第434回:大晦日の炊き出し現場、そして「明日を生きてもいいですか」デモ。の巻(雨宮処凛)

 大晦日の夜、その人はスーツ姿で都内の炊き出しに並んでいた。

 背中には大きなリュック。片手で重そうなトランクを引いている。

 並んでいるのは150人ほど。この日は年越しそばが振る舞われたのだ。

 炊き出しの列に似つかわしくないスーツ姿の男性になんとなく注目していると、彼は年越しそばを受け取った瞬間、よろめいた。一緒に炊き出しを訪れていた山本太郎議員が駆け寄る。リュックが相当重かったようで体勢を崩したようだ。

 とりあえず落ち着いておそばを食べられる場所に山本議員が付き添ったものの、スーツ姿とたくさんの荷物が気になり、炊き出しに来ていたお医者さんに彼の存在を告げると、生活相談・医療相談ができるブースに案内されていった。あとで伝え聞いたところによると、30代の彼はその前日、初めて野宿をしたのだという。

 年が変わる数時間前、無事に支援に繋がった彼は、あたたかい場所で新年を迎えられることになった。支援に繋がれば、あとはあらゆるノウハウを持つプロがたくさんいる。本人の事情や希望を聞きながら、生活再建が始まる。それにしても、極寒の夜が続いた年末、所持金の尽きた彼はどれほど不安だっただろう。大きな荷物を抱え、どうやって寝場所を探していたのだろう。

池袋で振る舞われた年越しそば

横浜・寿町の炊き出しを手伝う山本太郎議員

 昨年の年末も、都内を中心として越年・越冬の現場を回った。

 毎年、年末年始の休みを返上して、寒い中、炊き出しをする支援者の方々には頭が下がるとしか言いようがない。そしてやはり今年も、多くの人があたたかい食事をふるまう炊き出しの列に並んでいた。

 役所が閉まる年末年始は、冒頭の彼のような状況になってしまっても、生活保護の申請などをすることができない。その間、様々な場所で炊き出しや共同炊事が行われ、共に食事をし、また寝る場所が提供されるところもある。そうして多くの場合、本人が希望すれば役所が開く年始に生活保護申請、というのが一連の流れだ。年末の炊き出し巡りについてtwitterで報告していると、「年末年始だけの支援でいいのだろうか」と心配する声が結構あったので、その後についても書いてみた次第である。

 炊き出しなどで支援者に繋がれば、本人の希望を聞き、望めば生活保護申請となるのだ。ホームレス状態で所持金もなければ、仕事を探すこともできない。住所がないと雇ってくれるところなどなかなかないし、就職活動をする交通費どころか食費もなければ路上で命を落としてしまう。そうして生活保護を受けながら仕事を探し、無事に仕事が決まれば生活保護を「卒業」すればいい。

 年越し派遣村の際にも、役所が開くのと同時に生活保護の集団申請をしたわけだが、路上生活からの脱出に、生活保護という制度は欠かせないものだ。

 そんな生活保護が引き下げられようとしていることは前回の原稿でも書いた通りだ。

 2013年からの最大10%引き下げに続く最大5%引き下げ。「もうこれ以上何を削ればいいのか」という悲鳴が上がる中、しかし、当事者はバッシングを恐れ、なかなか声を上げることなどできない。が、1月4日、生活保護を利用する当事者たちによってデモが開催された。その名も「『明日を生きてもいいですか?』 生活保護を大切に思う人のリレーメッセージデモ」。

 主催は、生活保護を利用する30代の女性だ。デモの呼びかけには、こんな文章がある。

 これでもかと相次ぐ生活保護費の引き下げで、「最低限の健康で文化的な生活」からどんどん遠のいていきます。まるで「生かさず殺さず」みたいな社会。本当は死んでくれればいいのに…と思っているのではないかと、みんな不安に感じています。だから、問いかけたい。「わたしたち、明日を生きてもいいですか?」

 07年、私は『生きさせろ!』という本を出版し、そのタイトル通り「生きさせろ!」と叫びまくり、人を生きさせない社会に怒ってデモなどを散々してきたわけだが、彼女たちが今問うのは、「わたしたち、明日を生きてもいいですか?」

 この控えめな言葉に、なんだかとても、切なくなった。「生きてもいいですか」なんて、本当はそんなこと誰も思わなくたっていいのに、そんな問いかけでデモをしなくてはいけない現実に。

 だけど、わかってる。生活保護を利用する人に限らず、様々な困難を抱える人――例えば障害がある人や原発事故で避難生活を強いられている人など――があくまでも控えめに「助けてもらえますか」と問いかけている分には世間は優しいけれど、一旦彼らが「主張」し始めると、恐ろしいほどのバッシングが待っていることを。

