第5回:ヤクザ抗争と私利私欲選挙はよく似ている気がする(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

文太兄ぃが泣いている

 なにぃ? 抗争の理由だと?
 んなもんあるわけなかろうが。
 見とってみいよ、いま相手はグチャグチャやぞ。小っちぇえ組が3つ4つ集まって対抗しようなんて話もあったがよ、組長がひとりゴネちまっててまとまらねえようだし、いまこっちが弾丸(タマ)ぶちこみゃ、ヤツらを完全にぶっ潰せる。ヤクザの抗争なんて、そんなもんよ。
 リクツなんかいらんがよ、強えもんが勝ちよるんじゃ。

 まあ、『仁義なき戦い』ふうにいえば、こんな感じか。こんなありさまを見て、天国の文太さん、泣いてるだろうなあ。

「国難突破」が笑わせる

 ということで、突然の安倍晋三氏による茶番解散である。まさに、ナニコレ珍百景。わけが分からないこと甚だしい。
 大義どころかヘリクツにさえなっていない安倍氏の衆院解散宣言。「党利党略」による解散という言い方がされているが、「私利私欲解散」のほうが実態を表している。ここまで私利私欲にまみれた解散は、安倍氏の言う「戦後レジーム」でも初めてだろう。確かにそういう意味では、安倍氏は「戦後レジーム」をぶっ壊している。
 「安倍言葉」は、ますます劣化している。記者会見を聞いていても、ほとんど意味がとれない。だいたい「国難突破解散」って何なんだっ?
 「抗争の理由」ならぬ「解散の大義」を問われて「消費増税分の使い道の変更と北朝鮮情勢への対応」だという。冗談も飛び石連休(休み休み)にしてほしい。
 税の使い道については、民進党政策のパクリに過ぎないし、北朝鮮情勢が緊迫しているなら、いま解散して政治空白を作るほうがよっぽど「国難」だろう。自分で「国難」を作り出しておいて、それを「突破」するって、リクツにも何もなっていないじゃないか。
 こういうのを自作自演、もしくは狂言強盗の類いという。夜郎自大という誉め言葉を進呈しよう。
 安倍語は、言葉として崩壊している。

「議員亡者」の駆け込み寺

 そこへ、小池新党が参戦。
 だけどこの新党、まったく中身が分からない。なにしろ、突然、自らが表舞台に躍り出た小池百合子東京都知事だが、その立ち位置がはっきりしない。権力を握りたい(いずれ首相になりたい)だけとしか思えないのだ。
 ただひとつ打ち出したのが「脱原発」。しかし、かつてあの橋下徹氏も、最初は「脱原発」と言っていたよなあ…である。
 立ち位置がはっきりしないから、新党(「希望の党」というらしい)に集まってくる連中が、もうメチャクチャ。
 とりあえず、細野豪志氏ら民進党脱党組が、改憲やら税の問題などで民進党に不満を持ったからというのは、少しは理解できる。
 ところが9月24日、突然、日本のこころ(という党があったんだ)の中山恭子代表が新党に参加すると表明した。中山氏といえば夫の成彬氏とともに、ほとんど極右。彼女が参加するということは、小池新党が自民党以上に右傾化するのを許容するということだ。
 少なくとも、これまで多少は社会民主主義的な政策の党に所属していたはずの細野氏らが、どうやって極右と共存できるのか?
 さらに訳を分からなくしたのが、現内閣府副大臣の福田峰之衆院議員が自民党を脱党し、新党に合流すると表明したこと。でもよく背景を探ると、この福田議員は神奈川8区が地盤なのだが、ここには民進党江田憲司議員がいて、福田氏はまったく歯が立たない。そこで新党ブームに期待して、なんとか選挙を勝ち抜きたいと考えたらしいのだ。要するに、思想とか政治信条、政策などには何も関係なく、とにかく議員になることだけが目的という「議員亡者」の典型的なケースなのだ。
 そう考えれば、安倍チルドレンとして多数が出現したけれど、やたらとスキャンダルを起こし「魔の2回生」と呼ばれる連中が、これから新党へなだれ込む可能性もある。今のままでは当選が危ういという自民党議員たちが浮足立っているという情報が流れている。
 つまり、新党「希望の党」とは、とにかく議員になりたい連中の受け皿でしかないのではないか。こんな党に希望なんかあるだろうか?
 だから「希望NO党」がふさわしい。
 まあ、自民党も民進党も、そういう意味では似たような部分があるけれど、それに輪をかけた有象無象の烏合の衆の集団、それが結局「小池新党」の実態ではないか。
 そんなわけの分からない党が、世論調査では、民進党と競るほどの支持を集めているという。正直、どう言っていいか分からない…。

「市民連合」が選挙を変えるか?

