なぜ今、朝鮮学校生徒の手土産没収?
日本は本当にこれでいいのですか? 米朝首脳会談以降、そんなつぶやきが頭の中をグルグルと駆け巡っています。
つい最近、北朝鮮への修学旅行から戻ってきた神戸朝鮮高級学校の生徒が、祖国から持ち帰った手土産品を関西空港の税関に没収されるという事件が起こりました。
日本政府は現在、核実験などへの制裁措置として、北朝鮮からのいっさいの輸入を原則、禁止としています。だから、ルール上は税関による没収行為は適法です。
ただ、高校生の手土産品がはたして経済制裁で想定する輸入禁止品に当たるものなのか?
経済制裁の目的は北朝鮮の外貨獲得を阻止することにあります。ただ、高校生らがピョンヤン市内などの商店で土産を購入した時点で決済はすんでおり、水際で輸入をストップしたとしても北朝鮮の外貨獲得を阻止したことにはなりません。
また、手土産の中には親戚や友人からのプレゼントも含まれていたとのことで、そうした物品にはそもそも代価の支払がなされていません。ならば、杓子定規に輸入禁止品と決めつけ、没収する必要はなかったのではと思えてなりません。
事実、同時期にやはり祖国訪問した愛知朝鮮高級学校や広島朝鮮高級学校の生徒らに対し、税関は手土産の日本国内持込みを認めています。税関によって判断が異なっていたわけで、どうにも釈然としません。
現在、東京朝鮮高級学校の生徒が北朝鮮に修学旅行中と聞いています。その学生たちが日本に戻ってきたとき、帰着地となる成田空港の税関が手土産品をどのように取り扱うのか、気にかかって仕方ありません。
硬直化する対北朝鮮外交
長々とこの手土産没収事件について書いたのは、日本の対北朝鮮外交が硬直化しているのではないかと危惧しているからです。
折しも外務省は7月1日付けで、北東アジア課を2つに分け、韓国を担当する「北東アジア1課」と北朝鮮を担当する「北東アジア2課」の設置に踏み切りました。日朝交渉の本格化に備え、北朝鮮専門のセクションを新設して対処しようという動きです。
その矢先に朝鮮学校の子どもたちから手土産品を没収することが、外交的に適切だったのでしょうか?
米朝首脳会談をきっかけに、北東アジアは対話と交渉のフェイズに入ったとぼくは考えています。今年に入り、北朝鮮の金正恩委員長は中国の習主席と3度、韓国の文大統領と2度の首脳会談を重ねています。
米トランプ大統領はまだ1度だけですが、この秋にも金委員長をホワイトハウスに招き、2度目の首脳会談実現に意欲を燃やしていると米メディアは伝えています。さらには、ロシアのプーチン大統領も9月にウラジオストクで開かれる経済フォーラムに金委員長を招き、初の首脳会談を行う用意があることを表明しています。
そんな中、日本の安倍首相だけが、いまだに金委員長と会談する回路を開けていません。「最大限の圧力」を叫ぶだけで、北朝鮮との交渉パイプを作ってこなかったためです。本来なら、ここで日本も北東アジアが対話と交渉のフェイズに入ったことを自覚し、拉致問題の解決と国交回復交渉をワンセットで始めようと呼びかけるくらいの柔軟さとしたたかさを発揮してもよいはずです。
日本が北朝鮮にもっとも望むものが拉致問題の解決だとしたら、北朝鮮が日本にもっとも望むものは日朝正常化です。そのふたつをワンセットにして交渉を始めようと日本が呼びかければ、北朝鮮が日朝首脳会談を受ける可能性は大です。
なのに、それをせず、「最大限の圧力」を継続する意志の表明として、朝鮮学校の生徒の手土産品を没収する。それも外務省が北東アジア課を改編し、対北朝鮮外交に備えようと動き出したタイミングにです。
北朝鮮にすれば、こうした一連の動きは日本が対話と交渉のフェイズに転換するつもりがない「サイン」と映ったことでしょう。これでは安倍首相がいくら北朝鮮に呼びかけても、日朝首脳会談は実現しません。
トランプ大統領と金委員長がシンガポールで握手を交わした後も、「強硬一辺倒」を修正できない今の安倍政権を見るにつけ、日本の対北朝鮮外交は硬直化し、本来の外交力を発揮できずにいるのではないか? そう危ぶまれてなりません。(その②に続く)