第135回:安倍・石破の一騎打ちで、憲法論議の“見える化”を〈その2〉(南部義典)

「秋の臨時国会に改憲案を出す」

 「自民党で改正案の検討を急ぐ。臨時国会が終わる前に、衆参の憲法審査会に自民党の案を出したい。2020年は、新しい憲法が施行される年にしたい。」
 「自衛隊を憲法にしっかり位置付け、合憲か違憲かという議論を終わりにしないといけない。」

 これらは、2017年6月24日、神戸「正論」懇話会で講演を行った安倍総理の発言です。この1か月半ほど前の憲法記念日には、突如として「自衛隊明記案」を提起しました。結局、臨時国会に案を出すことはありませんでしたが、むしろ指摘しなければならないのは、野党から「臨時国会召集要求」が出ていたにもかかわらず、のらりくらりと無視し続けていたことです。ようやく召集したと思ったらその当日に衆議院を解散してしまい、総選挙に持ち込みました。自衛隊を明記する憲法9条改正原案の提出は、どこまで本気だったのでしょうか?

 ことし8月12日、地元の長州「正論」懇話会においては、「自衛隊明記案について、自民党として次の国会(臨時国会)で提出できるよう取りまとめを加速する」と述べています。決意新たに、本気度を前面に出している印象を受けますが、発言の内容は一年前とほとんど変わりません。さらに翌週19日には、自民党麻生派から「2019年夏の参議院選挙までに憲法改正国民投票を実施すること」と記された政策提言を受け取っています。しかし、具体的な確約が交わされたわけでも何でもなく、単なる麻生派所属議員の悪ノリと見るほうが普通でしょう。

 昔から「二度あることは、三度ある」といいます。来年、参議院選挙が終わった後にも「秋の臨時国会云々」と、同じことを発言しているのではないでしょうか。

自民党議員、一般党員の受け止めは?

 第2次安倍内閣が発足してから6年近くになります。憲法改正に「熱心」とは言われながらも、現実に立ちはだかるハードルの高さに面食らって、「改憲やるやる詐欺」を続けているだけではないかと、私は皮肉いっぱいに冷めた見方をしています。何より、世間で思われているほど自民党は一枚岩にはなっていないし、いざという時に一致結束できるほどの器用さを持ち合わせていないことを、安倍総理自身が一番よく分かっているのではないでしょうか。

 「憲法改正を実現します」と、国会演説や選挙のスローガンで何度も何度も述べ続ける一方、その都度、期待を裏切られ続けている自民党議員(国、地方)、一般党員が多くいるはずです。しかし、憲法改正の動きが進まないことに対し、悔しさ、憤りをあらわにする関係者を私は一度も見たことがありません。言い過ぎかもしれませんが、要するに、機運というか、ふわっとしたムードを楽しんでいるにすぎないのです。かつて、自民党が野党時代の話ですが、憲法改正論議が停滞していることに業を煮やした一部の議員が、「たちあがれ日本」という新党に加わったことがありますが、結局、解散しています。以来、批判的な動きは目立ってありません。6年近くも目に見える形で続いている「改憲やるやる詐欺」がさらに延びるかもしれないのに、目的達成のためには「安倍3選断固支持」を憚らない人がじつに多いことに、何とも理解しがたい思いが湧いてきます。

石破氏に期待する「オール・リセット」

 自民党の内部では、憲法改正の中身の議論にはいつも多くのエネルギーが費やされる一方で、議論の進め方、他党との協議のあり方について、オープンな平場で議論したり、確たる合意をつくったことがありません。

 そこで、石破氏への提言というか、要望になりますが、総裁選では一騎打ちの構図となる以上、この際「安倍改憲路線」のウソ、偽りを暴きつつ、この1年余りの歪んだ憲法改正論議をオール・リセットにしていただきたいと思います。放っておけば、憲法改正の中身の話だけで盛り上がりそうな対決構図ですが、私はあえて、その筋道ないし路線そのもの(手続論)の争点化を望んでいます。

 そもそも、与党第一党のトップとしての立場を超えて、内閣総理大臣として「憲法改正やりたい人、この指とまれ」と、堂々と発信を続けていること自体、根本的におかしいのです。立憲政治に対する挑戦行為であり、失当な振舞いです。このことは、自民党にとってマイナスになることはあっても、プラスになることはないはずです。憲法改正の啓発のため、自民党が2015年に作製した冊子『ほのぼの一家の憲法改正ってなあに?』では、主人公家族の祖父が「まず(憲法を)変えるべきかどうか、話し合うことが必要なんじゃよ」と孫に諭している場面がありますが、いつまでも議論ばかりしても仕方ないと、2年も経たないうちにあっさり断絶させたのが当の総裁というのは、ブラックジョーク以外何物でもありません。「憲法改正やるやる病」に罹っている一部のメディア・ジャーナリズムはもはや手の施しようがないものの、無垢な市民が不安に駆られたり、余計なストレスを感じることは本来あってはならないのです。

 手続論をあえて土俵に乗せ、争点とすることは、自民党総裁選であるが故に出来ることです。オール・リセットとしての軌道修正は、今回が最初で最後の機会となります。総裁選に主体的に参加できる方もそうでない方も、その行方をしっかりと見ていきましょう。

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南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院・参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所、2017年)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社、2007年)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書、2018年)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店、2018年)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会、2017年)、などがある。(2018年4月現在)(写真:吉崎貴幸)