常日頃から、なんとかインチキでイカサマな生き方をしときたいな〜、と思う日々。いや〜、世の中舐めてかかって生きると毎日が楽しくてしょうがないので、皆さんもオススメ! さあ、今日も適当に生きて真面目な人に怒られるぞ〜。
と思っていたところ、鳥取で行われるイベントから出店のオファーが来た。早速現地に行き、完全にデタラメな出店をやってきたので、そのインチキな店の作り方をちょっと紹介してみよう。さあ、みんなでインチキな商売をやろう!
まず、その鳥取のイベント、というかフェスはなんなのか。鳥取には汽水空港という書店があって、そこが10周年を迎えるにあたって巨大イベントをやることになったという。しかもちょっと油断すると忘れられがちな、“東アジア圏最大の伏兵”の異名を取り、世界から恐れられる山陰エリアでの開催。山陰は忘れた頃にやってくる。しかも! 鳥取市ではなく、伏兵中の伏兵、県中部にある湯梨浜町という汽水空港のある場所での開催。これはすごい!!
そして、この汽水空港という書店は、店主のモリテツヤ氏が10年ほど前に移動式の本屋の屋台みたいなものから始め、DIYで徐々に店を構えて開店。驚くことに、書店を開くにあたって最初にやったことが左官職人に弟子入りという「そこからかよ!」とツッコミたくなるぐらいの筋金入り。その後、謎の人脈や行動力、そして「あいつまた失敗してるよ!」という脅威のマヌケさが功を奏して、その名を轟かせ始めて人の行き来も活発になり、今や中国四国地方の独立書店系の界隈ではその名を知らない人はいないぐらいで、全国的にも恐れられる書店と化している。
そう、そんな汽水空港が10周年なんだから何か起こらないわけがない。というわけで、野外の大きな会場を借りてライブや出店など大規模なイベントを開催する運びになったという。で、続々と出演者や出店が決まる中、「楽しそうだな〜」と見ていると、まんまとモリテツヤ氏から連絡が来て「松本さんも出店しない?」とオファーがくる。おお、売られたケンカは買うしかない、ってことで、「行く」と即答して出店が決まる。しかも、まだ何の計画もない状態だったけど、口から出まかせに「じゃあ、“インチキよろず屋”でお願い!」と返事。やばい、どうすんだそれ!
問題のイベントがこちら。我らが「インチキよろず屋」をはじめ、さらに追加される出店の数々。これらの店舗を回るだけでも世界はだいぶ広がるはず
インチキショップの作り方
商売を始める時に最も大事なことは、お客さんから「こういう店か!」とすぐわかってもらえるような明確なイメージをあらかじめ持てるかどうかだ。いくらいい商品を並べても、いくらカッコよくオシャレな店構えにしても、そのコンセプトが店主の脳内で終始し、肝心のお客さんに「こんな感じ」っていう光景が伝わらなければ、店はすぐに潰れてしまう。店を作る側がそのイメージが見えるかどうかが肝だ。
ということで、「インチキなよろず屋」からイメージされるのは、白昼堂々イカサマなものを売って金もうけしてるのがバレて「オマエら、そこで何やってんだー!!」と怒られて、慌てて風呂敷に商品包んで一目散に逃げ散るという光景。これだ! この光景だ! 見えた!! 商売成った!
そこから導き出されて真っ先に頭に浮かんだのが、90年代ぐらいまではびこっていた、東京ドーム(または後楽園球場)や武道館などのコンサート会場の前でダフ屋が「チケットあるよ〜」とやっているその傍らで、その一味たちが屋台出して勝手に作ったバンドやらアイドルやらの非公式グッズを売り捌いてた、あの屋台。あれあれ、あれやりたい!!!
