日本でも世界でも、このところの政治ニュースは絶望的な気持ちになるものばかり。そんななか、久しぶりに希望を感じる話を聞きました。11月28日に参議院議員会館にて開かれた講演「本当の市民革命を起こすには 五つ星運動のリーダー・フラカーロ下院議員が語る」です。通訳を介しての講演を聞いてまとめたものなので、言葉が正確でない部分があるかもしれませんが、ぜひ内容をお伝えしたいと思いました。
イタリアで市民運動として始まった「五つ星運動」は、2009年の党創設以来、ローマやトリノで女性市長を誕生させ、市町村議会から国会まで2000人以上の議員を輩出してきました。2013年の総選挙時には全体の25%もの票を集め、現在ではイタリアの第2党です。さらに最近の世論調査では約30%という、イタリア一の支持率を得ています。こうした背景から、2017年に新党首として選ばれた31歳のルイジ・ディマイオ(若い!)は、イタリアの次期首相として期待されているのです。
今回講演を行ったのは、下院議員である36歳のリカルド・フラカーロ氏(若い!)。「五つ星運動」は、「政党ではなく、国民の手に権力を取り戻したい」という思いから、ダイレクトデモクラシー(直接民主)を目指して生まれた市民運動なのだと話していました。「五つ星」とは、社会が守るべきテーマ(持続可能な発展、持続可能な交通、水資源、環境、インターネット社会)のことを指しています。
「五つ星運動」の始まりは、約30年前に人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏がTVで政党批判をしたことにさかのぼります。公共放送から実質的に追放された彼は、その後は劇場などでのコメディショーを通じて、新しい考え方を人々に伝えていくようになりました。フラカーロさんいわく、「人々はそのショーを見て、笑いながら考えるようになった」そうです。どんなショーなのか気になりますね。
やがて、2005年にIT企業家で政治運動家のジャンロベルト・カザレッジョ氏と出会い、彼のすすめでグリッロがブログを開設。このブログの読者となった市民が「社会の新しい可能性のために、自分たちにもできることはないか」と考えるようになって、自分たちで地域で集まり、議論し、意見を共有する場をつくっていったのだと言います(市民メディアが日本でそうした存在になれたら…!)。
最初は、五つ星運動から立候補者を出すことまでは考えていなかったそうですが、市民が集まって考えた社会課題の解決策を政治家に提案しても取り合ってもらえないことが続き、「政治家が私たちを代表しないのなら、政治家を変えなくてはいけない」と、自分たちの中から議員を出すようになっていきました。
五つ星の議員には「任期は2期まで」、「国民の平均給与以上の議員報酬は寄付をする」などのを決まりがあります。また、公的助成金や大企業・多国籍企業からの支援は受けず、活動資金は市民からの寄付に頼っています。
「大企業や多国籍企業から寄付を受ければ、彼らが私たちをコントロールする。でも、市民から援助を受ければ、市民が議員をコントロールすることになります。そして、それこそ私たちは望んでいること。すべての政治家は、市民から監視され、コントロールされるべきだと思っているのです」
さらに、五つ星運動の大きな特徴で、日本でも参考になるものに、インターネットの活用があります。たとえば、党内の立候補者選びをオンライン投票で行うほか、党のマニフェスト案や国会に提出する法案などもオンラインで公開され、党員同士でオープンな議論を行っています。党の運営にも「ダイレクトデモクラシー」が重視され、誰もが参加できる仕組みをSNSなどを利用して実現しているのです。
ほかにも、「E-LEARNIG」というアプリがあり、このアプリを通じて議員だけでなく市民も、市町村の決算の読み方、公的文書を入手するための方法、市民にどのような権利があるのかなどを学ぶことができるそうです。これは、いますぐ日本でもつくりたい仕組み! 市民が政治に参加するためのノウハウや知識を手軽に共有できれば、政治参加の方法も、参加者の幅もぐっと広がりそうです(しかし、よく考えてみると、みんながスマホをもってSNSを利用する時代に、やっと政治の世界が追い付いてきたということかもしれません)。
もちろんオンラインだけでなく、リアルな場での対話も大事にしています。とくに意見が違う人たちと話し合うには、顔を合わせて話すことが必要なのだとフラカーロさんは強調していました。
「日本で五つ星運動の真似をする必要はありません。みなさんの方法を見つけるのがいい。大切なのは戦略とかプログラムではなく、まず始めること。アイデアがよくて情熱があれば、よい方向に進むと思います」と言うフラカーロさん。さらに、「まずは、地域レベルの身近な問題解決を一緒にやることから」とも話していました。
イタリアと日本では状況は違いますが、「政党ではなく、市民の手に権力を取り戻したい」という思いや政治への不信感には、共通するものがあります。そして、グリッロ氏の存在がきっかけになったとしても、やはり政治を変えていくのはヒーローのような存在ではなく、市民一人ひとりの草の根の活動なのだと、五つ星の活動を聞きながらあらためて思いました。まだまだ出来ることがあると、2018年に向けての希望をもらった講演でした。
(中村)