10日(日)、ノルウェーのオスロでノーベル平和賞の授賞式典が行われました。国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(以下ICAN)のベアトリス・フィン事務局長と13歳の時に広島で被爆をしたカナダ在住のサーロー節子さんの講演、みなさんはテレビニュースや新聞、もしくはwebでご覧になりましたか? 50歳も年の離れた二人の女性が世界の核廃絶を目指す同志となり、奮闘をしてきたわけですが、授賞式のこの日、手を取り合い互いの健闘をたたえ合う姿には、純粋に感動しました。
ICANの、そして彼女らの訴えは非常にシンプルです。
「人間の尊厳を台無しにする核兵器は、必要悪ではなく絶対悪である。そのことを各国が認め合うことで、核を禁止し廃絶することが、現実的な道である」と。そして「国家間の安全保障の問題として、核があるから世界の平和の均衡が保たれている」とする「核抑止」こそが、幻想ではないか、と厳しく問いかけてもいます。
ICANのような考えは、ともすれば「理想主義」や「お花畑」だと「専門家」たちには揶揄されます。しかし、その「理想主義」こそが今夏、国連で122の国のリーダーたちの心を揺さぶり、核兵器禁止条約の採択へとつながったのです。そこでは、サーロー節子さんをはじめとする被爆者たちが自身の体験を語ったスピーチが、大きな役割を果たしたと言われています。
サーロー節子さんは、受賞講演でも広島で見た光景を静かに語りました。「4歳の甥の小さな体は、何者か判別できない溶けた肉の塊に変わってしまいました。幽霊のような人影が行列をつくり、足を引きずりながら通り過ぎていきました。肉と皮膚が骨からぶら下がっていました。飛び出た眼球を手に受け止めている人もいました…」。これらは、私が被爆医師、故肥田舜太郎先生から聞いた話と完全に重なりました。原爆がいかに恐ろしい兵器かということは、本や映画で「知っている」つもりになっていましたが、実際に体験者から聞くと衝撃です。それだけに被爆者から直接話を聞くことは、重要だと考えます。
昨今、人間が現在行っている様々な仕事や研究が人工知能(AI)によって代替される時代がまもなくやってくると言われています。安全保障についても、AIが登場するのも時間の問題でしょう(すでにそうなっているからこその軍拡競争なのかもしれませんが)。私は、時間を奪われているさまざまなルーティンな仕事がAIによって合理化され、私たちの労働時間が減るのは、いいことだと思います。労働から解放された人間は、平和や自由のための思考や話し合いに時間を費やすことができる、そんな世界も夢想します。平和のための核廃絶、核抑止からの脱却は、人間にしかできないことです。だからこそ決断をし努力をする意味がある、と考えたりもします。
「あきらめないで。暗い時代の一筋の光に向かって歩くのよ」とサーロー節子さんが、世界に向けて語られたその言葉は、私にも届きました。明るい話題がなく、来年に向けて不安な気持ちでしたが、彼女の振る舞いと言葉に勇気をもらいました。いかなる理由があっても「核を持たない、軍事力を持たない、暴力で問題を解決しない」。私はこの考えをあきらめずにいこう。そうサーローさんのスピーチに感銘を受け、2018年を歩いていこうと思いました。(水島さつき)
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##サーロー節子さんやベアトリス・フィン事務局長の受賞講演の全文やインタビューなど、こちらから読めます。
・サーロー節子さん受賞講演(東京新聞)
・ICAN受賞と核禁条約、サーローさんが語る歴史的意味(朝日新聞)
・私たちは死よりも生を選ぶ代表者(朝日新聞)
・「私たちのこの運動は、理性を求め、民主主義を求め、恐怖からの自由を求める運動です。ベアトリス・フィン事務局長の受賞講演(NHKWEB)