そして今回、大阪で突如立ち上がった出版社「マヌケ出版社」の、もりっしー氏と一緒に鳥取行こうということになっていたので、出店ブースも一緒にやることに。そこでもりっしー氏と相談した挙句、とりあえず勝手に汽水空港サインボール作って売りまくろうという史上最低の案が浮上し、まさかのそれに決まる。ただ、偽サインボール売ってる光景は面白いけど、普通にそれ誰も買わないだろそれ〜、……ということで、主力商品として汽水空港10周年記念グッズを無断で作り売り捌こうということになる。急遽落書き同然のイラストを描き、マグカップとキーホルダーを発注。ちなみにマグカップとキーホルダーを選んだセンスも完全に非公式タレントグッズのイメージ通り。サインボール用ボールも、もりっしーが大阪中を回り入手に成功し、グッズの注文もイベント開催寸前に滑り込みで到着し、作戦は迅速な勢いで着々と進む。バレて会場からつまみ出されるのが先か、それとも売り切るのが先か、手に汗握るインチキ商売の始まりだ!! いや〜、この緊張感いいね! ま、とは言っても実のところ飲みながら適当に考えた案だけど。
こちらは何者かによって勝手に作られた記念キーホルダー。漫画で犯人はすぐわかる
インチキよろず屋、恥も外聞もなく始まる
11月11日の10周年祭の2日前の11月9日、我々は大阪で落ち合い、ニセ商品の検品や鳥取到着後の迅速な作戦を再確認し、翌10日、いざ鳥取へ。
鳥取到着後、設営中の会場へ行くと、まんまとモリテツヤ氏がてんやわんやで設営してて、ちょうど設営終了したタイミングだった。そこで作戦通り、間髪入れず「ファンです、サインください!」とノートを差し出す。モリくんは「えっ、いまさら!?」と、かなり怪しむ。さらに「いや〜、できればこれぐらいの大きさで汽水空港モリテツヤとお願いします。縦書き横書きはどっちでも大丈夫なんで」と、不自然にいろいろ注文すると、余計怪しむが、イベント準備の疲労で頭がおかしくなってるせいか、なんの疑問もなくサインしてくれる。よっしゃー!
そして次のミッション。イベントの出店者や出演者たちが泊っているゲストハウス「たみ」に行くと知り合いの出店者たちがいたので、「ちょっと手伝ってくれ〜」と、居合わせたみんなで手分けしてサインボール製造を開始! みんな優しいな〜。さっきもらったサインを念入りに模写してインチキサインボールを量産! いや〜、海外の偽物生産工場もこんな感じでやってるんだろうな〜。楽しくなってきた〜!
「江口寿史がトレースでこんだけ問題になってんのに、こんな遊び不謹慎過ぎて最高だろ」とかブツブツ言いながら必死にサインを模写する“途中でやめる”山下陽光。ゲストハウス「たみ」にて
ジャーン! 徐々にサインボールが出来上がり、量産体制へ突入
汽水空港10周年祭「一斉着陸」ついに始まる!
そして10月11日、ついにイベントの日を迎える。メインステージでは、いろんなことやるとんでもない男・坂口恭平と「蟻鱒鳶ル」という名の自作のビルを建てている岡啓輔のトーク、シンガーソングライターの寺尾紗穂や鹿児島の無敵のラッパー・泰尊のライブなどなど、他にも豪華な出演者。さらに出店ブースも七十数店舗もあり、とてもじゃないけど田舎の小さな書店の周年イベントとは思えないような、すごいことになっていた。しかもこの70ブース、それぞれが食堂や書店、バーや雑貨屋など店などをやってるそうそうたる面々で、西日本を中心に日本各地から出店のために鳥取にやって来ている。実際、自分も四国やら中国やらいろんな都市で会った、面白い店やってる人とか、各地の友達に一挙に会うことができて、「あれ! 来てたの!?」みたいな驚きの連発だった。
すごく広い会場で、天気もよく最高のフェス日和。湯梨浜町恐るべし!!!
これ、普段からいろいろとウロチョロしたりいろんな企画をやったり他所に顔出したりという、日々の活動の積み重ねでこんな大変なことになっている。しかも大都市圏じゃなく、鳥取の湯梨浜町という、地方の人口1万数千人程度の町でやらかしてるのがすごいし、そこに本当に集結してしまうのもすごい。よく「田舎は人が全然いないし、何やっても人が来ない」という愚痴をよく聞くけど、それを軽く乗り越えて、流動的な人や文化の流れを作ってる。しかも、別に若い人や特定の人たちだけで盛り上がってるわけではない。鳥取入りしてからその辺のおっちゃんおばちゃんがやってるような古い店に入っても、みんな「汽水空港も大したもんだね〜。今回のイベントでも県外から人もたくさん来て、うちもお客さんたくさん来るから、イベントどんどんやってって言っといてよ!」と、反応がやたらいい。こりゃ、本物だ! そんな感じで、その本物の呼びかけに応じ、各地でいろんな実績を積んできた背景を持つ一筋縄ではいかない出店ブースがずらりと並び、ただの遊びじゃないような本気さを感じさせるこのフェス会場は、まさに圧巻だった。
……と、そこへ、一筋の光が差し込むかのように、本気さを微塵も感じさせない、世の中をなめ腐ったデタラメにもほどがあるペンキの手書き看板を掲げたブース、そう、我らのインチキよろず屋が燦然と輝いていた。これはまずい、うちらだけ際立ってバカな店だ! しまった、謀られた! しかし、ここまできたら引いたら負け。さあ、このまま勢いでやっていきましょう〜。オマエら、インチキの生き様を見せてやる!
