第364回:亡国の祭り、選挙戦(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

騒動が目的の立候補?

 あと数日で参院選の投開票日(20日)だ。
 またもや異常で騒がしい選挙戦が繰り広げられている。
 選挙カーで演説する候補者に反対するようなヤジを飛ばすと、運動員だと称する連中がまるで恫喝するような勢いで迫って来る。ひどいときには“私人逮捕”などと言って、ヤジを飛ばした人の身柄拘束に及ぶ。
 当然、揉める、辺りは騒然とする。そんな様子がこれでもかとばかりにSNS上に投稿されている。異様である。いったいいつから、こんな“選挙活動”が始まったのか。
 これが顕著になったのは前回の衆院選あたりからか。さらに兵庫県知事選ではそれが不気味な盛り上がりとなった。もはや演説などは二の次で、揉めることを楽しんでいるような候補者もいる。
 自分の公約を分かりやすい言葉で訴え、それを聞く有権者たちの反応を確かめる。そういう本来の街頭演説が不可能になりつつある。公約は訴えず、ひたすら特定候補者の邪魔をすることにのみ精を出す“候補者もどき”もいる。そのため、邪魔をされる候補者は、自分の演説予定地の公表もできなくなってしまう。
 兵庫選挙区では、立花孝志候補が泉房穂候補の演説場所に押しかけて、泉候補の演説妨害を宣言、これでは泉さんはたまらない。本来なら演説予定地をSNSなどで公表して多くの聴衆に集まってほしいはずだが、混乱を恐れてそれができなくなってしまった。泉さんは、ゲリラ的に場所を選んで立花に知られないようにするしかなくなった。こんな事が実際に起きているのだ。
 しかもそれを面白がって、騒ぐことだけを目的に集まるような連中まで出て来ているのだから、もはや“選挙戦”の体をなしていない。
 倫理も論理もない祭りである。

 「オールドメディア」の反省から

 斎藤元彦知事が再選されてしまった兵庫県知事選は、ある意味ではマスメディア(「オールドメディア」などと罵倒された)の敗戦だった。
 選挙戦でどちらかに有利に(もしくは不利に)なるような報道は控えるべきだという妙な忖度で、選挙期間が始まると同時に、マスメディアは選挙報道を控えてしまった。例によって「公平」「中立」というわけの分からぬ縛りに絡めとられていたのだ。
 SNS上には、根拠不明のデマやフェイクニュースが花盛り。それをマスメディアがチェックしないものだから「斎藤さんは悪くない」「議会もマスコミも既得権益の巣」「オールドメディアを信用するな」「初めて真実を知った」などという人たちが大挙して出現。結果はご存じのとおり。それが今も続いている。
 さすがに、マスメディアの側にも一定の反省があった。このままでは、ほんとうに「オールドメディア」になってしまう。選挙戦期間中であっても、「中立」にとらわれず、きちんと演説の内容やSNS上の発信などを「ファクトチェック」して、間違いやデマ、フェイクなどを指摘しようという動き。
 例えば、維新の音喜多駿候補が発信したデマには、東京新聞(7月10日配信)で、こんなにチェックして「デマ」認定している。

「65歳から年金をもらえる先進国ほぼない」を調べたら…維新・音喜多駿氏の発言
「先進国では65歳から年金をもらえる国はほとんどありません。イタリアでは71歳です」

 20日投開票の参院選で東京選挙区から出馬した日本維新の会の元職。音喜多駿氏(41)が街頭演説で触れた他国の年金制度の事実関係について、SNSで「うそ」という指摘が上がっている。(略)まず、「先進国では65歳から年金をもらえる国はほとんどありません」という部分を検証した。
 日本年金機構による他国の年金制度の概要をまとめたウェブサイトによると、先進7カ国(G7)の年金支給開始年齢は、米国では66歳、イタリアでは67歳、一方で、英国では男性で65歳、女性は64歳、ドイツでは65歳7カ月、フランスは62歳、カナダが65歳。日本を含め5カ国が65歳から年金を支給されることから、「ほとんどありません」という表現は正確ではない。ただ、イギリスとドイツは今後、支給開始年齢を引き上げて67歳からになる。「将来的に」という前提であれば、65歳までに支給されないのは4カ国となるが、演説ではそうした文脈で説明されなかった。(略)