 デモの日、出発場所の柏木公園には数十人が集まっていた。

 車椅子の人もいれば高齢の人もいる。生活保護を利用している人もいれば、利用していないけれど今回の引き下げに大いなる疑問を感じて来た人もいる。自治体職員として、長年生活保護のケースワーカーとして働いていた人もいる。

 みんなが掲げるプラカードに踊る言葉は「生きたい」「夢も希望も持ちたいです」「どこまで下げるつもり? 生きられないよ」などの言葉。そうして午後2時、デモ隊は出発した。

 「リレーメッセージ」デモの言葉通り、参加者たちに次々とマイクが渡される。

 生活保護を利用する40代の男性は、今回の引き下げについて「命に線引きがされているように思えてなりません」と語った。物価がたびたび上がり、光熱費もさりげなく上がっている、と訴える彼の言葉は、生活実感に基づくものだろう。「当事者の話を聞いてほしい」。彼がそう言うと、その次に、生活保護を受けていない男性がマイクを握る。

 「私は今、元気で働けていますけど、明日病気になって働けなくなるかもしれません。今、生活保護を使っていなかったとしても、自分が使う時に使えなかったら困るんです。自分が困った時に使える。それを守っていかないといけない。他人事と思わず、この改悪に反対してください」

 別の女性は、沿道の人々に「将来に不安はないですか。年金で暮らせるって信じていますか」と問いかける。元ケースワーカーの男性は、生活保護基準が、公営住宅の家賃の減免や介護保険料の減免など、様々な制度に連動していることを訴える。

 そんなデモ隊の周りには、デモを先導する制服姿の警察の人々。仕事始めの日の午後の新宿には、週末ほどの人出はないものの多くの人がデモ隊を見つめている。無関心な目もあれば、興味深そうな顔で写真を撮る人もいる。その光景を見ながら、生活保護を受ける50代の男性はふと漏らした。

 「警官よりも、街頭にいる人の方が俺、全然怖いですよ。11年の最初のデモ(生活保護利用者によって開催されたデモ)の時とか予測できなくて、石とか飛んでくるんじゃないかって…」

 その言葉を聞いて、ハッとした。

 同じデモ隊にいながらも、生活保護を利用していない私が想像もしていなかった緊張感を彼らは抱えているのだと。そんな彼ら彼女らが、新宿の街を「生活保護」という言葉を掲げてデモをすることは、どれほどの勇気が必要とされるだろう。ネットには、心無いバッシングの言葉が溢れている。メディアの報道も生活保護利用者を貶めるようなものが少なくない。こうして歩いていると、沿道からいつ心無い罵倒が飛んできたっておかしくないのだ。

 私自身、今までデモをしていて、何度も罵声を浴びせられた。「うるさい」から始まって、労働や最低賃金を求めるデモだと「そんなことしてないで働け!」というものもある。だけど、それらの罵声はどこか笑い飛ばせるものだった。しかし、もし自分が生活保護を利用していて、そのことを責めるような罵声を浴びせられたら――。ちょっと立ち直れないくらいのダメージを受けると思う。そんなことを思うと、このデモに参加している当事者の人たちが振り絞った勇気に、身が引き締まる思いがした。

 柏木公園を出発して一時間、私たちは新宿の街を一周し、無事にまた同じ場所に戻ってきた。参加者は60人ほど。だけど、それぞれがそれぞれの恐怖に打ち勝ち、やってきた。車椅子に乗り、あるいは杖をつき、遠方から足を運んだ人も多くいる。

 デモの後、主催の女性は言った。

 「生活保護は、他人事ではないってことを言いたいと思ってます。自分も生活保護を利用すると思ってなかったのに、今は利用者となっているので、いつ、何が起きるかわからない。この制度を知らない人もいる。不正受給とか怠けてばかりとか間違った報じられ方をしているので、利用者の生活実態を知ってもらいたいと思います」

 いつ、何が起きるかわからない。その言葉を聞いて、冒頭の、スーツ姿で炊き出しに並ぶ男性を思い出した。彼もまさか、自分がホームレス状態となり、炊き出しに並ぶ日が来るなんて、想像もしていなかっただろう。

 躓いてしまうことは、誰の人生にだってある。

 彼が、無事に暖かい部屋で過ごし、仕事を見つけるためには欠かせないのがこの制度だ。

 年末年始に炊き出しで出会った人たち、そしてみなさんにとっていい一年でありますように。

 年のはじめに、そう祈っている。

デモ隊が新宿の街を巡りました

デモの後、みんなで記念撮影

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。