出店の様子。うーん、なかなか祭りのイカサマ屋台の感じが出てていい。店番は大阪のイカサマ師=マヌケ出版社のもりっしー
こちらがマグカップ。ただの落書きにも関わらず製品になってみると、なかなかいい。確かにこれは欲しい!
さて、やってみるとニセサインボールの反応がやたらいい! 「サインボールありますよ〜」と、通りがかる人に話しかけると、「えっ、サインボール? 何それ!」と、だいたい謎の好反応。ま、こっちもさすがにウソをついて売るのは気が引けるので、「これ入手困難ですよ! なにせ本人もまだ知らないぐらいのレアものだよ」と、暗にニセモノだとバラすが、にもかかわらず、「なに〜、じゃあ一個買って行かないとな〜!」と、まさかのお買い上げしていく人が意外といる。おお〜!! このニセモノと分かって買っていく、客もふざけ切った感じ、最高すぎる!
インチキグッズのおかげで、寄ってきて話していく人も多く、しかも絶対に売れないと思ってたニセサインボールが妙に売れ始め、何もかもが成功かに思われた。
しかし、悲劇は起こった。とある小学生ぐらいの野球少年みたいなチビッコがモリテツヤファンだったらしく、大喜びでサインボールをゲット。それを、あろうことかモリテツヤ本人の元に走り、大喜びで「ありがとう、サインボール買ったよ!」と言うが、当のモリ君はなんのことかサッパリ分からず、「えっ、なにこれ! 俺書いてないよ!?」とうかつにも即答してしまい、チビッコも「えっ!!」とショックを受ける! そこでモリくん「あっ、あいつらの仕業か!」と、そこで気付き、「そういえば昨日、不自然にサイン求められたけど、あれだ!!」とついにバレる。いや〜、最高のバレ方でいいねー。
で、モリくん、チビッコに「よし、じゃああそこのインチキよろず屋に行って、松本ってやつのサインをもらって来るんだ! それでこのボールは完成だ!」と謎の指示を出し、チビッコは「わかった!」と、また屋台の方まで走ってきて「モリさんにニセモノだって言われた! だからここにサインして!」と、全く意味わからないこと言い出したけど、とりあえず自分のサインをしてあげたらチビッコも「ありがとう!」と大満足して大喜びで帰っていった。いや〜、全部意味がわからないけど、とりあえずみんなが満足してるんだから、大丈夫ってことか〜。悲劇終了。
さて、午前中から始まったイベントも終盤に差し掛かり、インチキよろず屋もやってみればかなりの好調で、勝手に作ったマグカップやキーホルダーも順調に売れ、絶対誰も買わないと思われたサインボールに至ってはまさかのバカ売れ! どうなってんだ、これ。
で、バカ売れし始めると、今度は「あんなインチキな商品が完売寸前したらしいぞ!」「世の中どうなってんだ」と会場内に噂が広まり、こうなったらせっかくだから記念にと、最後の一個を求めて次から次へお客さんが来て、最後の一個の奪い合いの事態に発展! オマエら落ち着け、これ偽物だぞ〜!! 売り切れた後も、まだ何も書いてない白いボールを見つけて「これまだ何も書いてない! もう一個作ってくれ!」と頼まれる始末。どうなってんだ〜、全員アベコベじゃねーか〜!!!