 なんとなく言われればそう思えそうな話し方で「ウソ」を並べる。簡単にバレそうなものだが、演説会場でそんなことを調べる人はいない。いつの間にかう「ウソ」が独り歩きを始める。まあ、音喜多氏のいい加減さはもう周知のことだし、彼が東京で当選しそうもないことは“ほとんど”確実。苦し紛れの悪あがきと無視してもいい。

エスカレートしていくデマ、陰謀論

 だが、参政党は問題だ。フェイクやデマまみれのこの党がかなりの支持を集めているらしいとなれば、放っておくわけにもいかない。
 例えばこのファクトチェック記事(毎日新聞13日付)。

「国外在住外国人から相続税取れない」
国税庁「課税対象者」  参政党「制度と現実隔離」

 外国人による不動産購入を巡り、参政党の神谷宗幣代表が6日のフジテレビの報道番組で、日本に住んでいない外国人から相続税を徴収できないとの趣旨の発言をした。国税庁への取材によると、発言は誤りだ。
 神谷氏は「日本には相続税というものがあるんですけど、オーストラリアとか中国とかですね、相続税ないからですね、彼らは買っておいて日本に住んでなければ、我々相続税取りようがないんですね」(略)
 国税庁資産課税化によると、法制度上、国外に居住している外国人でも、国内に不動産を所有している人については相続税の課税対象となる。(略)国税庁のホームページでも「相続などで財産を取得した時に外国に居住していて日本に住所がない人は、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になります」と明記。担当者は「『相続税を取りようがない』という発言は誤りだ」と指摘する。(略)

 これに対し参政党は「相続人の住所や連絡先が不明な場合、租税条約により情報提供が十分でない国、登記の名義変更が行われず」相続人が不動産をそのまま維持する場合…などにより、徴税の実効性が著しく損なわれている状況がある」などと説明。
 国税庁は「国外居住の外国人が日本の不動産を相続した場合でもしっかり調査をしている」としている。
 これは、ある特殊な例を持ち出して「こんな例もあるから全体的に見てもそうだろう」という詭弁論法。参政党が持ち出すリクツは、こんな例がやたらと多い。

 神谷氏は選挙戦開始の前から、そうとうにヤバイ発言を繰り返している。ほんの少しだけ(!)列挙してみる。

「高齢女性は子どもを産めない」
「女性は高校を出たら子どもを3人ほど作ってそれから社会へ出ればいい」
「終末期延命治療は全額自己負担にすべき」
「日本軍は沖縄を守るために来た」
「天皇は側室をもてばいい」
「外国人優遇で日本人は困窮」
「外国人犯罪が増え治安が悪化している」
「日本の農産物は農薬漬けで危ない」 などなど……

 妄言暴言の垂れ流しは、まさにトランプの矮小劣化コピー版。だから決めゼリフは「日本人ファースト」。むろん、トランプの「アメリカファースト」の“まねっここざる”ではあるけれど、これが何を意味するか。差別やヘイトを砂糖でまぶして甘ったるく見せかけたジャンクフードに他ならない。
 三浦誠・赤旗社会部長が12日、ツイッター(“X”と呼ぶのはイヤ)に以下のような投稿をしていた。「赤旗」はいまや、スクープ・メディアの代表格のようなものだから、この投稿は信用する。

 参政党の神谷宗幣代表が鹿児島で演説し、「戦前に政府の中枢に共産主義者とか送り込んで、日本がロシアや中国、アメリカと戦争をするように仕向けて行った」と。なのに教科書に書かれていないとも。いやいや、それないですから。陰謀論そのものですから。あまりにも荒唐無稽。教科書どうのというレベルではない。こんなフェイクで有権者を騙すのが参政党の手口なんですね。

 なるほど、ついに「陰謀論」にどっぷり漬かったか。そこで、ぼくもこの時の演説を探してみた。あった。7月12日、神谷氏は鹿児島で以下のように叫んでいた。三浦赤旗社会部長のツイートよりも、もっと恐ろしい内容だった。この男、次第に神がかりの異様な世界へ踏み込んでいっている。演説に驚く。

(略)彼ら(筆者注・共産主義者)は、自由や平等、人権というけれど、結局暴力、最後はね。だから日本でも、共産主義がはびこらないように治安維持法作ったんでしょ、100年前に。悪法だ悪法だというけど、そりゃあ、共産主義者にとっちゃ悪法でしょ。だって、彼らは皇室のことを天皇制と呼び、それを打倒し、ですね、日本の國體(筆者注・参政党の憲法草案では旧漢字使用、まるで大日本帝国憲法)を変えようとしたんです。
 でも自分だけでは変えられなかった。だから何をしようとしたか。政府の中枢に共産主義者とかスパイを送り込んで、日本がロシアや中国、アメリカ、そういったところと戦争するように仕向けたんです。ロシアは当時ソ連、共産主義です。(略)