 むろん、その辺の事情をよく分かっている人たちはいる。
 例えば、9月24日、東京の三鷹駅前で、面白い催しがあった。国会前の「希望のエリア」(「希望NO党」とは絶対に混同しないように!)で毎週金曜日、反原発を訴えているグループの中心メンバーである土肥二朗さんと紫野明日香さんたちが企画したものだ。
 「市民と野党の街角トーク」と名付けられたイベントには、民進党・真山勇一参院議員、共産党・笠井亮衆院議員、社民党・伊地智恭子多摩市議、自由党・松本浩一都連青年部長の4氏が参加、土肥さんと紫野さんの軽妙な司会で、それぞれの主張や意見をぶつけ合った。

言葉の海へ 第5回:ヤクザ抗争と私利私欲選挙はよく似ている気がする(鈴木耕)

三鷹駅前の「街角トーク」の模様

 これがなかなか面白かったのだ。とりあえず4氏は「野党共闘」という点では一致していた。ただし、これが党の指導部たちの意見と同じかどうかは、ここで聞いていた限りではよく分からない。
 駅頭であり、電車を利用する人たちが「アレッ、何かな?」という顔で立ち止まり、耳を傾ける。別に動員をかけたわけでもないのに、200人超の人たちが熱心に聞いていた。
 1時間の予定を少し過ぎてイベントは終わったけれど、最後は聞いていた人たちが「野党は共闘! 野党は共闘!」と一斉にコール。4人の政党人へ大きなエールを送っていた。
 それを聞きながら、この動きが大きなうねりとなって実を結ぶのではないかとぼくは思った。ここではいわゆる「市民連合」が、野党共闘への動きをリードしている。
 実は、ぼくの住んでいる府中市でもその動きは加速している。突然の安倍氏の解散宣言に、各地の「市民連合」は一斉に立ち上がり、組織を拡大し始めている。
 新聞やTVニュースを見ていると、いまや「小池新党」が選挙戦の主役に躍り出そうな報道ぶりだが、そうは問屋が卸さないのではないか。
 確かに、首都圏では小池百合子氏の知名度は抜群だけれど、例えば東北などではほとんど関心を呼んでいない。東京、神奈川、埼玉あたりでは、小池新党が一定程度の議席を確保するだろうが、他の地方ではどうだろう。それほど力を発揮できるだろうか?
 やはり「野党共闘」が、今回の選挙のカギを握っていると思うのだ。

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野党は共闘!! というコールが響きわたって…

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こんなにたくさんの人たちが、立ち止まって聞いていた

小池都知事「リセット」発言の傲慢

 小池東京都知事が広げた「東京改革」の大風呂敷は、何の中身も包み込めずに、ただひらひらと風にそよいでいるだけだし、あの「豊洲市場問題」だって、結局、何がなんだか分からないまま店晒し状態。
 側近の若狭勝衆院議員や、民進党を脱党までして馳せ参じた細野豪志衆院議員らが懸命に議論していたようだが、かけた梯子をあっさり女帝に外されてしまった。小池氏は、新党を自分の手で「リセットする」と言った。考えてみれば、これもひどい言葉だ。若狭氏や細野氏らは面目丸つぶれ。
 「あんたら小物には任しちゃおけないわ」ってところらしい。なんだか「希望の党」は、発足前から「女帝独裁」の臭いがふんぷんする。希望はあるのだろうか?
 東京オリンピックはあくまで「東京都主催」だ。国政政党の党首が片手間でできるような代物じゃない。適当にやり過ごすには荷が重すぎる。
 「リセット」するなら、さっさと東京都知事の座も「リセット」するがいい。そうじゃないと、東京オリンピックは悲惨なことになるかもしれない。「史上最低のオリンピック」の汚名だって被りかねない。
 久米宏さんが「東京オリンピック開催反対」を言い続けている。ぼくもツイッターやフェイスブックで、何度も反対を書いてきた。ここにきて、その大きな理由がまた一つできたってことだ。

 それにしても「政治の言葉」が、とてもかなしい…。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。