いや〜、インチキとインチキが相まって丸く収まる感じ、いい!! ちなみに、今回のステージのライブのトリの泰尊氏も、このインチキショップ見るや否や、「このインチキな屋台、最高じゃねーか! 完全にMVPだ」と、これまたわけわからないこと言いながらもやたら喜んでくれた。いや〜、よかったよかった。
全ての資本家が腰を抜かす、まさかの完売。資本主義の経済論理がすでに過去のものとなった瞬間
そして、まんまとニセグッズを作られた当のモリテツヤ氏。フェス終了後、「いや〜、してやられましたよ」との敗戦の弁とともに、マグカップやキーホルダーを見た瞬間に「うわ〜、これめっちゃいい! 欲しい。仕入れたい!!」と騒ぎ出す。当人がニセグッズを仕入れるという意味のわからない展開に! これ、大御所の外タレアーティストが東京ドーム前のニセグッズ屋売ってるチンピラから仕入れるようなもんだ。全てがイカサマで、世の中まだまだ捨てたもんじゃないね〜。
「世の中めちゃくちゃだ!」と観念するモリテツヤ氏
愛と平和のイカサマショップ
というわけで、インチキショップ作戦、なんとか成功! 商売的には、とりあえず製造原価はペイできて、わずかなプラスぐらい。ただ、残りの在庫を東京や大阪に持ち帰って売れば、もりっしー氏と自分の2人の交通費ぐらいは出るかなという感じ。いやはや、人のふんどしで相撲を取って、タダで遠方で遊べるなら願ったり叶ったり。しかも、このインチキグッズ以外にも、自分は店のグッズや商品を持って行って売ったり、大阪もりっしー氏は立ち上げたマヌケ出版社の新著を売ったり居合わせた書店さんに卸したりしてたので、独自収入もなんとか確保。さらに、汽水空港には製造原価で卸すので(さすがにここで利益を得たらあこぎすぎる)、これ以降の汽水空港でのニセグッズ売り上げは全て汽水空港に収益が入る。インチキの積み重ねでみんなが幸せになる社会。いや〜、こんな世の中になって欲しいね、ホント。
一応、注意点をひとつ。インチキグッズを勝手に作る際には、相手との関係性を見極めること。「ニセグッズ作りました!」→「おーい、オマエなに勝手なことやってんだ!笑」という関係性があるかどうかが重要。要するに仲が良かったりお互い信頼できてるのが前提。あまりよく知らない人のイベントで勝手にニセグッズ作って金儲けたりしてたら普通に怒られたり険悪になったりするので要注意だ。また、儲けすぎないことも重要。資本主義的には話にならない商売だけど、これによって鳥取に来ることができたり、また友達が増えたりという、これが重要だからやってるわけなので、ほどほどがいい。なので、万一死ぬほど売れてかなり儲かったりしたら、酒やメシをおごりまくったり、その人の店でたくさん買ってあげたり、みんなに還元してあげれば完璧だ。
汽水空港近所の居酒屋「麻畑や」のママさんと。地元の人たちに愛されてるのがすごくいい。ちなみにこの店の料理、なに食べても異常に美味かった。湯梨浜町どうなってんだ!
さて、このインチキよろず屋、これ逆襲されること間違いない。今回参加していた中国四国など各地でいろんなスペースやってる知り合いたちとの別れ際にも「じゃあ今度遊びに行くんで!」なんて挨拶してると、「じゃ、偽物作って待ってますから」とか言われたりしまくった。おお〜、いいね。インチキ商品を作り合える関係、これは信頼の証。いや、友情の証。いま、世の中は殺伐として人の悪口や文句ばかりが渦巻く時代。それも実際のコミュニケーションを軽んじてSNSなどでの空虚な関係性もはびこり、人間の社会も悪くなる一方。そんな中、勝手にイカサマなものを作って金もうけしてるのがバレて「オマエなにやってんだ」と首根っこ掴まれて「待て、話せばわかる」と謝るような、愛と平和に満ちあふれた社会を作っていこうじゃないですか、みなさん!!
そう、インチキのはびこり具合は、余裕のある社会を示すバロメーター。インチキよろず屋、みんなもやっていくしかない!!! 諸君、時代はインチキだ!
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●汽水空港
山陰を通る際は否が応でも寄らざるを得ない、湯梨浜の関所と恐れられる書店
https://www.kisuikuko.com/
●ゲストハウス「たみ」
汽水空港と並ぶ重要スポット。とりあえずここにいけば何かしらの情報が手に入る。泊まらなくてもカフェ利用も可
https://www.tamitottori.com/
●マヌケ出版社
「100年後の革命のために本をつくる」と、大阪で突如立ち上がった出版社。とんでもない新刊が続々と登場しそうな予感!
https://www.manuke-publisher.com/