 神谷の演説は次第にエスカレートしていく。典型的な「陰謀論」である。ついには、まるで「治安維持法」を正当化するようなことまで叫び始めた。
 あの法律が「稀代の悪法」であったことは、普通の感覚を持つ“日本人”には常識だ。あの法律によって、いったいどれだけ多くの人が捕らえられたか。
 共産主義者ではない社会主義者も自由主義者も労働組合員も、果ては一般人も、日常の一言半句を理由に逮捕された。ちょっとした政府への不満、それも「戦争はイヤだな」程度の言葉をとがめられて牢獄に送り込まれた人もいた。そして拷問などで獄死した人も多かった。神谷だって、特高に虐殺された小林多喜二の名前を知らないわけでもないだろう。
 ぼくは1945年(昭和20年)の生まれだ。実際に、その被害を受けた人を知っている世代なのだ。だから肌身でその恐ろしさを知っている。
 そんな悪法を容認するような(少なくとも、神谷はこの演説では治安維持法を否定していない)ことを平然と言い出す男が代表を務める政党、ぼくは本気で怖い。

外国人差別を煽る連中

 また、毎日新聞(13日付)は、こんなチェックもしていた。参政党による典型的な外国人排斥、差別主義的な内容である。

生活保護は「受給権がない外国人ばかり」
参政党候補の発言は不正確

 「日本人ファースト」を掲げる参政党の候補者は参院選の街頭演説で「外国人は生活保護を受給する権利がない」と指摘した。その上で日本人は受給申請しても「門前払い」だとして「外国人ばっかりというのはおかしい」と不公平を訴えた。
 演説したのは神奈川選挙区に立候補している初鹿野(はじかの)裕樹氏。(略)
 「外国人は生活保護を受給する権利がないにもかかわらず保護という観点で(受給している)。日本人はなかなか受給できないのに、外国人はすぐさまもらえてしまう」「日本人が困っているのに、餓死しているのに、外国人ばっかりというのはおかしい」と述べた。(略)
 永住資格を持つ外国人が日本人と同様に生活保護法の対象になるか争われた訴訟があり、最高裁判決(2014年)は「生活保護法が適用される『国民』に外国人は含まれない。「外国人は、行政措置による事実上の保護の対象にとどまり、法に基づく受給権を持たない」と判断した。これらのことから、初鹿野氏が述べた「外国人は生活保護を受給する権利がない」という部分は正しいと言える。
 しかし、最高裁判決も、自治体が人道上の判断に基づき一定範囲の外国人に生活保護を支給する運用を否定していない。
 外国人ばかり受給しているとの言説についてはどうか。厚労省によると、25年4月時点で生活保護を受給した世帯は全国で164万3444世帯で、このうち外国人が世帯主の家庭は4万7206世帯と2.9%にとどまる。この割合は20年度2.9%、15年度2.9%、10年度3.0%と、15年さかのぼっても大きな変化はない。(略)
 厚労省に尋ねても、審査では外国人だからといって優遇することはないと否定した。(略)
 初鹿野氏は「我々の税金で外国人が生活保護をもらったりして、年間1200億円くらい」とも述べたが、厚労省は「年間1200億円に該当する数字は厚労省が示したものではない」と取材に回答しており、根拠が不明だ。(略)

 こうなると、ただ「外国人排斥」のための煽動でしかない。とにかく「外国人が優先されて日本人が困窮している」を繰り返す。現実に生活苦を感じている“日本人”は、これを聞くと「我々の生活苦は外国人のせいか」と、なんとなく思い込まされる。そんなことはまったくないのだと、いくら説明しても「生活実感」のほうがリクツよりも肌感覚に訴える。かくして参政党にひきつけられる人たちが増えていく。
 ほかには、東京選挙区で有望視されている参政党の「さや」という人が、「核武装の必要性」を説いている。もう極右よりもぶっ飛んでいる、壊れている。

