『羊の木』(2017年日本/吉田大八監督)

 山上たつひこ原作、いがらしみきお絵による原作漫画が、エログロなユーモアをまぶしながら描く一地方都市での不気味な出来事をどう映像化するのか(原作のレビューはこちらをお読みいただきたい)、という当方の関心に対して、作り手は原作を換骨奪胎し、新しい世界を描いてみせた。
 原作のエッセンスは変わらない。人口減に直面する日本海沿岸と思われる架空のまち、魚深市が、人を殺めた6人の受刑者を新住民として受け入れて、更生させる。そんなプロジェクトに取り組むところから話は始まる。
 「魚深はいいところですよ、人は優しいし、魚はうまいし」
 元殺人犯を空港に、駅に迎えにいく市役所の若手職員、月末一は車のなかで各々に同じことを語る。反応はまちまちだ。そして、そのときの印象が彼、彼女の本性と一致するかといえば、そうではないことに私たちは後になって気付かされる。
 月末は元受刑者たちに是々非々で対応するよう努めつつ、相手の心中を思いやることも忘れない。しかし、同時期に故郷に帰ってきた幼馴染の文(あや)が6人のうちのひとり、宮腰と急接近していくところから、歯車が狂いだしてくる。
 本サイトで紹介した『刑務所しか居場所がない人たち』の著者・山本譲司さんは服役中、受刑者の5人に1人は障害のある人たちであることに愕然としたという。幼い頃から凄惨な虐待を受けていた人、親に見放されてホームレス状態になっていた人も少なくなく、刑務所が福祉施設化しているのである。
 同書によると、受刑者のうち殺人犯は1%とのことで、『羊の木』に登場する人々は少数派に属するのかもしれない。しかし、刑務所が福祉施設化することと、(この映画のように)刑務所の役割の一部を住民が担うことはコインの裏表であり、私たちの日常と刑務所はそれほどかけ離れた世界ではないのだろう。
 6人の受刑者役は曲者揃い。その佇まいを観ているだけで胸騒ぎがしてくるほどだ。そんな人物たちと正面から向き合おうとする月末を演じる錦戸亮の演技もいい。

(芳地隆之)

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