人事が左右されたとも噂されたが、それよりずっと質(たち)が悪い。
極右に影響された大統領の末路
韓国では4日、尹錫悦大統領が自ら宣言した「非常戒厳」によって弾劾され、憲法裁判所は尹大統領の罷免を決定した。8人の判事全員の一致だったという。
考えてみれば、尹大統領とトランプ大統領は似ている。
尹氏も極右活動家のユーチューブを見てのめり込み、いつの間にか自分が議会によって葬られるかもしれぬという疑心暗鬼に取りつかれていた、という報道もあった。自分の耳に心地よい意見に肩入れした挙句、判断を間違う。
トランプ大統領も尹大統領も、極右の陰謀論に共感していき、本来の政治観を見失ってしまうという経緯はよく似ていると思う。とすれば、トランプにも、尹大統領と同じ末路が待ち構えているのではないか。
いや、第一期のトランプ政権時代にすっかり入れ替えられた米連邦最高裁には、韓国裁判所ほどの民主主義尊重の健全さは残っていないのかもしれない。