 マスメディア各社は、兵庫県知事選の報道の反省から、それなりに「選挙報道」を見直しているようだ。
 朝日新聞は「ファクトチェック編集部」を立ち上げたし、東京新聞もそうとう前から同じ取り組みをしている。沖縄タイムスや琉球新報もまた精力的にデマやフェイクを批判している。さらに、腰が引けているテレビ番組でも「報道特集」(TBS系)は、連続して選挙戦のデマを取り上げているし、14日の「モーニングショー」(テレ朝系)でも、かなり深く「選挙戦で急浮上した外国人問題」をきちんと批判していた。
 他にも、神谷が党首討論で言及した「多国籍企業がパンデミック(感染症の世界的大流行)を引き起こしたということも噂されている」ことも、毎日新聞のファクトチェックでは「根拠不明」と断じているし、朝日も「参院選直前 中国人高齢者へのビザ要件を緩和」というインターネット上で広まった言説を「誤り」と斬って捨てている。
 これらの報道が「遅かりし由良之助」にならないよう、投開票日の20日まで、連続してもっと深く報道してほしいものだ。

参政党 正体見たり 枯れ尾花

 ところが参政党側も反撃に出た。あまりの多くのファクトチェックで「誤り」や「根拠不明」と指摘されたことに焦ったのだろうか、TBSに対して抗議したのだ。「参院選番組が公平性を欠く」というのだ。
 12日に放送された「報道特集」の特集「急浮上“外国人政策”に不安の声」に頭にきたらしい。これは「日本人ファースト」を叫び始めた参政党への違和感や疑義を呈した番組で、ぼくも観たのだが、きちんとした取材に裏付けられて正当な報道だった。だがそれは、参政党にとっては“痛いところを突かれた”ということなのだろう。
 参政党はホームページで「番組の構成、表現・登場人物の選定等が放送倫理に反する」不当な偏向報道だと主張したのだ。だが、この「中立・公平」という言葉がまさに「偏向」そのものなのだ。正当な批判を封じてしまうからだ。いかに「中立」であろうとも、間違いは間違い、根拠不明は認めない、それを正確に伝えるのが報道機関の正しい姿だ。
 「報道特集」は、単に事実のみを伝えたに過ぎない。それが「中立」を逸脱していると感じたとすれば、感じた側が事実を認めないという「偏向」を冒していることになる。参政党はBPO(放送倫理・番組向上機構)に提訴したというが、多分、BPOはこの訴えを一蹴するだろう。
 そして最後にもうひとつ、参政党に関する毎日新聞(15日付)の記事。

参政「与党入り目指す」
神谷代表 次期衆院選後

 参政党の神谷宗幣代表は13日、千葉県柏市内で演説し、次期衆院選で与党入りを目指す考えを示した。「今回の参院選で躍進してもいきなり50議席、60議席になるわけではない。次の解散・総選挙で、一気に与党入りを目指して頑張りましょう」と呼びかけた。(略)

 なんのことはない、これが神谷の本音だろう。つまり、自民党と組んで美味しい利権のおこぼれにあずかりたい…。
 ぼくがこれについて、「なんだ、結局、自民党予備軍であることを告白しちゃったってことか。自民党の2軍なんかいらない」とツイートしたら、さっそく支持者らしき人らから罵倒が殺到。
 「どこに自民党って書いてある? 日本語読めないねえ~」
 「文章読めないんか!」
 「毎日新聞ネタを信じるアホ」
 「与党入り=自民党? 頭爆発してるのか?」
 ここには書けないようなひどい投稿も混じっている。まあ、いつものことだけれど、なんでこうも口汚くなれるのだろうかと思うような人たち。
 でもね、少し考えればわかるはずだ。確かに神谷氏は「どの党と組む」とは明言していない。しかしこれまでの言動から、自民党以外は考えられまい。
 例えば、参政党が国民民主や維新と組んでも政権奪取の数には遠く及ばない。では立憲と組むのか。いくらなんでも立憲側が同意するはずがない。とすれば、残された選択肢は自民党しかありえないではないか。少しでも日本の政治に関心がある人ならそう考える。
 ぼくのツイートに「神谷さんは連立相手を言っていないのに、お前はおかしい」と批判してきた人には、ではどういう連立なのかを教えていただきたい。
 「毎日新聞ネタを信じるアホ」に至っては、ぼくは「根拠のないデマよりは毎日新聞を信用します」と答えておく。
 参政党、結局は自民党の2軍3軍であることを露呈してしまったのだ。

 参政党 正体見たり 枯れ尾花

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。